宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第7話   ルールというものは大切ナリ

「オラオラ! ビビッてんのかゴラァ! 掛かってこい糞餓鬼ィ!」

 

 本人主観で格好よくリーゼントに決めた昭和風味な不良がデュエルディスクを装着しながら、指をクイクイと曲げてこちらを挑発してくる。

 それを丈はため息交じりに眺めていた。

 ハッキリ言って丈は暴力的なことは苦手である。人間平和が一番、話し合いでの解決最高という人種だ。なので殴り合いの喧嘩ではないにしても、このような喧嘩一歩手前のデュエルは御免蒙りたいところなのだが、見た限り相手は見逃してくれそうな雰囲気ではない。

 やるしかないだろう。

 もしも負けたら何をされるか分かったものではない。

 

「どうしてこうなったんだか……デュエルで終わるなら、まだいいけどっと」

 

 少なくとも普通の喧嘩に比べればデュエルの方が百倍マシだ。

 デュエル優先のこの社会に多少の感謝を送りつつ、不良A(仮名)と対峙した。向こう側ではすでに亮と不良Bがデュエルを開始している。

 

 

 

『デュエル!』

 

 

 宍戸丈 LP4000

 不良A  LP4000

 

 

 

 そして丈と不良Aとのデュエルも開始された。

 この世界での先行後攻はジャンケンではなくデュエルディスクがオートで決める。ピカッと先行を伝えるランプが光ったのは丈の方。よって先行は丈からだ。

 

「俺の先行、ドロー」

 

 悪くない手札だ。

 初期手札に冥界の宝札、レベル・スティーラー二体、終焉の焔、闇属性最上級モンスターが一体が揃っている。カウンター罠はなかったが代わりに攻撃反応型トラップの代名詞的カードでもあるミラーフォースもあった。

 

「俺はモンスターをセット、更にリバースカードを二枚セットしターン終了」

 

 次の相手ターンのエンドフェイズ時、終焉の焔を発動させフィールドに二体のトークンを出現させ、続く自分のターンで冥界の宝札を発動してからの最上級モンスターの召喚で二枚のドローが出来る。

 予期せぬほどのダメージもミラーフォースが防いでくれるだろう。まずまずのスタートだ。亮と何度もデュエルしたお陰か、多少は自分にもツキというやつが芽生えてきたらしい。

 

「へへへっ……」

 

 しかし不良Aのニヤニヤ笑いが不気味だった。そこに敗北への恐れは一切ない。年下の餓鬼に負けるなどこれっぽっちも思ってないのか、それとも余程自分のデッキに自信があるのか。

 意気揚々と不良Aがデッキトップに手をかける。

 

「テメエは俺には勝てねえ! 俺様のデッキは無敵なんだよ! ドロー! 見せてやらァ! 俺のデッキの恐さを! 俺は手札より魔法カード発動するぜ、サンダー・ボルト!」

 

「な、なんだってッ!?」

 

 一瞬目を疑う。

 しかし不良Aのフィールドに現れたのは確かにサンダー・ボルトのカードだった。カードテキストにもサンダー・ボルトと記されている。

 

 

【サンダー・ボルト】

通常魔法カード

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

「そんなアホな! そのカードは禁止カードに指定されてるのに……」

 

 サンダー・ボルトがどうして禁止カードに指定されているか、そんなことはカードの効果を見れば一目瞭然だろう。

 相手フィールド上のモンスターを問答無用に一掃する恐るべき力。裏側守備表示だろうと攻撃力が10000だろうと関係ない。このカードの発動に成功すれば、相手のフィールドは焼野原必至。しかも類似する効果をもつブラック・ホールと違いサンダー・ボルトは相手フィールドにしか効果が及ばない為、デメリットは無いに等しいといえるだろう。

 その危険性からプレイヤーへの直接攻撃魔法、混沌帝龍、八汰烏と同様にこの世界でも禁止カード認定されている。

 

「ひゃははははははははは! 見たかよ禁止カードの威力ってやつをよぉ! テメエのモンスターが何も出来ずに黒焦げだぜ!」

 

「る、ルール違反だぞ! 禁止カードを入れるなんて!」

 

「五月蠅え! 俺がルールだ、続いてハーピィの羽根箒発動!」

 

 

【ハーピィの羽根箒】

通常魔法カード

相手のフィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

 サンダー・ボルトに続いて再び禁止カードだった。

 禁止デッキの名は嘘ではないのだろう。不良Aのデッキは禁止カードの巣窟となってる筈だ。

 緑色をした羽根が突風を巻き起こし丈の伏せていたカード達を破壊していく。しかし、全てを破壊させる訳にはいかない。

 

「この瞬間、速攻魔法発動。終焉の焔、場に二体の黒焔トークンを出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 ハーピィの羽根箒にチェーンして発動された終焉の焔は、カードテキスト通り丈のフィールドに黒焔トークンを特殊召喚した。ミラーフォースは破壊されてしまったが、止むを得ない。

 

 

「はん、そんな雑魚恐かねえよ! 俺は永続魔法、魔力倹約術発動!」

 

 

【魔力倹約術】

永続魔法カード

魔法カードを発動するために払うライフポイントが必要なくなる。

 

 

「ククククッ、これで俺はコスト踏み倒しができるぜぇ! この意味分かるかよ? 俺はライフコストを要求する禁止カードを無制限に使用できるってこった!」

 

「……くそっ」

 

 流石に丈としてもこんな展開は予想外だった。

 強欲な壺、天使の施しが制限カードのままでGX放送終了後に出たカードも普通に販売されていたことから、カードプールが元の世界と随分と違うというのは理解していたつもりだ。この世界における禁止・制限リストもしっかりと暗記した。

 だが、まさかこれほど大っぴらに禁止・制限を無視してくるような奴がいるとは思わなかった。

 

「喰らいやがれ! 俺はいたずら好きな双子悪魔を使うぜ!」

 

 

【いたずら好きな双子悪魔】

通常魔法カード

1000ライフポイントを払って発動する。

相手は手札をランダムに1枚捨て、さらにもう1枚選択して捨てる。

 

 

「単純な破壊系の禁止カードだけじゃなくて、ハンデス系の禁止カードまで……。インチキも大概にしろ!」

 

「あぁン? 聞こえんなぁ~~」

 

 嘗て猛威を振るったハンデス三種の神器。

 その一つが今不良Aの使用した「いたずら好きな双子悪魔」である。1000ポイントのライフコストを要求するものの、手札一枚の消費で確実に相手の手札を二枚減らせるという効果を供えているカードだ。手札がゼロになることで有利になる一部のデッキを除き、手札の枚数は戦局を左右するほど重要なものである。それが二枚減らされるというのはかなりの痛手だ。

 

「最初はランダムだ。俺は一番右のカードを選択するぜ。さぁ、カードを墓地に捨てな餓鬼ぃ!」

 

「冥界の宝札が……」

 

 貴重なドローエンジンは無残にも墓地へと送られてしまった。しかし次に捨てるのは丈が自分で選択できる。丈は手札にもう一枚あったレベル・スティーラーを墓地へと送る。

 これで墓地にはレベル・スティーラーが二枚。レベル6以上のモンスターがフィールドにいれば即座に二体分の生贄を用意できる環境が整ったが、丈のフィールドはサンダー・ボルトとハーピィの羽根箒のせいで焦土と化していた。

 

「さて……これで攻撃してもいいんだが、まだ俺のハンデス地獄は終わらねえぜ。俺は再び魔法カード、強引な番兵を発動!」

 

 

【強引な番兵】

通常魔法カード

相手の手札を確認し、その中からカードを1枚デッキに戻す。

 

 

「また禁止カード!? ああもう、こんなのデュエルじゃないぞ! ふざけんな!」

 

 禁止カードが何故、禁止とされているか。それはカードゲームのみならずゲームである以上絶対に守らなければいけないもの、ゲームバランスを壊してしまうからだ。そんなバランスを崩壊させる禁止カードをこれでもかと大量投入したデッキ。それはもうデッキであってデッキではない。

 

「はん! 餓鬼が偉そうに説教たれてんじゃねえよ。デュエルなんざ勝ちゃいいんだよ、勝てば! さぁ、テメエの手札を見せな!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、残り一枚の手札を晒す。

 

「堕天使アスモディウス――――闇属性の最上級モンスターか。危ねえ危ねえ、放置してりゃ厄介なモンスターが呼ばれるところだったぜ。だがそいつはデッキに逆戻りだ、あばよ」

 

 丈は堕天使アスモディウスをデッキに戻すとシャッフルする。どうにか怒りを抑えていたが、本心では今すぐ不良Aの顔面を殴り飛ばしてやりたい気分だった。

 自分は暴力反対の平和主義人間だと思っていたが、ひょんなことで思わぬ凶暴性というものを発見してしまった。

 

「そして俺はここでモンスター召喚。同族感染ウィルス!」

 

 

【同族感染ウィルス】

水属性 ☆4 水族

攻撃力1600

守備力1000

手札を1枚捨てて種族を1つ宣言する。

自分と相手のフィールド上に表側表示で存在する宣言した種族のモンスターを全て破壊する。

 

 

 あのデッキに入っている禁止カードは魔法カードだけではなかったようだ。モンスターにも禁止カードが採用されているらしい。

 かなりレア度が高い混沌帝龍はまだしも、手に入れるのは簡単な八汰烏は入っていると考えておくべきだろう。

 ふわふわとオレンジ色をした球体状のものが浮かんでいる。アレがウィルスなのだろう。しかしその脅威のウィルスも不良Aの手札がゼロ枚なので、なんら効果を発揮しないが。

 

「同族感染ウィルスで黒焔トークンを攻撃するぜ! 死になトークン!」

 

 トークンが一体破壊されてしまう。

 終焉の焔のお蔭でどうにかダメージを受けるのは免れた。相手が最初にサンダー・ボルトではなくハーピィの羽根箒を発動していたのならこうはいかなかった。

 考えるにあの不良は禁止カードの大量投入でデッキの火力は上等になっているが、肝心のタクティクスの方は未熟なのだろう。

 丈の勝機はそこにある。

 

「ターン終了だ。おらよ、テメエのターンだ。精々抵抗しやがれ! 俺には勝てねえだろうがよぉ」

 

 


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