宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第73話  新たなる未来へ

 宍戸丈という人間が生きた人生で昨日ほど密度の濃い一日はないだろう。

 I2カップでの親友・丸藤亮との決勝戦。ネオ・グールズの刺客による邪神イレイザーの強奪。警備会社ビルにおける奇術師パンドラとの戦い。そして三邪神を支配するバクラとキースとのデュエル。

 これらのことが全てあの一日で起きた。振り返ってみても良く体が保ったものだと自分で自分に感心してしまう。

 ただそのせいで宿泊にしているホテルに戻った途端に疲労が押し寄せてきて、ベッドに倒れ込んでしまったが。あれほど深く熟睡したのも初めての経験だった。

 しかし終わりよければ全て良しということにはならない。

 翌日。丈たちはペガサスに呼び出されていた。

 

「まずは……ネオ・グールズへの対処、そして三邪神の奪還。本当に感謝しマース。ユーたちがいなければ、今頃世界は復活したバクラと三邪神により未曽有の危機にさらされていたかもしれません」

 

 たかがカードと蘇った魂一つで世界が危機を迎えるなど馬鹿馬鹿しい。例え精霊を見ることが出来るデュエリストでも殆どのものはそう考えるだろう。

 けれど実際に三邪神の力とバクラを見た丈たちからすれば、ペガサスの言葉は笑い話ですむものではない。一歩間違えれば本当に世界が崩壊するようなことになっていたかもしれないのだ。

 

「俺達は自分に出来ることをやっただけです」

 

「宍戸ボーイ、この国では謙遜は美徳という格言があるそうですが、この場では無用デース。

 三邪神のことだけではありません。貴方達には私が嘗て犯した過ちにも巻き込んでしまった。……私が彼にあのような事をしていなければ、恐らく彼がバクラを受け入れてしまうほど追いつめられることはなかったのですから」

 

 過ぎたる力は人の心を惑わす。こうして話しているからこそペガサス・J・クロフォードという人間が多少コミカルなことはあれど善良な人間だと分かる。

 きっと千年アイテムという超常の力がペガサスの精神を歪ませてしまったのだろう。だが精神が歪むというのは当人のみで完結することではない。ペガサスのように社会的な地位があればあるほど、僅かな歪みからくる影響は強いものとなる。そして起きてしまった悲劇の一つがキースなのだろう。

 

「バンデッド・キースは……彼は、どうしたんですか?」

 

 キースと亮の師父たるマスター鮫島は過去に戦った事があると言っていた。それに機械族デッキ使いという意味でキースは亮にとって先輩でもある。

 そんな彼のその後が気になるのか亮が尋ねた。

 

「分かりません。けれど、彼ならば大丈夫だと私は信じたい。本当なら私が彼に賠償金や援助をするべきなのでしょうが、彼に断られてしまいましたしね」

 

 そう言ってペガサスは痣になっている左頬を抑えて苦笑する。あれから一日経っているのに治療した痕跡がない。ペガサスほどの人間がまさか医者にかかれなかったなどということはないだろう。

 不器用であるがペガサスなりの意思表示なのかもしれない。

 

「それとペガサス会長、このカードは」

 

 丈がデッキケースから取り出したのは特別な装飾の施された三枚のカード。一度は奪われたものの紆余曲折あり丈の手元にきた三邪神のカードだ。

 

「三邪神は貴方が持っていて下さい。以前にも言った通りI2カップは三邪神を担うにたるデュエリストを見出すための大会でした。その大会で貴方は見事に優勝を果たし、バクラとの戦いでは邪神アバターを担ってみせた。

 デュエルモンスターズ創始者として、かつての千年眼の担い手として断言しましょう。三邪神は貴方を主として認めている。そのカードは貴方がもっているべきです」

 

「丈、ペガサス会長もそう言っているんだからさ。大人しく任されておきなよ」

 

「……吹雪?」

 

「だってほら。三邪神なんてまんま魔王っぽいじゃないか」

 

「吹雪ぃぃぃぃぃぃいいい!!」

 

 人が気にしていることを、随分と軽い口調で言ってくれる。

 誰が好き好んで世界征服目指していそうなラスボスな異名をつけられなければならないのだ。せめて他にいいものがあるだろうに。

 

「OH! 私は宍戸ボーイにピッタリとマッチしていると思いますよ。魔王(まおう)、Goodなネーミングです」

 

 ペガサス会長は魔王賛成派に回り亮までもっともらしく頷いている。

 不本意の極みだが、自分には魔王以外の異名を認めてはくれないらしい。一体どうしてこんなネーミングをつけられてしまったのだろうか。

 魔王というイメージを粉砕するために、正反対のイメージのカードでも主力にしようかと真剣に悩む。

 

「いじけるな丈。俺もカイザーだなんて大層な異名をつけられてしまい参っているが…………なに、いつかは慣れるさ。プロになればいつかは通る道だ」

 

「あんまり慣れたくないんだけど……俺は」

 

 だが亮の言う通り、プロデュエリストになれば異名の一つや二つは自然とついてくるものだ。それはプロデュエリストがデュエルモンスターズのプロフェッショナルである以上に、観客を楽しませるエンターテイナーでもあるからだろう。

 丈も自分も将来はプロデュエリストになろうと真剣に考えている。確実にプロになれると思うほど自惚れてはいないが、プロになったらどうせいつかは異名をつけられる日がくるのは間違いない。なら今の内に慣れておくのも悪くないことではある。魔王というラスボス染みたネーミングは勘弁してほしいものだが。

 

「プロですか。ユーたち三人がプロになれば、どこのリーグに入ろうと大活躍間違いなしなのは保障しマース」

 

「いえいえ。俺も、亮や吹雪も若輩者ですよ」

 

「NO! デュエリストの強さに年齢など子細な問題デース。ユーが勝利したレベッカガールも若干12歳で全米オープンを制したミラクルガールなのですから。ユーたちミラクルボーイなら同じことが出来ると私は信じマース」

 

 丈たちは謙遜して、いや実際に自分で自分たちはまだ未熟だと考えているが、実のところペガサスの言う通り三人の実力はプロリーグ上位クラスとも渡り合えるレベルに達している。

 経験はベテランに比べれば浅いが、逆に言えば経験さえ積めばこのままプロ入りしても活躍できるだろう。

 勿論三人はデュエル・アカデミアの学生であり、今のところ高等部への進学をふいにしてまでプロの門を叩く気はない。しかし何事かが起きない限り、高等部を卒業する三人がプロリーグから熱烈なオファーを受けるのはほぼ確定事項といえた。

 なにせネオ・グールズを倒した若きデュエリストだ。スポンサーになってしまえば、デュエルだけでなく宣伝などで使い道は多くある。

 

日本(ジャパン)、この国なら……Sリーグですね。デステニー・オブ・デュエリスト、DDが絶対王者として君臨するリーグに一波乱起こせてしまいそうデース」

 

 Sリーグとは日本にあるプロリーグの略称だ。正式にはシャイニング・リーグという。デュエルアカデミアほど露骨ではないがネーミングからして一体全体どこの誰が主導になって誕生したリーグなのか分かるというものだった。

 ブルーアイズリーグにならないだけ良心を感じるのは何故だろうか。しかしあの破天荒な海馬社長がネーミングにそう安々と妥協するとも思えない。

 

(案外ブルーアイズリーグは駄目だって当時の社員たちが必死に止めた結果だったりして)

 

 それでもシャイニングにするあたり海馬社長のブルーアイズに対する並々ならぬ拘りを感じる。

 

「私個人としてはアメリカのNDL(ナショナル・デュエル・リーグ)もお勧めですよ」

 

「ははははは。考えておきます」

 

 NDLにSリーグ、どちらも丈たちには遠い未来の話だ。いやそれほど遠くはないか。

 今がアカデミアの三年生で卒業までもう直ぐ。卒業すればエレベーター式に高等部に進級することになるだろう。そして三年間の高等部での学生生活を終えれば、次にはプロリーグが待っているかもしれない。

 大学にいくという選択肢もあるにはあるが、恐らく丈は大学かプロリーグかの二択を提示させられたらプロの方を選ぶだろう。それは他の二人も同様だ。

 

「ところでペガサス会長、昨日大会の賞品で貰って開封したオリジナルパックなんですけど」

 

 吹雪が一枚のカードをペガサスに見せる。

 三足早く最新カードが封入されたオリジナルパックのカードだけあって丈も見た事のないカードだった。

 名前覧には『BF-疾風のゲイル』とある。名前から察するになんらかのカテゴリーに属する一枚だろう。

 

 

【BF-疾風のゲイル】

闇属性 ☆3 鳥獣族 チューナー

攻撃力1300

守備力400

自分フィールド上に「BF-疾風のゲイル」以外の

「BF」と名のついたモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択した相手モンスターの攻撃力・守備力を半分にする。

 

 

 低級モンスターでありながら問答無用に相手モンスターの攻撃力を半分にするという凶悪な効果もそうだが、目につくのはチューナーという文字。

 これまでデュアルやトゥーン、それにスピリットなどという種族のあとにカテゴリーを示すカードはいたが、チューナーというカテゴリーは初めて聞く。

 

「このチューナーっていうのはなんなんですか。それに僕の引き当てたカードには他に『シンクロ召喚』なんていう聞きなれない単語も混ざっていましたし……」

 

「それなら俺がキースとのデュエルで使った未来への思いにも『エクシーズ召喚』なんて書いてあったな」

 

「チューナーといえば、パックに入っていたチューナーモンスターの何枚かをI2カップ参加者の一人が使っていたな」

 

 亮の言葉で思い出す。そういえば直接戦うことこそなかったが、なにやら蟹のような髪形の男性がジャンク・シンクロンなどというカードを使っていた。

 低レベルモンスターで対戦相手に喰らいついていった巧みなデュエルが印象に残っている。

 

「…………これはI2社でも私や極一部の人間、それと海馬ボーイくらいしか知らないことなのですが、三邪神を取り戻してくれたお礼をかねてユーたちにはこっそりと教えましょう。けれどこの場で約束して下さい。これから話すことは他言無用。親兄弟や学校のティーチャーにも話してはいけませんよ」

 

 強く念押しされ、緊張から息をのんだ。だがこの時点で聞かないという選択肢は丈たちから失われていた。

 なんのことはない。デュエリストとしてデュエルに関わる秘密を知りたくないはずがないのだ。

 三人の意志を察してペガサスが語り始める。

 

「OK。では説明しましょう。シンクロ召喚とエクシーズ召喚とは現在我が社が開発中の次世代の召喚システムなのデース」

 

「新しい召喚システム!?」

 

 これは純粋に驚きだ。デュエルモンスターズが世に出て何年も経つが、これまで基本的なルールは変わらなかった。

 そこに新たなる一石を投じる。確実にデュエルモンスターズ界では波紋があるだろう。

 

「シンクロ召喚はチューナーとそれ以外のモンスターのレベルを足して、融合デッキよりモンスターを特殊召喚するシステム。そしてエクシーズ召喚は同レベルのモンスター同士を重ね合わせることで融合デッキより場に召喚するシステムです。

 似ているようで異なるシステムであるシンクロとエクシーズですが、共通点としては『融合モンスターでないにも拘らず融合デッキ』から特殊召喚されるというところデース。それに合わせて融合デッキにも新たな名前に変更するよう検討中ですが」

 

「シンクロと……エクシーズ……」

 

「しかし異なる二つの召喚システムを同時に世に送り出せば、かなりの混乱状態になるでしょう。現在I2社ではシンクロ召喚とエクシーズ召喚が次世代システムの座をかけて競合中です。

 I2カップにも参加していたドクター不動はKC社の社員でシンクロ召喚の第一人者でもあるのデース。彼にはシンクロ召喚の実地調査もかねて、チューナーを始めとした次世代カードのみのデッキでデュエルをしてもらいました。勿論シンクロモンスターは入れていませんが。

 ユーたちにプレゼントされたオリジナルパックにチューナーモンスターやそれの関連カードが封入されていたのは実地調査の一貫の一つデース」

 

「シンクロとエクシーズについては分かりました。では競合に敗れたシステムはどうなるんですか?」

 

「……先程言った通り二つの異なる召喚システムを同時に送り出すことは難しい。競合に敗れた方のシステムは導入されえたシステムが浸透しきるまで凍結されることになるでしょう。

 最悪の場合は日の目を見ないことになるかもしれません。そうなった時はユーたちのもつ関連カードは再販されませんので大事に使って下サーイ」

 

 急にオリジナルパックが本当に凄いものなのだと思えてきた。再販されないということは数が限りなく少ないと言う事だ。

 シンクロかエクシーズか。競合に敗れた方の関連カードはそれこそ世界に数枚しかない超レアカードになるのだろう。

 競合に敗れたカードの方が単体としては価値が跳ね上がると言うのは皮肉と言えば皮肉だった。

 

「とはいえ新しいシステムが導入されるのは遅ければ十年後、早くとも4、5年は先の話デース。ユーたちがプロデュエリストになって活躍している頃には実装されていると思いますので、そしたらバンバンと新システムを使いこなして下サーイ!」

 

 話はこれで終わった。三人はペガサスに別れの挨拶をすると、I2社の日本支社から出る。

 外は昨日の激戦が嘘のような快晴だった。この分だと明日も晴れそうだ。

 

「なぁ……どう思う?」

 

 気付けばポツリと丈は呟いていた。

 

「どうって、なにがだ」

 

「新システムだよ」

 

「僕はいいんじゃないかと思うけどね。今のデュエルモンスターズが悪いって言ってるんじゃないけど、新しいシステムがあればそれだけデュエルも拡大するしね」

 

「…………そうか」

 

「丈は嫌なのかい?」

 

「嫌ってほどじゃないけど、ううん複雑だな。携帯とかでもさ。新しい携帯を買うと古い携帯はいらなくなるだろ。それと同じで古いシステムの立場がなくなったらどうしようって思うと不安もある」

 

「そういう懸念もあるね」

 

 デュエリストとして新しいシステムに興奮する心がないわけではないのだ。しかしこれまでのシステムに慣れ親しみ、そんなシステムの中で構築したデッキを使っている身としては複雑な感情もある。

 

「亮は?」

 

「俺はサイバー流一筋のサイバー・ドラゴン馬鹿だ。他のデッキは使わん」

 

 シンクロやエクシーズ、新しいシステムなどまるで動じずに亮は言ってのけた。

 その余りにも一直線な台詞に亮以外の二人は苦笑してしまう。

 

「……………ははは、亮らしいな。だがそれもそうか。どれだけ新しいシステムがあろうと大切なのはどんなカードが好きかだな」

 

「人を時代についていけない男みたいに見るのは止めろ。俺は別にシンクロやエクシーズをデッキに加えないと言ったわけじゃない。ただ俺はサイバー・ドラゴンを主力にすることを止めるつもりはないだけだ」

 

 どれだけ新しいシステムや概念が登場し、時代が移り変わろうと自分の信頼できるデッキを信じていればいい。

 重要なのは世界のシステムではなく、自分が自分のデッキをどう思うかなのだから。

 

「さあ、それじゃ帰ってデュエルでもするか」

 

 

 

 

 

 

――――ネオ・グールズ編 完―――――― 

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