ウマ娘 走れカワサキ一等星〜地方ウマ娘が砂舞台でティアラの女王狙います 作:トマスアレポ
「NO SIGNAL」は通信状況によりトラッキングセンサー情報が取得できないそのウマ娘番号が表示されます。
全出走ウマ娘の位置情報が取得できている間は表示されません。
↓矢印は進行方向を示します
<< 600←現在の通過距離を示します
①②③④ ⑤ ⑥ ⑦⑧⑨ ⑩ ⑪
⑫ ⑬⑭ ⑮⑯⑰ ⑱
58.3km/h←先頭馬の時速を示します
東京大賞典←レース名を表示します
スタンドのコンクリートは、昼間に溜め込んだ熱をまだ吐き切れていなくて、足裏からじわじわと長すぎる夏の名残が伝わってくる。私はその熱を、無意識にベンチへ押し返すように腰を下ろし、ダートコースを見つめていた。
左右にはハナミチオジョウとシャドウリリィ。三人とも、同じ一点――ライトニングベルだけを追っている。
実況の声が、上空から降ってくる。
ゲートに収まるウマ娘たち。番号と名前が読み上げられるたび、心拍が一拍ずつ増えていく。ベルは2番。ちょうどいい。外すぎず、内すぎず。そう思った瞬間に、ゲートが弾けた。
――15番クラヴァット、ゲートに入ります。
枠入り完了、スタートしました!
外の方13番ワイドカメリア好スタートですが…
内から出ていく3番テイエムストライク。
これに迫って12番サンライズノアール。
――1番ラムダ、スタートを決めて2番手のインコース。
3番手4番手のグループ、広がりました。
9番のバックファイア、外へ出した4番イグニッション、内には6番ホーガンクロウ、2番ライトニングベル。
中段に10番ミッキーアトラス付けました。
15番のクラヴァットそれから7番ユメノウキハシ。
一斉に飛び出す影。
砂が跳ね、音が割れる。
視界の中でベルのシルエットを探す。いた。内だ。ラムダのすぐ近く。あいつ、やっぱり完璧なスタートを切っている。腹が立つほどに。
スタンド前を通過する一瞬、ベルの横顔が見えた気がした。気のせいかもしれない。でも、その首の角度、その脚の運び。間違いない。落ち着いている。落ち着きすぎているくらいだ。
――好スタートを切った13番ワイドカメリア中段後ろ。
あとは8番リボンスケルツォ。
離れて後方5番グリンタンニ、11番クリッカー、14番サンガリアス。
――縦長です!これから向正面。
先頭3番テイエムストライク1馬半のリード。
2番手1番のラムダ上がっていく!。
並んだのは12番サンライズノアール。
内からこの圏内に2番ライトニングベル後ろから上がっていく!
4番イグニッション、ポジションをスーッと上げていきました。好位の外に接近!
ペースが上がっていく!
向正面へ流れていく隊列を、ターフビジョンが大写しにする。
画面の中で、ラムダがじわじわと位置を上げていく。その動きは獣というより、計算機に近い。何歩で前に出るか、何メートルで抜くか、全部分かっている走りだ。
その内側。
ベルが、いる。
派手じゃない。
でも、確実に距離を詰めている。
「……いい位置」
気づけば、声に出していた。
オジョウが何も言わずに頷く。リリィは唇を噛んで、画面から目を離さない。
――前のペースはどうか600切りました。
3コーナーから4コーナー、逃げる3番テイエムストライクリードが一馬半。
2番手手が動く1番のラムダ、その外は12番のサンライズノアール3番手。
――4コーナーカーブから直線!
外から早くも1番ラムダ先頭に変わった!
ラムダ先頭!
実況の声が、少し弾んだ気がした。
その瞬間、私の視界は一気に狭くなる。
――馬場の真ん中伸びてきたのは10番のミッキーアトラス!
――ミッキーアトラスが2番手に上がってくる!
――内は食い下がって3番テイエムストライク!
――200を切りました!
――先頭は1番ラムダ!迫ってきた2番ライトニングベル!
――この2頭の争い!
来た。
ベルが、来ている。
直線の真ん中、砂を切り裂くように伸びる脚。ラムダとの差は、確かにある。それでも、縮まっている。確実に。私は拳を握りしめていた。爪が食い込むのも構わず。
行け。
行け、ベル。
世界を知ってる天才に、地方の意地を叩きつけろ。
人目も憚らず、叫んだ。
"聲"が、出た。
横のオジョウもリリィも同じだ。
――だが。
――3番手ミッキーアトラス!外からイグニッションさらにはサンライズノアール!
――ラムダ先頭でゴールイン!
やはりチャンピオンは世界を知るこのウマ娘でした!
一瞬、並んだように見えた。
錯覚かもしれない。願望かもしれない。
歓声が壁のようにどっと押し寄せる。
ベルは――2着。
スタンドが揺れるほどの拍手の中で、私は深く息を吐いた。悔しい。悔しいはずなのに、不思議と胸の奥は静かだった。
負けた。
でも、終わっていない。
私は、ダートの向こうを見つめたまま、小さく呟く。
「……ちゃんと、追いついてきたじゃん」
オジョウが鼻で笑う。
リリィが、少しだけ目を潤ませている。
世界を知るチャンピオンは、やはり強かった。
でも、あの背中は――もう、手の届かない場所じゃない。