天上院吹雪 LP3900 手札2枚
場 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、真紅眼の黒竜、真紅眼の飛竜
魔法 一族の結束
城之内克也 LP5200 手札3枚
場 なし
罠 モンスターBOX
「場には三体のレッドアイズ……か。くぅー! 凄ぇな、デュエル・アカデミアの特待生ってのは。他の奴等もこんなに強ぇのか」
城之内さんが真剣に吹雪の場に並ぶ三体のドラゴンを見つめる。
フィールドは吹雪の優勢だ。リバースカードも壁モンスターもなく今や伝説を守護するのはモンスターBOXが一枚だけ。
追い詰めている感触はある。自分は勝利に近付いていると信じることが出来る。
なのに全く「嬉しさ」がないのは相手が伝説だからだろうか。
(いやこれでいい)
相手は数多くのデュエルを潜り抜け、逆転不可能な状況をも覆してきた歴戦のデュエリストだ。
ライフを0にするまで気を抜いていい相手ではない。
城之内さんがデッキに手をかける。
「けどな。デュエルってのは勉強が出来るだけじゃ強くはならねぇんだぜ。見えるんだけど見えねえもの。――――それがなにか分かるか?」
「僕は絆だと思いますよ」
吹雪は自分のデッキに視線を落とす。自分の剣である40枚のカードの一枚一枚がじっくり考えて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらデッキに加えていったカードである。
カード一枚一枚に『理由』がありデッキに加えた『思い』がある。その積み重ねがデッキを作り、絆となった。
思えば中等部の教諭であった田中先生。彼も合理性を突き詰めたデュエルをするだけで勝利できる状況に飽き飽きして、最終的に合理性を追求したデッキで伝説の一角に挑み敗れた。
合理性だけでは辿り着けない真のデュエリストという境地。そこに至る鍵こそが〝見えるんだけの見えないもの〟なのかもしれない。
「いい答えだな。だが俺のデッキだって絆ってなら負けてねぇぜ! 俺のデッキの一枚一枚が俺の大切な仲間だ! 頼むぜ俺のデッキ、応えてくれ…………来いっ! ドローだ!!」
カードをドローした城之内克也の口元が――――綻んだ。
吹雪は確信する。今この瞬間、城之内克也はこの状況を覆すカードを引き当てたのだと。
「俺はモンスターBOXの維持コストを払う。そして手札より魔法カード、簡易融合を発動! 1000ポイントのライフを払いレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚するぜ! 現れろ、炎の剣士!!」
城之内LP5200→4700→3700
【簡易融合】
通常魔法カード
1000ライフポイントを払って発動できる。
レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとして
エクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、
エンドフェイズ時に破壊される。
「簡易融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
【炎の剣士】
炎属性 ☆5 戦士族
攻撃力1800
守備力1600
「炎を操る者」+「伝説の剣豪 MASAKI」
赤い鎧を着こみ、燃える大剣を構えた剣士が飛び出してきた。
融合モンスターでありながら攻撃力は下級モンスターの1900ラインにも届かない――――今では弱小とすら呼ばれるであろうモンスター。
だがそれでいいのだ。
世間の評価などは関係ない。好きだから入れる。思い入れがあるから入れる。真のデュエリストなら、そういうカードの思いを背負ってカードと共に強くなっていけばいいだけ。今目の前に立つデュエリストのように。
「簡易融合で融合召喚したモンスターは攻撃できずエンドフェイズ時に破壊される。だが、だったらこうするまでだぜ。手札より融合を発動。炎の剣士と手札の沼地の魔神王を融合!」
「炎の剣士を融合素材にするだって……?」
炎の剣士ともう一体を融合素材とするモンスター。そんなカード、吹雪の知る限り一枚しかない。
それは最上級魔術師と炎の剣士の力を持ちし黒炎の騎士。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯と城之内克也の結束が生み出したモンスター。
「俺に力を貸してくれ遊戯! 降臨せよ、黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-!」
【黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-】
闇属性 ☆6 戦士族
攻撃力2200
守備力800
「ブラック・マジシャン」+「炎の剣士」
戦闘によって発生するこのカードのコントローラーへのダメージは0になる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキまたは手札から「幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-」を1体特殊召喚する。
第一印象は〝黒〟だった。黒でありながら闇を照らすような輝きをもった黒炎。ゆらゆらと黒い炎を衣服のように纏いながら、赤黒い剣をもった騎士がその姿を晒す。
最上級魔術師ブラック・マジシャンの力を受け継いだ新たなる炎の力をもつ剣士、ブラック・フレア・ナイト。
「バトルだ! ブラック・フレア・ナイトでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃! ブラック・フレア・ソードッ!」
黒炎の騎士が刃を鋼鉄のドラゴンに振り落した。だが鋼鉄の皮膚が叩き斬られることはなかった。黒炎の剣を跳ね返すと逆襲とばかりにレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンがブラック・フレア・ナイトをブレスで焼き尽くす。
それを見た二人のデュエリストは其々〝苦渋〟と〝喜び〟の表情を浮かべた。
ただし苦渋の色を露わにしたのは吹雪で、喜んだのは城之内だった。
「ブラック・フレア・ナイトの効果。こいつの戦闘によって発生する戦闘ダメージは0になる。よって俺にダメージは届かないぜ。
更にブラック・フレア・ナイトは戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキまたは手札から幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-を特殊召喚する!」
【幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-】
光属性 ☆8 戦士族
攻撃力2800
守備力2000
このカードは「黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-」の効果でのみ特殊召喚が可能。
ダメージ計算時、このカードの攻撃力に相手モンスターの元々の攻撃力を加える。
戦闘を行ったターンのエンドフェイズ時に、このカードをゲームから除外する。
滅びたはずの黒炎の騎士の影から金褐色の鎧を着込んだ新たなる騎士が現れた。
これは幻影に過ぎない。幻想や夢の姿というのは強く美しいだろう。だがいずれは夢から冷める時が来る。幻影の寿命は陽炎より儚い。
黒炎の騎士の幻影が生み出した騎士の寿命もまた同じ。ミラージュ・ナイトに許された攻撃は唯の一度のみ。唯の一度の攻撃でその身は砕け現世から消え去る。墓地にすらいくことはない。
だからこそ幻影の一撃は重く険しい。
「――――来るか!」
「もちろん行くぜ! バトルフェイズ中の特殊召喚のためミラージュ・ナイトには攻撃権が残っている。今度が本当の一撃だ! ミラージュ・ナイトでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃。幻影のミラージュ・サーベルッ!」
跳躍しレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに斬りかかるミラージュ・ナイト・幻影の騎士の刃にレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの姿が映し出される。
「ダメージ計算時、ミラージュ・ナイトの特殊能力が発動! このカードの攻撃力にバトルする相手モンスターの元々の攻撃力を加える!
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの元々の攻撃力は2800! よってミラージュ・ナイトの攻撃力は5600になるぜ!」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンは一族の結束の効果により攻撃力が3600まで上昇している。
だがその力も武藤遊戯と城之内克也、どれほどの年月が経とうと衰えない結束の力の前には無力だ。
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが両断され、その超過ダメージが吹雪を襲った。
「ぐぅ! 流石は……伝説。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンをこうも」
吹雪LP3900→1900
吹雪のデッキにおいて展開の軸となるレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンがやられてしまったのは痛い。
それでも吹雪はデュエルを諦めることはなかった。
絶望の先にこそ光はある。ミラージュ・ナイトの攻撃で受けたダメージは大きいが、ミラージュ・ナイトは一度しか攻撃ができない。その攻撃をしてしまった以上、ミラージュ・ナイトはエンドフェイズ時にゲームより除外される。そうすれば城之内さんのフィールドは再びがら空きだ。
勝負は次のターンだ。
「俺はリバースカードを一枚伏せターンエンド。エンドフェイズ時、ミラージュ・ナイトはゲームより除外される」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを倒したミラージュ・ナイトはその名の通り幻影のように消滅する。
「僕のターン、ドロー! 僕は手札より竜の霊廟を発動。デッキよりドラゴン族モンスターを墓地へ送る。僕は二体目の真紅眼の黒竜を墓地へ。更に墓地へ送ったのがドラゴン族通常モンスターだった場合、更にもう一枚墓地へモンスターを送ることが出来る。僕はメテオ・ドラゴンを墓地へ」
「なに考えてるんだ、自分からレッドアイズを墓地に送るなんて。……まてよ、レッドアイズにメテオ・ドラゴンって。おいまさか!」
「そのまさかですよ。魔法カード、龍の鏡! 墓地の真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを融合。――――これがレッドアイズの攻撃力という意味における極致! 融合召喚、メテオ・ブラック・ドラゴン!」
【メテオ・ブラック・ドラゴン】
炎属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力3500
守備力2000
「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」
隕石のようにごつごつとした皮膚の内側からは灼熱のマグマが沸き立っている。溢れあがる赤黒い熱気を漂わせ、メテオ・ブラック・ドラゴンは自らの存在を誇示するように嘶いた。
その力強い咆哮に地面が揺れているかのような錯覚を覚えた。
「メテオ・ブラック・ドラゴン……懐かしいな。いつだったか海馬の野郎の青眼の白龍3体連結を倒したモンスターじゃねえか」
「メテオ・ブラック・ドラゴンもドラゴン族。一族の結束の効果によって攻撃力は3500から4300へ上昇。バトルフェイズ! 真紅眼の飛竜で相手プレイヤーを直接攻撃、ダーク・フレイムッ!」
「モンスターBOXの効果発動。コイントスをする、俺が選ぶのは表だ!」
コインが宙を舞い落ちる。出た目は――――裏。つまりは不正解。
「真紅眼の飛竜の攻撃力は変動しない。やれ!」
「うぉぉお!!」
城之内LP3700→1100
最初の賭けは吹雪の勝利。ライフを1100まで、あと一度の攻撃成功で倒せるところまで追い詰めた。
そして吹雪のフィールドにはまだ二体の攻撃モンスターが残っている。
「続いて真紅眼の黒竜の攻撃!」
「モンスターBOXの効果、コイントスを行う。俺は表を選択!」
再び宙を舞うコイン。これが不正解ならレッドアイズの攻撃によりライフを削りきることが出来て吹雪の勝利だ。
「よっしゃぁ! 出たのは表、正解だぜ! よってレッドアイズの攻撃力は0になる! 戦闘は無意味だ」
レッドアイズが火を吐いて攻撃しようとするも、モンスターBOXの効果で攻撃能力を失ったレッドアイズのブレスは不発に終わる。
残るモンスターは一体。メテオ・ブラック・ドラゴンのみ。この攻撃が通るか通らないか。これで決着がつく。
「メテオ・ブラック・ドラゴンで相手プレイヤーをダイレクトアタック」
「コイントスだ。俺が選択するのは……裏」
三度目のコイントス。出た目は、
「や、やべぇ表だ!? モンスターBOXの効果は発動しねえ」
「どうやら最後のギャンブルは僕の勝ちのようですね。メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃、メテオ・ダイブ! これでこのデュエルは僕の勝ちだ!」
メテオ・ブラック・ドラゴンが隕石のように身を固め城之内克也へ突進していく。
伝説を打ち倒す喜びに吹雪は打ち震える。しかし、
「へへへっ。悪ぃな。俺は往生際が悪いんでね。足掻かせて貰うぜ、リバース発動。体力増強剤スーパーZ!」
【体力増強剤スーパーZ】
通常罠カード
このターンのダメージステップ時に相手から
2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合、
その戦闘ダメージがライフポイントから引かれる前に、
一度だけ4000ライフポイント回復する。
「なんだって!?」
「このカードの効果により、俺は2000ポイント以上のダメージを受ける場合、戦闘ダメージによりライフポイントが引かれる前に4000ポイント回復できる!――――――うおっ!?」
メテオ・ブラック・ドラゴンに体当たりされ、城之内克也の体が吹き飛ぶ。
それでもその命は尽きない。メテオ・ブラック・ドラゴンの直撃を受けた伝説はよろよろと立ち上がると大胆不敵に笑う。
城之内LP1100→5100→800
正にギリギリの攻防。モンスターBOXの効果が二度失敗していれば吹雪の勝利だった。
しかも攻撃を受け切ったとしても城之内には手札が一枚もないのだ。幾らこのターンを凌いだとはいえ、強力なドラゴン族モンスターをドローカード一枚で倒し切るなどは普通ならば不可能だ。
(だけどなんでだろうね。城之内さんならやってしまいそうだよ、大逆転ってやつをね)
それは伝説のデュエリストなら出来るだろうという安直な思いではない。
城之内克也という等身大のデュエリストと死力を尽くして戦ったからこそ分かるものがあったのだ。
「バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せターンエンドだ」
吹雪が伏せたのは罠カードを封じる王宮のお触れ。これで次のターンからはモンスターBOXの力を使うことが出来ない。
例えミラーフォースなどの逆転の罠を防ごうと意味はなくなる。
絶体絶命の戦況をどうするのか。吹雪は勝利を望むデュエリストでありながら、これから見せるであろう城之内克也という男の足掻きにワクワクしてしまっていた。
「……なぁ吹雪。たぶんこれがこのデュエルのラストターンだ」
「でしょうね」
「次のターンで俺が逆転のカードをドローすることが出来なけりゃ俺の負けだ。だが引き当ててみせるぜ」
城之内克也が胸を張って宣言する。
「望むところですよ。僕の真紅眼の黒竜たちだって貴方のデッキに劣らない絆で結ばれている。この布陣はそう簡単に突破できない」
「突破してみせるぜ! 荒ぶる炎のデュエリスト、城之内克也様の名にかけてな!」
「っ!」
「やっぱりデュエルってのはこうでねえとな。お互いの力を振り絞って全力で戦う。相手のライフポイントを0にするまで全然気が抜けない限界のバトル。吹雪、お前とのデュエルは楽しいぜ。だからこそ俺も全力で戦う。俺の持つ全ての力を出し切ってな」
城之内克也にデュエリストとして認めて貰えた。そのことの感動が全身を駆け巡る。
しかし吹雪はデュエリストだ。認めて貰えただけでは飽き足らない。伝説をこの手で倒したくなってしまう。これがデュエリストの性というものなのだろう。
本当に楽しい。こんなに楽しいデュエルはI2カップ以来だ。
どれだけ優勢でも次のターンには全てが引っ繰り返されているかもしれないスリル。
どれだけ劣勢でも次のターンには全てを引っ繰り返しせているかもしれない興奮。
デュエルには全てが詰まっている。
「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、俺は500ポイントのライフコストを払わずモンスターBOXを破壊する」
モンスターBOXが消滅する。ライフコストが重くなったというのもあるだろうが、それ以上に次のターンを迎える前に倒すという意思表示だろう。
「俺のドローしたのはこいつだ。魔法カード、貪欲な壺! 墓地の真紅眼の黒竜、アックス・レイダー、沼地の魔神王、炎の剣士、ブラック・フレア・ナイトをデッキに戻しシャッフル。その後、二枚ドローする!」
融合モンスターである炎の剣士とブラック・フレア・ナイトは融合デッキに、他の三枚はデッキに戻った。
この土壇場でドローソースを引き当てるとは、やはり城之内克也の名は伊達ではない。
「きたきたきたきたーーっ!! 俺はこのモンスター、時の魔術師を攻撃表示で召喚するぜ!」
【時の魔術師】
光属性 ☆2 魔法使い族
攻撃力500
守備力400
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
ハズレの場合、自分フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、
自分は破壊したモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。
小さな爆発音が響き、一人の魔術師が召喚される。見た目は赤い縁の昔ながらの時計そのもの。時計の秒針や長針は目がキョロキョロと動いていることもあってヒゲのように見える。
両手両足が生えており、片手には魔法使いのステッキをもっていた。そして頭にはマジシャンのシルクハットを模したネジがある。
「時の魔術師、伝説のレアカードをこのタイミングで引き当てたのか!?」
城之内克也が愛用する前から強力な効果をもつ超レアカードとして扱われ、絶版となった今では伝説が愛用したこともあって真紅眼の黒竜に匹敵……或いは凌駕するほどのカード。
吹雪も直接前にするのは初めてだった。
「時の魔術師の効果発動! タイム・ルーレット!」
時の魔術師のもつステッキの先にあるルーレットが回転し出した。
これが外れてくれれば城之内克也のフィールドは再びがら空き。次のターンの攻撃で吹雪の勝ちだ。だがもし成功すれば、禁止カードクラスの破壊効果が吹雪のフィールドに落ちることになるだろう。
そしてルーレットが止まる。
「――――賭けは俺の勝ちだぜ、吹雪!」
タイムルーレットの結果は成功。つまり吹雪のフィールドのモンスターは全滅。
『タイムマジック~』
時の魔術師が杖を振り落すと、時空風が吹雪のフィールドを包み込む。
あまりの突風に視界を奪われ、次に目をあけると、
「ぼ、僕のレッドアイズたちが……骨になっている!?」
「時の魔術師の効果だ。お前のフィールドは100年の時を超え、レッドアイズたちは骨になるぜ! そして破壊される!」
骨格標本のようになったレッドアイズたちが崩れ去る。
攻撃力4300のメテオ・ブラック・ドラゴンを始め圧倒的攻撃力のドラゴン族モンスターが並んだ吹雪のフィールドが一転してがら空きとなった。
「だがまだ時の魔術師の攻撃じゃ僕のライフを削りきることはできない」
「それはどうかな。確かに時の魔術師じゃライフを削りきることは出来ねえ。だったら他のモンスターを呼び込むまでだぜ。魔法カード発動。モンスター・ゲート!」
【モンスターゲート】
通常魔法カード
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄にして発動する。
通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、
そのモンスターを特殊召喚する。
それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。
「時の魔術師を生け贄にして発動。通常召喚可能なモンスターが出るまで俺はデッキをめくり、そのモンスターを場に特殊召喚する。
一枚目、スケープ・ゴート! 二枚目、悪魔のサイコロ! 三枚目、鎖付きブーメラン! 四枚目、右手に盾を左手に剣を! 五枚目…………俺の引いたカードはこいつだ。真紅眼の黒竜!」
「……!」
貪欲な壺の効果でデッキに戻したばかりの真紅眼の黒竜。それをこうも引き当てるとは。
吹雪のようにデッキに三枚投入しているわけでもないというのに。伝説の頂きに吹雪は武者震いを抑えることが出来ない。
「真紅眼の黒竜を攻撃表示で召喚。バトルだ! 真紅眼の黒竜で吹雪を直接攻撃、ダーク・メガ・フレア!!」
レッドアイズの黒炎が吹雪のライフを焼き尽くす。ライフが0となり吹雪の負けが確定した。
胸には悔しさが溢れている。けれど『後悔』はない。自分の全力を振り絞って戦い、そして結果が負けだといいうのなら『後悔』などありはしない。
「そこまで! 二人ともいいデュエルだったにゃ」
大徳寺先生の合図でソリッドビジョンも消えていく。
パチパチと拍手の音が響いてくる。丈たち三人が手を叩いていたのだ。
「ナイスデュエル、吹雪」
「流石だな。伝説のデュエリストをあわやというところまで追い詰めるとは。今度は俺の調整にも付き合ってくれ」
「感動したよ。他人のデュエルを見てこんなに楽しかったのは初めてだ」
勝っていたのなら盛大に歓声に応じることも出来たのだが、敗北しておいてそれは吹雪もさすがに恥ずかしい。
軽くウィンクするだけに留めておいた。
「ありがとうございました」
悔しさの色を残しながらも吹雪は晴れ晴れとした表情で頭を下げる。
「いや、こっちこそありがとな。最近、あんまデュエルする機会がなくてよ。楽しかったぜ」
差しのべられた手を握り、握手をする。伝説の掌は大きかった。
「城之内さんは大学を卒業したらプロですか?」
「うーん、どうだろうな」
「……? 城之内さんの実力ならプロ入りは問題ないでしょう?」
伝説のデュエリストがプロ入りともなれば、あちこちの企業で取り合いが発生するのは想像に難しくない。
一時期世界中の企業がキング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯をプロに引き込もうと躍起になり騒ぎを起こしたことがあった。結局それは海馬社長によって鎮圧されたが、伝説のデュエリストというのはそれだけ世界に影響力をもつ存在なのだ。
「そりゃまあ、わりと色んな企業からプロにならねえかって誘いは受けてるんだけどな。プロデュエリストって道を選ぶのは、言ってみりゃ自分の人生ってものをチップにした大博打だ。俺も真剣になるぜ」
「大博打、ですか」
信じられなかった。大博打か安定なら迷わず大博打を選びそうな城之内克也というデュエリストが、デュエリストなら誰もが憧れるプロリーグに進むのに『慎重』になっているなんて。
「意外か? 俺がこんなことを言って。でもさ、上手く口では言えねえんだけど……家族のために汗水たらして働いているサラリーマンだってプロデュエリストに負けねえくらい格好良いと思うぜ」
「…………っ!」
「真のデュエリストってのは別にプロのライセンスをもっているかどうかじゃねえ。デュエリストの魂さえもってりゃ職業がなんだろうとそいつはデュエリストなんだ。
俺がプロの道に進むかどうかは俺自身も分からねえ。だけど俺はデュエリストを止めるつもりはねえぜ」
「僕の、完敗ですね」
デュエリストの実力や経験だけではない。他のものでも城之内克也というデュエリストは自分よりも上だった。
別れを告げるようにチャイムが鳴る。
「じゃあな。またデュエルしようぜ」
再戦の約束だけをして、城之内克也というデュエリストは嵐のように去っていった。