イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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艦隊防空です。

 今日最後の訓練の艦隊防空が始まろうとしていた、陣形は正方形のダイヤモンド形、中央に護衛目標を配置する基本的な形である。艦隊防空と個艦防空の大きな違いは、自分に向かってくる物を撃つかそれとも別の方向に向かっていく物を撃つか、といったところである。

 この二つがどう違うか、自分にただ向かってくる物に対しては、その方向に向かって、ただ弾を撃てば、ある程度は命中が期待できる、しかし、どこか別の方向に向かって行く物に対しては、その場所、進む方向、速さを考え、予想位置に対して弾を撃たなければ命中は期待出来ない。つまり、艦隊防空となると、格段に難易度が上がってしまうのだ。

 対空戦において、この予想位置の計算は非常に難しく、相手の正確な情報、高度な予想位置の計算プログラム、それに対応した兵装が無ければ有効弾を出す事は極めて困難と言っていいだろう。実際、21世紀になった今でも、この難しさから、未だに個艦防空しか出来ない船が多く存在している。

 

 今日97式艦攻で飛んできた妖精も、その難しさは十分に分かっていた。下にいる艦隊は、まだ個艦防空も十分に出来ない発展途上の艦隊なのは、さっきの訓練を見てわかったところだ。だから、きっと今日はこれ以上の命中弾は期待出来ないだろう。そんな事を考えながら、艦隊の上で訓練開始前に別れた2機と合流し、編隊を組みなおしていた。

 

 私たちの上を4機の飛行機が飛んでいます、この4機が私たちを離れて行った時に、訓練が始まります。今日最後の訓練です。さっきは十分な結果を出せませんでしたが、皆さんは、私を信じてくれています、ここが頑張りどころです。

「航空機、直上から離れます!」

 見張り妖精さんから報告が入ります、いよいよ始まりました、ここからは一瞬たりとも気を抜けません。

「皆さん、主砲に弾を込めて最大射程で撃てるようにしておいて下さい。」

 私は指示を続けます。

「機関銃の射撃と主砲の誤差修正は各艦ごとに行って下さい、標的の位置などは各艦ごとの通信回線で確認をお願いします。射撃は基本的に一斉射撃とします。初弾の発射タイミングは私がやります、よろしくお願いします。」

「「「「了解」」」」

 四人に最後の確認をする、たった数日しか一緒に訓練していないのに、もう何年も一緒に訓練をしてきたような、そんな気がします。

 

 

 そして、しばらく沈黙が流れます、私はディスプレイに映し出されている4つの飛行機のシンボルを見つめます。高度400m、恐らく雷撃機を模擬して進入してくるつもりでしょう。

「対空戦闘用意!」

 今までで一番気合を入れた号令です、私の肩に皆さんの結果がかかっています。

 編隊が進入方向を決めたようです、艦隊の後ろから進入を狙っているようです、このまま行けば皆さんの前の主砲は使えなくなります。

「取り舵、基準進路150度にして下さい!」

 共通の周波数で針路の指示を出します。飛行機の妖精さんは後ろから来て慌てさそう、と思っているのかもしれませんが、そうはいきません。

 

「標的、私から見て060度24kmの地点を旋回中です、最初に初雪ちゃんの射程に入ります、最大距離から撃って驚かせてやりましょう!」

 そう言いながら、気持ちが高ぶっているのを感じた。

「これが艦隊で戦うって事なんですね……。」

 そう独り言を漏らす。

 

 

 

 

 通信先の声が、ずいぶんかわいらしい妖精さんの声で、緊張感を薄くさせてしまっているのが玉に傷だな、と思いながら、初雪は各艦に割り振られた通信回線に耳を済ませていた。

 この回線からは標的の情報が、数秒単位で事細かに提供されている。

 昨日すごい命中率を出した彼女が対空射撃では一番成績が悪かったのは意外だったけど、こういうのをやってると、やっぱり未来から来たんだな、と納得してしまう。

 主砲は装填済み、最大仰角に設定して、いつでも射撃できる体制、あとはタイミングを待つだけ。

「左...90度から150度、水平線くらいの高さ......よく見張って...」

 個別の回線の情報からだいたいの方向の見張りをさせる、まだ射程までにはしばらくは時間があるけど、早く見つけるに越したことはない、練習にもなるし。

 艦橋内を緊張した空気が流れる。

 

 

「航空機、標的視認!情報通りです!」

 ついに見張り妖精の報告が入る、方位の1度の狂いもなく、目標はその場所にあった。

「目標、見つけた......」

 こんなに遠い距離から見つけたのは初めて、情報があったからできたんだろう、通信機から距離がどんどん読み上げられている、さすがに飛行機は早い、見つけたと思ったのもつかの間で、

「もうすぐ初雪ちゃんの射程に入ります。」

 という通信が聞こえた、そうして妖精のカウントダウンが始まる。

「9,8,7...........3,2,1、......今!!」

 

「あたれっ」

 あらかじめ知らされていた目標の予想位置に6門の主砲を打ち込む、最大射程での射撃は誤差が大きいから、あまり期待は出来ないけど、1発でも多くの弾を撃つのが大事だ。

 

 

 

 

 

 97式艦攻に乗っている妖精は焦っていた。それは艦隊の駆逐艦が、さっきの訓練でも撃ったことがない距離で発砲してきたからだ。訓練担当の妖精は経験豊富な者が選ばれる。だから船の大きさを見ただけでだいたいの距離が分かるのだ。

「隊長!どうします?一旦解散しますか?」

 列機からの落ち着いた声が聞こえる。

 訓練したこともない距離で撃ってくる、練度の低い船によく見られる距離の見間違えの可能性が高いと思ったんだろう。

「...いや、このまま行こう。」

 今までの経験から、この距離ではほとんど弾が命中しないことは分かっている、距離を見間違えたとしても、とても自分に当たるとは思えなかった、だが撃墜されるのはゴメンだ、海水はしょっぱいんだ。

「初弾が編隊近くに炸裂したらブレイクする!」

「「「了解!」」」

 

 しばらくして初弾の炸裂音が聞こえた。

「おぉ、やるなぁ!」

 後ろで標的を見張っているヤツが驚きの声を出す、どうやら撃たれる心配は無いようだ、偶然か分からないが、有効弾とはいかないまでも割りと標的の至近で炸裂したようだ。

 決して駆逐艦の射撃速度は速くない、次の弾着で偶然か実力かどうかは分かるはずだ。

 

「2射目、来ました、修正されてます!」

 どうやら偶然ではないようだ。

 そして他の艦も射撃を始めたようで、しだいに標的周りには砲弾の炸裂の黒い煙が目立つようになっていった。バラつきはあるが、偏差射撃も修正もちゃんと出来ているようだ、さっきの短い間に何を話し合ったか知らないがずいぶん様になった射撃をしている。

 そして中央の護衛目標に指定された始めて見る角ばった船の横を通過する、この船はさっきの訓練でも二つの小さな機銃を撃ってくるだけで、艦首の大砲を撃ってくる気配がない、やる気があるのだろうか?

 

 第一回が終わって、次の進入方向に移動しているうちに標的を新しいものに変える、結果は訓練が終わってから確認だ。

「もう一度艦尾方向から進入する!高度500m!」

 列機に指示を出す、さっきはずいぶん早い段階で準備を済ませていたようだが、今回はどうだ?

 

 

 

 

 

「もう一度艦尾から来ます!面舵、基準進路240度にして下さい。」

 次の指示を聞きながら、白雪は確かな手ごたえを感じていた。今まで慌てて対応するしか術がなかった高速の戦いで、さっきの私たちの弾幕の様子を見て有効な射撃が出来ているのが分かったからだ。

 

「おもーかーじ、240度よーそろー!」

 指示通りの進路を取って次に備える、今度は私が最初に撃つことになりそうです。まともな対空装備が無い私たちが、しっかりやれている、何だかすごい瞬間に立ち会っている気がします。

「次は吹雪ちゃんと白雪ちゃんの射程にほぼ同時に入ります、濃い弾幕をプレゼントしてあげましょう!」

 はぐろさんの声が聞こえます、様子がいつもと違う気がしましたが、気にしている暇はありません。

 

「弾幕…素敵な響き…」

 一斉射撃の音と衝撃もステキですが、濃い弾幕を見るのもステキです、こんな戦いが出来るなんて、未来の力はすごいです。さっきの射撃を見て妖精さんの士気も上がってます、これはいけそうです。

「次の目標、320度30km、高度400m、進入始めました。」

 目標の状態が手に取るようにわかります、射程まで、まだまだ時間があります。

 

「305度、14km、高度400mの地点、吹雪と同時弾着」

 通信機越しの妖精さんに指示された場所に主砲を設定していく。

「10,9,8、……4,3,2,1・・・今!」

 「狙いよし。撃ち方はじめ…」

 主砲の一斉発射の音と振動についうっとりしてしまう、いつもはこんな余裕は無かったと思いますが...

 少し遅れて吹雪ちゃんが発砲する、別々の船が同じ場所に同時に弾着させる難易度の高い射撃です、今の私たちでは初弾だけで精一杯ですが、これも大きな進歩です。

 

「あぁ、素敵・・・。」

 遠くで同時に開いた12個の黒い点を見てつい声をもらしてしまった。

 

 

 

 

 

 さっきのは偶然じゃない!

 訓練2回目になり、艦隊に進入している真っ最中だった妖精は驚きと共に最初の弾幕を迎えた。見つからないように、いつもより少し遠くまで離脱したにも関わらず、向かっていった時には完全に準備を完了した状態の艦隊があった。そしてこの初弾である、2隻からの同時弾着、そこからの正確な射撃、1回目が偶然だとはもう言えなかった。

「こいつらホントにさっきの艦隊なんですかね?」

 さっきの、とは個艦防空の時の事を言っているんだろう、真ん中の席のいつも生意気なヤツが聞いてくる。それは今、この編隊にいる全員が思っている事だろう。

「余計な事は考えるな、今は訓練に集中しろ。」

 そうは言ったものの、この変化はさすがに気になる、真ん中の船は相変わらずダンマリを決め込んでいるようだが、それがさらに不気味さを増している。最初はやる気があるのか、と思っていたが、雷撃機乗りの本能が、何となく真ん中のコイツはヤバい、そんな空気を纏っている。今までの射撃もそうだが、出来れば、この艦隊には突っ込みたくない、そんな風な感情を抱かせる。

 艦隊上空を通り抜ける、第二回が終了だ。

「この艦隊の実力は今見た通りだ、今度は二手に分かれて進入するぞ!」

 編隊に解散の指示をだす。

「ちょっと待って下さい、今日は練成訓練じゃなかったんですか?」

 列機から困惑した返事が返って来る、それも当然だ、二手に分かれて進入するのは練成訓練の域を超えて実戦的な訓練になる、だが......。

「今のを見て分かったろ、下の艦隊は十分な技量を持っている、やっても問題ない。」

 訓練の内容は艦隊の練度に合わせて編隊長に一任されている、変更しても問題は無い、下の艦隊への連絡手段は無いが。

「行くぞ、二方向同時進入、下手を打つんじゃねえぞ!」

 そう言って手信号で進入先を指示して編隊は二手に分かれた。

 

 

 

 

 はぐろCICでは、いち早くその変化に気がついた。

「目標が......2つに分かれました。」

 訓練の内容を見るが、そんな予定は無い、でも明らかに次の進入場所に向かっているようです。

「皆さん、相手は二手に分かれました、注意して下さい、深雪ちゃんの方向から2機ずつ来ます。」

そう注意を促す。

「これは...」

「…相手も本気ですね。」

 初雪ちゃんと吹雪ちゃんから少し考え込むような返事が返って来ます。

 相手の動きを見ると、どうやら訓練は続いているようです、今度は吹雪ちゃんと深雪ちゃん、深雪ちゃんと初雪ちゃんの間からの進入を狙っています。

 今までの訓練で分かりましたが、通信機を使っての声でのやりとりは、かなりの労力が必要です。しかも、射撃の計算は、電子計算機と妖精さんの力を混ぜたような複雑な行程をこなさなければいけません。4隻の船への情報提供だけでも大変なのに、これ以上目標が増えると...。

 はぐろはデータリンクの有難さを身にしみて感じていた。

 そして、今出来る範囲で一番効果的な方法を考える。

 

「吹雪ちゃんと白雪ちゃんは基準進路300度、吹雪ちゃんと深雪ちゃんの間に入る目標に対処して下さい、これをAと呼びます、深雪ちゃんと初雪ちゃんは基準進路240度、深雪ちゃんと初雪ちゃんの間を通る目標に対処してください、こっちはBと呼びます。」

 一つの通信回線では、二つの目標の詳しい情報はあげられません、練習もしていません。ですから、陣形を崩してでも、2隻ずつに分けて個別に対応してもらいます。

 返事はありませんが、皆さんがほぼ同時に変針するのが分かります。もう細かい指示は必要無さそうです。

「A、B、間もなく深雪の射程圏内!」

 妖精さんから緊張した声がCICに響く、深雪ちゃん、お願いします。

「3、2、1......深雪、Bに発砲!」

 CICにいると、僚艦の音は全く聞こえません、弾着場所の計算はしますが、後は皆さんの修正によるところが大きいです。各艦と個別に通信をしている妖精さんを見ます、目標のシンボルを追いかけながら、射撃する場所を秒単位で計算して通信をする、かなりの重労働ですが、上手くいくかどうかは、この4人の妖精さんにかかっています、頑張って下さい。

「続いて吹雪、初雪射撃開始……白雪射撃開始!」

 次々に射撃開始の報告が入ります、これで4隻すべての射撃が始まりました、後は当たるように祈るだけです。

 

「深雪、射角限界!目標A,B、間もなく吹雪、深雪、初雪のラインを突破!」

 ここまで来ると、後は私の機関砲の出番です、今までただ指を咥えて見ていた訳ではありません、そろそろCIWSの目視の射撃のコツが掴めて来ました。

「標的、来ます!射線方向クリアーです!」

 CIWSのカメラが一つの吹流しをようやく捕らえます。

「三度めの正直です、撃ち方、始めて下さーい!」

 ようやくCIWSを撃つことが出来ました。CICに重低音が響きます。火線が一瞬標的に交差した気がしました。

 

 「目標、直上通過!射撃止め!訓練終了!」

 審査の妖精さんからの声です、長かった今日の訓練が終わりました。後は結果を待つだけです。

 

 しばらくの間重苦しい空気が流れます、せいいっぱい頑張りました、これでダメだったら立ち直れない気がします。

「結果を伝える...」

 飛行機からの声です、もったいぶらずに早く教えて下さい。

「結果、4機撃墜、2機被弾、有効弾多数。」

 妖精さんから言われた結果を頭の中で繰り返す。

 4機撃墜、2機被弾、有効弾多数、4機撃墜、2機被弾、有効弾多数。

 これは......。

 

「やりましたぁ!はぐろさん!やりましたよ!」

「ざぁっとこんなもんだ!楽勝だなぁ!」

「作戦成功...ほんとは得意だし…こういうの」

「次はもっと濃い弾幕が張れそうですね...」

 皆さんの興奮した声が聞こえます。

 そうです、合格です、予想以上の結果です!皆さんも自信が持てたようで何よりです。

 私は足から力が抜けて、その場にへたり込んでしまいました。楽しかったけど、とっても疲れました、しばらく立てそうにありません。

 

 

 

 

 

 訓練が終わって標的をしまった四機の飛行機は編隊を組みなおしながら話しあっていた。

「特型の四隻だよな?間違いなく...」

「ああ、間違いない、だが結果が全てだ。」

 まともな装備を持っていない船5隻の結果とは思えないが、結果が全てだ、そして撃墜判定とした標的のうちの一つは機関銃弾が何十発も命中していて、始めて見る撃たれ方だ、どう上に報告すべきか...

「隊長、そろそろ燃料がマズいです、帰りましょう。」

 航法担当のヤツの声に現実に引き戻される、練成訓練と甘く見ていたが、少し楽しみすぎたようだ。

「よし、帰投する、最後にローパスだ、ちょっと驚かせてやるぞ。」

 新しい艦隊と聞いていたが、今日は驚かされる事ばかりだった、最後に少しは驚かせてやらないと釣り合わん。編隊長の妖精はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 訓練を終えて、再び単縦陣を組みなおした五人は訓練の開始場所に戻っていた。

 さっき上空を離れていった飛行機はきっと基地に帰ったんでしょう、艦橋で見送ろうと思ったんですが残念です。

 レーダーの発信をやめて、ついさっき艦橋に上がって来たはぐろはちょっと残念に思った。

「飛行機、見たかったな...」

 そう独り言を漏らして、椅子に座っていると、ふいに、見張り妖精が驚いた声を上げる。

「右170度、航空機4機、高度は!...5メートル、いや、海面にくっついています!」

 海面にくっついている?見張り妖精の言っている意味が分からず、とりあえず旗甲板に出てみる。

 

 4機の飛行機はちょうど最後尾の吹雪ちゃんの横を通り過ぎた所でした......。驚きです、妖精さんの言うとおり確かに海面にくっついているみたいです、乾舷よりも低い高さを飛んでいます。

 飛行機は次々と私たちを追い越して、一番前にいる私の所にまで来ます。一瞬、操縦している妖精さん以外の後ろの席の二人が楽しそうに手を振っているのが見えました。私の時代のミサイルより、どの飛行機よりも低い高度を飛んでいます、物凄い腕です。

 

 先頭の私の横を通り過ぎた4機の飛行機は一気に高度を上げて一度だけ大きなバンクを振って帰って行きました。私たちはその飛行機が見えなくなるまで見送りました。そうして今日の訓練は終わりました。

 今日はいっぱい頑張って、とっても疲れました。

 

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