宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第90話  マスター鮫島VSカイザー亮

 クロノス先生とのデュエルをどうにか勝利で終えた丈は、少しだけ疲労を体に溜めつつ観客席へ戻った。

 

「お疲れ様」

 

「お、気が利くね」

 

 丈たち特待生の専用席と化している一体へいくと藤原がジュースを差し入れしてくれた。正直ありがたい。I2カップ以来人前でデュエルをするのも慣れてきたが、やはり公衆の面前でデュエルをするのはプライベートなものと違った疲れがあるものだ。

 ジュースを飲んだ丈はどっかりと椅子に腰を下ろした。

 

「吹雪は何処へ行ったんだ? 姿が見えないけど」

 

「あぁ。吹雪なら……ほら、あそこでファンクラブの子たちと遊んでるよ」

 

「…………相変わらずだな」

 

 藤原が指を差した方へ首を向ければ、黄色い歓声を浴びながら何故かアロハシャツを着てウクレレを鳴らす吹雪がいた。

 色々と突っ込みたいところはあるが……一体全体あのウクレレとアロハシャツはどこから出して、いつ着替えたのだろうか。

 吹雪のいつもああやって笑いを絶やさないところが丈は友人として好きだったが、偶にあの自重しなさには頭を抱えたくなる時が多々ある。

 

(まぁ誰に迷惑かけてるわけでもないし、ファンの女子も喜んでるからいいのか。しかし……ファンクラブに一年生から三年生まで全員揃っているのはまだいいとして、一部教員まで混ざっているのはどういうことだ?)

 

 吹雪がよく卒業後はアイドルプロデュエリストとしてデビューするなどと言っているが、あの人気を見ているとあながち冗談では済まないかもしれない。

 丈の脳裏に東京ドームで歌って踊りながらデュエルをする吹雪が浮かび上がってきた。

 妹の明日香があんな性格になった理由が分かったような気がする。毎日こんなお祭り騒ぎな兄と一緒にいれば反動でクールにもなるだろう。

 

「次は亮と校長のデュエルか。藤原は鮫島校長がどういうデッキを使うか心当たりはあるのか?」

 

 苦笑いしながら藤原は首を横に振った。

 

「僕も何度か以前開かれた大会の試合でマスター鮫島のデュエルは何度か見たことはあるけど、その時に使ってたのは全部サイバー流デッキだったよ。他のデッキを使った事は少なくとも僕の知る限りはなかったね」

 

「うーん。亮も知らないくらいだからな。藤原が知ってるわけもないか」

 

「そ、そういえばさ! ちょっと丈に相談したいことがあるんだけど……」

 

「相談?」

 

 いきなり話を切って来たことに面喰いつつも頷く。

 藤原がこうも面と向かって相談なんて言ってきたのは初めての経験だ。何事かと思いつつも丈は先を促す。

 

「亮はこんなこと興味ない上に年中デュエルしか考えていない朴念仁だし、吹雪はあんなんだし……丈は〝魔王〟なんておどろおどろしい異名をもってるけど一番まともな感性をしてるからね」

 

「おい。途中までは兎も角、最後はなんだ?」

 

「で、相談なんだけど――――」

 

 綺麗なまでにスルーされた。これまで特待生寮で一緒に過ごしてきたせいで藤原も随分と手馴れてきたようだ。最初の初々しく人見知りをしていた藤原はもうどこにもいないのだろう。

 これは果たして打ち解けたと喜ぶべきか、逆に純粋な藤原を惜しむべきか。悩みどころだ。

 

「実はさ。僕には本土のアカデミア女子に通ってる二つ年下の従兄妹がいるんだけどさ」

 

「へぇ。初耳だな、従兄妹なんていたのか」

 

「うん。僕の両親はちょっと色々あってね。僕はその従兄妹の家でお世話になってたんだけど……。その従兄妹の両親が有名な俳優でね。そのせいなのかは知らないけど、従兄妹が学校で」

 

「苛められているのか?」

 

 芸能人の娘が学校で親の知名度故に苛めに合うのはわりとよくある話だ。

 だが丈の懸念はハズレだったようで藤原は首を横に振る。

 

「違うんだ……。どうもね、従兄妹が学校で――――女王様扱いされているらしくて」

 

「は?」

 

「……バレンタインになると女子から大量のチョコを貰ったり、逆に下級生を自室に連れ込んでなにかやってるとか。そういう話を聞くんだよ!」

 

「は、はぁ。えーとそれって偶にお嬢様学校を舞台にした漫画である『お姉様と妹』の関係みたいな?」

 

「そう! それだよそれ! 苛められているとかいうよりはマシなんだけどさ。最近僕と話しする時もやたらとアダルトというか危ない口調を使ってくるし。僕はどうしたらいいんだろう」

 

 藤原は頭を抱えて蹲ってしまう。

 悩みの内容は丈からすると笑い話で済ませそうなものだったのだが、藤原はかなり真剣に悩んでいるようだ。同時に納得する。確かにこの手の相談は吹雪ではまるで役に立たない。もしも吹雪にこんな相談を持ち掛けたら『それじゃあ彼女をアイドルにプロデュースしようじゃないか!』とか言い出すだろう。亮? あんな朴念仁に女性心理に関する悩みを相談するなど、チンパンジーに人生相談をするようなものだ。

 

「俺には従兄妹なんていないし、兄弟もいないから具体的なアドバイスとかは出来ないけどさ。従兄妹って中学生だろ? そのくらいの年齢の子は大人ぶってわざとエロい言い方とかしたくなるもんだから生暖かく見守ってやればいいさ」

 

「い、いつまでたっても治らなかったら!?」

 

「……諦めてくれ」

 

「そんな殺生な」

 

「人間、これも個性だと大らかな心で受け入れることも必要だ。女王扱いに関してはなぁ。友達なんて誰かがアドバイスしてどうこうってもんじゃないし……。結局は当人の問題だしなぁ」

 

 けれど丈にとっても他人事ではないことだ。

 今でこそ丈は亮や吹雪、それに藤原など気の良い友人に囲まれて学園生活を過ごしている。だがもしも三人がいなければ、丈は一人だけ特待生寮で黙々とノルマを熟すだけの毎日を送っていたのかもしれないのだ。

 

「うーん、分かった」

 

「あんまり参考にならなくて悪かったな」

 

「そんなことないよ。話しただけでも少しは楽になった。――――あ、亮のデュエルが始まるみたいだよ」

 

 眼下にあるデュエル場では幼馴染である亮と、ライトを反射させキラキラと頭を輝かせた鮫島校長が対峙していた。

 この師弟対決がどういう結末を迎えるのか。

 丈としても楽しみだった。

 

 

 

 思い返せば師範とデュエルするのは何年ぶりだろうか。自分がサイバー流道場を免許皆伝して以来なので大凡四年と少しだろう。

 サイバー流道場にいた頃はお互いにサイバー流デッキを使い日夜デュエル三昧の毎日だった。入門したては一度も勝てなかった師範だったが、免許皆伝する頃には五分五分の勝負が出来るようになっていた。

 それから四年である。

 自分はこの四年間に如実に強くなった。これは決して自画自賛ではない。丈や吹雪というライバルを得て切磋琢磨した中等部での三年間。そして一年に満たないとはいえ藤原を交え厳しいノルマに励んできた特待生としての生活。

 今や自分の実力はあの頃の自分の比ではない。成長した自分が師匠である鮫島校長とどれほど戦えるのか……楽しみで仕方なかった。

 

「亮、大きくなりましたね」

 

 感慨深げに鮫島校長が言う。

 

「I2カップでのデュエルは私も仕事を休んでTVの前に缶詰になって観戦してました。優勝こそ出来なかったものの、貴方は私の……サイバー流の誇りです。そしてネオ・グールズとの激闘。貴方は私の想像も出来ないほどの激戦を潜り抜けてここにきたのでしょう。

 しかしデュエル・アカデミア校長として、サイバー流師範として、まだまだ若い者に負けるわけにはいかん。来い、亮ッ! 四年ぶりの稽古だ!」

 

「――――遠慮はしません。本気で、勝ちにいかせて貰いますよ師範」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

「サイバー流は後攻有利。しかし私の使っているデッキは以前言った通りサイバー流ではなく、私秘蔵のデッキ。よって後攻は譲ろう。私のターン、ドロー!」

 

 何度も戦った事がある相手だが、鮫島師範の秘蔵デッキと戦うのは初めてだ。

 蛇が出るか鬼が出るか……或いは龍でも飛び出すか。なにが出ていても不思議ではないのがデュエルモンスターズだ。心を緩ませることは出来ない。

 

「速攻魔法、手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚捨て二枚ドローする。さらに私は成金ゴブリンを発動。相手にライフポイントを1000回復させるかわりに私はカードを一枚ドロー!」

 

 

 丸藤亮LP4000→5000

 

 怒涛の手札交換の連続。亮のライフも1000回復したが、あれほどの手札交換をしたのだ。マスター鮫島ほどの人物が手札事故なんてこともないだろう。

 既にデッキのキーカードを呼び込んでいる。そう考えて挑むべきだ。

 

「私はモンスターを裏側守備表示でセット、リバースカードを一枚場にだしターンエンド」

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 相手のデッキの正体は未だに不明な上にリバースカードの存在も気になる。

 しかし攻撃をしなければ正体を掴むことも出来ない。

 

「相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターがいない場合このカードは手札より特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 サイバー流の要であるサイバー・ドラゴン。サイバー・エンドなどの融合素材になる以外にも、汎用性のある半上級モンスターとしても優秀なカードだ。

 先ずはサイバー・ドラゴンで様子を見る。

 

「バトル! サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「セットモンスターがリバースする。見習い魔術師。このカードが戦闘により破壊された時、自分のデッキよりレベル2以下の魔法使い族モンスターを一体自分フィールド上にセットすることが出来る」

 

 

【見習い魔術師】

闇属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力400

守備力800

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを

置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。

このカードが戦闘によって破壊された場合、

自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を

自分フィールド上にセットする事ができる。

 

 

 サイバー・ドラゴンの攻撃を浴びた見習い魔術師が撃破される。だが魔法使い族のリクルーターが入っているということは、鮫島師範の秘蔵デッキとやらは低ステータスモンスター主体の『魔法使い族デッキ』なのかもしれない。

 

「私は見習い魔術師の効果で××××をセット」

 

「ん?」

 

 妙だ。鮫島師範は確認のためセットするカードを公開したはずなのに、どうしてかそのカードを認識することが出来なかった。

 かといって今更もう一度見せてくれと言うのもマナー違反だ。自分の不注意がいけないのだから、相手にその負債を払わせるのはよくない。

 

「俺はリバースカードを一枚伏せ、モンスターをセット。ターンエンド」

 

「私のターンです。ドロー! モンスターをセット。……ふふふふっ」

 

 鮫島師範がしてやったりといった風に不敵に笑った。

 弟子だった亮には分かる。あれはなにか良からぬことを考えている顔だ。

 

「見せてあげましょう! これが私の秘蔵デッキの二枚看板その一角! 反転召喚、出でよ! 白魔道士ピケルちゃん!」

 

 

【白魔道士ピケル】

光属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

自分のスタンバイフェイズ時、自分のフィールド上に存在する

モンスターの数×400ライフポイント回復する。

 

 

「…………………」

 

 無言。ひたすらに無言だった。

 亮の前では白魔導士だけあって白く可愛らしい服を着たピンクの髪の少女が立っている。羊を象った帽子を深く被っているせいで、前髪が下がって目が少し隠れてしまっている。

 これで分かった。あの時、自分はセットしたカードを認識出来なかったのではない。現実を受け入れることが出来なかっただけだ。

 サイバー・ドラゴンを従え華麗なるプレイングで亮を魅せてきた歴戦のデュエリストにしてサイバー流師範、マスター鮫島。そのイメージががらがらと崩れ去っていく。

 

「ふふふっ。亮には言ってませんでしたね。実は私、サイバー流師範以外にもピケクラ愛好会の現会長も務めているんですよ」

 

「……………」

 

 自慢気に鮫島校長が胸を張った。

 リスペクトデュエルの精神にはカードへのリスペクトも含まれている。だからどんなカードを使おうと相手を最大限にリスペクトしなければならないのだが、

 

(これは、幾らなんでも――――)

 

 残酷、過ぎる。お気に入りのあの子にわき毛が生えているのを目撃してしまったような虚脱感を亮は味わっていた。

 

「どうですか亮! この愛らしい少女を! これが私の秘蔵デッキの正体、ずばり愛のピケクラデッキだ!!」

 

「……………………」

 

 初めてだった。人と赤の他人になりたいと思ったのは。

 亮は現実から目を背けるように呆然と天を仰いだ。




 というわけで鮫島校長の秘密デッキの正体はピケクラでした。…………正直、すまんかった。
 鮫島校長がサイバー流以外のデッキを使うのか考えていたら何時の間にピケクラ使ってました。後悔はしてない。
 ともあれサイバー流師範対決序盤でした。最近はちょくちょく時間もとれてきたので、自分のssばかりではなく他の方のssも見たりする毎日です。ではまた。

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