宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第91話  帝王の憤怒

丸藤亮  LP5000 手札3枚

場 サイバー・ドラゴン、セットモンスター 

伏せ 一枚

 

鮫島校長 LP4000 手札3枚

場 白魔導士ピケル、セットモンスター

伏せ 一枚

 

 

 

「私はこれにてターン終了。さぁ亮、お前のターンだ」

 

 エンド宣言をされても亮は暫く動くことが出来ないでいた。亮ほどのデュエリストの精神を凍てつかせるほどのインパクト……それがピケルにはあったのだ。いやピケルがどうこうというより、幼い頃より尊敬し敬愛していた師範の見たくなかった部分をまざまざと見せつけられたせいで軽く欝になっていたのが主な原因なのだが。

 そういえば自分がサイバー流道場の門下生だった頃にパワー・ボンドのデメリットを消すのに役立つからと『ピケルの魔法陣』のカードを師範がくれたことがあった。

 あの時は特に疑問もなくカードを受け取ったのだが、今になって思い返せば……。

 

(いかん。デュエルに集中しなければ……!)

 

 頭を振るい過去のエピソードを脳内から叩きだす。

 例え鮫島師範が影でピケクラ愛好会現会長なる怪しい肩書をもっていたとしても、自分がサイバー流後継者であることに変わりはない。

 フィールドにいるサイバー・ドラゴンを見ることで改めてそのことを認識する。

 

「……俺の、ターン!」

 

 デッキトップからカードを引く。まだ融合は出来ない。ここは、

 

「セットしていたサイバー・ドラゴン・ツヴァイを反転召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】

光属性 ☆4 機械族

攻撃力1500

守備力1000

このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せる事で、

このカードのカード名はエンドフェイズ時まで「サイバー・ドラゴン」として扱う。

また、このカードが墓地に存在する場合、

このカードのカード名は「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 亮の場にはモンスターが二体並んだ。上手くいけば白魔導士ピケル諸共師範のフィールドを一掃できるだろう。

 

「バトル! サイバー・ドラゴンで白魔導士ピケルを攻――――」

 

「亮ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 鮫島校長が何故かフィールドに飛び出してきたかと思うと、両手を広げてピケルを守る体勢をとった。

 目が羅刹の如く血走っている。悲しいことに、サイバー流師範だった頃にみせた闘気を超えるオーラを纏っていた。

 

「お前はァ! お前はこの愛らしい少女を! こんな可愛らしい少女を! 無慈悲にお前のサイバー・ドラゴンの餌食にするというのですかァ!? 私はお前をそんな風に育てた覚えはないですぞッ!」

 

「俺も……ピケクラ愛好会現会長などを師範にした覚えはありませんよ」

 

 鮫島師範の場にいるピケルはサイバー・ドラゴンの鋭い眼光に圧され体を縮こませて震えている。

 普通のデュエリストなら罪悪感で攻撃を躊躇いたくなるかもしれないが、今の亮にはそんな情けなど欠片もない。

 

「ええぃ! サイバー・ドラゴンで白魔導士ピケルを攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「ピケルちゃんは……私が、守る! トラップ発動、アストラルバリア!」

 

 

【アストラルバリア】

永続罠カード

相手モンスターが自分フィールド上モンスターを攻撃する場合、

その攻撃を自分ライフへの直接攻撃にする事ができる。

 

 

 鮫島師範はピケルを庇うように前に立ち――――微動だにしない。

 エヴォリューション・バーストの一撃が鮫島師範を吹っ飛ばしてライフを削り取る。だがそこには愛すべき少女を守りきった自負からくる笑みがあった。

 

 鮫島LP4000→1900

 

 ライフを半分以上削ることは出来たが、何故か負けた気がするのはどうしてだろうか。

 これほど疲れるデュエルは生まれて初めてだ。

 

「ならば……サイバー・ドラゴン・ツヴァイで白魔導士ピケルを」

 

「亮ォォォォオォォォォォォォオォォ!! お前はまたしてもピケルちゃんを無情にも攻撃しようというのですか!? 宜しい、何度でも来ると良い。その度に私が身を挺してピケルちゃんの命を守り通してみせる!! さぁ!! 来なさい!!」

 

「…………サイバー・ドラゴン・ツヴァイでセットモンスターを攻撃」

 

 観客席で丈と藤原が「あの亮が押し切られた!?」「まぁ、あの暑苦しい顔で詰め寄られればねぇ」などと他人事のように頷いていた。

 

「私のセットしていたモンスターは……希望の創造者です!」

 

 

【希望の創造者】

光属性 ☆2 戦士族

攻撃力500

守備力900

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた

次の自分のターンのドローフェイズ開始時に

自分のライフポイントが相手より少ない場合、

「かっとビングだ!オレ!」と宣言して発動できる。

デッキからカード1枚を選んでデッキの一番上に置く。

 

 

 ツヴァイの攻撃でアストラル体のゴーストにも戦士にも少年にも見える不思議なモンスターが墓地へ送られた。

 なんとなくだが、果てしなく嫌な予感がする。なにかがおかしいということは直感で理解できているのに、思考回路がその違和感に明確な名前を与えることが出来ない。

 

「俺はこれで、ターン終了」

 

「ふふっ。私のターンですね」

 

 鮫島師範は思わせぶりにデッキトップに手をかける。

 

「希望の創造者が相手により破壊され墓地へ送られた次のターン、私のドローフェイズ開始時に希望の創造者のモンスター効果発動!」

 

「この瞬間に発動するモンスター効果!?」

 

 デュエルマシーンとのノルマなどで亮はこれまで知る機会のなかった珍しいカードについても知ることが出来た。

 けれど希望の創造者なんてカードは今まで聞いた事もなければ見た事もない。どういう効果なのかまるで予想もつかなかった。

 

「ドローフェイズ開始時、私のライフが相手より少ない場合『かっとピングだ!オレ!』と宣言して発動。デッキからカードを一枚選んでデッキの一番上に置く!」

 

「つまり……デッキの中にある好きなカードをドロー出来るということか!?」

 

 クリッターのように直接手札に加える効果ではない為に手札を増やすことは出来ないが、確実に好きなカードをドロー出来るのは強力だ。

 選ばれたデュエリストが土壇場で一発逆転のキーカードを引き当ててみせるデステニードロー。謂わば希望の創造者は作為的にデステニー・ドローを再現するカードといえるだろう。

 ちなみに意味さえ同じなら『かっとピングだ!オレ!』とは違う言葉でも発動可能である。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 鮫島師範が飛んだ。特に意味も理由もないが跳躍した。あんな体型のどこにあんな跳躍力があるのかと小一時間問い詰めたくなる程の高度に師範が達すると、肺の中の空気を絞り出して吠える。

 

「かっとビングだ! 私ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 くるくると体を回転させながらも華麗に地面に着地すると、勢いよく塗り替えられたデッキトップのカードを抜き取る。

 

「シャイニングドロー!!」

 

 使用する時代やら世界観やらが激しく間違っているような気がするのだが、これが希望の創造者のモンスター効果なのだから仕方ない。

 テキスト通り鮫島校長は自分のデッキの中にある好きなカードをドローした。

 

「いきますよ。先ずはピケルちゃんのモンスター効果発動、スタンバイフェイズ時に自分のフィールドのモンスター1体につき400ポイントライフを回復する。

 私のフィールドにはピケルちゃんが一人だけ。よって私は400ポイントライフを回復!」

 

 

 鮫島LP1900→2300

 

 白魔導士ピケルがせっせと鮫島師範に白魔法を送る。回復値としては最小の400だが当の鮫島師範は満足そうにしていた。

 ライフ回復の数値がどうのこうの以前にピケルに回復させて貰えればそれで良いのだろう。

 

「そしてメインフェイズ。私は二人目のピケルちゃんを攻撃表示で召喚!」

 

 最初のピケルと同じピケルが並ぶ。二人のピケルはきゃっきゃと嬉しそうにじゃれ合いながら再び亮と対峙した。

 

「二体目のピケル……?」

 

「ふふふっ。亮、いいことを教えてあげましょう。実はピケルちゃんは……三つ子なのです」

 

「つまり師範のデッキにはピケルが三体入っているということですね?」

 

「三体じゃない! 三人です!」

 

 鮫島師範の抗議はスルーする。これがデュエルでなければ頭をひっぱたたいていたところだ。

 

「そして亮、貴方は目撃する。ピケルちゃんには三つ子の姉妹以外にも年上の姉がいることを。私は天使の施しを発動、カードを三枚ドローし二枚捨てる。

 更に死者蘇生を発動、人生の墓場に眠りし黒魔導師クランちゃんをフィールドに特殊召喚します!」

 

「………………」

 

 

【黒魔導師クラン】

闇属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在する

モンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 白魔導士ピケルと対を為す黒魔導師。ピケルが羊を象った帽子をかぶっているのに対して、クランの方は兎を象った帽子を被っている。

 手にはナニに使うのか知らないがピンク色の鞭をもっていた。

 亮には色々と言いたいことは山ほどある。だがここまで師範を見ていて理解できた。

 師範はもう駄目だ。もう諦めるしかないのだ。諦めなければ道を切り開けると言った人間を知っているが、諦めなくてもどうにもならない事例とて世の中には存在するのである。例えば初手エクゾディアなど。

 もはや師範に何を言っても無駄だ。意味などない。

 

「はははははは! 括目しなさい亮、クランちゃん三姉妹集結シーンを! 私は速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!」

 

 

【地獄の暴走召喚】

速攻魔法カード

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に

攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から

全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「自分のフィールドに攻撃力1500以下のクランちゃん(モンスター)が特殊召喚成功した時に発動。手札・デッキ・墓地よりクランちゃんを特殊召喚する!

 集結するのです! クランちゃん黒い三連星! ジェットストリーム・クランちゃんッ!」

 

 ぽぽん、と小さな爆発音がすると二体の黒魔導師クランが最初に特殊召喚されたクランの両隣りに並んでいた。

 これで鮫島師範のフィールドには二体のピケルと三体のクランが揃った事になる。この展開力は腐ってもマスター鮫島ということか。

 

「だが地獄の暴走召喚は俺にも特殊召喚が許される。デッキより二体のサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 本来ならばフィールドに三体のサイバー・ドラゴンを揃えることは亮にとって大きな有利である。けれどサイバー流師範ともあろう男がそのことを分かっていないはずはない。

 恐らくクランのスタンバイフェイズ時に相手フィールドのモンスターの数×300ポイントのダメージを与えるバーン効果を最大限活かすためにあえてサイバー・ドラゴンを展開させたのだろう。

 モンスターの展開がそのままダメージ増大に繋がっている。ピケクラだの頭のおかしい言動を除けば、やはり実力は高い。

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 サイバー・ドラゴン三体が並んだがこのまま攻め切れるとは思えない。

 黒魔導師クランと白魔導士ピケルが攻撃表示のままということは攻撃表示で問題にならないという理由があるからに他ならないのだから。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 それでも踏み込まねばならぬのが辛いところだ。

 

「バトルフェイズ! サイバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・ドラゴンから吐き出される破壊の光。しかしやはりというべきか鮫島師範は攻撃を防ぐ術を既に用意していた。

 

「リバースカードオープン! スピリットバリア!」

 

 

【スピリットバリア】

永続罠カード

自分フィールド上にモンスターが存在する限り、

このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 モンスターへの攻撃を自分への直接攻撃にすることが出来るアストラルバリアの効果により再び鮫島師範が立ち塞がる。

 しかし最初と違うのはサイバー・ドラゴンの攻撃を受けた鮫島師範は微動だせずに攻撃を受け切ったということだ。

 

「永続罠カード、スピリットバリア。このカードがある限り私への戦闘ダメージはゼロとなる。更に私の場にある永続罠、アストラルバリアによりモンスターへの攻撃は全て私への直接攻撃となる。

 アストラルバリアとスピリットバリア、この二つこそピケルちゃんとクランちゃんを守る愛の障壁! この防御を突破できるものならしてみなさい亮!」

 

「くっ……! 俺はバトルフェイズを終了。手札より融合のカードを公開することでサイバー・ドラゴン・ツヴァイのカード名をサイバー・ドラゴンにする。

 魔法カード、融合を発動。サイバー・ドラゴン・ツヴァイと二体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 サイバー流の看板にして亮の魂というべきサイバー・エンドだが相手に勝つために召喚したのではない。

 融合することで場のモンスターを減らしクランのバーンダメージを少なくするために融合したのだ。そのことが悔しい。

 

「……ターンエンドだ」

 

「私のターンです。ドロー! スタンバイフェイズ時に二人のピケルちゃんと三人のクランちゃんの効果を発動! 私の場には五人の少女たちがいるためピケルちゃんの効果により2000のライフを回復。そしてピケルちゃんはもう一人いるため更に2000回復!」

 

 回復値は合計で4000。初期ライフに相当する量だ。白魔導士ピケル、見た目はアレだが能力は決して馬鹿には出来ない。

 

「そして三人のクランちゃんの特殊能力も発動! 亮、貴方の場には二体のモンスターがいるため一人につき600ダメージ。合計で1800ダメージを受けて貰います!」

 

 

 丸藤亮LP5000→3200 鮫島LP2300→6300

 

 ライフポイントの数値が一気に逆転してしまった。

 鮫島師範のフィールドに五体のモンスターがいる限り1ターンごとに4000ものライフを回復する。早いところなんとかしなければ逆転不可能な数値にまで膨れ上がってしまうかもしれない。

 

「魔法カード、命削りの宝札発動! 手札が五枚になるようカードをドローし、5ターン後全ての手札を墓地へ捨てる。私は五枚のカードをドロー! リバースカードを二枚セット、ターンエンド!」

 

「俺のターン……ドロー。これならばっ! 魔法カード、エヴォリューション・バースト! 俺の場にサイバー・ドラゴンがいる時に発動可能。フィールドのカード一枚を破壊する。ただしこのターン、サイバー・ドラゴンは攻撃することが出来ない。

 俺が破壊するカードは当然スピリットバリアだ。やれ、サイバー・ドラゴン!」

 

 サイバー・ドラゴンの攻撃がスピリットバリアに向かっていく。アストラルバリアを残す形になってしまうが、スピリットバリアさえなくなれば攻撃を通すことは出来る。サイバー流の火力ならライフを一気に削り取ることは十二分に可能だ。

 けれどエヴォリューション・バーストの直撃を浴びたスピリットバリアは破壊されることなく場に留まっていた。

 

「破壊されていない……?」

 

「それはお前ののエヴォリューション・バーストの発動に対してこのカードを発動したからだ。永続罠、宮廷のしきたり」

 

 

【宮廷のしきたり】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

お互いのプレイヤーは「宮廷のしきたり」以外の

フィールド上に表側表示で存在する永続罠カードを破壊できない。

「宮廷のしきたり」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

「このカードがフィールド上に存在する限りフィールド上で表側表示で存在する永続罠カードを破壊することは出来ない。エヴォリューション・バーストは無駄撃ちに終わる。

 甘いですね亮。私はサイバー流師範。サイバー流の戦術は100%この頭に入っている。だからお前がどういう風にしてこのフィールドを突破してくるかも読み切れているのですよ!」

 

「実力そのものは曇ってはいないということですか、師範……!」

 

「更に! 罠カード、おジャマトリオを発動。相手フィールドに三体のおジャマトークンを特殊召喚」

 

 

【おジャマトリオ】

通常罠カード

相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を

3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。

「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは

1体につき300ポイントダメージを受ける。

 

 

『どうもー!』

 

 ナメクジとマスコットを合体してハンマーで潰した後に作り直したような三体のモンスタートークンが亮のフィールドに出てきた。

 ご丁寧にイエロー、グリーン、ブラックに分かれている。

 

「おジャマトリオ……このトークンを生け贄にすることはできず、破壊された時に300ダメージを受けるトークン。文字通り邪魔なモンスターだ。しかも……」

 

「その通り。これでお前のフィールドは三体のおジャマトークンとサイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ドラゴンによって埋まった。これにより次のターン、お前はクランちゃんの効果で4500のダメージを受ける。私の勝ちです」

 

「……俺は神秘の中華なべを発動。このカードは自分のモンスターを一体生け贄にすることで、そのモンスターの攻撃力または守備力分のライフを回復するカード。

 許せサイバー・エンド。仇は取る。俺はサイバー・エンドを生け贄に4000ポイントのライフを回復する」

 

 

 丸藤亮LP3200→7200

 

 苦渋の決断だった。だがサイバー・エンド・ドラゴンを生け贄にしなければ亮は敗北していた。サイバー・ドラゴンを生け贄にする選択肢もあるが、三体のクランがいる現状2100程度の回復量では心許ない。

 サイバー・エンドにはすまないと思うがここは耐えるしかなかった。

 

「俺はモンスターとカードをセット。ターンエンド」

 

「このターンでの決着は防いだようですね。私のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、クランちゃんの効果で亮に4500ダメージ! そしてピケルちゃんの効果で私は4000回復!」

 

 

 丸藤亮LP7200→2700 鮫島LP6300→10300

 

 ピケルの白いオーラが鮫島師範を回復させ、クランの黒いオーラが亮のダメージを奪う。

 遂に鮫島師範のライフが10000をオーバーしてしまった。僅か2ターンで一万である。これがこのまま7ターン、8ターンと続けば……もはや逆転不可能な数値までライフが膨れ上がってしまう。

 

「私はカードを一枚セット、ターンエンドです」

 

「……俺のターン」

 

 静かにカードをドローする。

 鮫島師範はやはり自分から攻撃することはせず、防御カードで身を守りながらクランとピケルの効果でライフの差を広げていく戦術を続行するようだ。

 それにモンスターを召喚してくともフィールドが埋まっていてはそれも出来ないだろう。

 

(時間が経てばたつほどに不利になるというのならば、このターンに全ての力を注ぎこむのみっ!)

 

 布石は整っている。後は実行するだけだ。

 

「カードを一枚伏せ、セットしていたモンスターを反転召喚。俺がセットしていたのはメタモルポットだ。よってそのリバース効果により互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚ドロー!」

 

 そして信じればデッキは必ず応えてくれる。

 鮫島師範はサイバー流の戦術は全て頭に入っているといった。ならばサイバー流のとりうるあらゆる戦術について攻略法も頭に入っているのだろう。

 ならば頭で分かっていても防ぎようのない攻撃をすればいい。

 

「俺はメタモルポットを生け贄に捧げ、人造人間サイコ・ショッカーを攻撃表示で召喚!」

 

 サイコ流のエースカード、サイコ・ショッカー。このカードなら鮫島師範の強いている防御網を崩す事が出来る。

 

「まだまだ! お前がサイコ・ショッカーを使うのはI2カップの生放送で見ている! カウンター罠、方舟の選別!」

 

 

【方舟の選別】

カウンター罠カード

1000ライフポイントを払って発動する。

フィールド上に表側表示で存在するモンスターと同じ種族の

モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし破壊する。

 

 

「このカードは1000ライフを払うことにより、フィールド上に存在する同じ種族のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし破壊する。亮のフィールドにはサイコ・ショッカーと同じ種族であるサイバー・ドラゴンがいる。よってこの効果が有効だ。

 人造人間サイコ・ショッカーには罠カード封じの力があります。しかし召喚時のカウンター罠はサイコ・ショッカーをもってしても無効に出来ない」

 

 召喚されたサイコ・ショッカーの体が砕け散る。召喚そのものを無効にされたため、サイコ・ショッカーの効果が発動することもなかった。

 ライフコストのせいで師範のライフも9300となったがまだまだ十分な余裕があるといえるだろう。

 

「亮、お前の場にはおジャマトークン含みモンスターが四体。次のターンで3600のダメージを受け敗北だ」

 

「……嫌だ」

 

「亮?」

 

「俺は、負けたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 師範の懐にある勝利をもぎ取ってでも俺は勝ぁぁぁぁぁつッ!!」

 

「なっ! そんなことが出来るわけが」

 

「魔法カード発動、サイクロン! 魔法・罠カードを一枚破壊する! 消えろ、宮廷のしきたり!」

 

「だ、だがッ! 宮廷のしきたりを破壊しても、私の場には二つのバリアカードが……」

 

「まだまだァ! 速攻魔法発動、サイクロン! 第二打ァ!」

 

「に、二枚目のサイクロンですと!?」

 

 風の渦が宮廷のしきたりに続きスピリットバリアを破壊する。これで師範のライフにダメージが通るようになった。

 

「なんという強引な……力技。し、しかし私には9300のライフが残っている。これを削りきるのは例え貴方をもってしても」

 

「速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポート! ライフを半分払い、このターン俺は機械族モンスターを融合する場合に墓地のモンスターを除外することで融合素材とすることが出来る。

 俺はセットしたパワー・ボンドを発動! 三体のサイバー・ドラゴン、サイバー・エンド・ドラゴン、人造人間サイコ・ショッカー、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、サイバー・ラーヴァ、サイバー・フェニックスの八体を融合!

 降臨し全てを蹂躙せよ! 融合召喚、キメラテック・オーバー・ドラゴンッ!」

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 機械族八体を素材として闇の中よりその身を晒したキメラテック・オーバー・ドラゴン。サイバー流にとって光の融合モンスターがサイバー・エンド・ドラゴンならこちらは闇の融合モンスター。

 現役だった頃のマスター鮫島の『奥の手』として嘗ては名を轟かせたモンスターだ。

 その効果によりキメラテック・オーバー・ドラゴン以外のカード、おジャマトリオが墓地へ送られるが『破壊』ではないのでダメージはない。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材としたモンスターの数×800となる! 俺が融合素材としたモンスターは八体。よって攻撃力は6400ポイントッ! 更にパワー・ボンドの効果により倍加! 攻撃力12800ポイントッ!!

 最後に速攻魔法、リミッター解除を発動。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は更に倍加する。よって攻撃力は25600ポイントとなった!!」

 

「攻撃力25600!?」

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる。師範の場にはモンスターが五体のため五回の攻撃が可能だ」

 

「な、何故だ亮ぉぉぉぉ! お前にはピケルちゃんとクランちゃんの愛らしさが分からないというのですか! 貴方は鬼ですか!?」

 

「鬼にならねば見えぬ地平がある! バトルフェイズ! キメラテック・オーバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・レザルト・バーストッ!! グォレンダァ!!」

 

「うおおおおおおお! 私はアストラルバリアの効果を発動、その攻撃を私への直接攻撃に変更する!!」

 

「最後までそのモンスターたちを庇うのならそれでも良いでしょう。やれ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンの大火力の攻撃を浴びて、鮫島師範の体がゴムボールのように飛んでいく。

 三回地面にバウンドした後に鮫島師範はデュエル場の外へ放り出された。

 

「…………………」

 

 静寂が支配する観客席。だがやがて一人のブルー寮の男子生徒がおもむろに立ち上がったかと思うと大声で宣言する。

 

「鮫島校長、実は俺も……ピケクラ愛好会の会員なんス」

 

「貴方は三年の山原くん!」

 

 鮫島校長が跳ねるように飛び起きた。山原と呼ばれたブルー生は何故か両目を涙で潤ませながら、がしっと拳を握りしめた。

 

「けどいい年してピケクラ愛好会会員なんて恥ずかしいと思って、今までピケルちゃんもクランちゃんもデッキに入れてませんでした。けど校長、いいや会長! 俺、今度からピケルちゃんもクランちゃんもデッキに入れます!」

 

 すると堰を切ったかのように声が溢れる。

 

「校長! 俺もです! 俺もピケルちゃんとクランちゃん大好きです!」

 

「僕は……ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「俺は霊使いの美少女たちが」

 

「斬首の美女に萌えが詰まっている!」

 

「モリンフェン様に栄光あれ!」

 

「ドリアードちゃんが……ナンバーワンだ」

 

「リリーちゃんに夜の検診でお注射されたい」

 

「ウホッ! いいグレファー」

 

「男子たち黙りなさい! ブラック・マジシャン様こそナンバーワンよ!」

 

「ダルクきゅんかわゆす」

 

「カオス・ソルジャー×カオス・ソルジャー―開闢の使者―について語る同志はいないというの!?」

 

「黙れよ腐女子共! そこはピケル×クランちゃんだろうが!!」

 

「いいや蠱惑魔ちゃんの3Pだね! 異論は認めん」

 

「腐女子馬鹿にしないでよ百合豚!」

 

「「「「「コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ!」」」」」

 

 観客席から溢れ出た生徒が何故か鮫島師範……いや鮫島校長の胴上げを始めていた。

 亮は肩を落としながら観客席に戻る。

 

「まぁ……元気出せよ」

 

 戻ると温かい目をした丈にポンと肩を叩かれた。

 これほどデュエルで疲れたのは初めてのことだった。




 果てしなくしょうもない理由でカイザーがヘルカイザーになりましたが、あの後すぐに元に戻ったので安心して下さい。
 最後に――――――正直色々とすまんかった。
 

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