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23話を22話に統合しました。
「500前!」
妖精さんがジャイロコンパスの方位線を見ながら投錨する場所までの距離を読み上げていきます。
「300前!」
「200前!」
「100前!」
「両舷停止!」
船の行き足がしだいにゆっくりになります。
「50前!」
「間もなく投錨点、よーい、テー!!」
「錨、入れて下さい!」
妖精さんの合図に間一髪入れず、号令をかけます、甲板の錨を止めてあるストッパーが外されて、錨が勢いよく滑り出します。
「投錨、所定錨位!」
妖精さんから報告が入ります、上手く錨を落とせたようです。
「わかりました、明日の準備を始めて下さい。」
魚雷の訓練が終わって、私たちの一週間の訓練はようやく全て終わりました。
鹿島さんは、私の訓練のために、はるか遠くに行ってしまっていたので、訓練の結果は、また後日司令官を通して知らされる事になりました。
訓練の終わりを知らされた私たちは佐世保に針路を取って、湾外で仮泊をすることになりました。
そこで、明日の入港のために、海風に晒されて、錆びてしまった場所に色を塗ったりして、艤装を綺麗にしておきます。
そうして、みんなの準備がひと段落したところで私のところに集まって、少々早いですが、無事に訓練が終わったお祝いをしよう、ということになりました。
「よーし、深雪さま一番乗り!」
深雪ちゃんが元気に舷梯を登ってきます。その姿を見て笑みがこぼれます。
そのあと、皆さんが次々に私の艤装に集まってきます。なんだか出会ったあの日を思い出します。あの日はまさか窓から入って来るとは思いもよりませんでしたが。
そうして、集まってきてくれた皆さんを案内します。もうお祝いの準備は終わっています。そうして、みんなでテーブルを囲みます。
「では、少々早いですが、訓練の終わりを祝って」
「「「「「せーの、かんぱーい!」」」」」
みんなが一斉に瓶を開けてラムネを口にします。今日は私も合わせることができました。
「訓練、お疲れさまでした!」
吹雪ちゃんがそう言って、お祝いは始まりました。昨日いただいたお菓子と、入港前ということで、ぜんざいを用意しておきました。甘いものばかりだと飽きてしまうので、お茶や、頂いたお菓子の中に入っていたお酒のおつまみを少し出しておきました。
みんなでお菓子やぜんざいを食べながら、訓練であったことや、帰ったらどうしよう、といったお話をしていました。
「はぐろさん、今日使った武器は何だったんですか?」
「あ、それ私も聞きたい!」
白雪ちゃんの言葉に、深雪ちゃんが興味深深といったふうに体を乗り出します。私の武器は期待通りの働きをしてくれたようです。
「えっと、あれは私が来た時代の一番大切な武器の一つです。えっと、名前はミサイルって言います。」
みんな興味深そうに聞いています。
「そう・・・ですね・・・分かりやすく言えばロケット・・・噴進砲の弾が追いかけて来ます。」
「ロケットが......」
「追いかけて来る?」
白雪ちゃんと吹雪ちゃんがよくわからない、といった風に首をかしげます。えっと、どう説明すれば分かりやすいでしょうか?
しばらく考えて私はいい方法を思いつきました。
「少し待っていて下さい、いい物を持って来ます。」
私はある本を取りに行きます。
「皆さん、一緒にこれを読みましょう!」
私が持ってきた本には私が進水したその日の姿がカラーで印刷されています。
「「「「世界の艦船!?」」」」
私が持ってきたのは、世界の艦船○○年、○○月号です。昔、乗組員の方が買ってきて下さった私の特集号で、表紙を見た四人は表紙のタイトルを読んでぽかんとしています。
この本には、私の艤装が隅々まで紹介されています。絵や写真も沢山あって分かりやすいはずです。本になっている自分を見るのは少し恥ずかしいですが。
「えっと、今日使った武器は・・・ありました!」
私はその本を使ってみんなに自分の事を教えました。
説明をしながら、ページを進めていくと、日本初のイージス艦のこんごうの写真があるページにさしかかりました。
「この船が私の大本になった船です。」
「へぇ~、はぐろさんに似てますね、名前は…[こんごう]ですか、戦艦に同じ名前の方がいますが、もし、はぐろさんみたいに艦娘になったらどうなるんでしょうね。」
「ええっと、そうなると、この船は私の大先輩になります、きっと立派でかっこいい艦娘さんだと思います。アメリカさんの協力をもらって日本で始めて作られたイージス艦です。」
「はぐろさんは米国の人を見たことありますか?」
米国の協力、という言葉で少し驚いたのでしょう、吹雪ちゃんが私に質問します。
「あるにはあるんですが、私に乗ってくることはほとんどありませんでした、えっと、私の米国の人の印象は......体が大きくて、お肉やコーヒー、ハンバーガーが好きな人......といった感じでしょうか?」
私に1度だけ乗ってきた米国の士官は、コーヒーとハンバーガーをよく食べていました、あんまり知りませんが、きっとこんな感じです。
「ハンバーガーとコーヒー……この世界の金剛さんは確かティーパーティーが大好きな方だったと思いますが……金剛さんは金剛さんでもコーヒーとハンバーガーが大好きな金剛さんですね。」
吹雪ちゃんの一言でしばらく沈黙が流れます。皆さん、艦娘としていらっしゃる金剛さんを思い浮かべているんでしょうか?
「.........ぷっ」
ふいに初雪ちゃんが吹き出します。
「初雪ちゃん、失礼だよ、金剛さんは私たちの大先輩だよ!」
「だって......金剛さんが...「ヘーイ、みんな、コーヒーの時間デース!」ってハンバーガー片手に......ぷぷっ」
「コーヒーにハンバーガー………あははは、お腹痛い~!」
深雪ちゃんが笑い転げます。
「ちょ、ちょっと、深雪ちゃん、笑いすぎ………クスクス」
初雪ちゃんが吹き出したのを引き金に深雪ちゃんと白雪ちゃんが笑います。そうして、みんな笑い始めました。金剛さん、きっとすごくいい人なのでしょう、その人の事で、みんなこんなに楽しそうに笑えるんですから。いつか会ってみたいです。
みんなが落ち着いた後に、またページを進めます。そのたびに、みんなの驚きの声や笑い声が上がりました。そうして時間が過ぎていきます。
「あ、もうこんな時間です。」
吹雪ちゃんが時計を見て言います。それにつられて時計を見てみると、もう寝る時間です。つい話しこんでしまいましたね。
「皆さん、もう遅いので今日は泊まっていって下さい。」
私は皆さんに泊まるように勧めます。暗くて危ないのと、もう皆さん、入港の準備もほとんど終わってしまっているので、快く受け入れてくれました。
みんなの寝る場所を準備して、部屋に案内します。みんなを案内し終わった私は、少し夜風に当たろうと、艦橋に上がります。空にはいつもの星空と、陸には、所々町の明かりが揺れています。
しばらく、星空と町の明かりを眺めていると、軽い足音が近づいてきます、誰か上がってきたのでしょうか?そう思って後ろを振り返ります。
「吹雪ちゃん・・・。」
上がってきたのは吹雪ちゃんでした。
「どうしたんですか?寝られないんですか?」
「えっと・・・少し星を見ようかな、と思って。」
そう言ってはにかみながら、吹雪ちゃんは私の隣に立って空を眺めます。
「そうですか、私と同じですね。」
私も同じように空を見上げます。そうしてしばらく沈黙が流れます。聞こえるのは、波が艤装に当たる音だけです。
「あの……」
「なんですか、吹雪ちゃん?」
しばらくして、吹雪ちゃんは、少し不安そうな声で話し始めます。
「私、今日のはぐろさんの武器を見て、同じ艦隊なのに、まだ何にもはぐろさんの事を知らなかったんだなって。」
「それで、さっきの話を聞いて、はぐろさんは、私たちとは違うすごい武器を持っていて。」
「つい、思っちゃったんです、私達は役に立てるのかなって・・・。」
吹雪ちゃんの瞳が私を見上げます。きっと勇気を振り絞って聞いてくれたハズです、私もちゃんと答えを返さないといけません。
「……確かに、そうかもしれませんね。」
「私は音の速さを超える飛行機だって倒せます、目では見つけられない遠くの船だって攻撃できます。そんな戦いの中で、70年前の軍艦なんて足手まといにしかならないでしょう。」
「やっぱり、そうですよね……。」
吹雪ちゃんは寂しそうに俯きます。
「でも、それは70年後の未来で戦うならの話です。」
「え?」
「私はこの姿で沈んで、何故かこの世界に来ました。そして、みんなと出会って艦娘として深海悽艦と戦う事に決めました。」
「吹雪ちゃん、深海悽艦は全部でたった数隻の船ですか?それともたった百機くらいの飛行機ですか?」
「いいえ…。」
吹雪ちゃんは、ふるふると頭を左右に振って答えます。
「私ひとりで戦えるのは、たったそれだけの相手です。私だけで戦える相手なら、きっともう深海悽艦は全滅しています。だって、艦娘には吹雪ちゃんや、白雪ちゃん、深雪ちゃん、初雪ちゃんみたいな強い子がたくさん、いるんですから。」
「そんな、私達は、まだ駆け出しで、性能も良くないです、全然強くないです!!」
吹雪ちゃんは少し強い口調で私の言葉を否定します。
私は、吹雪ちゃんの方に向き直って、手を取って、私の正直な気持を伝えます。
「いいえ、強いです!」
「どうして、そんな風に言えるんですか…。」
不安そうな瞳が私を見上げています。
「対空戦で手も足も出なかった私を信じてくれました、対潜戦では、みんなで作戦を立てて、協力して最後まで戦うことが出来ました、みんなが弱いなら、そんなことは出来なかったハズです、違いますか?」
「でも……。」
「吹雪ちゃん、訓練でわかったんですが、私達の艦隊には昔みたいに作戦を考えてくれる参謀も司令官もいません。武器を使うのも、作戦を立てるのも私達です。だから、一人よりみんなで考えたほうがいい方法が思いつくハズです。」
「それに、今日のみんなは、強そうで、とってもかっこよくって、本当にステキでした。こうやって大戦艦を倒すんだなって。私は、あの攻撃が役に立たないなんて思いません。」
「戦いは、きっと思いもよらない事の連続です、必ずみんなの武器が役に立つ時が、戦艦をやっつける時が来ます!」
「私の攻撃で…戦艦をやっつける……出来るでしょうか?」
「出来ます、私を信じて下さい、だって私は未来から来たんですから。」
「はい!」
吹雪ちゃんの顔に笑顔が戻ります、一隻で戦えるほど、海での戦いは甘くはありません。訓練の結果が合格なら、私達は実戦に参加することになります。途方もなく広い海を舞台に、相手の力も数も分からない中で、一緒に考えてくれる、一緒に戦ってくれる仲間は多いほうがいいに決まっています。
「もう、寝ましょうか、明日も早いです。」
私は、下の甲板に降りるためのドアを開けました。すると、扉の向こうから、勢いよく何かが倒れこんで来ました。
「痛つつつつ…」
「重い...」
「あはははは、今晩は、はぐろさん。」
暗くてよくわかりませんが、3人が折り重なっているようです。
「皆さん、何してるんですか?」
不思議になって聞いてみます。
「えっと・・・、星を見に?」
「そうそう、星を見に!」
「そうなんですか、私達は今降りる所だったんです。」
「みんな~、何やってるのかな?」
私達がそんなやり取りをしていると、後ろから吹雪ちゃんのいつもより少しトーンの低い、鳥肌が立つような声が響きました。
「ごめんなさい!ちょっといい雰囲気だと思って盗み聞きしてました!」
吹雪ちゃんの一言で、深雪ちゃんはすぐに洗いざらい話してしまいました。
「全く、ほら、立って!」
吹雪ちゃんは呆れたように言って、折り重なって倒れている三人を起こし、私の近くに集まります。そうして、一人一人、右手を前に出して重ねていきます。
「ほら、早く早く!」
みんなの瞳が私を見つめます、私もみんなに習って、右手をみんなの手に重ねます。
「えっと・・・いつか、みんなで大戦艦をやっつけましょう!!」
「「「「「お~!!!」」」」」
そうして、訓練の最後の夜が更けていきました。
次の日、眠気まなこで起きてきた皆さんを見送って、しばらくすると、鎮守府からのメッセージを受け取りました。
「鎮守府より入電、[第11駆逐隊は逐次抜錨せよ、0900以降入港許可、入港順序、はぐろ、吹雪、白雪、初雪、深雪の順、繋留岸壁はE-3、なお、本日出航する艦隊あり、注意されたし!]以上です。」
「わかりました、抜錨しましょう、前部員錨鎖つめかた、令します。」
前甲板で、妖精さんがあわただしく動き始めます。
佐世保湾に出入りする時は、どうしても狭い水道を通らないといけません、その狭い場所で船同士がすれ違うと危ないので、入港の時間を決められたりします。
私達が入港の時間を指定されたのも、出港する艦隊を港外で待つためでしょう。。
港外で待っていると、半島の影から、巨大な灰色の艦首が現れました、そして、主砲、艦橋、煙突、艦尾、と、次々にその巨体を現していきます。まるで島のよう、と言っていた人がいましたが、本当に的を得た表し方です。
今も昔も変わらない、私達の憧れの大戦艦…。
「第三艦隊旗艦、戦艦武蔵に敬礼します!」
久しぶりに見る大戦艦の迫力に圧倒されていましたが、妖精さんの声を聞いて我に返ります。
船同士の敬礼は、艦尾に立てている旗を少しだけ降ろして、相手が答礼すると、元に戻す、ただそれだけです。しっかり見ていないとわからないくらい、動きが小さいです。気づいてくれるといいんですが。
「武蔵、答礼します!」
気づいてくれたようです。
「武蔵から、発光信号、内容は[コウナイ、ナミカゼヨワイモノノ、ユダンスルコトナイヨウニ]です。」
でも、私は武蔵さんから送られた信号より、武蔵さんの後ろに続く船を見て、固まってしまいました。
後ろに続く船は、重巡洋艦妙高、重巡洋艦だった頃の私のお姉さん……。
あの艤装の中に艦娘になった姉さんがいる・・・。艦娘になった姉さんはどんな人なんだろう、会いたいです、会ってお話がしたいです、こんな事があったんだって。
でも、今の私の姿では、気づいてくれないでしょう、受け入れてもらえるかどうかも分かりません。それに、相手は任務中です、私が勝手なことをすれば、迷惑をかけてしまいます。
嬉しさ、寂しさ、不安、色々な感情が頭の中でぐるぐる回って、その感情が、いつの間にか涙に変わっていました。
私はすぐ隣を通り過ぎるお姉さんを、しばらく、ただ呆然と見送ります、
「はぐろさん、武蔵さんに、いえ、お姉さんに返事を返してあげて下さい。」
白雪ちゃんの優しい声で私は我に帰ります。今、何もしないと、後悔することになるかもしれません、吹雪ちゃんの昨日の姿を思い出して、ほんの少し勇気を貰います。
「妖精さん、返信を、[気を付けて入港します、また・・・どこかで・・・・・・会いたいです。]送って下さい。」
妖精さんが返事を送ります、私の返信に武蔵さんは返事をしてくれました、私の返事を姉さんは見てくれていたでしょうか。
「よかったんですか?あれだけで・・・。」
「白雪ちゃん…。いいんです、今は迷惑になってしまいます。それに……みんな海で繋がっています、航海を続ければ、きっと、どこかで会える日が来ます。」
「海で繋がっている、ですか。」
「いい事言うね~!」
「さあ、行きましょう、今日は私が一番です。」
武蔵さんの艦隊が出航した後、私達は入港を始めました。私はみんなにちょっとだけ嘘を付きました、本当は姉さんが今の姿の私を受け入れてくれるか、不安だったんです。
「「「「「第11駆逐隊、ただ今帰還しました!」」」」」
あの後、無事に入港作業を終わらせた私達は、揃って司令官の所へ向かいました。
「おお、帰ったか、ご苦労さん。」
「お茶でも、と言いたい所じゃが、訓練の結果が気になる所じゃろう。」
司令はそう言って一つの封筒を開け、中の紙を読み始めます。
「第11駆逐隊、今回の訓練の結果を……」
私を含めたみんなが息を呑みます。
「合格とする。」
「やった!」
深雪ちゃんが言葉をもらします、私も合格のその言葉を聞いてホッとします。
「ただし!!」
司令が少し厳しい口調でうかれそうになった私達を制します。
「個艦の練度、一部科目の結果を鑑み、しばらくは後方任務にあたってもらう。」
「名称を第11護衛艦隊とし、後日、臨時に1隻の艦娘が配属される。」
「今後の第11護衛艦隊の今後の任務についてはその艦娘が到着し次第示達する、到着予定は3日後。」
「それまで、第11護衛艦隊には二日間の休養を与える、以上。」
結果と、これからの事を伝え終わった司令官は私達の目を順々に見て言います。
「まずはおめでとう、と言っておこうかの。」
「今後の任務はさっき言った通り、後方任務といっても実戦には変わりない、しっかり励んでくれ。」
「「「「「はい!」」」」」
「もう一つ大事なことじゃが……、艦隊の旗艦を決めてくれんか。」
司令は机の中からおもむろに丸められた白い旗を取り出します。
旗艦、みんなに指示を出す船です、みんなの命を預かるといってもいいくらい重要な役割です。
「今すぐに決めなくてもいい、と言いたいところじゃが、どうやらもう決まっておるようじゃの。」
「えっ?」
司令がそう言うので、周りをみてみると、みんなが私を見ています。
「はぐろさん、受け取って下さい。」
吹雪ちゃんの言葉にみんなが頷きます。
「あの、私より…」
私は出かかったその言葉を飲み込みます、みんなの視線は真剣そのもので、軽い気持で私を選んでくれたのではない事がすぐに分かりました。みんなが私に命を預けてもいいと思ってくれている。それに、出会ったあの日に自分に誓いました、みんなは私が………守ります!
「いいえ、こんな私ですが、せいいっぱい頑張ります!」
一歩前に出て司令から旗を頂きます。真っ白な旗の真ん中に赤い桜が一個あしらわれた、旗艦を示す旗。旗は軽くても、その役割は、みんなの命を握れるほど……重いです。
「では用件は以上だ、明日から二日間は休みじゃ、遊ぶのも休むのも自由じゃ、ゆっくり羽を伸ばしててくれ。」
報告と用事が終わって、私達は部屋を出て、立派な司令室のドアを閉めます。
「うぅ......」
すると、突然初雪ちゃんが小さなうめき声を上げて私のほうによりかかって来ました。
「どうしたんですか、初雪ちゃん、大丈夫ですか!」
「だるい...疲れた......」
「えっ?」
「寮まで...連れてって......」
顔を見てみると、今まで見たことも無いくらい面倒くさそうな顔をしています。訓練ではあんなに頑張ってたのに・・・。
「もう、しょうがないですね。」
初雪ちゃんをおんぶします。
「はぐろさん、あんまり甘やかしちゃだめです、初雪ちゃんは訓練が終わると、いつもこうなんです。」
「皆さんはどうやって初雪ちゃんを連れて行ってるんですか?」
「そりゃあ、みんなでかついでいったり…」
「リヤカーに乗せてったりしています。」
「あはは・・・まるで酔っ払いですね、今日は私に任せて下さい、こう見えても力持ちなんです。」
私の機関は十万馬力です、駆逐艦の一隻くらい余裕なはずです。
初雪ちゃんをおんぶしたまま、みんなと寮への道を歩きはじめました。背中から初雪ちゃんの体の温もり、やわらかさが伝わって、改めて自分が旗艦として守らないといけない物の重さを実感します。
「もう少しです、がんばって下さい!」
「ん...頑張って...」
「はい、頑張ります!」
寮まであと少しです、大丈夫だと思っていましたが、全然大丈夫ではありませんでした。
「よいしょ、と、はぁ...はぁ...、疲れましたぁ……。」
入り口まで来て、初雪ちゃんを降ろします。私のエンジンの力と艦娘としての力は全く関係ないようです、勉強になりました。
「ん...ありがと......」
私の背中から降りた初雪ちゃんは、満足そうな顔で私にお礼を言いました。
「どういたしまして。」
初雪ちゃんを運び終えた私は、何かをやり遂げた気分になって、一週間ぶりに部屋に戻りました。夕食まで何もありません、私が疲れ体を椅子に預けると、、机の上に小さな書置きがある事に気がつきます。。
「えっと………帰ってきたら私の所に来なさい。明石……。」
「よかったんですか、後方任務に回して。」
「構わん、今すぐ投入しなければいかんほど戦況も切迫しておらん、戦力が欲しいのは分かるが、いきなり前線に投入させるような命令は受けられん。」
坂田は先ほど読んだ紙を手元に置いた、そこには[一日も早い前線部隊への転換を望む]と書かれていた。
確かに前線では高い対空能力を持った艦隊が待ち望まれている、訓練の成績に目を付けて、引っ張ろうとする司令もいた、だが実戦経験の全くない艦隊を、いきなり砲弾降り注ぐ前線に出す訳にはいかない。
どんなに高性能な武器を持っていても、戦闘の空気に呑まれて十分な成果が出せないのはよくある話だ。
「それに、気になる情報もある。」
坂田は一束の書類を取り出した、そこには、[潜水艦型深海棲艦の昨今の動向に関する考察]と書かれていた。
次の話を統合しました、ごめんなさい。