イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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上映します。

「教練火災、場所は食堂」

 今日は停泊訓練の最終日です。今日まで防火、防水訓練など、妖精さんが艦内の区画や置いてある物品の場所を覚えられるように色々な発生場所で、想定を与えて訓練をしました。

 最初はとても時間がかかっていましたが、今では最初の半分以下の時間で配置につく事が出来ます。明日から一週間は出航しての訓練になります、ですから頑張らないといけません。

 妖精さん達も一生懸命訓練に励んでくれています。

 

「火災鎮火、用具収め!」

 艦内放送が入ります。

 最後の停泊訓練が終わりました、これなら明日からの訓練にも対応できそうです。

 飛行科の妖精さんたちは艦上での運用ができるまでにまだまだ時間がかかりそうなので、近くの大村の飛行場で訓練をやることになりました。ヘリコプターの不在は心細いですが仕方ありません。

 最近私の艤装に駆逐艦の子が沢山来るようになりました。私が出渠作業を終えた日、昼食で朝に私を囲んでいた子たちと一緒にごはんを食べました。その時に、夕食後にアイスをごちそうする約束をしました。

 夕方、皆さんを艤装に招待してアイスをご馳走しました、アイスだけでは寂しいと思ってお菓子とお茶を出して、テレビで映画の上映会をやりました。まだ2回しかやっていませんが、その日から夕食後は上映会をやることになりました。今日の上映会は井戸から髪の長い女の人が出てくる怖い映画です、初雪ちゃんと望月ちゃんの希望です。私は怖いのはあまり好きではありませんが、一番大きいんですから、怖いなんて言えません。

 食堂を夕食で食べて…間違えました、夕食を食堂で食べて艤装に戻ります、もうすぐ皆さんが来る時間です。 

 

 来ました、第30駆逐隊の皆さん、睦月ちゃん、望月ちゃん、弥生ちゃんと如月ちゃんです。

「第30駆逐隊、今日もお邪魔しますよー」

「如月、お邪魔します♪」

「お邪魔...します...」

「…ぁあ、こんばんわ。」

 みなさんがそれぞれ舷梯を登ってきてあいさつをします。

 私達第11駆逐隊のみんなは士官室でアイスを持って準備完了しています、睦月ちゃんたちもアイスを食堂で取ってきてみんなでテレビの前に座ります。もちろんアイスのお金はもらってます。仕入れが出来なくなりますから。

 初雪ちゃんが部屋の電気を消して雰囲気を出します、窓の無い士官室は真っ暗になります。せめて明るくして見ましょう、と言いたかったですが、そんなことは言えません、ここは我慢です。

映画が始まりました、主人公が呪われたビデオを見る所から物語が始まります。映画の途中で怖いシーンはいっぱいありましたが、隣の吹雪ちゃんと如月ちゃんの手を握って何とか我慢しました。初雪ちゃんと望月ちゃん、深雪ちゃんは楽しそうに見ています、隣の吹雪ちゃんは時々私の手を握る力が変わっているので恐らく怖がっているんでしょう、平気そうな顔をしていますが、弥生ちゃんも時々私に寄りかかってくるので、怖がっているに違いありません。如月ちゃんと白雪ちゃんは時折「ひっ」とか「きゃっ」と悲鳴をあげているので、きっと怖がっています。物語が進んでいって、呪いが解決して、ようやく終わりだと思ってホッとして見ていると、電源がついていないテレビが急に点灯して、そこに映っている髪の長い女の人がテレビから這い出てきて、男の人の前まで行きます。終わった、と思って油断していた私には、そのシーンがあまりにも恐ろしくて、私の意識はそこで途切れました。

 

 

 目をさますと私はソファーに寝かされていました。皆さんが心配そうに私を見ています。吹雪ちゃんと弥生ちゃんが私の様子がおかしいのに気がついて上映会は中止になったそうです。

「もう、気絶するくらい怖いなら言ってくれればいいじゃないですか。」

 吹雪ちゃんが言います。

 皆さんに怖がっていたのがばれてしまって顔が赤くなります。

「もう遅いですし、今日はお開きにしましょうか。」白雪ちゃんがそう言って今日の上映会は終わりました。

 

 終わったと思ってホッとしていると、まだ試練がありました。岸壁から寮までの薄暗い道を帰らなければいけません。いつもは特に気にもとめない暗がりも、今日は特別に見えます。大丈夫です、私は一人ではありません、がんばります。

 

 8隻の駆逐艦に守られながら、何とか寮に到着することができました。昨日一昨日はそんなに気にもとめていませんでしたが、寮までこんなに長い道のりだったんですね。

「はぐろさん、今日はありがとうございましたぁー」

「明日から出港です、頑張りましょう。」

 睦月ちゃんと白雪ちゃんが言います。

 そうして第30、11駆逐隊の皆さんは自分の部屋に歩いて行きました。別れ際に望月ちゃんがイタズラっぽく「んじゃぁあー、あの続きは明日の出港から帰って来たらやろうか。」と言います。

 出来れば遠慮したいです。

 

 寮の、まだ明るい廊下を歩いて部屋に戻ります。電気を消して素早くベットに潜り込みます。明日は出港です、明日に備えて今日は早く寝なければいけません。

 寝られません、今日の映画の怖い所が浮かんできます。見栄をはらずに吹雪ちゃん達の部屋に行けばよかったです。でも、ついさっき寮も消灯してしまって真っ暗です、怖くて廊下も出られません。

 少し外の空気を吸って落ち着こうと、窓を開けてみると、港に停泊している私の艦橋の上で小さな白い光が一つ動いています、あんな所にライトはありません。

 怖くなった私はまたベッドに潜り込んで必死に目をつぶって、その日は何とか眠りにつく事が出来ました。

 


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