イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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対空射撃です。②

「みなさん、お願いします、私を守って下さい!」

 艦隊防空の訓練前に、はぐろは4人にお願いする、艦隊防空の要のはずの彼女がなぜこんなお願いをしているのか、その原因はついさっきの個艦訓練に遡る。

 

 

 深雪ちゃんの訓練が終わって、私の番が来ました。皆さんは順番を変えたりしていますが、私は昨日に引き続き最後です。初雪ちゃんが言うには真打ちは最後に登場するそうです。これまで私は皆さんに訓練が終わった後にその情報を伝える仕事をしていました。勘だけで射撃するのは難しそうですから、せめて撃った時の相手の距離や高度が正確にわかれば、勘も磨きやすいですし、次の射撃にも生かせるはずです。

 先ほどから、どこから攻撃しようかっと伺っている4機の飛行機がいますが、レーダーには丸見えです、しっかりと主砲が撃てる範囲に収めておかないと、たった一つの主砲なんですから。

 

 どうやら進入方向を決めたようです、右前からこっちに来ます。

「教練対空戦闘用意、CIC指示の目標、主砲、VT信管!」

妖精さんが昨日に引き続いて射撃の準備を進めます、もう慣れたものです。

 いつもやっていたように主砲を目標に向けようとしますが……。

 

 主砲が標的をいつまでたっても捕捉しません、おかしいです、レーダーには標的はちゃんと映し出されています。

「妖精さん、故障ですか?」

機械の故障かもしれないと思って妖精さんに聞いてみましたが、そうではないようです。試しに標的を引いている飛行機をロックしてみる、主砲の指揮装置のカメラに飛行機が映しだされます。機械の故障ではないようです。

 そうこうしているうちに標的はどんどん私に近づいてきます、何が起こったか分かりません。

 

「標的視認、右30度、仰角30度!」

 見張り妖精さんの声が聞こえます。私もその声につられて標的を見ます。

 丸くて赤い吹流しが私の上を通り過ぎます。

 

 標的を見てハッとします、捕捉しない理由が分かりました。標的は材料のほとんどが薄い布です、レーダーの反射はほとんど無いと言っていいでしょう、だから主砲の射撃管制用のレーダーが追尾できなかったようです。捜索レーダーで今まで捕らえられていたのは奇跡に近いです、なんで今まで気がつかなかったんでしょうか。

 

 第一回は何も出来ずに終わってしまいました。もうすぐ二回目も始まります、私はどうすればいいか考えます、目視で撃ってみればどうだろう?ダメです、そんなのやったことありません、しかも相手はあんなものです、信管が作動する保障はありません。CIWSの対空モードは自動なので論外です、間違いなく飛行機を打ち落としてしまいます、じゃあミサイルは?これも信管が作動する保障はありません、何より勿体無いです。

 

 でも何もしない訳にはいきません、目視で撃ってみるしかありません、それと……。

「妖精さん、二回目は主砲とCIWSを目視での射撃に切り替えて下さい!あと機関銃を出して下さい!急いで!」

 役に立つとは思えませんが、やれることはやっておかないといけません。

 

 しばらくして、二回目が始まり、もう二機が飛んで来ます、目視での対空射撃は始めてやります、正直言って当たる気がしません。

 捜索レーダーの情報を参考にして標的を必死に探します。

 

 しばらくして、ようやく見つける事が出来ましたが、その時にはもうすぐ目の前に前標的が迫っていました。

「撃ち方、始めて下さーい!当たって!」

 カメラで捕らえた目標に対して射撃を始めてみます、当たるように、弾が炸裂するように祈ります。でもやっぱり相手が悪いようで、一発も炸裂しませんでした。

 さっき急いで準備した2門の機関銃も撃ってはみますが、当たるはすもありません。

 

「命中弾なし!」

 飛行機の妖精さんから厳しい結果が知らされます、予想できたこと、とは言ってもショックは大きいです。残念ですが、私では、この標的にはとても対応出来ません。

 

 

「はぐろさん、大丈夫ですか、どこか故障しましたか?」

 心配そうな白雪ちゃんの声が聞こえます。

「すみません、心配をかけてしまって、故障ではないんですが、ちょっと相手が悪かったみたいです……。」

「そうですか…あんまり無理はしないで下さいね。」

 こんな事になるとは思いもよりませんでした、しかも、皆さんに心配をかけてしまいました。

 悔しくて泣きそうになってしまいましたが、泣いている暇はありません、訓練は続きます。

捜索レーダーで目標を捕らえられている限り、昨日話し合った作戦は使えます、まだ訓練が終わった訳ではありません。

 

「ダイヤモンド陣形を形成せよ各艦の距離は1500メートル、中央の護衛目標は、はぐろ!」

 審査する妖精さんから次の指示が来ます、成績が悪かった私は陣形の真ん中の護衛される役になりました。

 指定された陣形は、先頭が吹雪ちゃん、私の右が白雪ちゃん、左が深雪ちゃん、後ろが初雪ちゃんです。

 

 

 陣形の変更が始まりました。私を基準にして皆さんがそれぞれの場所に動き出します。

 次の訓練があるんだから、切り替えないと、と頭で思っていてもなかなかそうはいきません、私がしばらく先ほどのショックから立ち直れないでいると、吹雪ちゃんの声が聞こえました。

 

「はぐろさん!私たちは昨日の作戦通り動きます、周波数の振り分けをお願いします!」

「そう、ですね、昨日やったとおり、一緒にがんばりましょう。」

「練習どおり...やるしか...ない...」

「なにしょんぼりしてんだ、深雪さまの深雪スペシャルで守ってやるぜ!」

 

 吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃん、深雪ちゃんの、みんなの声が聞こえます、みんな成績が一番悪かった私を信じて次の訓練をやろうとしています、深雪ちゃんの言うとおり、こんなところでしょんぼりしている場合ではありません、皆さんの期待に答えないといけません。

 今にも零れそうだった涙を拭いて私はみんなに言います。

「あ、あの……みなさん、ありがとうございます、きっと上手くやってみせます。」

 一度言葉を区切ります、涙声になってしまったら困りますから。

「では、周波数を割り当てます、変更後はすぐに通信の確認をして下さい。」

「「「「了解!!」」」」

 皆さんの元気な返事が聞こえます、この訓練で私が目標を打ち落とす事は恐らく出来ないでしょう、でも、これは艦隊防空、みんなでやる訓練です、そして私は守られる役です。

「吹雪ちゃんから行きます、周波数は・・・・・・。」

 艦隊で使う共通の周波数の他に、もう一つ各艦ごとに通信できる周波数を割り振ります。通信を切る前に、守られる側の私は、みんなに言いたい事がありました。

 

「あの、みなさん、お願いします、私を守って下さい!」

 今までは守る役が多かったですが、今度は守られる側です、私は標的を変えない限り手も足も出ません、皆さんを信じるしかありません。

「「「了解!」」」「まかせとけって!」

 四人が同時に返事をしてくれます。そして通信は終わりました。みなさんの声を聞いてさっきまでの不安な気持ちは吹き飛びました。

 大丈夫です、5人で力を合わせれば、きっと合格点まで届くはずです。

 




実際には捜索レーダーが捕捉できる目標なら精測レーダーのFCSでも捕捉できる……はずだと思います。

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