南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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完全に虚を突かれて放たれた矢は、呂布———恋の背を捉えた。

だが、その身は天下無双と謂われた者である。

矢が背に刺さった瞬間、体を微かにそらして、貫通を防いだ。

しかし、それでも背の肉を抉られ、痛みにより体を硬直させた恋に、鋭い銀色が迫る。

考えるのではなく、感じた。

反応ではなく、反射により、恋は方天画戟を巧みに操って銀色の刃の侵入を防ぐ。

しかし、相手の力が恋の力を超え、恋はそのまま易々と後方へと吹き飛ばされた。

受け身を取ることも許されず、地面に転がる恋に向けて、トリスタは弓を引く。

そして恋の動きが止まったその瞬間、その矢は放たれた。

 

「がっ!?」

 

されど、その矢は恋の前に立ち塞がった兵士達の手により阻まれた。

兵士達は全身血まみれで、足や手を失っている満身創痍の体で、主を守ろうとした。

 

「り、呂…将、軍」

 

お逃げください、そう口にしようとした男の首が宙に舞う。

何れ死に至る兵士達の命すら刈り取り、ランスロは刃を振るう。

その剣筋はまさに神速。

天下最強の将と呼ばれた恋ですら、視認できないその一撃を長年の戦闘感が助けた。

肩を切り裂かれ、方天画戟の刃をへし折り、恋の横腹はランスロの蹴りにより砕かれた。

生き残りの呂布軍の兵士達が、その蛮行を阻止しようと道を阻んでも、ランスロの前には無意味と化す。

その光景を見ていた公孫賛軍にはこう見えただろう。

まるでその姿は天下無双ではないか、と。

盾一の手により、生まれたカンストチートキャラであるランスロの力は、間違いなく呂布以上、少なくとも同格に近かった。

そして、それはランスロだけではない。

先ほどから、生き残りの呂布軍の兵士を肩端から射殺するトリスタも、まさに同等である。

その周りには、数万の精鋭達と、ランスロ達には劣るとはいえ、間違いなく猛将の一角であるケイとパーシー。

既に状況は詰んでいた。

恋が生き残る確率は万に一つもない。

だが、それでも恋は立ち上がった。

 

「ね、ねねを……放、せ」

 

立ち上がったのは、間違いなく恋の強靭な意志の力。

その光景に、盾一の人形として動いていたランスロの心を動かした。

 

「その意志、見事」

 

気絶した陳宮をその場に寝かすと、ランスロはアロンダイトを握りしめた。

初めて見せたランスロの意志の力、圧倒的な覇気により、後方の公孫賛軍から悲鳴が上がる。

それは相対した恋も、それを感じていた。

間違いなく、自分はここで死ぬだろう。

けれど、

 

「誇るといい。 アロンダイトと私の前に沈むことを」

 

構えを取るランスロに向けて、恋は最後の力を振り絞り、方天画戟を構える。

そして———

 

「ああああああああっ!!!!」

 

全身全霊を込めた。

空間すら切り裂き、残像すら写さぬまさに神速を超えた超速。

人の枠組みを越えた英雄の一撃は————

 

「終わりだ」

 

あっさりと化け物の前により、打ち砕かれた。

一の太刀で方天画戟を破壊し、二の太刀でその右手を切り落とした。

そして三の太刀は、恋の肩筋から斜めへと大きく切り裂かれた。

全身から噴き出す血を見ながら、恋は地面へと沈んでいく。

意志だけでは立ち上がることができない最後の時。

暗転する意識の中、最後に見たのは地面に倒れている陳宮———音々音の姿だった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「素晴らしい、の一言だったな」

 

呂布とランスロの最後の対峙を見ていた盾一は、敬を込めた拍手を送ると戦場を見渡す。

戦は既に終えていた。

呂布軍は殲滅、張遼軍は曹操軍と苛烈な一戦を交えた後、ほぼ半壊した軍を引いて、この戦域から離脱した。

追撃にガウェン軍を送ったが、呂布の武に気を取られてしまったために、送るタイミングを逃してしまった。

張遼の脅威を理解していたため、ここで確実に討っておきたかったが、呂布を討っただけでも良しとしよう。

それに張遼軍は予想以上に良い働きをしてくれた。

曹操軍筆頭の将である夏侯惇の眼を射抜いてくれたらしい。

死んでいないのは残念なことだが、眼を失ったことは間違いなく戦に影響するだろう。

それに曹操軍の精鋭達に被害を出してくれたのもなお良し。

理想で言えば、将の一人くらい討ってくれればよかったのだが、とりあえずは良しとしよう。

 

「さて、では袁紹殿に伝令を送ってくれ」

「……なんとお伝えすれば?」

 

ベディアの言葉に、盾一は頬を釣り上げたようにして笑う。

 

「決まっているだろう。 総大将殿には一番の栄誉を得てもらうためだ」

 

そして俺のために、踊っていただきたい。

盾一の眼は、董卓との戦いから既に次の戦場に視線を捉えていた。

 


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