訓練が終わってから、5人は明日の対空射撃の打ち合わせのために、はぐろの士官室に集まった。
明日行われる対空射撃訓練は大まかに二つに分けられている、一つは個艦防空、もう一つは艦隊防空の訓練である。
五人が一つの机を囲んで、皆それぞれ真剣な表情をしている。重々しい空気の中、吹雪が緊張した面もちで話し合いを始めた。
「とうとう、この日が来ました!」
私以外の3人がうんうんと首を縦に振ります。
吹雪ちゃんは言葉を続けます。
「明日は私達が実戦に行けるかどうか、決まる日と言ってもいいでしょう。」
たいへんです、凄く大切な日です!
その後、詳しい話しを聞いてみると、明日の訓練の課目、艦隊防空で少なくとも二回、標的に当てないと実戦には出られないそうです。
「でもどうするんだよぉ、俺達の主砲は対空戦向きじゃないんだせ?」
深雪ちゃんが手を頭の後ろに組んでお手上げといった風に言います。
「撃てる時間も短いですし。」
「しかも…小さくてなかなか見つからない…」
皆さん、それぞれ前の訓練で困った事を言います。 そして、士官室が重苦しい空気に包まれます。
「そこでです!」
吹雪ちゃんがその沈黙を破って立ち上がる。
「今日は我が艦隊の新しい戦力、今日素晴らしい活躍を見せたはぐろさんに対空戦のアイデアを聞いて見ましょう。」
その声にあわせて、皆さんがの視線が一気に私に集まります。
え?私ですか?うぅ、どうすればいいのでしょう、困りました。
そう思って皆さんの顔を見回して見ると、みなさん真剣な顔つきで私を見ています、何も無いなんて言えません。
そう思ってとりあえず思いついた事を口に出します。
「あ、あの、皆さんはいつもどんな風にやってるんですか?」
そうです、これがわからないと考えようにも考えられません。
四人は私がそう言うと、隣どうしで顔を見合わせて言います。
その答えは意外なものでした。
「えっと…勘?」
「見張り妖精さんの情報からほとんど勘…ですね。」
「え?勘なんですか?」
皆さんの以外な答えに驚きを隠せません。浮かんでいる船を撃つのとは訳が違います。
「もともと私達は対空戦用に作られてないんです、だから機械がないんです。」
白雪ちゃんが言います。
そうです、教えて頂きました、艦娘は軍艦だった頃の自分の能力を引き継ぐんだって。吹雪ちゃん達は対空用の指揮装置を持っていません。
困りました、私は射撃の計算を全部、計算機がやってくれますが、勘を磨くためには、かなりの数の訓練をこなす必要があります。
こんな時はどうしていたでしょうか?
艦隊での対空戦、防空の担当艦だった私が、艦隊のみんなで対空戦の事を考える、なんだか少し懐かしい気がします。
私が来た時代の対空戦闘と今の装備で使えそうな所を考えます。
しばらく考えてから、出来そうな方法を思いつきました。
「あ、あの、皆さん、成功するかわかりませんが……ちょっとやってみたいことがあります。」
私はそう言ってそのやってみたい事を皆さんに話しました。
翌朝、昨日と同じ海域で単縦陣を形成して大村からの訓練支援の飛行機を待つ5人の姿があった。
訓練の開始時間近くに、はぐろは対空レーダー、SPY-1を起動させた。
「対空レーダー、発信初めてください。」
はぐろの対空レーダーは訓練支援のために艦隊に近づく飛行機だけでなく、はるか彼方の航空機までも探知した。
探知した空中目標の中で、一つだけIFFを発信している航空機を見つけて、はぐろは笑みを浮かべる。
私の飛行科の妖精さんも朝から訓練を頑張っているようです、私も頑張らないといけません。
大村から離陸した4機の訓練支援の飛行機は丁度こっちに向かっている途中のようです。
しばらくして、飛行機が到着しました。相手は97式艦攻、後ろに1マイルの長さの縄で、標的の赤くて長い布を引いています。4機の編隊が艦隊の右舷を後ろから通り抜けて飛び去っていきます。
次にこっちに向かって来た時が訓練開始です、今日は吹雪ちゃんから始まります。
吹雪は右舷を通過した飛行機を見送って、対空戦闘の準備を始めた。
「対空戦闘用意!」
私の号令と同時に、見張り妖精さん達が艦橋に上がって来ます。対空戦闘はどれだけ早く敵を見つけて多くの弾を撃てるかにかかっています。
「対空、対水平線見張りを厳として!」
今日はどこから来るのか、前回みたいな悔しい思いはしたくない。
吹雪は前回の訓練では、かなり近づかれるまで飛行機を見つける事が出来ず、主砲を一発も撃つことが出来なかったのだ。
「今日こそは見つけて、やっつけてやるんだから!」
そう自分に言い聞かせる。
しばらく、緊張した空気が吹雪を包む、そしてその空気は見張り妖精の声で破られた。
「右150度!仰角0度!航空機2!突っ込んで来る!」
吹雪は見張り妖精さんの声を聞いてすぐにその方向を見る。
これは...近い!!
「転舵は間に合いません、後部の主砲だけで対応して!」
目標はだいたい7㎞くらい、私に到達するまで三分程しかありません。
舵を取って不安定な中で全部の主砲を使うよりも、今の安定した状態で撃った方が…。
そう判断して吹雪は射撃開始の命令を出す。
「撃ち方はじめ!お願い!当たって下さい!」
後ろの4つの主砲が一気に火を噴く。
「弾着、今!」
4つの黒煙が開く、どうやら目標のかなり上の方で爆発したようだ。
「修正急いで!」
昨日もらった計算表をもとに、だいたいの修正をする、と言っても目標の距離と速さ、高度はほぼ勘で見ているから、無いよりマシといったレベルだ。
そして第2射、第3射と続けるが、なかなか標的の近くで爆発してくれない。
「想定、航空機魚雷発射!」
飛行機がちょうど真横を通過したくらいの所で判定の妖精さんが声を上げる、もう舵を取って避ける動きをしないといけない。
「とーりかーじ」
声を出すのとほぼ同時に機関砲の射撃が始まる。
大きく舵を取ってしまうと、船の揺れで主砲の効果はほとんど期待できません、後は機関砲での戦いしか打つ手はありません。
標的の吹き流しが私の目の前を通り過ぎる。
一回目が終わった、でもぼーっとしている暇はありません、目標はもう一回来るんだから!
息をつくまもなく、すぐに見張り妖精が叫ぶ。
「左30度、仰角5度、航空機2機、こっちに来ます!」
さっきの結果を考えるより、今は次の事を考えなければ、幸い目標の高度が高い事もあって、さっきより遠くで発見できた。
「面舵一杯!全部の主砲でやります!」
吹雪の全ての主砲が左に向けられる。
「10度ヨーソロー!」
「主砲、一斉発射よ!」
定針が終わったと同時に射撃が始まる、さっきよりも大きな爆炎が吹雪の身体を包む。
「次、装填急いで!」
「弾着、今!」
遠くの空に黒い点ができる、主砲弾の炸裂だ、今度は、低いようだ。
「どんどん撃って!」
私達の主砲は、この高度に対する射撃は向いていない、撃てる今のうちにできる限り多くの弾を撃っておかないと!
何回か撃った所で主砲の妖精が「仰角最大です!」と言った、もう主砲は打ち止め、後は機関砲だけ、細い火線が何本か標的目掛け、うちあがる。
標的が私達の上を飛び去って私の訓練は終わった。
しばらくして判定が知らされる。
「機銃弾二発命中、撃墜なし!」
飛行機の妖精から結果が知らされます、良くはないですが、前より少しだけ進歩しました。
「はぐろさん、どうでしたか?」
そして昨日話し合った通りはぐろさんと通信を始めます。
「えっと…。1射目の目標は速度、240キロで、高度は30m、吹雪ちゃんは8310mから1斉射しました、2斉射目は……。」
はぐろさんから送られてきたさっきの私の射撃データをメモする。
すごい、ものすごく細かいデータです。
そして私が射撃した緒元と、さっきの飛行機との距離のイメージを重ね合わせる。
このデータを使えば、次の訓練ではもっと誤差を少なくしていける、艦隊防空も、みんなでやれば何とかなりそうだ。
吹雪は少しずつ何とかなりそうな気がして来たのだった。
携帯でやってて遅くなりました、すみません。