宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第98話  U.N.オーエンは魔王なのか?

「真実を語る者、トゥルーマン、ミスターTと呼んでくれたまえ。宍戸丈、我がダークネスと別種であり同極にして同質のデュエリスト」

 

 ミスターTと名乗った正体不明のデュエリストに警戒して身構える。

 このデュエリストが漂わせている雰囲気、明らかに真っ当なデュエリストのものではない。抽象的なイメージであるが、キースに憑りついていたバクラの魂と同じような臭いがする。

 

(つまり……闇の、デュエリスト!)

 

 だとすればこの男こそが丈と亮、二人の間で発生した認識の祖語の原因とみて間違いないだろう。

 

「〝トゥルーマン〟か。まさかアカデミア島はドラマのロケ地で、俺達は今24時間5000台のカメラに監視されているリアリティ番組の登場人物、そして貴方はその主人公とか? ミスター・トゥルーマン」

 

「…………何を言っている?」

 

「ふうむ。あの名作を知らないなんてね。と、それより――――お前なのか、鮫島校長を……」

 

 鮫島校長の名前を出したところで言葉に詰まる。

 亮の認識から鮫島校長を消滅させる。そんなことを一体どのように表現すればいいのか分からない。殺したというのも違うだろう、ならば。

 

「お前が〝消した〟のか?」

 

「当たらずとも遠からず。確かに鮫島という男をこの世界より消したのはこの私だよ」

 

「っ!」

 

 あっさりとした自白。隠そうという素振りすらなかった。

 真っ当な犯罪者なら自分が犯罪を犯したのを必死に隠そうとするものだ。誰だって警察に捕まりたくはないのだから当然である。だがミスターTは堂々と自分で自分の犯行を認めた。

 捕まっても言い、と思っているのも考えられる。だがこの男の尋常ではないオーラを含んで推測すれば、捕まってもいいというより、そもそもその程度のことは問題にもならないのではないだろうか。この男にとっては。

 

「話していても埒が明かないな」

 

 詰め寄るように一歩前に出た亮が鋭くミスターTを睨み声を張り上げた。

 

「お前は、誰だ?」

 

「先程も名乗ったはずだがね。真実を語る者、トゥルーマン。ミスターTとでも呼んでくれたまえ、と」

 

「お前の名前を聞いているのではない。お前の出自を聞いている。目的を答えろ!」

 

「カイザー亮。せっかちな男だ。改めて名乗ろうか。私はダークネスの尖兵、目的は…………そうだな。君達にも分かりやすくいうなら、この世界の人間を我々ダークネスの世界に誘うことと言っておこうか」

 

「ダークネス、それに誘うだと!?」

 

 ダークネスなんて単語聞いた事はない。いやデュエルモンスターズのカード名に〝ダークネス〟とつくカードはあるが、ダークネスという存在についてはさっぱりだ。

 

「そうだ。ダークネスとは世界の裏、このデュエル・アカデミアはデュエルモンスターズにおける聖地。強大なる精霊が眠る土地でもある。そこにダークネスと同種の存在が現れたことで徐々にだが次元にひずみが生じ……我々ダークネスの世界を招きよせた。

 デュエル・アカデミアは全人類をダークネスへ誘う第一歩でもある。丸藤亮、お前の師範だった鮫島や多くの生徒たちも我々の『一歩』の足跡が一つ……」

 

 ふと丈は今日の授業風景を思い出す。いつも通りの授業にいつも通りの日程。だがよくよく思い出せば、出席していた生徒の数が少なかったような気がする。しかも次の時限ごとに教室にいる生徒たちが減っていっていた。

 これが意味するのはミスターTのいうダークネスとやらは、本当に少しずつ一人ずつ確実に生徒を消していったということだ。

 

「ふざけるなっ! 貴様は……そんな訳のわからない理由で鮫島校長や生徒たちを殺したのか!?」

 

 常にクールな態度を崩さない亮が激高した。鮫島校長の存在そのものを記憶から失っていた亮に鮫島校長への感情など何処にも残っていないはずだ。

 だが城之内克也の言葉を借りれば〝見えるんだけの見えないもの〟に残っていたのだろう。見えない何かが。それが亮の感情を憤怒へと導いた。

 

「〝殺した〟とは心外だな。人を殺人犯呼ばわりとは礼儀作法のなっていない帝王だ。鮫島にしても生徒たちにしても殺してはいない。何度も言っただろう。私の目的はダークネスの世界に誘うことだと。

 丸藤亮、君もターゲットの一人だ。己が師範と同じくダークネスへ旅立つといい。そうすれば全ての苦しみから解放される」

 

「っ! 来るか!」

 

 亮がデュエルディスクを起動させる。が、

 

「おっと。やる気になっているところ悪いが、今の私のターゲットは君じゃない。宍戸丈、君の方さ」

 

「……俺?」

 

「君はダークネスと同じ裏側に属するカードの力により守られている。だからこそ君は存在をこの世から抹消されて尚も消えた人間を忘れずに覚えていることができた。

 ダークネスとはカードの裏そのもの。表を向いているカードの裏側を見ることが出来ない様に表側の人間は裏側にあるものを認識できない。認識できない以上、忘れるしかない。だが君の三邪神は現世に対する冥界。裏側に属するカード。それほどの力なら表と裏の壁を超えて、裏の存在を認識できるだろう」

 

「世界の、裏?」

 

「いや、そもそもだ。君自身もまたダークネスと同種の存在なのだよ」

 

「な、なんだって!?」

 

 ミスターTの発した言葉が理解を超えていて丈は思わず聞き返してしまう。

 ダークネスと同種、ミスターTは言うがそもそも丈にはダークネスがなんなのかということすら分かっていない。自分でも分かっていない存在に、他人に同種だと言われてもどうリアクションしていいのか分からない。

 

「宍戸丈、黒とは如何して黒いか知ってるかね? それは黒があらゆるものを受け入れ吸収するからだ。逆に白が白いのは全ての光を反射してしまうからだ。君は正にそれだよ。全てを受け入れるという君の性質はダークネスの在り方と同質のものだ。さしずめ純黒といったところかな。

 しかし純黒は決して暗黒と溶け合うことはない。君とダークネスもまた相容れない存在だ。故に……君に対しては私も殺人犯になるしかないな。ここで始末させてもらうぞ」

 

 ミスターTの腕のデュエルディスクにライフポイントの4000という数値が表示される。

 どうやらミスターTはデュエルで丈を消し去るつもりでいるようだ。

 

「丈、大丈夫か?」

 

 心配そうに亮がこちらの顔を伺ってくる。

 丈は努めて「ああ」と力強く頷くと、愛用しているブラックデュエルディスクを起動させた。まだ今起きている事件の内容を把握できたわけではない。しかしミスターTが事件の中心にいるというのは明らかな事実。

 ここでミスターTを倒すことが確実に事件解決に繋がる。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デッキトップから五枚のカードをドローする。

 ミスターT。まるで得体の知れない男だ。どんな攻め方でくるか分かったものではない。だからこそ先手はこちらが貰う。

 

「先攻は俺だ、ドロー! おろかな埋葬を発動、暗黒界の龍神グラファをデッキより墓地へ送る」

 

「ククッ。恐いな、いきなり不死身の龍神を墓地へ送られてしまったか」

 

 デュエルモンスターズには墓地にいてこそ真価を発揮するカードがある。グラファは手札にあっても効果を発揮するカードだが、墓地にある時に発揮する力は手札にある時よりも極悪だ。

 なにせ不死身の龍神という異名の通り条件さえ揃えば墓地にある限りグラファは何度でも復活するのだから。

 

「そして俺は手札より暗黒界の尖兵ベージを攻撃表示で召喚」

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 各種リクルーターモンスターを倒せる及第点の攻撃力をもつベージだが、別にこのカードをアタッカーとして運用するために召喚したのではない。

 ベージはあくまで不死身の龍神を蘇らせるための憑代だ。

 

「更に! 俺は墓地の龍神グラファのモンスター効果を発動。フィールドの龍神グラファ以外の暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻し、このカードをフィールドに蘇生する!

 地獄より蘇れ、暗黒界の龍神グラファ! 攻撃表示で召喚!」

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 ベージの体が粒子となり丈の手札に戻ると、墓地より暗黒の風が吹き出しフィールドへ舞い落ちて形となった。

 隆々とした四肢。視線だけで悪魔すら殺せそうな眼光。暗黒界における龍神、グラファがフィールドに顕現した。

 

「さらに俺は暗黒界の取引を発動、互いにカードをドローしその後カードを一枚捨てる。俺は暗黒界の狩人ブラウを墓地へ捨て、ブラウの効果発動。このカードがカード効果により手札から墓地へ送られた時、カードを一枚ドローする。俺は一枚ドロー」

 

 普通に発動すれば手札を一枚消耗する暗黒界の取引もブラウと併用することで手札消費なしで運用することが出来る。暗黒界では中々の働きをするカードだ。

 

「……テラ・フォーミングを発動。デッキよりフィールド魔法、暗黒界の門を手札に加える。そして暗黒界の門をそのまま発動」

 

 

【暗黒界の門】

フィールド魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、自分の墓地に存在する

悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、

手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。

その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 フィールドに神話の一ページにでも描かれていそうな地獄の門が地面から出現した。

 グラファやブラウたちの住まう暗黒界へ繋がる門からの力の供給により悪魔族モンスターの攻撃力と守備力は300ポイントアップする。

 

「俺はカードを二枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「いきなり長いことターンを使ったものだ。安心したまえ。私のターンは直ぐにすみそうだ。私は強欲で謙虚な壺を発動。デッキの上から三枚カードをめくり、一枚を手札に加える。

 私はカードをめくる。一枚目のカードはカードカーD、二枚目のカードは威嚇する咆哮、三枚目のカードは一時休戦。私は一時休戦を手札に加える」

 

「……………」

 

 ここまでの流れにおかしなところはない。至って平凡なプレイイングだ。

 ただ一つ。三枚めくった中に攻撃的なカードが一枚もなく、ドローソースと防御カードしかなかったのが気になるといえば気になる。

 三枚とも特に普通のデッキに入ってもおかしくない汎用性のあるカードだ。単なる偶然だろうか。

 

「ふふっ」

 

 ゾクリという悪寒が背筋に奔った。これは偶然ではない。デュエリストとしての直感がミスターTがなにか仕掛けてくるであろうことを教えてくれていた。

 

「宍戸丈、君は始めこの私がどういう風に攻めてくるかに思考をめぐらしたのではないかな?」

 

「!」

 

「その疑問に答えよう。私は〝攻撃〟などそもそもする気がない。一度の攻撃もせずに君を倒す!」

 

「なんだと!?」

 

「私は2000ライフを払い魔法カード発動、終焉のカウントダウン!」

 

 

【終焉のカウントダウン】

通常魔法カード

2000ライフポイント払う。

発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。

 

 

 フィールドに特別な変化は起きなかった。だが完全にミスターTがカードを発動した瞬間、空気が別物に成り変わった。

 真綿に首を絞めつけられた気持ち悪い感覚。丈は一筋の汗を流した。

 

「終焉のカウントダウン。2000ポイントのライフを代償に20ターン後に自分の確実な勝利を約束するカード」

 

 ミスターTのライフが一気に半分の2000ポイントになる。だがそんなのは気休めになりはしない。

 確かに終焉のカウントダウンでの勝利を目指すなら攻撃する必要はない。ただ相手の攻撃を防ぎきり2000ポイントのライフを守り切れればそれで勝利が決定するのだから。

 

「その通り。しかもこのカードが恐ろしいのは一度発動に成功してしまえば、もはや止めることが出来ないと言うことだ」

 

 ミスターTの言葉は正しい。終焉のカウントダウン以外にもターン数を費やすことで問答無用に勝利できる所謂特殊勝利カードはある。

 フィールドに死のメッセージを並べていき、DEATHの文字が揃った時に勝利が決定するウィジャ版などもその一つ。しかしウィジャ版などはウィジャ版本体や死のメッセージカードを途中で破壊してしまえばカウントは無効になる。

 しかし終焉のカウントダウンにはその常識は当て嵌まらない。終焉のカウントダウンはフィールドにも残らない為、発動が通れば20ターン以内に相手を倒さない限り死の運命から逃れることは出来ないのだ。

 完全に予定が狂わされた。伏せた次元幽閉が完全に腐ってしまった。もう一枚のカードは終焉のカウントダウン相手ならば使えそうだが、果たして今使っていいものだろうか悩む。

 

(……今は待つしかない。逆転のチャンスを)

 

 発動しかけた手を止める。切り札は軽々しく使うものではない。ここぞという時に叩きつけてやるものだ。

 

「では早速、魔法カード発動。一時休戦、互いにカードを一枚ドローする」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 しかも次の丈のエンドフェイズまで互いの受けるあらゆるダメージは0になる。

 ドローと防御を同時に出来る特殊勝利デッキでは必須扱いを受けるカードだ。

 

「私はこれでターンを終了だ。この瞬間、終焉のカウントダウンにカウントが刻まれる」

 

 空に一つの火の玉が浮かび上がる。あれが20揃った時に丈は負けるのだ。

 ミスターTの手札は五枚。恐らくあそこには伏せてないだけで和睦の使者を始めとした防御カードや、手札誘発の防御カードがわんさかあるだろう。

 この鉄壁の守り崩すのは難しそうだ。

 

「俺のターン……ドロー。暗黒界の門を発動。暗黒界の門は墓地の悪魔族モンスターをゲームから除外することで、手札から悪魔族モンスターを捨て一枚ドローする。墓地のブラウを除外し、カードを一枚捨て……ドロー。ターンエンドだ」

 

 一時休戦がある以上、グラファで攻撃しても無意味だ。まだなにもできない。

 

「君がエンド宣言したことでカウントは二つとなる。後18ターンだな。私のターン、ドロー。カードを一枚伏せターンエンド。エンド宣言をしたためカウントは三つとなる」

 

 三つ目の火の玉が空に灯された。デュエルフィールドの外に並ぶ火の玉は丈を囲むようになっているのだろう。

 20ターン後にはあの火の玉が一斉に丈へと襲い掛かるのだろうか。

 

「想像したくないな俺のターン、ドロー」

 

「君のスタンバイフェイズ時、トラップ発動。覇者の一括! 君のこのターンのバトルフェイズをスキップする!」

 

「カードを一枚伏せターン終了」

 

 四度目のカウントが刻まれた。死を暗示させるようで不気味ではあるが、特に終焉のカウントダウンに4ターン後で発揮する効果はない。13も同じだ。

 

「私のターン、このターン私はなにもせずターンを終了する。そしてカウントが五つ目。残り15ターンだ」

 

 伏せカードもなしモンスターもなし、相手ライフは2000でこちらには攻撃力3000となった龍神グラファ。

 いつもなら必勝を誓えるタイミングだが相手が『終焉のカウントダウンを主軸としたデッキ』で、手札が六枚ともなれば別に嬉しいことでもなんでもない。

 

「それでもやるしかないわけだが。バトルフェイズ、グラファでミスターTを攻撃」

 

「させはしない。手札より速攻のかかしを捨てる」

 

 

【速効のかかし】

地属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。

その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

「速攻のかかしは直接攻撃宣言時に手札から捨てて発動できる手札誘発の一枚。その攻撃を無効にしバトルを終了させる」

 

「……カードを一枚セット、モンスターをセット。ターンエンドだ」

 

 空に六つ目の火の玉が出現する。段々と円の形に近付いてきた。

 

「私はカードを一枚伏せる。ターンエンドだ。そしてカウントダウンも七つ目。丁度ラッキーセブンだな。どうかね宍戸丈。ここらで一つ奇跡でも願ってみては?」

 

「奇跡? どうして?」

 

「おかしなことを聞く。君は自分がどういった状況に置かれているか――――」

 

「あぁ。確かにラッキーセブンかもしれないね。ミスターT、お前にとっては」

 

「……私に?」

 

「そうだよ。さっきのターン、カードを一枚伏せたお陰で首の皮一枚で繋がったんだから」

 

「面白い。口ではなんとでも言える。そこまで大きな口を叩くなら証明して貰おうか。これをどうやって逆転してみせる?」

 

 答えはしなかった。丈はこれまで意味の解らないことばかり言ってくれたお返しだと言わんばかりに、口元でニヤリとしただけで終わらせる。

 最初のターンに伏せたリバースカード。そしてこれまで伏せてきたカードたち。――――カードを温存したのは力を限界にまで溜めて、最大最悪の効果を発揮するところで爆発させるためだ。

 

「俺のターン、ドロー! セットしていたメタモルポットを反転召喚。リバース効果により互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚のカードをドローする!」

 

「メタモルポット。これが君の言う秘策かね? だったら愚かとしか言えないな。手札を全て入れ替えたところで、私のデッキにあるのはドローソースと防御カード、後は終焉のカウントダウンのみ。手札交換に意味などない」

 

「それはどうかな。俺はカード効果により墓地へ捨てた暗黒界の術師スノウの効果を発動。デッキより暗黒界と名のつくカードを手札に加える。俺が手札に加えるのは暗黒界の龍神グラファ。そして手札に捨てた尖兵ベージのモンスター効果発動。このカードをフィールド上に特殊召喚する。

 そして手札抹殺を発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て捨てた枚数分カードをドローする。俺が捨てたカードは五枚。よって五枚ドロー。墓地へ捨てた二体の龍神グラファのモンスター効果発動。相手フィールドのカード二枚を破壊する」

 

「まだだ。チェーンして罠発動、和睦の使者。このターン、私への戦闘ダメージを全て0にする」

 

 和睦の使者、フリーチェーンのため相手の破壊効果にチェーンして発動することで相手のカード効果を無効にすることが出来る便利なカードだ。

 だがそんなことは今の丈にとってなんの問題にもなりはしない。

 

「俺が墓地へ捨てたのはグラファだけじゃない。ベージもいた。ベージの効果によりベージを場に特殊召喚」

 

 丈のフィールドには暗黒界の龍神グラファとメタモルポット、そして二体のベージが揃った。

 これで勝利への条件は完全にコンプリートした。

 

「いくぞ。俺は二体のベージを手札に戻し墓地より二体の暗黒界の龍神グラファを特殊召喚。ミスターT、これが俺の逆転のキーカードたちだ! 三枚のリバースカード発動、闇のデッキ破壊ウイルス二枚! 魔のデッキ破壊ウイルス!!」

 

「な、なにィ! さ、三枚のウイルスカードだとォ!?」

 

 

【魔のデッキ破壊ウイルス】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する攻撃力2000以上の

闇属性モンスター1体を生け贄にして発動する。

相手フィールド上に存在するモンスター、相手の手札、

相手のターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、

攻撃力1500以下のモンスターを破壊する。

 

 

【闇のデッキ破壊ウイルス】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体を生け贄にし、

魔法カードまたは罠カードのどちらかの種類を宣言して発動する。

相手フィールド上に存在する魔法・罠カード、相手の手札、相手のターンで数えて

3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、宣言した種類のカードを破壊する。

 

 

 丈は最初に闇のデッキ破壊ウイルスを伏せていた。もし終焉のカウントダウンが発動前に使っていれば、カウントダウンの使用を防げたかもしれないが、それを読み切れなかったのは丈自身のツメが甘かったからだ。

 それはいい。しかしその後、カウントダウンが発動されてもこのカードを温存したのはこの普通のデュエルならまず出来ないようなコンボを決めるためだ。

 

「魔のデッキ破壊ウイルスは攻撃力2000以上の闇属性モンスターを生け贄にして発動。相手のフィールド・手札、相手のターンで数えて3ターンの間にドローしたカードを確認し、攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。

 そして闇のデッキ破壊ウイルスは攻撃力2500以上の闇属性モンスターを生け贄にし魔法カードか罠カード、どちらかを宣言して発動。相手フィールド・手札・3ターンの間にドローするカードを確認し、宣言した種類のカードを破壊する。俺は一枚目の闇のデッキ破壊ウイルスで魔法カードを、二枚目で罠カードを選択する!」

 

「な……なんだとッ!?」

 

「ミスターT! お前はさっき自分のデッキには〝ドローソースと防御カード、終焉のカウントダウンしかない〟と自ら言った。そして! 汎用性の高いドローソース、防御カード、終焉のカウントダウンの全てがこのウイルスの影響範囲内にある!」

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅうぅぅう!」

 

「つまりお前のデッキは3ターンの間、完全に死滅する!」

 

 三体の龍神グラファがウイルスのための生け贄となり、ウイルスがミスターTのフィールド・手札・デッキに侵食する。

 ミスターTの手札が全て吹き飛んだ。手札誘発もドローソースも防御カードも揃っていたがなにもかもが問答無用で破壊された。

 

「俺のターンはこれで終了。おっと終焉のカウントダウンに8つめのカウントが乗ってしまった。俺の寿命も残り僅か12ターンというわけだ。はて、どうしたものか」

 

「……わ、私のターン、ドロー!」

 

「ドローしたカードを確認させて貰う」

 

 ミスターTは悔しげにドローカードを公開する。ミスターTが引いたのは一時休戦。魔法カードなので当然破壊される。

 

「では俺のターン」

 

「ま、待て! まだ私のターンが……」

 

「な に か す る こ と で も?」

 

「………………………ターン終了だ」

 

「俺のターン、ドロー! 暗黒界の取引を発動、互いにカードをドローする。その後、手札の中から一枚選んで捨てる。俺は魔轟神クルスを捨てる。この瞬間、魔轟神クルスの効果発動」

 

 

【魔轟神クルス】

光属性 ☆2 悪魔族

攻撃力1000

守備力800

このカードが手札から墓地へ捨てられた時、自分の墓地からこのカード以外の

レベル4以下の「魔轟神」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 

 小さな羽を生やし、恥ずかしそうに顔を隠した少女が幽霊のように半透明となってフィールドに出現する。

 そして魔轟神クルスは顔を隠していた手をどけると、その小さな手で祈り始めた。

 

「クルスのモンスター効果、このカードが手札から墓地へ捨てられた時、自分の墓地からこのカード以外のレベル4以下の魔轟神と名のつくモンスターを一体選択し特殊召喚する。俺は墓地より魔轟神レイヴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 

【魔轟神レイヴン】

光属性 ☆2 悪魔族 チューナー

攻撃力1300

守備力1000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。

自分の手札を任意の枚数捨て、その枚数分このカードの

レベルをエンドフェイズ時まで上げる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

この効果によって捨てた手札の枚数×400ポイントアップする。

 

 

 クルスと同じ魔轟神というカテゴリーに属するカード。

 I2カップ大会限定パックに封入されていたこのカードたちを手に入れたことで丈の暗黒界デッキは数段強化されていた。

 

「魔轟神レイヴンの効果発動。自分のメインフェイズ時、手札を任意の枚数捨て、その枚数だけこのカードのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。更にこのカードで捨てた枚数×400、攻撃力はアップする。

 俺は三体の尖兵ベージを捨て、その効果により三体のベージを特殊召喚。三体のベージを手札に戻し、三体の暗黒界の龍神グラファを復活させる!!」

 

「三体の龍神グラファだと!?」

 

 不死身の龍神、その恐ろしさはなんといっても不死性にこそある。

 手札に暗黒界があり、龍神が墓地に眠る限り何度でも場に甦る最上級モンスター。相手からすれば悪夢以外のなにものでもないだろう。

 

Good Morning(おはよう)

 

「なにを……?」

 

「……心の底から同情するよ。ダークネスの世界とやらにはあんな名作が存在すらしてないなんて。だから容赦もしない。バトルフェイズ! 三体の暗黒界の龍神グラファでダイレクトアタック! アルティメット・ダーク・ストリームッッ!!!」

 

「うううああああああああああああああああ!!!!」

 

 グラファの総攻撃にミスターTのライフポイントが0を刻んだ。

 ミスターTの敗北により進んでいた終焉のカウントダウンも止まる。

 

And in case I don't see ya(そして会えないときのために),good afternoon,good evening,and good night(〝こんにちは〟と〝こんばんは〟も)!」

 

 デュエル終了の挨拶に馬鹿丁寧なお辞儀をする。デュエルが終わりソリッドビジョンも解除された。

 

「……私の負けだな」

 

 デュエルに負けたミスターTは――――特に悔しそうな表情もなく、さも当然のように結果を受け入れる。

 だが丈にはミスターTにまだまだ聞きたいことがあった。

 

「俺の勝ちだ。さぁ話してもらう。……ダークネスがなんなのかを、もっと具体的に」

 

「……その必要はない。君達ならばいずれ対面するだろう。ダークネスをこの世界に呼び寄せた、深い心の闇をもつデュエリストと。なにせ彼は――――いや、黙っておこう。私から教えるのも野暮だろう」

 

「っ!」

 

 ミスターTの体が無数の黒いカードとなってバラバラになっていく。さっきまでミスターTだった黒いカードはそのまま風など吹いてないのに、天高く舞い上がっていく。

 

『さらばだ。また機会があえば会おう。……その機会は君達にとって人類最後の瞬間になるかもしれないがね』

 

 らしい捨て台詞を残し、ミスターTの気配は完全に消滅した。




 余りにも強すぎるという全体未聞の理由で封印された暗黒界デッキ、おまけを除けば実に65話ぶりの登場です。そして気になる内容といえば……ご覧の通りの有様でした。暗黒界デッキには再び長い眠りに入って貰いましょう。

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