ウマ娘 走れカワサキ一等星〜地方ウマ娘が砂舞台でティアラの女王狙います   作:トマスアレポ

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遥か遠く、夢を見ていたんだ

――川崎競バ第11レース、鎌倉記念SII。今年は8人のウマ娘で争われます。

――早くもゲートイン完了。スタートしました!

――各馬揃った飛び出し。

――何が行くか、今日も大外8番ブラッシングローズハナを主張していきます。

――それを見るように2番手は5番ライトニングベル。その後1馬身差、3番クラヴァット3番手。

――2馬身離れて内は4番オグレッセ、外に切り替えて6番コンプロマイズに7番リードノベル、後方には2番マリタイムシッパー最後方1番インディアンブレス、こういった大勢でスタンド前通過していきます。縦長です。

 


 

スタンド前を通過するとき、耳の奥に観客のざわめきが波のように押し寄せた。けれど、それすら遠くに霞んでいく。私の世界は、ベルと私の二人だけだ。

2コーナーに入る。残り1000m。後続は遠い。

 


 

――残り1000mを切ります。

――先頭は8番ブラッシングローズ。それをピッタリマークするよう5番ライトニングベル。この2頭が後続を大きく大きく引き離しています。

 

――各馬これから3コーナーに入ります。

――先頭8番ブラッシングローズに5番ライトニングベルが並びかけていきます。この後大きく離れて6番コンプロマイズに7番リードノベル、2番マリタイムシッパー位置を上げていきます。

 

――4コーナーから直線!

――8番ブラッシングローズに5番ライトニングベル!

――2頭の競り合いがまだ続く!3番手以下大きく離れた!

――ブラッシングローズにライトニングベル!

――もう言葉はいらないのか!

 


 

彼女と私。

彼女の息遣い、彼女の脚音、全部が鼓膜と心臓を叩きつけてくる。

「抜かせない」

「抜かせない!」

そう叫んだつもりだったのに。

 


 

――ブラッシングローズ!ライトニングベル!

――ライトニングベル!

――ライトニングベルが頭一つ抜けてゴールイン!

――ブラッシングローズは2番手か!

――3番手は大きく離れて2番マリタイムシッパー交わしたかどうか!

 


 

ゴール板を過ぎた瞬間、視界が弾けた。

ライトニングベルの背中が光の中にあった。

 


 

――レコード!

――1分39秒0のレコードです!

 

――地元川崎の期待を背負って!ライトニングベル!

――更なるビッグタイトルへ大きく飛躍しました!

 


 

「おめでとさん」

トレーナー席から検量室に向かう途中、声が飛んだ。低くもやけに響く声。

サンリンドーが振り返ると、中央のトレーナーがにやりと笑って立っていた。

 

「お久しぶりです、ヤハギさん」

「いやぁ、久しいな。ずいぶん強そうじゃないか、あの門別から来た娘」

 

「まあ、腰掛けみたいなもんですからね。壊さないように慎重にやってますよ」

「壊さないように慎重に、か。そういう時に限ってポキッといくもんだ」ヤハギは肩をすくめる。

 

「それでも勝てるなら大したもんだ」

「今日は敵情偵察ってやつですか?」

 

「そんなところだな。ああ、こいつはラムダって言うんだ。今見てる仔でな。来月にはBCジュベナイルに出す」

「いきなり海外ですか。中央は違いますね」

「コイツは特別だからな。まあ何にせよ、その次は全日本ジュニア優駿だ。この川崎で」

 

「こっちはもう1つ使いますが、その路線で行くつもりです。もし中央転入の話が出れば、その時は……」

「まだ先のことはわからん。だが少なくとも全日本ジュニア優駿までは、ライバルだな」

 

「ですね」サンリンドーは短く返した。

 

「ほら、あの仔が待ってるだろ。早く行ってやれ。俺はラムダに晩飯食わせないといけないからな」

「ええ。じゃあ次に会う時は」

「敵同士、だな」

 


 

負けた。

……私が? 本当に?

 

スタンドのざわめきが、耳の奥でぐにゃりと反響している。さっきまで確かに走っていたはずなのに、もう遠い昔のようだ。

 

ライトニングベルは勝ったというのに、驚くほど冷静だった。

賞賛だか礼賛だか知らない黄色い声を浴びながら、追っかけのウマ娘たちにいつもの軽い会釈を返している。

カクテルライトのせいか、あるいは私の心が勝手にそう補正しているのか、彼女の横顔は夜空の星より余計に光って見えた。まるで「勝者専用の照明」でも当たっているみたいに。

 

「おい、この後の口取り撮影なんだが、お前どうする?」

サンリンドーの声が頭上から落ちてくる。

 

「同じチームだし……」

「いや、私はいい」

 

「いいのか?」

「ウイニングライブの、準備が、あるから」

 

写真撮影? 冗談じゃない。

今ここでカメラに収まったら、きっととんでもない顔になってる。引きつった口元とか、にじんだ瞳とか。想像するだけで胸がムカつく。

 

とにかく、楽屋に戻って化粧を直して、ライブ衣装に着替えて、別の誰かに変身するしかない。

そうしなければ、頬を伝って落ちそうな涙が「はいお疲れさま」とでも言いたげに、勝手にあふれてしまいそうだった。

 


 

『ランク5、ライトニングベル様は”使命“を果たされたようです』

 

『まぁ、当然の結果だろう。この程度の事、児戯にも等しい』

 

『それより、あの2着の仔、もしかしたら“因果”があるかもしれないわね』

 

『またいつもの癖か? フラメンカリーナ』

 

『何であれ、期待はかけたくなるものよ』

 

『ふん、まあいい』

 

『次はランク1、イグニッション様との交戦(エンゲージ)ですが…』

 

『決まっているさ。中央も、ランク5もな。ランク1が瞞着(まんちゃく)でない事を示す、いい機会だ』

 

 

 

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