イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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 ようやく武器を打てました。


射撃します。

 佐世保を出港した5人は五島列島沖に向かっていた。太平洋は、艦娘の登場で一部海域は安全に航行できるようになったが、最近になって潜水艦型の深海艦隊の出没が報告されており、また、燃料節約の観点からも近海の訓練が適当ということになったのだ。

 司令官から渡された予定表はおおまかに、

1日目、艦隊運動

2日目、対水上射撃

3日目、雷撃訓練

4日目、対空射撃

5日目、実艦的対潜訓練

6日目、洋上補給

7日目、帰港

 といった流れである。

 5艦は今、艦隊運動の真っ最中で、洋上を等間隔で美しい一列になって白波を立てながら航行していた。

「とーりかーじ」

 先頭を走る駆逐艦、深雪が左に変針する。しばらくして後続の初雪が取り舵を取った。

「深雪定針!」

 初雪の見張り妖精が言った。初雪は上手く後ろに入れるタイミングを計る。

 

「もどーせー、深雪ちゃんのあと、基準進路210度」

 深雪ちゃんの航跡に入れるくらい真後ろに行かないといけないのに、取り舵のタイミングが早すぎたようで、深雪ちゃんの左側に出てしまった。早く直さなないと。

「ちょっと、初雪ちゃん、だいぶずれてるよ。」

 後ろの白雪ちゃんの声が聞こえる。

「ごめん...今、修正中...」

 確かに2隻ぶんはちょっとズレすぎたかも。

 

 次は白雪が変針した。今度はタイミングが遅すぎたようで、大きく右に出てしまった。

 さっきまで綺麗な1列の線だったのが、今では後ろの船が右に左に行ってしまって、いびつな線になっていしまっていた。白雪の後続の吹雪が前に習って変針を始める。

 はぐろは最後尾で吹雪が変針していくのをじっと見ていた。

 

 いよいよ私の番です、幸い吹雪ちゃんは上手に変針できたようです。先行している吹雪ちゃんを見て、取り舵のタイミングを計ります。

「とーりかーじ!」

その声と共に艦がゆっくりと左に回りはじめます。ダメです、遅すぎました。

「取り舵一杯!」

遅くなってしまったぶんを何とか取り戻そうとします。出港は上手く出来たので、もしかすると、と思いましたが、航海長がやってるように上手くはできませんでした。単縦陣の変針は基本中の基本です、上手く出来るようにならないといけません。

 訓練海域まで、先頭を走る船を交代しながら単縦陣の変針を繰り返して行きました。最初は下手だった運動も、回数を重ねるごとにしだいに上手になっていきました。深雪ちゃんが先頭を交代して私の後ろに来た時に

「お尻(艦尾)もおっきいねー。」と言われてしまいました。一万トンくらいあるんですから、大きいのは仕方ありません。

 単縦陣の動きが出来るようになったら、今度は横1列に並んだり、斜めに並んだりしての運動です。変針の時は舵の操作と速力を変えないといけないので、難易度が上がります。

 訓練をする海域に到着したら、捜索回頭、解散、集合、位置の交代など、少し応用が入った運動をやりました。みんな頑張って、艦隊運動も最初に比べるとはるかに上手になってきました。

 そうこうしているうちに日が暮れて、日没後に少しだけ訓練をやって、今日は終わりになりました。ずっと動き回って、初日からハードな一日でした。

 明日の訓練では、手伝いに軽巡洋艦の鹿島さんが来てくれるそうです。

 

 訓練が終わった私は、ふいに星が見たくなって、艦橋の屋根に上がって仰向けに寝転びます。地面がひんやりしていて気持ちいいです。上を見ると、見渡す限りの星空です。重巡洋艦だったあの頃に見ていた物から何一つ変わっていません。この星空を見られるのは船乗りの特権、誰かがそう言っていました、その通りですね。

 しばらく星空を見上げていると、三人ほどの妖精さんが上がって来ました。そして明かりを点けて主砲の射撃指揮装置の整備を始めました。

 昨日動いていた光はこれだったんですね。そうです、この世界に来てから戦闘訓練はまだやっていません。当然武器の調整もまだです。今やってしまわないと明日に間に合いません。

 

「私も手伝います。」

 そう言って妖精さんに近づきます。そうすると、妖精さんに、主砲を動かしてくれ、と頼まれました。言われたとおりに主砲を動かしてみます。主砲と射撃指揮装置が連動して動きます。動作を確認して、あとは微調整だけだそうです。その後、妖精さんと一緒に微調整をやって、後は明日の射撃に備えるだけです。

 

 

 翌朝、鹿島さんと合流します。

 鹿島さんは木で出来たヨットのような水上標的を洋上に投げてそれを引っ張ります。射撃の順番は出港順序と同じで、深雪ちゃん、初雪ちゃん、白雪ちゃん、吹雪ちゃん、私の順です。

 鹿島さんと距離12km、同航の体制で私達5人が一列に並んで準備完了です。

「ほら、準備出来たらさっさと届ける!」

 鹿島さんから通信が入ります。ちょっと厳しそうな声です。

「は、はい!深雪、準備できました!」そう深雪ちゃんが返事します。緊張しすぎなければいいのですが…。

「よし、第一回、深雪、開始!」鹿島さんから開始の合図が入ります。

 その合図と同時に深雪ちゃんが一気に増速し始めます。

「ぃよーし!行っくぞぉー!」

 大丈夫そうです、いつもの深雪ちゃんみたいです。

「右90度、砲撃戦用意!」深雪ちゃんの6門の主砲が目標に指向されます。

「深雪スペシャル!いっけー!!」そう言うと同時に主砲が火を噴きます。護衛艦の射撃とは違った迫力があります。主砲が一気に火を噴く様子はかなりの迫力です。ですが、それよりも......

「えっと......吹雪ちゃん?深雪スペシャルってなあに?」

 ちょっと気になったので聞いてみます。

「何て言えばいいか、カッコいいからスペシャルって言ってるみたいです。」

 吹雪ちゃんがちょっと困ったように言います。

「弾着、今!」「遠、遠、遠!全部遠弾よ、次、修正射!」

 鹿島さんから弾着の情報が入ります。

「下げ4右1!ええぃ、もういっちょ!」

 照準を修正して深雪ちゃんの2斉射目です。

「弾着、今!」「近、近、遠!次!」

 そうやって深雪ちゃんは4斉射目で目標を挟叉、1発命中弾を出しました。

「一発命中!次、反航射撃!」

「よっしゃ!1発命中!面舵一杯!反航戦!左90度、砲撃戦用意!」

 その後、深雪ちゃんは同じように4斉射をして射撃を終了しました。命中弾は3発です。命中率は7%といったところです。

「第1回、深雪終了!さあ、どんどん行くよ!」

「第2回......初雪、いきます。」

 射撃が終わった深雪ちゃんが私の後ろに来ます。

「ふう、ちょ~っと疲れたなぁ。」

「お疲れさまでした。」

 後ろで汗を拭いている深雪ちゃんに声をかける。

「前は当たんなかったけど、今日は3発もあたったぜ。」そう言う深雪ちゃんは本当に嬉しそうでした。レーダーもスタビライザーもないのに、あんな小さな標的に当てるなんて確かに凄い技です。

 私も負けないようにしないといけません。

 

「第4回、吹雪終了!次、第5回、はぐろ!」鹿島さんの声が聞こえます。

 吹雪ちゃんが終わって、私の名前が呼ばれます。

「はい!頑張ります!」

 いよいよ私の番です、主砲には既に48発の訓練弾が装填されています。

「行きます!第2戦速!」

 船が一気に加速して、体に感じる風が一際強くなっていきます。

「教練右対水上戦闘用意、CIC指示の目標、主砲、訓練弾、発射弾数48発」

 妖精さんが射撃の準備を進めます。

 主砲と昨日妖精さんと一緒に調整した射撃管制装置が目標に向いて、カメラの映像が映し出されます。

「目標標的、間違いありません、主砲、打ち方、はじめてくださーい!」

 小気味よい連射音と共に1門の主砲から一気に6発の主砲弾が連射される。

「弾着、今!」「近4、遠1、命中1!」

 鹿島さんから通信が入ります。

「少し近いみたいです、上げ1」

 2斉射目、6個の薬莢が主砲から甲板に勢いよく放り出される。

 管制装置のカメラが標的を見つめる。

 ヨットのマストが砕けるのが見えました。そして次々に標的に命中していきます。

「遠2、命中4!」

「発射諸元はこれで大丈夫です、どんどん行きましょう!」

 同航射撃が終わって命中弾でぼろぼろになった標的を、反航射撃になる前に鹿島さんに変えてもらって、射撃再開です。今日はすごく調子がいいみたいで面白いように命中します、反航射撃が終わる頃には変えてもらった標的もぼろぼろになっていました。

「第5回、はぐろ、射撃終わりました。」

 久しぶりに撃つ速射砲は撃つたびに体が芯までしびれて、すごく気持ちよかったです。

 そんな射撃後の余韻にひたっていると、周りがずいぶん静かな事に気づきます。

「あ、あの、鹿島さん、射撃...終わりました......」

 鹿島さんを呼びますが返事がありません、どうしたのでしょう?

 

 

 少しの沈黙の後に、

「す、すごいです!はぐろさん!」

「標的、バラバラです。」

「命中率...60%以上......すごい...」

「すげぇ連射だなぁ!」

 四人の驚いた声が聞こえます。皆さんは光学の照準機での射撃なので、何だかズルをしているような気がしますが、こんなに褒められるとは思いませんでした、ちょっと照れます。

「あ、あの、ありがとうございます。」

 それから四人には主砲の事や、射撃方法についていっぱい聞かれました。

 

 

 第11駆逐隊の5人が騒いでいるのを横目で見ながら鹿島は信じられない物を見た気分だった、48発中30発が12km先の縦20m、横10mの駆逐艦用の小型標的に命中したのだ、命中率は60%オーバーといった所だろう、今までは成績の良い船でも10%前後、その6倍以上の命中率である。

 事前に今回射撃する艦の情報はもらっていた、あの船は情報では12.7cm主砲が1門しか付いていないはず、しかし6門の主砲に負けない、いや、それ以上の速さで砲弾を撃ってきた、本当に1門しかないのであれば、恐るべき連射性能である。

「帰って佐世保の鎮守府に問い合わせて見るか、でも今は。」

 そう独り言を言って鹿島は未だ興奮冷めやらぬ5人に近接していった。

 

 

「お疲れさん!まさか今日で標的全部使い切るとは思わなかったわ。」

 いつの間にか近づいて来ていた鹿島さんに声をかけられます。黒くて長い髪で、気の強そうな目に眼鏡が似合う、いかにも先生、といった風貌の方でした。

「新しい標的を持ってくるから、明日の魚雷発射は6日目に延期にします、その代わり他のを前倒しにするよう頼んでおくわ。」

「あ、あの…ごめんなさいっ!」

 明日使う標的とは知らずに壊してしまいました、鹿島さんはこれから呉まで新しい標的を取りに行くようです。

 

 私の言葉を聞いて鹿島さんは呆れたように笑います。

「いいのよ、あなた達が、いい訓練をできるようにするのが私の仕事なんだから。」

「それと、この旗の意味は分かるわよね?」

 そう言って鹿島さんは二枚の旗流をマストに揚げます。

 

「はい!」

 私の返事を聞いて鹿島さんはまたね、と手を振って私達から離れて行きました。

 鹿島さんが揚げた信号は、

「見事なり、ですね。」

 いつの間にか近くに来ていた白雪ちゃんが言います。

「はい、褒められてしまいました。」

 ちょっと照れくさいですが、やっぱり嬉しいです。

 明日は一日早まって対空射撃です、頑張らないといけません。

 

 

 余談であるが、後日、呉では、佐世保に射撃がめっぽう当たる鑑娘が来たらしい、という噂が広まっていった。

 




 号令を正確に書くと何をやってるのか分からん......
 ということが書いてわかったので、かなり端折りました。

感想等お待ちしています。
 

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