宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第85話  帝王VS天才

「来たぞ」

 

「さーて、注目の一戦だね」

 

 丈と吹雪は腕を組みながら眼下のデュエル場で向かい合うカイザーこと丸藤亮、そして新たに特待生としてアカデミアに編入してきた藤原を見下ろす。丈たち以外にも青、黄、赤の制服を着たアカデミア生が固唾をのんで状況を見守っていた。

 サイバー流の正当後継者というサラブレットでありI2カップでは優勝こそ逃したものの準優勝に輝いた帝王。そしてオーストラリア・チャンピオンシップで中学生でありながら並みいるプロやベテランを倒し三年連続で優勝を果たした天才、藤原優介。

 果たしてどちらが強いのか。……否、理事長が直々にスカウトしたほどの『才能』はアカデミア中等部が誇った三天才の一角と本当に張り合う事が出来るのか。このデュエルを見守る観衆の気持ちはそれに尽きるだろう。

 藤原は一度三天才に数えられる丈を倒しているが、その時に丈が使っていたのは試験用デッキで本当のデッキではない。つまりこれが本当の三天才と天才の真っ向勝負なのだ。

 

「まぁ……この日が来れば俺達のうちの誰かがやると思ってたけど、藤原との最初の本気デュエルは亮に奪われたか~。ちょっと悔しいな」

 

「いいじゃないか。丈は入学試験で一度戦ってるんだし」

 

 アカデミアには中間試験や期末試験以外に月一試験というものがある。月一だけあって中間や期末よりも出題範囲は狭いが、この成績で寮の昇格や降格もあるというのだから上を目指す者や成績が危ない者にとっては油断できない試験だ。

 試験は入学試験と同じく筆記試験と実技試験両方行われる。

 午前の筆記は毎日厳しいノルマをこなしているだけあり完璧といっていい出来だった。それよりも丈たちが一番気にしていたのは実技の方だったのだ。

 実技試験は同じ学生寮所属の者の中から成績が近しい者が対戦相手として選ばれるシステムとなっている。故にオベリスク・ブルーすら超える最上級の特待生寮に所属する丈たちは必然的に他の三人のうち誰かと戦うことになるわけだ。

 丈と吹雪のデュエルは先程終えたばかり。

 結果は丈が吹雪のライフを300まで追い詰めたところで、惜しくも逆転され吹雪の勝利。20ターン近くに及ぶ熾烈な攻防だった。

 

「で、一度藤原と戦った丈はこのデュエル……どう見るんだい?」

 

「難しいな。藤原のデッキは俺のデッキと似てるところが多い。下級モンスターや永続魔法でサポートしつつバンバンと攻撃力3000に近い最上級モンスターを並べていくデッキ。対して亮は同じ火力でひたすら押すデッキだけど……普通の火力重視デッキとは一味もふた味も違う火力を叩きだしてくる」

 

 機械族専用の融合カードにより融合召喚されるサイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンは軽く5000や8000なんてパワーを出す。これにリミッター解除すれば一万のラインすら超える。

 攻撃力3000のモンスターなどサイバー・エンド・ドラゴンの前では一溜まりもないのだ。

 

「だから俺はこれまで大抵はサイバー・エンド・ドラゴンを真っ向勝負で倒すんじゃなくて魔法カードや罠カード、またはモンスター効果で撃破してきた。けど……」

 

「藤原のデッキにはあらゆる攻撃力を超越する゛オネスト゛がいる」

 

 丈は同意するように頷いた。

 オネストが藤原の手札にあれば、それこそ亮が攻撃力10000……いやそれこそ一兆万だろうとオネスト一枚で戦闘破壊できる。

 

「一度限りとはいえ正面からのバトルではほぼ最強を誇るオネスト、あれを使われて尚も単独で戦闘破壊できるモンスターなんてそれこそ天使を超える゛神゛くらいだよ」

 

 あらゆるモンスターの攻撃力を常に上回る邪神アバター。あらゆるモンスターの攻撃力を半減するドレッド・ルート。

 丈が担う邪神であればオネストなど怖れるに足らない。真っ向から戦闘破壊できる。

 

「後はオネストにオネストでもぶつけることくらいか。まぁ力に対して力でぶつかる必要もない。天罰、次元の裂け目……オネストが弱いカードはある」

 

 とはいえ攻略カードがあるからといってオネストが弱くなるわけではない。

 

「この勝負、長くはならない。恐らく一瞬……亮が大きな一撃を通せるか通せないか。それで決着がつく」

 

 オネストをどう攻略するかがこのデュエルの鍵となるだろう。サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃が通れば亮の勝ち、通らなければ藤原の勝ち。シンプルな構図だ。

 

 

 

(フッ。二人には悪いが俺が一番ノリだな)

 

 三人全員が望んでいた藤原とのデュエルを最初にやる機会を掴んだ亮は内心でガッツポーズをしていた。

 大観衆の視線を感じるが、もはや慣れたものである。この程度の視線では今更どうもならない。大会出場経験豊富な藤原も同じらしくこれだけの観客を前にして寧ろリラックスしているようだ。

 

「少しだけ派手なことになってしまっているが、今日こういう場でお前とデュエルできることを嬉しく思う。お互い満足のいくデュエルをしよう」

 

「サイバー流の噂はオーストラリアに留学する前から……日本にいた頃から聞いていた。だけど実際にデュエルするのは初めてだ。遠慮はしないよ」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 機械龍を操る帝王か、天使を率いる天才か。どちらが強いのかはこのデュエルではっきりするだろう。

 亮は闘志を漲らせる。亮の隣りに並び立つ精霊のサイバー・ドラゴンも主の闘志を受け、自らとデッキを鼓舞するように天に向かって嘶いた。

 

『マスター!』

 

「分かってる、いくぞオネスト! 相手はプロ級……いや、それ以上の実力者だ!」

 

 だが相対する藤原とオネストも数多のデュエリストたちを倒してきた猛者だ。カイザーとサイバー・ドラゴンの闘志を前にしても一切の動揺なし。

 

「先攻は譲ろう」

 

 亮は藤原に最初のターンを譲る。デュエルモンスターズは基本的に先攻有利だが、亮のデッキの場合は後攻有利だ。だからこれは譲るというより自分を優位にするための布石でもある。

 それを藤原は勿論知っている。知っていてそれを受ける。藤原のデッキはセオリー通りの先攻有利。相手の不利な先攻ではなく自分の有利な先攻。それが藤原の決断だった。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 藤原が入学試験でいきなり後攻1ターン目で丈をワンターンキルした記憶は新しい。

 最初のターンだからといって油断は禁物だ。亮は身構えた。

 

「魔法カード、天空の宝札。光属性天使族モンスターを手札より除外して二枚ドローする。僕はアテナを除外し二枚ドロー。ただしこのターン、僕は特殊召喚とバトルを封じられる。

 僕はモンスターをセット。リバースカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先ずは様子見ということだろうか。しかし相手が攻めてこないならばこちらから攻めるのみ。

 元よりサイバー流は防御よりも攻撃に秀でた流派。攻撃こそが最大の防御だ。

 

「相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 サイバー流の象徴たるサイバー・ドラゴンが先ずは現れる。召喚した白亜の機械龍は敵である藤原を睨むと威嚇した。

 

「それがサイバー・ドラゴンか……。オネストと同じ精霊で、カイザー亮のエースカード」

 

 ただしサイバー・ドラゴンはそれ単体では汎用性の高い便利な半上級モンスターに過ぎない。

 サイバー・ドラゴンが真価を晒すのは融合を使用した後だ。

 

「さらに俺はカードガンナーを攻撃表示で召喚」

 

 

【カードガンナー】

地属性 ☆3 機械族

攻撃力400

守備力400

1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動する。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。

また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 これで亮の場にはモンスターが二体。

 もしも万事上手くいけばダイレクトアタックできるかもしれないが、そう生易しい相手でもないだろう。だが攻撃あるのみ。

 

「カードガンナーの効果、一ターンに一度デッキの上から三枚まで墓地へ送り発動。送った枚数×300ポイント攻撃力を上げる。俺が墓地へ送ったカードは三枚。よって攻撃力は1900となる。

 バトルフェイズ。カードガンナーで守備モンスターを攻撃だ!」

 

「……僕が伏せていたモンスターはシャイン・エンジェル。このカードが破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚する。僕は二枚目のシャイン・エンジェルを攻撃表示で召喚」

 

 

【シャイン・エンジェル】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力800

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

デッキから攻撃力1500以下の

光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。

 

 

 新たに後続モンスターが出てくる。やはり攻めきることは出来なかった。けれどシャイン・エンジェルの効果で新たに召喚されたモンスターは攻撃表示。

 

「サイバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・ドラゴンの一撃がシャイン・エンジェルを撃破した。

 戦闘力超過分のダメージが藤原を襲った。

 

 藤原LP4000→3300

 

 ライフを失いながらも藤原には余力は十分。むしろこの程度は藤原にとっては必要経費でしかないだろう。

 

「シャイン・エンジェルのモンスター効果、デッキより攻撃力1500以下のモンスターを…………オネストを召喚」

 

「オネストだと!?」

 

 藤原のデッキの要というべきモンスターにして相棒。黄金の羽をもつオネストがフィールドに降臨する。

 しかしオネストは手札にあってこそ効果を発揮するモンスター。一体どういうつもりなのか。

 

「俺はカードを二枚伏せターン終了」

 

「僕のターン、ドロー! 亮……オネストには手札を捨てることで攻撃力を上げる以外にもう一つ隠された特殊能力がある」

 

「隠された能力だと?」

 

「オネストのモンスター効果、メインフェイズ時にフィールドにいるこのカードを手札に戻すことが出来る」

 

 フィールドのオネストが光の粒子となり藤原の手札へと戻っていった。

 

「なるほど、だからシャイン・エンジェルで……」

 

 これで藤原のデッキで一番厄介なカードであるオネストが手札に加わってしまった。

 しかしあるかどうか分からないよりも確実に゛ある゛と分かっている方が寧ろ心置きなく戦えるというものだ。

 亮はそっと手札に戻ったオネストを見据えた。

 

「僕はヘカテリスを墓地へ捨て、その効果で神の居城―ヴァルハラを手札に加える」

 

「――――来るかっ!」

 

「永続魔法発動、神の居城―ヴァルハラ」

 

 神が住まう荘厳な神殿が地面から湧き上がる。城門の向こう側からは天使たちの降臨を予感するように聖なる空気が流れてきていた。

 

「ヴァルハラの効果。自分フィールドにモンスターがいない時1ターンに1度だけ手札の天使族を特殊召喚できる。現れろ堕天使スペルビア!」

 

 

【堕天使スペルビア】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力2900

守備力2400

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する「堕天使スペルビア」以外の

天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 ヴァルハラの城門を潜りやってきたのは――――その静謐な空気とは相反する邪悪なるモンスター。

 神に反逆した罪により地獄へと堕天した天使。堕天使だった。

 

「攻撃力2900のモンスターがいきなり、やるな……!」

 

「ふふふっ。けどこれだけで終わりはしない。天使の降臨はまだまだこれからだ! 手札よりマンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚、その効果により高等儀式術をサーチ!」

 

「っ!」

 

「高等儀式術を発動、デッキより――――」

 

「それだけは通すわけにはいかんな! カウンター罠、魔宮の賄賂。魔法・罠の発動を無効にし破壊する。ただし相手は一枚ドローするがな」

 

「カウンター罠っ! くっ、それじゃあ……」

 

 天使の降臨を遮られた藤原が表情を歪める。

 間一髪のところだった。もしもあらゆるカード効果を無効化する神光の宣告者なんて召喚されていれば、下手すれば丸藤亮のサイバー流そのものの回転がストップしかねない。

 

「安々と勝たせてはくれないってことか。だが! 僕はバトルフェイズへ移行! マンジュ・ゴッドでサイバー・ドラゴンを攻撃ッ!」

 

「サイバー・ドラゴン、まさか!」

 

「この戦闘のダメージステップ時、僕はオネストを捨ててマンジュ・ゴッドの攻撃力を上昇!」

 

「ここでオネストだと!?」

 

 マンジュ・ゴットの背中から翼が黄金が噴出する。藤原の相棒であるオネストの力を得たのだ。

 マンジュ・ゴッドの攻撃力はサイバー・ドラゴンの2100を加え3700ポイント。その力は容易くサイバー・ドラゴンを破壊した。

 

「ぐぁぁぁああああ!」

 

「まだ攻撃モンスターは残っている。堕天使スペルビア、カードガンナーを死滅させろ!」

 

 堕天使スペルビアの闇の波動が近付いてくる。

 今の自分に堕天使スペルビアの攻撃を防ぐ術はない。ここは受けるしかないだろう。

 

「カードガンナーは破壊される……! だがカードガンナーの効果、このカードが破壊された時、俺は一枚ドローする」

 

 丸藤亮LP4000→100

 

 オネストの力を得たマンジュ・ゴッドに続くスペルビアの連続攻撃を受け亮のライフは風前の灯となった。

 しかし解せない。オネストは強力無比なカードだが決して軽々しく使うようなものではなく、ここぞという時にだけ使う切り札のはず。亮のライフを一気にゼロにできるならばまだしも、ただダメージを増やす為だけに使用するようなものではない。そんなことは藤原が一番分かっているはずなのだ。

 

(待てよ。そうか藤原の墓地には――――!)

 

 藤原の意図を察した亮は身構える。もしも自分の推理が正しければ、あのモンスターが新たに降臨してしまう。

 当たりたくない予想というものは当たるもので、亮の推理は正解だった。

 

「これで僕の墓地には二体のシャイン・エンジェルとヘカテリス、オネストの合計四体。このカードは墓地にいる天使族が四体のみの場合、特殊召喚が出来る。大天使クリスティアを攻撃表示で召喚! その効果により僕は墓地のオネストを手札に戻す」

 

 

【大天使クリスティア】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2300

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。

このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、

墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 

 敵ながら見事という他ない。オネストの効果を発動しダメージを上昇・墓地に天使族を送りクリスティア発動条件を揃える・クリスティア召喚・オネストの回収。これら四つの事を同時にするとは。

 行動にまるで無駄がない戦術。天才の名は伊達ではないということか。

 藤原優介。認めたくはないが、その実力は自分よりも高みにあるのかもしれない。

 

(だが、だからこそ戦い甲斐がある)

 

 自分より相手が格上だというのならば、それを倒せば自分は更なる高みに行くことが出来るということだ。

 戦意がみるみると湧き上がってきた。

 

「僕はカードを一枚伏せ、これでターンを終了」

 

 そして自分のターンがやってくる。亮は劣勢でありながら意気揚々とカードをドローした。

 


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