イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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雷撃訓練です。

 一週間あった訓練も、ついに最終日になりました。朝に、呉から標的を持ってきてくださった鹿島さんと会合します。吹雪ちゃんたちは朝から気合十分です。でも、私には船を攻撃するための魚雷がありません。そのことを鹿島さんに言うと、船を攻撃する魚雷を積んでいないことに驚かれ、私は鹿島さんに特別な任務を与えられました。

 

 

 

 

「みんな、準備はいい?」

「いいですよー。」

「うん...」

「よっしゃ、いくぞ!」

 

「みなさん、がんばってください!」

 準備が終わった四人を応援します。四人が魚雷の訓練をしている間、私は練習用の標的を引く仕事を鹿島さんから任されました。

 私もみんなと訓練がやりたいのですが、今回はあきらめるしかありません。

 私から数マイル離れた所で吹雪ちゃんたちが単縦陣で一気に最大戦速にまで加速します。この時代の駆逐艦の最大の武器、魚雷を打ち込むために、右に左に小さく回避運動をしながら標的に接近していきます。

 当たったかどうかの判定と、訓練の評価は標的に乗っている妖精さんがやってくれるそうです。私は標的を引っ張って鹿島さんに教えられたとおりに動くだけです。

「すごいです、皆さんかっこいいです・・・。」

 攻撃のために最大戦速で一気に近づいてくる4隻の駆逐艦の姿は圧巻です。実際の戦いだと、きっと相手も攻撃してくるでしょう。魚雷攻撃に行き着くまでの駆逐艦の勇気がどれだけ凄いか、訓練を見て改めて実感します。

「取り舵いっぱい!」

 先頭にいた吹雪ちゃんがいっきに舵をとって標的の横に並び、

「もどせ、053度よーそろー!」

 魚雷の射点に滑り込みます、後ろに続いているみんなも吹雪ちゃんにぴったりとくっついています。

「もう、すこし......今だ!酸素魚雷、一斉発射よ!」

 吹雪ちゃんの号令と同時に、魚雷が発射されます。4隻の息の合った雷撃は、すごくかっこよくて、しばらく見惚れてしまいました。

 

「私も・・・あんな魚雷が欲しいです。」

 みんなの姿を見て、ついそんな言葉を漏らしてしまいます。

 重巡洋艦だった頃には魚雷を持ってはいましたが、ほとんど使う機会がありませんでした。そして、時代が変わって、私が護衛艦に生まれ変わった時には、もう船を攻撃するための魚雷は潜水艦しか持っていませんでした。でも、装備を持っていないといっても、今までずっと同じ訓練をしてきたみんなと別なことをやらないといけないのは少しさみしいです。それに、あんなにかっこいいんです、私もいっしょにやりたいです。

 そう思って自分の艤装を見てみますが、もうあんな大きな魚雷を積めるスペースはありません。残念ですが、みんなが積んでいるような魚雷はあきらめないといけません。

 気持ちを切り替えて、標的を引っ張ることに専念します。少しでも吹雪ちゃんたちが訓練をしやすいようにしないといけません。鹿島さんから任された特別な任務でもあります。

 

 

 

 

「なぁ!深雪さまの活躍、見てくれた?」

 訓練を終えて、最後に先頭で訓練をしていた深雪ちゃんが笑顔で言います。

「はい!皆さん、本当に、すごくかっこよかったです!私も皆さんみたいな大っきな魚雷が欲しいです!」

「えへへ、かっこよかったって!」

 私が正直な感想を言うと、深雪ちゃんが照れくさそうに鼻先をかきながら後ろの三人を振り返ります。吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃんもたくさん魚雷が撃てて満足そうです。今日の訓練は、先頭の船を交代しながら、合計3回の魚雷の発射訓練でした。訓練の結果は、後で鹿島さんに聞かないとわかりません。

 鹿島さんは私に標的を渡した後に、終わった時と、何かあったら時は連絡するように言って、どこかに行ってしまいました。

「鹿島さん、終わりました。」

 水平線を見渡しても、鹿島さんの姿が見えないので、通信で呼びかけてみます。

「了解、今からあなたの訓練を始めるわ。」

 鹿島さんの返事がどこからか聞こえます。でも、鹿島さんの姿はどこにも見えません。鹿島さんを探そうと、レーダーを使ってみます。

 

 見つけました、ずいぶん遠くに行ってしまったようです。軽巡洋艦ほどの大きさの目標が、後ろに小さい何かを引っ張っているみたいです。

「どう?どこにいるかわかった?」

「はい、見つかりました。」

「今、私が引いている目標を、どんな方法でもいいから攻撃してみなさい。」

 鹿島さんが言います。

 予定になかった訓練です、私だけ吹雪ちゃんたちと試験の内容が大きく違います。きっと鹿島さんが、魚雷を持っていない私を気遣って、何か使える武器の練習をしなさい、と暗に言っているのかもしれません。

「どう、できる?」

「わかりました、やらせてください!」

 みんなが頑張っているのに、私だけ今日は標的を引っ張るだけ、なんて嫌です、

 主砲の攻撃には少し遠すぎます、ここは...。

「対水上戦闘用意です!」

 目標はギリギリ対水上レーダーの届く範囲にあります。主砲はつい先日使ったので、今まで訓練でもほとんど撃ったことがない武器を使ってみる事にします。

「鹿島さん、標的から離れていてください、危ないです。」

 私が使おうとしている武器、SSM-1Bは、目標に近づくと自動で目標を追いかけます、近くにいると危ないです。水中は進みませんが、水面すれすれを飛ぶので、少しは魚雷に近いはずです。

「わかったわ、標的を切り離すわよ。」

「はい!」

 外を見てみると、やりとりを聞いていた四人が、どんな武器が飛び出すのか、期待を込めた目で私を見つめています。きっと驚いてくれるはずです。

「目標は鹿島さんの後ろの標的です、鹿島さんが安全なところに移動したら攻撃を始めてください!対艦ミサイルを使います!」

「了解!CIC、指示の目標、対艦ミサイル、発射弾数一発、諸元入力開始。」

 あまり対艦ミサイルを撃った経験はありませんが、性能がいいのできっと当たってくれるはずです。妖精さんが発射諸元を入力していきます。

 レーダーの画面を見て、鹿島さんが安全な距離まで離れるのを確認します。

 

「鹿島、安全圏に離脱!」

「攻撃、初めてください!」

 船体のうしろ半分が、まばゆいオレンジ色の炎と煙につつまれ、真っ白なミサイルが白煙を引きながら、青い空をバックに太陽の光を受けて、きらりと光ります。

 

 

「雷撃戦って、これでいいのかしら・・・?」

 めったに撃たない対艦ミサイルを見て、そんな事を言ってしまいます。魚雷に少しでも近い武器をと思って使いましたが、飛んでいったミサイルは、よく考えるとやっぱり魚雷とはぜんぜん違います。

 

「鹿島さん、攻撃しました、命中は4分後です。」

 ミサイルが無事に飛んでいったのを確認して、鹿島さんに命中の時間を知らせます。途中までは私がミサイルを誘導しますが、最後に当たるかどうかはミサイル任せです。相手は止まっているので私が出来る事はもうありません。

 周りをみてみると、吹雪ちゃんたちが私をぽかんと見つめています。私は皆さんの期待に答えられたでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿島さん、訓練終わりました。」

 はぐろ、という船から通信が入る、この間水上射撃で信じられない命中率をたたき出した船だ。

 一度、呉に帰った時に佐世保鎮守府にも問い合わせてみたが、何かを隠している、というわけではないけど、何か説明に困っているようだった。そして、ようやく零した言葉が、「未来から来た艦娘だ」という一言、最初はふざけているのかとも思ったけど、あの司令がそんな事をする、というのも考えにくい。

 対水上戦の様子、対空戦、そして対潜戦の急激な成績の向上に目をつけた鹿島は、司令にその船の事を話した。

 そして、決め手になったのがイー19か呉に立ち寄った時に他の艦娘に話した、潜水艦を魚雷で倒す巡洋艦の話だ。その時にはすでに呉から出航していた鹿島に「未来から来たかは別にして、相手の能力をできるだけ測れ」と指令が来たのだった。

 正直に言うと、自分の任務からは少し離れている気がして、気が乗らなかったが、自分もあの船には興味があったので、その命令に従うことにした。

 艦隊が見えなくなるまで遠くに標的を持っていった鹿島は、雷撃訓練終了の報告を受けると、はぐろに、別の訓練を行う、と言った。今、目標は目視で発見できる距離にはない。もし、目標を発見出来たなら、目視以外の高性能な観測手段を持っていることになる。

「どう?どこにいるかわかった?」

「はい、見つかりました。」

 すぐに見つけたという答えが返ってくる、あっさり見つかってしまった。索敵能力は段違いらしい。

「今、私が引いている目標を、どんな方法でもいいから攻撃してみなさい。」

 そして、はぐろに自分が持っていった標的を、どんな武器でもいいから攻撃するように言った。

「どう、できる?」

「わかりました、やらせてください!」

 迷いのない返事が返ってくる、果たしてどんな攻撃を見せてくれるのか。そのあと、危ないから離れてください、と言われ、標的を手放して目標から離れる。見張り妖精には、はぐろがいると思われる方向をしっかり見張るように指示を出し、同時に記録のためのカメラまで準備した。

「鹿島さん、攻撃しました、命中は4分後です。」

 しばらくして攻撃した、と連絡が入った。時間から考えて、目標に全く近づく事なく攻撃できる武器を持っているんだろう。そして、命中することを確信しているような口ぶりだ。

「全く、なんて規格外...。」

 そんな言葉が漏れる、未来から来た、といった話もあながち嘘ではないかもしれない。

「4分後に何か来るわ、しっかり見張って!」

 そう妖精に指示を出す、最も、あの距離から4分程度で到着する武器を発見出来るかどうかは別問題だが...。

「せめてどんな武器か聞いとくべきだったわ。」

 方向がわかっていても、上からくるのか、下からくるのかわからないと、見張りもやりにくい。

 

 

 

 

「海面から何か出てきました!現在上昇中!標的に向かっています!」

 もうすぐ4分が経過する、といった頃に見張り妖精の一人が声を上げる。見張り妖精が見つけたのは、対艦ミサイルが目標の手前でホップアップする瞬間の様子だった。

 鹿島は、妖精が指差す方向を見る、白い棒のような物をかろうじで見つけることが出来た。急上昇した棒は、その後、ものすごい勢いで急降下し、標的に命中、標的を粉々に粉砕した。

 

 

 粉砕された標的をしばらく呆然とながめていた鹿島だったが、すぐに正気に戻って指示を出す。

「カメラをすぐに現像して!さっきのを見た妖精は見たままをレポートにして提出しなさい!」

 その言葉に、今までシンとしていた後甲板が一気に慌しくなった。

「まったく、すごいのが来たわね。」

 遠くに浮いているバラバラになった標的を見てつぶやく。

「イー19のこともあるし、あの子のことがみんなに広まるのも時間の問題ね、未来から来た艦娘か、どうなることやら......。」

 いつの間にか佐世保の司令の信じがたい話を信じてしまっている自分がいて、ちょっと笑ってしまった。

「でも、信じざるを得ないわね、あんなのを見せられたんだから。」

 まだ第11駆逐隊と合流するまでには時間がある、今のうちに司令に提出する、あの船の報告書をまとめておこう。記憶が新しいうちにまとめておいたほうがいいものが出来るはずだ。

 そう決心して、鹿島は報告書の作成に取り掛かった。

 




 時間がなかなか取れません、内容薄くてすみません。

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