「だから、私は知らないって言ってるじゃない!」
明石は、もう何度目か分からない電話を切った、つい数日前から身に覚えの無い電話が頻繁にかかってくるようになった。内容は、やれ新型魚雷が出来ていたなら知らせろ、だの試験運用させろ、だの一本送ってくれ、という内容ばかり、質が悪い時は、何で隠しているんだ、と怒られる始末、ほとほと困り果てていた。
それに加えて、今日の朝からは戦艦の主砲より遠くを飛ぶ飛行爆弾を知らないか、という怪電話までかかってくる始末だ。
この騒ぎを起しているのは、あの子しかいない。
「あの、すいません・・・明石さんはいらっしゃいますか?」
事務所の入り口が半分くらい開いて、その向こうからおずおずと女の子が顔を出す、騒ぎを起しているであろうあの子だ。おおかた部屋の書置きを見て急いで来たのだろう、心なしか顔が赤く、少々息が上がっているようだ。
今回の件で聞きたい事は沢山あるけど、まずは訓練お疲れ様、そう言おうとしたけど・・・。
彼女は私が声を出すよりも早く、地面に頭がつくのではないか、という勢いで頭を下げだ。
「ごめんなさい、ぶつけてしまいました!!」
突然謝ってきた彼女に驚いてしばし、固まってしまった。
彼女は私の顔色をうかがうようにゆっくりと顔を上げる、その瞳はなぜか少し涙ぐんでいるようだ。
ぶつけた、という報告は入港した時に妖精さんから聞いていたけど、こんなに謝るほど壊してしまったのか……。
もし、そうなら、確認しにいかなければいけない。
「行くわよ!」
「えっ?」
「あなたの艤装に、壊した所を見ないと始まらないわ。」
「はい……。」
私は彼女の手をとって、ぶつけてしまったという艤装に向かった。私に手を引かれて重そうな足取りで付いてくる彼女、目には少し涙をためている、なんだかこっちが悪いことをしているような気になってしまう。
彼女を艤装に連れてきて、ぶつけてしまった、という場所に案内してもらう。
「あの・・・ここです!」
指差すその場所は、なるほど、確かに少し凹んでいて、塗料がはげて、手すりも何本か折れている。でも、すぐに直せるレベルだ。
私がそんな事を考えながら指差された場所を見ていると。
「すいません・・・壊してしまって・・・・・・」
そう言う彼女は、悪いことをして叱られる子供みたいに、涙目で縮こまっている。その姿を見ていると、なぜか、少しからかってみたくなった。
「ありゃ~、はぐろさん、こりゃドック入りしないとダメね~。」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、本当よ!でもね・・・、よ~く聞いて、しばらくドックは空かないの・・・・・・。」
それを聞いた彼女は、この世の終わりみたいな顔をした。正直、まさか信じるとは思わなかった。その反応を見て、今にも笑いそうなのを堪える。
「そんな!!もしかすると、すぐに出港するかもしれないんです、何とか……なりませんか……?」
目に涙を溜めて、上目遣いで訴えてくる、良心が痛むけど、もう少し彼女の反応を楽しみたい。
「う~ん、あなたの艦隊の駆逐艦が近代化改修でドック入りする予定だから……話し合えば入れるかもね、改修はまた今度になってしまうけど。」
「そんなこと・・・・・・出来ません。」
俯いてしまった、ちょっとやりすぎちゃったかな?
「そうねぇ…あとは……そうだ、まだ方法があったわ!」
私はわざとらしく手を叩いて、自分の艤装を指差す。
「私が直々に修理してあげる!」
「本当ですか!」
「でも、私の艤装を動かすには、修理だけじゃ、ちょ~っと厳しいの…う~ん、例えば……修理と併せて、そうね……武器を1個ずつ分析のために、下ろします、とか?」
我ながら、わざとらしい演技、話の内容は半分デタラメで、半分は私の欲望だ。
「武器の積み下ろし…ですか……。」
彼女は、顎に手を当てて真剣に考えている。
そうして、答えが出たのか、顔を上げて、言った。
「わかりました……仕方ありません、そうします……、よろしくお願いします。」
私は艦娘が詐欺にひっかかる瞬間を、生まれて初めて見てしまった。
ついに笑いが堪え切れなくなった私は、盛大に吹き出してしまって、困惑する彼女にネタばらしをした。
彼女は怒ったけど、壊れた所がすぐに直せる事を知らせると、どこかホッとしたようだ。
そのあと、最近私を襲った怪電話の数々を話すと、やっぱり心当たりがあったようで、何度も「ごめんなさい!」と謝られた。
武器の話は、出港までに返す事を条件に快諾してくれた。
「聞いて下さい、こんな事があったんです。」
久しぶりに私の艤装に集まった吹雪ちゃんや、第30駆逐隊の皆さんに、今日、明石さんとあったことを話します。
「明石さん、騙すなんて酷いです…。」
私がそう言ってお話を締めくくった後に、皆さんを見てみると、みんな苦笑いを浮かべています。
「う~ん」
「何ていうか……」
「ねぇ…」
「詐欺は騙される方が悪いって言う人の気持が分かった気がする。」
「ちょっと望月ちゃん、言い過ぎだよぉ。」
「…睦月…フォローになってない」
「ふふ、悪い男の人に騙されないようにして下さいね。」
「もう、真面目に聞いてください~!」
確かに、あんなのに騙されてしまったのはちょっと恥ずかしいですが、何か納得がいきません。
それに、たださえ少ない弾をたくさん取られてしまったら、私は即応部隊から格下げになってしまいます、笑い事ではありません。
「あ、始まりますよ!」
吹雪ちゃんの言葉にみんながテレビに集中します、今日の上映会の始まりです。さっきの話しは置いておいて、今は映画に集中しましょう、それに明日は初めての休みです、何をしようかなぁ。
前書きと後書きって何を書けばいいんだろう?
月曜日に更新出来たらいいなぁ。
すぐには返せませんが、感想などお待ちしております。