ウマ娘 走れカワサキ一等星〜地方ウマ娘が砂舞台でティアラの女王狙います   作:トマスアレポ

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それぞれのウマ娘が、この世界の主役であるかのように

グレード・エクウス・マーチと共に流れる実況の声は、もはや詩の朗読のようだった。

「――東京競馬、第11レース。今日のメインレースは東京優駿、日本ダービーGI。芝2400mで行われます。

この世に生を受け、そしてトゥインクルシリーズへと歩を進めた一つの世代。その8341頭のウマ娘の中から選ばれた、この頂点を決める戦いに挑む18頭のウマ娘をご紹介します」

 

観客のざわめきが、まるで巨大な海のように、うねり、寄せては返す。

誘導ウマ娘に導かれ、18頭のウマ娘たちがひとり、またひとりと姿を現す。

空気が震える。芝の匂いと汗の匂いが混じり合い、どこか神事のようでもある。

 

実況は、ひとりずつ彼女たちの名を呼び上げていく。

その声は、祝福と祈りを等分に含んでいた。

 

「幸運の最内、1枠1番を引き当てたのは――ダノンアンコール!」

その瞬間、場内が揺れた。

まるでスタンド全体が生き物になり、ひとつの心臓で脈を打ったようだった。

「地方上がりのトレーナー・トザキの夢を乗せて、ダービーは三冠への通過点か、それとも世界への入り口か!」

 

隣のベルが息を呑む音が聞こえた。

「……すごい、声の壁みたいですね」

「そりゃあ一番人気だしな。人間だってここまで集まれば重力も歪むさ」

 

実況の声は止まらない。

 

「前走毎日杯はレコードタイ!鋭い末脚がこの府中の内枠でも炸裂するか!2番タイセイラヴァンダ!」

 

「銀メダルはいらない。銅メダルもいらない。目指すはただ1着、ベテラントレーナーノリヒロと共に挑むは、3番ナイトストレイド!」

 

「左回りは大得意!新潟でも!府中でも!魅惑のサウスポー4番ニシノルーメット!」

 

「得意のスタートダッシュで好位を活かせるポジションが活きるか、ダービー連覇がかかるトレーナーと共に、5番シルクレインボウ!」

 

「先行力のレース巧者が狙うは、ダービーという名のターゲット!6番エコロアムラーム!」

 

「皐月2着の雪辱を、この府中のダービーで晴らしたい。フランス帰りのトレーナーと共に挑むは頂点の座!7番ダイナコンサート!」

 

 

まるでそれぞれのウマ娘が、この世界の物語の主役であるかのように、ひとつひとつの名前が宣言されるたび、観客の声が重なり、膨れ上がっていく。

 

 

「きさらぎ賞は中団からの末脚ラッシュで見事に1着、このダービーは控えてからの直線ラッシュにご注目!8番キャロットラッシュ!」

 

「かつて母も挑んだこの舞台で、親子二代、カムイの血が騒ぐ、9番シャダイカムイ!」

 

「この府中、共同通信杯を制した快速ウマ娘!ついにジンクスブレイクなるか、10番サトノラバルム!」

 

「トップスタァの名を冠し、狙うは1着というポジションゼロへ!11番ハギノトップスタァ!」

 

「外目からの直線勝負はこのウマ娘の得意舞台。長い直線が活きるこの府中でレジェンドに導かれ、12番アドマイヤトロン!」

 

 

3番、5番、7番――。

誰もが自分の“推し”を信じている。

スタンドのあちこちで手作りのぬいぐるみが揺れ、カメラが光り、ビールがこぼれる。

もはやそこに宗教とエンタメの境界はない。

信仰と歓楽が抱き合いながら、府中の午後を塗り替えていく。

 

 

「京都で目覚めた高RKSTポイントのポテンシャル!舞台は古都から府中へと、その輝きは譲れない!13番アスクパレスモア!」

 

「東上最終便を射止めたのはこのウマ娘!初の関東遠征でも、狙うは無敗のダービーウマ娘!14番ナムラレイン!」

 

「キャリア全てが2000m以上!無尽蔵のスタミナ勝負は望む所!15番タガノアラビアータ!」

 

「前走プリンシパルSからの強行軍を乗り越えて、ようやく届いたダービーの舞台、16番マイネルサーバント!」

 

「前走NHKマイルから堂々参戦!マイルで活きたそのスピードがこのダービーでも輝きます!17番シャドウハーミット!」

 

「後方一気で虎視眈々!府中2400は経験済み!青葉賞勝利をバネに、一気戴冠を狙うは18番デルマツキヒザ!

――以上、18頭のウマ娘を紹介しました」

 

 

実況が18頭すべての名を読み上げ終えると、スタンド全体がひとつの拍手で応えた。

まるで「これがこの国の運動会だ」とでも言わんばかりの熱狂だ。

 

私たちはラウンジ席のバルコニーから、その光景を見下ろしていた。

見下ろすというより、飲み込まれていた。

下の立ち見エリアは人の頭で埋め尽くされ、まるで黒い波が蠢いているようだった。

「人、やばいなぁ」

私が呟くと、ベルは笑った。

「ですね。でも、いいですね。名前を呼ばれるたびに拍手が起きるの、なんだか儀式みたいで」

「ああ、あれはいい。うちのレースでもやってほしいくらいだ」

 

ターフビジョンが光り、巨大な文字が映し出される。

《本日の来場者数 130,744人》

その数字が表示された瞬間、またしても歓声が上がる。

数字に歓声が起こる国はそう多くないだろう。

 

「やべぇな」

「13万人も来るんですね……」

「ダービーだからな」

とサンリンドーが肩をすくめた。

「有馬なら15万だぜ」

 

彼の言葉が誇張なのか事実なのか、もはやどうでもよかった。

この場に立っているだけで、心臓がどくどくと打ち、血が騒ぐ。

それはウマ娘の本能でもあり、ただの観客としての昂ぶりでもあった。

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