最後の模範デュエルだから観客も少しは控え目になるだろうという丈の期待は見事に裏切られることになる。人間、最後だから適当に、ではなく最後だからこそド派手にしたがるようで観客席は嘗てない大騒ぎだった。
『魔王、命』という気合の入ったタトゥーをしている男女入り混じった集団は見なかったことにして、デュエル場に足を踏み入れる。
自分はもうこういった大観衆にもある程度慣れてしまったが一年生はそうではないだろう。もしかしたら対戦者である万丈目は観客を前にして萎縮しているかもしれない。
そう思った丈だったが、どうやら杞憂だったらしい。
万丈目はかなり自然体で……というより逆に自信満々に腕を組んでいた。そこに緊張のきの字を見受けられない。
世の中には注目を集めるのが大好きな吹雪のようなタイプがいるが彼もその類なのだろう。亮のように観客などではびくともしない図太い精神をもつようなタイプもいるがそれはおいておく。
「少し待たせてしまったかな」
「ふふふっ。ノープロブレム、俺の滾る闘争本能を抑えていたら、時間の経過なんて失念していたよ」
気取ったように万丈目が言う。やはり典型的な劇場型タイプだ。本人の性根などはさておき、エンターテイナーであるプロデュエリスト向けの性格ともいえる。
それに一年生なのに二年生首席を倒してまで模範デュエルの対戦相手の座を獲得しようとするあたり中々の向上心を持ち合わせているらしい。
「宍戸さん、アンタはI2カップでカイザーを倒し頂点に君臨した。この俺、万丈目準が目指すのもナンバーワン。手始めにアンタを倒すことでデュエル・アカデミア最強の称号を頂く」
「……勘違いしているところ悪いが。確かに俺は亮を倒してI2カップで優勝した。だが俺や亮、吹雪に勝敗はあっても力の差なんてない。俺達の実力は互角だよ。俺が三人の中で一番強いっていうわけじゃない」
「どっちにしろ同じこと。魔王、カイザー、キング。三人の実力が同じだっていうならアンタを倒せばこの俺が頂点に君臨できる。だがこのままでは終わらん。アカデミアの頂点に君臨した後は日本……いや世界の頂点にたち、この俺こそがカードゲーム界のナンバーワンとなる!」
「デカい夢だな。先輩として応援しているよ……だが前に言った通り、油断する気はない。遠慮するつもりも毛頭ない」
丈を差し置いて闘争心を煮えたぎらせているグラファやバルバロスなどを下がらせる。精霊が見えるようになってからというもの、どうにも周囲が騒がしくて仕方ない。
しかし暗黒界やHEROたちには悪いが今日使うのは彼等ではなく、バルバロスたちだ。
これが学園最後のデュエルだというのなら、学園最初のデュエルで使用したデッキを使いたい。
「いくぞ……万丈目」
「今宵俺の新たなる神話が始まる! アカデミアの蒼い稲妻と呼ばれた俺の実力を見せてやる!」
「「デュエル!!」」
宍戸丈 LP4000 手札5枚
場 なし
万丈目 LP4000 手札5枚
場 無し
「先攻は後輩からだ」
以前二回の模範デュエルでも亮や吹雪は後攻を選択していた。だからというわけではないが先攻は譲ることにする。
なにより一年生にも拘らず自分にこうも果敢に挑んできたデュエリストに興味があった。
「ふんっ! 兄相手とはいえ先に敗北した天上院くんの仇もついでに討ってやる。俺のターン、ドロー!」
万丈目は自分のことを学年首席だと言っていた。彼は一年生なので彼が首席ということは順当に考えれば彼は明日香より強いということになる。
もっとも学校で算出される『成績』がデュエリストの『強さ』にイコールで結びつくかどうかは首を傾げるところではあるが。
「俺は地獄戦士を攻撃表示で召喚」
【地獄戦士】
闇属性 ☆4 戦士族
攻撃力1200
守備力1400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、
この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。
ポビットのように小柄な体型の戦士が出現した。地獄と名がつくだけあって顔は悪魔のように凶悪である。
地獄戦士はステータスはリクルーターの平均たる1400に届かないが、戦闘ダメージを相手にも与えるモンスター効果をもっている。
亮のように攻撃力を8000に上げて攻撃したら共倒れになりかねない。気を付けなければ。
「俺はこれでターンエンドだ。さぁ! 見せて貰おうか、魔王の実力ってものを!」
「ふふっ。俺のターンだな、ドロー。モンスターをセット、カードを二枚セットして……ターンエンドだ」
「ふははははははははは! 魔王ともあろうものが俺のデュエルに怖気ついたのか! 俺のターン、ドロー!」
カードをドローした万丈目はニヤリと笑う。
「だが俺様の攻撃を守備表示などで防げると思うなよ。俺は地獄戦士を生け贄に捧げ地獄将軍・メフィストを攻撃表示で召喚!」
【地獄将軍・メフィスト】
闇属性 ☆5 悪魔族
攻撃力1800
守備力1700
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の手札からカードを1枚ランダムに捨てる。
地獄戦士が消えかわりに将軍が現れる。将軍だけあって単なる歩兵に過ぎなかった戦士とは違い馬にのり、巨大なランスをもっていた。
最初の地獄戦士といいこの地獄将軍といい、万丈目は地獄と名のつくカードが好きなのかもしれない。
「地獄将軍は上級モンスターだが攻撃力は下級モンスターと同じ1800……だが、こいつの真価はその効果にある! こいつが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手は手札を一枚捨てる。
魔王ともあろう者が手札の重要性を知らないということはないだろう。更にこいつは守備表示モンスターに攻撃した時、貫通ダメージを与える特殊能力もある! だが俺のタクティクスは更に上をいく! 装備魔法、デーモンの斧をメフィストに装備!」
【デーモンの斧】
装備魔法カード
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
生け贄にする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。
団結の力と比べることも多い装備魔法、デーモンの斧。メフィストが自前のランスから悪魔の顔のついた斧に武装を変えた。
「デーモンの斧は装備モンスターの攻撃力を1000あげるカード。これでメフィストの攻撃力は2800となった」
単純な攻撃力ならサイバー・ツイン・ドラゴンと同等か。二連続攻撃とハンデス+貫通ダメージ。果たしてどちらの方が厄介なのか意見の分かれるところだろう。
「バトル! 地獄将軍・メフィストでセットモンスターを攻撃! デーモン・ヘル・ザンバー!」
「俺の伏せていたモンスターは守備力0のレベル・スティーラー。本来なら俺は2800のダメージを受けるところだが……リバースカードオープン、ガード・ブロック。一度だけ戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」
貫通ダメージは戦闘ダメージとして扱うためガード・ブロックの効果範囲内だ。丈はカードを一枚ドローする。
「さらにメフィストのハンデス効果は戦闘ダメージを与えなければ発動しない。よって俺は手札を捨てずに済む」
「……くっ! だが先にモンスターを撃破したのは俺だ! カードを一枚伏せターンエンド……」
万丈目の言う通り最初に戦闘破壊されたのは丈だが、レベル・スティーラーは墓地にあってこそ意味のあるカード。
破壊されたことはデメリットどころかメリットだ。
「俺のターン、そろそろいくか」
前のターンは謂わば準備だ。丈のデッキはなにかと本領発揮するのに準備がかかるため速効性ではサイバー流の亮に劣るが、腰の座ったデュエルならば丈に軍配が上がる。
「手札より魔法カード、フォトン・サンクチュアリ発動。フィールドに二体のフォトントークンを守備表示で特殊召喚する」
【フォトン・サンクチュアリ】
通常魔法カード
このカードを発動するターン、
自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)
2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。
フィールドに並ぶ二つの光の塊。トークン二体を並べるカードはよくあるが、このトークンの攻撃力は2000ポイント。トークンの中でもかなり高いレベルにある。
新しいカードを手に入れデッキを大幅強化したのは吹雪だけではないのだ。
「攻撃力2000のトークンを二体だと……?」
「焦る必要はない。このトークンは守備表示、それに攻撃をすることは出来ない。このトークンたちがお前に危害を加えることはないさ。とはいえこのカードは、の話だ。
フォトン・サンクチュアリを発動したターン、俺は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。よって俺は光属性モンスターを召喚する。
永続魔法、冥界の宝札を発動し準備は完了。二体のフォトントークンを生け贄に捧げ光神機-轟龍を攻撃表示で召喚!」
【光神機-轟龍】
光属性 ☆8 天使族
攻撃力2900
守備力1800
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
この方法で召喚した場合、
このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
名前に機械の機と龍がつくところから、機械的でドラゴンのような造形をしている。見た目はサイバー・ドラゴンにも通じるところがある。
けれどこのモンスターはれっきとした天使族モンスターだ。
「攻撃力2900……糞っ! 俺のメフィストの攻撃力を上回っている」
「冥界の宝札、二体以上の生け贄召喚に成功したため二枚ドロー。バトル! 光神機-轟龍で地獄将軍・メフィストを攻撃、マジェスティック・キャノン!」
轟龍の口から放たれた砲撃が地獄の将軍を消し飛ばす。攻撃力の差分はたったの100だったが先制ダメージには違いない。
万丈目は悔しそうに表情を歪めた。
「カードを一枚伏せてターンエンド」
「いい気になるな、ここからが俺の本領だ! 俺のターン、ドロー! 俺は……モンスターをセットしてターンエンドだ」
「エンドフェイズ時、終焉の焔を発動。黒焔トークン二体をフィールドに出現させる」
【終焉の焔】
速攻魔法カード
このカードを発動するターン、
自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に「黒焔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。
これで再び二体の生け贄要因が揃った。終焉の焔の発動したターンにモンスターを召喚できないというデメリットも、相手ターンに発動してしまえば問題はなくなる。
「俺のターン、ドロー。永続魔法、アドバンス・ゾーン発動」
【アドバンス・ゾーン】
永続魔法カード
ターンのエンドフェイズ時に発動できる。
このターン自分が生け贄召喚のために
生け贄したモンスターの数によって以下の効果を適用する。
●1体以上:相手フィールド上にセットされたカード1枚を選んで破壊する。
●2体以上:デッキからカードを1枚ドローする。
●3体以上:自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。
丈のデッキにとっては冥界の宝札に次ぐドローエンジンである永続魔法。このカードと冥界の宝札が並んだことにより、丈のフィールドはより盤石なものとなった。
これで『虚無の統括者』か『神の宣告』でもあれば更に完璧だっただろう。
「アドバンス・ゾーンは生け贄にしたモンスターの数によって効果を適用できる。さて……この攻撃を防げるか、見せて貰おうか万丈目。二体の黒焔トークンを生け贄に捧げThe supremacy SUNを召喚!」
【The supremacy SUN】
闇属性 ☆10 悪魔族
攻撃力3000
守備力3000
このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、
次のターンのスタンバイフェイズ時、
手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。
バルバロス、堕天使アスモディウスと同じくThe SUNもこれまでずっと丈を支え続けてくれたカードの一枚だ。
自分の効果以外に特殊召喚できない効果をもっているが、比較的ローリスクでの蘇生効果をもっている。
名前が似通っていて星の名前がつくというところから世界に一枚しかないとされる『プラネットシリーズ』なのではないか、と囁かれていたが丈は同名カードを三枚もっているので違うだろう。第一太陽は星ではあるが惑星ではない。
The SUNは世間でも普通に流通しているカードだ。レアカードには違いないが時価数十万のレッドアイズよりはレアリティも低い。
「冥界の宝札で新たに二枚ドローし、バトルフェイズへ移行する。光神機―轟龍でセットモンスターを攻撃、マジェスティック・キャノン!」
セットモンスターがリバースし表側となる。万丈目の伏せていたカードはキラー・トマトだ。
「戦闘破壊された時、キラー・トマトのモンスター効果が発動! デッキより攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚する!」
「一つ言い忘れていたが、光神機―轟龍には貫通効果がある。キラー・トマトとの守備力の差分である1800のダメージを受けてもらうぞ」
「なんだって!」
他に轟龍には一体の生贄で妥協召喚できる効果もあるのだが今は関係ないので黙っておく。
最上級モンスターはその召喚難易度に相応強い強力な特殊能力をもっているモンスターが多い。丈のデッキにはそういうモンスターがうじゃうじゃと入っている。轟龍もそのうちの一枚だ。
「まだだ……俺はクリッターをデッキより特殊召喚!」
「しかしトマトの効果で召喚されたモンスターは攻撃表示。The SUNの攻撃も受けて貰おう。SOLAR FLARE!」
万丈目LP3900→100
The SUNと光神機―轟龍。二体の最上級モンスターたちの連続攻撃を受けて万丈目のライフは風前の灯だ。
それでも万丈目は――――あれはもう意地だろう。歯を食いしばって耐え凌いだ。
「クリッターのモンスター効果だ。俺はデッキより偉大魔獣ガーゼットを手札に加える……」
ガーゼットは生け贄にしたモンスターの倍が攻撃力となるモンスター。しかし元々の攻撃力は0なのでクリッターでサーチすることが可能だ。
つまりもしも次のターンで万丈目が攻撃力1500を超える生け贄要因を確保できればこの状況を覆せるかもしれないということだ。ダメージ覚悟でクリッターを召喚した理由もここにあるのだろう。
「バトルフェイズを終了。俺はこれでターン終了
「俺のター――――」
「ストップだ。まだ俺にはエンドフェイズ時、アドバンス・ゾーンの効果を発動していない。このターン、俺が生け贄に捧げたモンスターは二体。よってお前の場にあるセットカードを破壊しカードを一枚ドローする。……と、破壊したカードは盗賊の七つ道具か。破壊しなくても意味はなかったな」
盗賊の七つ道具のコストは1000のためライフ100の万丈目では発動させることも出来ないカードだ。
魔法・罠ゾーンを空けてしまったと考えれば丈にとってマイナスだったとすらいえるかもしれない。しかし万丈目の顔に力はなかった。
「最上級モンスターを召喚する度に手札が減るどころか逆に増えるだと……? しかもリバースカードの破壊まで。ええぃ! しかし、まだまだだ!
ここまでのピンチは俺の大逆転勝利を演出するための演技に過ぎない。ここからが本当の本気の本番だ! 俺のターン、ドロー! 宍戸さんにもドローさせることになるが、壺の中の魔魔術を発動。互いのプレイヤーは三枚カードをドローする」
【壺の中の魔術書】
通常魔法カード
互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。
祈るように万丈目は三枚カードをドローした。幾ら強力なドローソースといえど壺の中の魔術書は相手にもドローさせるリスクのあるカード。
この状況で丈の手札を三枚も増やすことは万丈目にとって命取りにしかならない。このドローで逆転のカードを引けなければ負けるという背水の陣だ。
三枚のカードをドローし終えた万丈目は手札を見比べていき――――大笑いを始めた。
「く、ふはははははははははははははははは! 宍戸さん、アンタに見せてやるぜ。運命に魅入られた男のデステニードローってやつを!」
「……面白い」
こんな時だというのに、いやこんな時だからだろう。丈の気分も高揚してきた。
鼻持ちならず生意気なこの後輩がどんな風に逆転劇をしてくるのか楽しみで仕方ない。無論どんな逆転を仕掛けてこようとそれに対する迎撃は万全にしてあるが。
「俺は魔法カード発動、死者蘇生! 墓地のクリッターを守備表示で復活させる! クククククククッ。これで俺様の墓地には闇属性モンスターが三体だけとなった。
手札にあるこのカードは墓地の闇属性モンスターが三体の時だけ手札より特殊召喚できる。現れろ、ダーク・アームド・ドラゴンッ!」
【ダーク・アームド・ドラゴン】
闇属性 ☆7 ドラゴン族
攻撃力2800
守備力1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。
自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター1体を
ゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
デュエルモンスターズ界にはLvアップするごとに力を増していくレベルアップモンスターがいる。
キング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯も愛用したカードでどれも相当のレアカードだ。丈も揃って持っているレベルアップモンスターは一種類だけである。
アームド・ドラゴンもそんなレベルアップモンスターの一体で噂によればアカデミア・ノース校の選ばれたデュエリストに授けられると聞いたことがあるが、万丈目の召喚したダーク・アームド・ドラゴンはアームド・ドラゴンが闇に染まった姿だ。
召喚条件に難はあるものの、その爆発力はアームド・ドラゴン以上のものがある。
吹雪も愛用しているカードなので丈にとっては馴染のあるモンスターだ。
「いくぞ! クリッターを生け贄に捧げ地獄詩人ヘルポエマーを召喚。クリッターの効果でレジェント・デビルを手札に加える。更にレジェント・デビルを墓地に捨てることでダーク・グレファーを攻撃表示で召喚!」
【地獄詩人ヘルポエマー】
闇属性 ☆5 悪魔族
攻撃力2000
守備力1400
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた場合効果が発動する。
このカードが墓地に存在する限り、相手バトルフェイズ終了時に
相手は手札からカードを1枚ランダムに捨てる。
このカードは墓地からの特殊召喚はできない。
【ダーク・グレファー】
闇属性 ☆4 戦士族
攻撃力1700
守備力1600
このカードは手札からレベル5以上の闇属性モンスター1体を捨てて、
手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、手札から闇属性モンスター1体を捨てる事で、
自分のデッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。
地獄詩人ヘルポエマーとダーク・グレファー。どちらも攻撃力ではThe SUNどころか轟龍にも及ばない。
だが万丈目の狙いは墓地に弾薬を装填することにあるのだろう。
「ふふふふ。ダーク・アームド・ドラゴンのモンスター効果、墓地の闇属性モンスターを除外することでフィールドのカード一枚を破壊する。
俺は五枚のカードを除外して宍戸さんのフィールドのカードを全滅させる! ダーク・ジェノサイド・カッター!」
「その効果にチェーンして、威嚇する咆哮発動。このターンの攻撃宣言を封じる」
「なに? だが他のカードは破壊だ!」
攻撃宣言そのものを封じられた為、このターンで万丈目がバトルによって丈のライフを0にすることは不可能となった。
けれど万丈目の言う通り轟龍もThe SUNも破壊耐性をもってないため悉くダーク・アームド・ドラゴンの前に撃破される。
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」
「……俺のターン。スタンバイフェイズ時、手札を一枚捨てることでThe SUNを墓地より蘇生することができる」
「させてたまるかっ! 手札よりD.D.クロウを捨てることでThe SUNを除外する!」
【D.D.クロウ】
闇属性 ☆1 鳥獣族
攻撃力00
守備力00
このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。
相手の墓地のカード1枚を選択し、ゲームから除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
上手い。The SUNの蘇生効果は墓地にいなければ働かない。除外されてしまっては太陽は再び昇ることはないのだ。
正真正銘これで丈の場はがら空き。相手の場には墓地に闇属性モンスターがいれば何度でもフィールドのカードを破壊できるダーク・アームド・ドラゴン。少しだけピンチだ。
「俺はカードを三枚伏せる。さらにクリボーを攻撃表示で召喚……ターンエンド」
「クリボーだと!? そいつは手札から捨ててダメージを0にするくらいしか能のないクズカード! 俺のことを舐めているのか!?
この状況を一気に大逆転できるカードがあるとすれば、アンタがペガサス会長から託されたっていう三邪神くらい……。そんな雑魚を出す前に三邪神を出せ!」
「ご期待に添えずすまないが、俺のデッキに三邪神は入ってない」
「嘘を言うな。アンタが三邪神をもってることなんてアカデミア生なら誰でも知ってることだ」
「持ってはいるさ。だが入れてはいないだけだ。三邪神は召喚すれば勝利を確定してしまうほどの力をもったカード。はっきりいってその強さはゲームバランスそのものを崩壊させてしまうほどだ。
これに頼ってデュエルしていれば、俺自身が邪神の力に縋るデュエルをするようになってしまうだろうし…………邪神の攻撃は相手デュエリストの魂をも砕くほどのエネルギーをもっている。亮や吹雪とのデュエルでも投入してはいない」
「ふざけるなよ……っ! 俺は三邪神を束ねた最強のアンタを倒したいんだ! 三邪神が入っていない、しかもクリボーなんていうクズカードを召喚するアンタと戦いたいんじゃない!」
「万丈目、力だけがデュエルモンスターズの全てじゃない。俺はI2カップの後、亮や吹雪と共に三邪神と戦った。そのうち三邪神の一角を倒したのはパワーじゃなく……ただの何の変哲もないノーマルカードだった」
「ば、馬鹿な。ノーマルカードが邪神を倒すなんて出来るわけがない」
「出来るんだよ。どんなカードにもそのカードにしかない可能性が眠っている。クリボーは俺が無数にあるカードたちの中から選び抜いた40枚のうちの一枚。あまり馬鹿にしないで欲しいね。それともう一つ、俺は三邪神を使ってI2カップを制したんじゃない」
「口で言っても分からないなら、いいだろう。ならその口を俺のデュエルで閉ざすまで。そのライフを0にすることによって。俺はダーク・グレファーを生け贄に偉大魔獣ガーゼットを召喚!」
【偉大魔獣ガーゼット】
闇属性 ☆6 悪魔族
攻撃力0
守備力0
このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた
モンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。
自分が以前にパンドラとのデュエルで召喚したこともあるため、ガーゼットの効果については頭に入っている。
攻撃力1700のダーク・グレファーを生け贄にしたためガーゼットの攻撃力は3400だ。
「さらに! ダーク・アームド・ドラゴンのモンスター効果を再び発動! D.D.クロウとダーク・グレファーの二体を除外しリバースカードを二枚破壊する。消え去れぇ!」
「……ダーク・アームド・ドラゴン、その能力は確かに厄介だ。だが力に固執したデュエルは脆い。俺はダーク・アームド・ドラゴンの効果にチェーン。速攻魔法、機雷化を発動」
【機雷化】
速効魔法カード
自分フィールド上に表側表示で存在する
「クリボー」及び「クリボートークン」を全て破壊し、
破壊した数と同じ数まで相手フィールド上のカードを破壊する事ができる。
「このカードは自分フィールドのクリボーを全て破壊。破壊した数と同数の相手カードを破壊する」
「ハハハハハ! それでダーク・アームド・ドラゴンを破壊したところで俺の場にはガーゼットとヘルポエマーがいる。俺の勝ちは動かない」
「万丈目、それは早合点だ。俺が破壊するカードは一枚のクリボーじゃない。五体だ。俺は自分の機雷化にチェーンして速攻魔法、増殖を発動。クリボーを生け贄にして場にクリボートークン五体を出現させる」
【増殖】
速効魔法カード
自分フィールド上に表側表示で存在する「クリボー」1体を生け贄にして発動する。
「クリボートークン」(悪魔族・闇・星1・攻300/守200)を
可能な限り自分フィールド上に守備表示で特殊召喚する。
このトークンは生け贄召喚のためには生け贄にできない。
フィールドを埋め尽くす五体のクリボー。最初は万丈目も「雑魚モンスターを増やしたところで」と馬鹿にしていたのだが、直ぐにその真意に気付いたらしく顔を真っ青にした。
「クリボーは中々神経質で触れると時々爆発してしまうんだ。……いくぞ、機雷化の効果。増殖したクリボーを全て破壊してその数だけ相手カードを破壊する」
「ええぃ! 俺は罠カードを――――」
「残念。こちらもカウンター罠、魔宮の賄賂だ、その効果は無効だ」
「なぁーーーー!?」
『クリクリ~』
クリボーが鳴き声をあげながら万丈目のフィールドに突進していく。クリボーたちは万丈目のフィールドのカードに触れると一気に爆発していく。
五体のクリボーの機雷。それの一斉破裂が終わった後、焼野原となった万丈目のフィールドだけが遺された。
「なっ。力って脆いだろ」
「お、俺の……完全無欠なフィールドが、クリボーなどに……」
「狼狽えているところ悪いが魔宮の賄賂の効果で一枚ドローするのを忘れているぞ」
「う、五月蠅い! 忘れてなどいない、俺はドローは後にするタイプなんだ! ドロー! 俺は天使の施しを発動、三枚ドローして二枚捨てる。カードを二枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターンだな、ドロー」
万丈目のフィールドはがら空きで残りLPは100しかない。今ならレベル・スティーラーのダイレクトアタックでも倒すことが出来る。
しかしあの二枚のうちの一枚、或いは両方は万丈目を守る防御カードだろう。となれば、
「二枚目のフォトン・サンクチュアリを発動。場に二体のフォトン・トークンを特殊召喚する」
「くるか……」
「二体のフォトントークンを生け贄に捧げ、光と闇を束ね生来せよ!
【光と闇の竜】
光属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力2800
守備力2400
このカードは特殊召喚できない。
このカードの属性は「闇」としても扱う。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。
この効果でカードの発動を無効にする度に、
このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
自分フィールド上のカードを全て破壊する。
選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
その片翼はまるで天使のように純白の翼だった。純白の翼と同じ純白の肢体は触れるだけで汚れてしまいそうなほど清純だった。
その片翼はまるで悪魔のように漆黒の羽だった。漆黒の羽と同じ漆黒の肢体は触れるだけで溶けてしまいそうなほど邪悪だった。
光と闇、二つの属性を重ねもったドラゴン。それが光と闇の竜。
「光と、闇の竜……このカードは」
光と闇の竜を仰ぎ見る万丈目は心奪われたように凝視する。その目が離れることはなく、放っておけば何時間でも見つめていそうなほどだった。
だがこれはデュエル。無粋でも先に進めなければならない。
「バトルフェイズだ。光と闇の竜で相手プレイヤーをダイレクトアタック、シャイニングブレス!」
「っ! 罠カード、聖なるバリア ーミラーフォースー! これで光と闇の竜は破壊。更に俺の伏せたもう一枚のカードはリビングデットの呼び声だ。このカードで次のターンで墓地へ捨てたヘル・バーナーを蘇生すれば、俺の手札にあるモンスターとの直接攻撃で俺の勝ちだ!」
「この瞬間、光と闇の竜のモンスター効果が発動。このカードが表側表示で存在する限り、モンスター効果・魔法・罠を攻守を500下げて無効にする」
「なんだって!」
「ミラーフォースは無効、攻撃は続行される」
攻撃の直前、咄嗟に万丈目はデュエルディスクを操作して光と闇の竜のテキストを読む。
「だがその効果は同一チェーン上では発動できない。俺はリビングデットの呼び声を発動し――――」
「それも読んでいた……速攻魔法、サイクロン。リビングデットは破壊して貰う」
「っ!」
「正真正銘の止めだ、ダークバプティズム!」
「うわぁああああああああああ!」
光と闇の竜が吐き出した光と闇の入り混じったブレスが万丈目のライフを奪い去った。
どうやら……卒業生代表で唯一の敗北者にならずに済んだらしい。丈は悔しがり地面を叩く万丈目に歩み寄る。
「ナイスデュエル、万丈目。学園最後のデュエル……楽しませてもらったよ」
「ナイス、だと……? 全然ナイスじゃない! くそくそくそっ! この俺様が……俺様が負けた、だと? 相手が魔王だからといって、畜生……」
「敗北は悔しいか。まぁどうだろうな、俺だって幾ら互角だのなんだのと言っても亮や吹雪にデュエルで負けると悔しい。だけど、それでいいんだ。常勝無敗、一度も負けたこともない人間は脆い。敗北して悔しさを知ってるからこそ、次は絶対に勝つって思える。その気持ちがあるから人間は成長できる。
勝利以上に敗北は多くのことを教えてくれるものだ……。そのことを俺はこの三年間で学んできたつもりだ。万丈目、これを」
丈は一枚のカードをデッキから抜くと万丈目に渡す。
「……これは?」
「ラッキーカードだ。こいつが君のところに行きたがっている。光と闇の竜、そいつは自分のステータスを下げても味方を守る力をもっている。お前がなによりも重要視するステータスを、だ。いつかそのカードを操るに相応しいデュエリストになって三年後、また会おう」
「宍戸、さん……」
三年後。万丈目もいずれ丈と同じようにアカデミアを卒業し高等部へ上がる日がくる。
その時、また宍戸丈と万丈目が同じ学び舎で過ごすことになる三年後に彼が『光と闇の竜』に相応強いデュエリストに成長しているか否か。
(高等部での楽しみが一つ増えたな)
デュエルを始める前とは違う晴れ晴れとした表情で丈は退場していく。
観客たちの拍手がそれを見送った。
地獄デッキだと余りにも切り札にかけているので、TF3の万丈目デッキを流用しダムドをもってきました……。
あとちゃっかりプラネット・シリーズに関する伏線投入。The SUNはプラネットの一枚じゃないかって? それが伏線です。