イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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 先週は家に帰れませんでした。


出ます。

「わぁ…すごい人です…。」

 生まれて初めて私は町を歩きました。鎮守府の正門を出て、しばらく歩いた場所に、大通りがあって、その通りには、沢山の人が行き来していました。

 通りの左右には、魚や野菜、雑貨をたくさん並べたお店がずらりと並んでいます。基地の中や港の岸壁からしか見たことがなかった巷の町の様子は、とても新鮮でした。

 

 

「えへへ、単縦陣!」

 町を歩いていると、後ろから深雪ちゃんの声が聞こえてきます、振り返ると、いつの間にか私を先頭に、一列に並んで歩いていました。通り過ぎる人は、私達を見て笑みを浮かべています。

 

「どうして私が一番前なんですかぁ。」

 通りすがる人の視線がちょっと恥ずかしくなってきたので聞いてみます。

「えっと、旗艦だから?」

「大丈夫です、ちゃんと案内しますよ、ねえ吹雪ちゃん。」

 白雪ちゃんが地図を片手に言います。

「あの、それもあるんですが、ちょっと恥ずかしいです。」

「はぐろさん、慣れです!」

「指揮艦先頭です!」

「うぅ、わかりました、頑張ります!」

 上手く丸め込まれた気がしますが、沢山の人の視線に慣れておけば、どこかで役に立つかもしれません。 

 後ろを歩く吹雪ちゃんの案内で、しばらく大通りを歩いて、最初に来たのは写真屋さんです、艦隊の結成を記念して、みんなで写真を撮ります。

 お店に入るのは初めてです、緊張します。

 ガラス張りのドアを開けると、鈴の鳴る音お店の中は見慣れない機械や沢山の写真が飾られていました。

 奥から出てきた男の人が、私達をお店の奥に案内して、慣れた手つきでスクリーンの前に私達を並べて、写真を撮り始めました。

「いきますよ~、はいチーズ!」

写真屋さんの合図と同時にフラッシュが焚かれます、船だったときに写真を撮られることはよくありましたが、艦娘になってからは初めての体験です、ちゃんと笑えているでしょうか。

「もう一枚行きます、好きなポーズでいいですよ、もっとくっついて下さい!」

「もっとくっついてって!」

「ぎゅーっと!」

「二枚目いきまーす、はいチーズ!」

 みんなでくっついて写真を撮ってもらいました、二枚目は自由にしていい、と写真屋さんに言われましたが、ちょっとくっつきすぎかもしれません。

「はい、終わりです、写真は明日には完成しているのいで、また取りに来て下さい。」

 

 そうして、写真を撮った後、深雪ちゃんお勧めの蕎麦屋さんに行きました。注文したお蕎麦と一緒に、お店のおばさんが「ほら、サービスだよ!」と言って色んな種類の揚げ物を沢山下さいました。

 それを見たおじさんが、お店の奥で「おいおい、そんなにサービスすると店が潰れちまうよ。」と言っていたのですが、「あんたこそ、この間来た大食いの艦娘にサービスしてたろ、あっちの方が店が潰れちまうよ。」と、おばさんが言い返して、そのやりとりが面白くって、みんなで笑ってしまいました。

 

 

 

 

 昼食を食べ終わって、ついに最終目的地に行く事になりました。

「今日の最終目的地はあそこです!」

「「おぉ~!」」

「うん...悪くない......」

 白雪ちゃんが遠くを指差します、それを見て皆さんが思い思いの反応をします。でも、私にはその目的地がどこなのか、分りませんでした。どうも、山のほうを指差しているようです。

「さ、行きましょう。」

「あの、どこに行くんですか?」

「付いてくれば分りますよ。」

 白雪ちゃんが悪戯っぽく笑います、どこへ連れていってくれるんでしょうか。

 私は案内されるがままにバス亭に行ってバスに乗ります。

 バスが発進すると、最初は町や家が沢山並んでいる風景だったのが、だんだんと田んぼや畑が目立つ田舎道に入っていきました。

「さあ、ここからは歩きです、頑張りましょう。」

 バスは田舎道を通って、だんだん山道に入っていって、[バス亭]と書いてある立て札置だけが置かれた何も無い場所に止まりました。私達はそこで降りて白雪ちゃんに言われるまま、歩きはじめます。

 遠くには山が見えて、所々海が覗いています。人とお店がたくさんある町を歩くのも面白いですが、こんな田舎道を歩くのも、初めての体験で、なんだかわくわくします。

 わいわいお話しをしながら、歩いていくと、立派な木造の門が見えました。私達は、道の先に現れたその門をくぐって、よく手入れされた庭に感嘆の声を上げながら、建物の玄関口まで歩きました。

「すみませ~ん!昨日予約した白雪です。」

「ああ、白雪さんですか、ようこそお越し下さいました、どうぞこちらです。」

 奥から、優しそうな雰囲気の美人なお姉さんが出てきて私達をどこかに案内します。

 

 

「こちらですわ」

 着いたのは、畳がしかれた落ち着いた雰囲気の部屋です。

「温泉は部屋を出てあの突き当りをまっすぐです、夕食と朝食は時間になったらご用意致します、どうぞごゆっくりしていって下さい。」

「はい、ありがとうございました。」

 案内が終わったお姉さんは、丁寧におじぎをして、行ってしまいました。

 荷物を置いて、部屋の真ん中に集まります。

「前に言ってましたよね、海が見える温泉にみんなで行きたいって。」

 みんなが集まった所で、白雪ちゃんがおもむろに口を開きます。

「はい。」

「なんと、ここがその海が見える温泉です!」

「えぇっ!ほんとですか!?」

「本当です、今日は楽しみましょう、次はいつ休みをもらえるか、わかりませんよ!」

「白雪...たまにはいい事言う...。」

「たまには、は余計です!とにかく、せっかく来たんだし、すぐ行きましょう、海の見える温泉へ!」

 そうして、私達は簡単に荷物を片付けて、温泉に行きました。時間もいい頃ですし、途中で汗をかいていたので、丁度よかったです、それに、こんなに早く行きたい、て言った所に行けるとは思いませんでした。

 

 

 

 

「よっしゃ、深雪さま一番乗り~!」

「深雪ちゃん、はしたないよ。」

「あんまり急ぐと危ないですよ。」

 元気いっぱいな深雪ちゃんが一番風呂を目指して、脱衣所から温泉に続く扉をくぐります。

「すっげ~!」

 深雪ちゃんが驚きの声を上げます、いったいどんなお風呂だったんでしょうか。

 

 私達も深雪ちゃんに続いて扉をくぐります。扉の向こうには、青々とした長崎の山々と、私達がよく知る佐世保の海、そして、遠くには大村の綺麗な海がうっすらと見えます。

「わぁ…」

「おぉ...」

「晴れててよかったです、さあ、みんな、入りましょう。」

「…そうですね、つい見とれてしまいました。」

 白雪ちゃんの言葉に我に返ります。お風呂につかってゆっくり楽しみましょう。

 

 

 みんなお風呂に浸かって一息つきます、外にお風呂があるだけでも驚きですが、こうやって景色が楽しめるような物を考えた人はすごいです。

「私達の鎮守府って、あんなに小さかったんですね。」

「手に収まりそう......。」

 吹雪ちゃんが鎮守府の方を指差して、初雪ちゃんは両手の親指と人差し指で四角を作ります。

「こんな場所に来られるなんて、夢みたいです。」

 つい最近まで船だった私が、まさかこんな景色を見られる日が来るとは思いませんでした。今まで、地図や海図で世界の大きさを知ったつもりでしたが、町を歩いたり、こうやって高い場所から見てみると、まだなんにも知らなかったんだって思います。

「海も広いけど......陸も同じくらい...広い。」

「その通りですね、初雪ちゃん。バスに乗って、歩いて、たくさん動いたはずなのに、まだ鎮守府が見える場所にいます。世界は広いです、それに知らないことばっかりです。」

 今まで見上げる事しかできなかった山々をただ見下ろすだけで、こんなに違って見える、新しい発見です。

「山の向こう側が、どうなっているのか、気になりますね……。」

 吹雪ちゃんがしみじみと言います。

「今度の休みに確かめに行きましょう。私の飛行機で連れて行ってあげますよ、あれぐらいの山なんて一っ飛びです。」

「ほんとですか!約束ですよ!」

「はい。」

 まだ私の飛行機は帰ってきていませんが、次の出港の時には帰ってくる予定です。そうすればみんなを色んな所に連れて行けます。

「じゃあ、次も頑張らないとな。」

「次も……ちゃんと帰ってきましょう。」

 深雪ちゃんが胸を張って、吹雪ちゃんが、少し物憂そうに言います。後方任務と言っても実戦にかわりありません。実戦には危険が伴います。その事を忘れてはいけません。

 吹雪ちゃんの言葉に、みんながそれぞれ、何を思ったのか、少しの間沈黙が流れます。

 

 

 

「みんな、もう一つ、お風呂に入らないと、その大きさに気が付かない物があります!」

 少し、しんみりしてしまった所で、白雪ちゃんが思い出したように言います。

「白雪ちゃん、なんですか、それは?」

「これです!」

 ビシっと私を指差します、どういう事でしょうか。

「前にも見たけど...やっぱり、すごい......」

「浮いてるね・・・」

「はぐろさんって着痩せするタイプなんですね。」

「あの、みなさん、あんまり見られると……恥ずかしいです。」

 みんなの視線をさっきから体に感じて、少し恥ずかしくなってきました。

「あの、はぐろさん、言いにくいんですが……。」

 白雪ちゃんがもじもじしながら言います。

「はい、なんでしょう、白雪ちゃん」

「あの……少し…胸を……触らせていただけませんか?」

 

 

「……はい、白雪ちゃんなら大丈夫……です。」

 ついこの間は泣いてしまいましたが、白雪ちゃんは見ず知らずの人でもなければ、突然触られる訳でもありません。それに、多摩さんは言ってました、胸が触れるくらい仲良くなるって。同じ艦隊の白雪ちゃんなら平気なはずです。

「やっぱりダメで・・・ええ!いいんですか!?」

「はい、……でも多摩さんみたいにしないでくださいね。」

「わかりました……よろしくお願いします。」

 白雪ちゃんが顔を真っ赤にして、両手を伸ばしながら、じりじりと近づいてきます。

 みんな、その様子を固唾を呑んで見守っているようです、吹雪ちゃんは両手で目を覆っています。

 そんな皆の様子を見ていると、なんだか自分がすごく恥ずかしい事をしているような気になって、私も両手で目を覆ってしまいました。

 その少し後に胸に白雪ちゃんの手が触れる感触が伝わってきました、触れられた所は、何だかくすぐったくて、でも、不思議と嫌な感じではありません。

「白雪...どう...?」

「…………」

 初雪ちゃんの言葉に白雪ちゃんの返事はありません。

 指の隙間から白雪ちゃんの顔を覗いて見ると、赤かった顔をもっと赤くしています。私も白雪ちゃんに触られた場所がピリピリして、何だかフワフワした気持になってきます。きっと私の顔も真っ赤です。

「あの……白雪ちゃん、もうそろそろ、いいですか?」

「………」

 返事がありません。

「白雪ちゃん?」

 ばしゃん、という音がして、白雪ちゃんは突然お風呂に突っ伏してしまいました。

「大丈夫ですか!白雪ちゃん!」

 慌てて白雪ちゃんを引き上げます。

「ハッ!ごめんなさい!はぐろさん、柔らかくって、触ってると気持ちよくって、ずっと触っていたいな、って!ああ!何言ってるの、私!」

「白雪ちゃん、鼻血鼻血!」

「へっ?」

 吹雪ちゃんに言われた白雪ちゃんは自分の異変に気づきます。

「わぁぁぁ!ごめんなさいぃ~!」

「白雪ちゃん!」

 白雪ちゃんは慌てて一人お風呂を飛び出して行きました。

「はぐろさん、追いかけちゃダメです!」

「追いかけたら...逆効果...」

 白雪ちゃんを追いかけようとした私を、吹雪ちゃんと初雪ちゃんが引きとめます。

「どうしてですか、血が出てたんですよ!」

「まあ…、そういう事もあるって事だよ。」

「そう…ですか、わかりました……。」

 白雪ちゃんと付き合いが長いみんながそう言うなら、きっと間違いはないのでしょう。私達は残ってお風呂を楽しむ事にしました。でも、やっぱり少し心配です。

 

 

 

「ただいま~!」

 部屋に帰ってみると、もう晩御飯の準備が出来ていました。そして、白雪ちゃんは部屋のすみっこで座っています。

「皆さん、お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした!」

 白雪ちゃんが、かしこまって言います。

「白雪ちゃん、しょうがないよ、柔らかくって、ずっと触っていたかったんでしょ?」

「気持ち...よかったって?」

「うぅ…私のバカ…。」

 白雪ちゃんがまた顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で言います。

「白雪ちゃん、そういう事もあります、気を落とさないで下さい。」

「もう、はぐろさんまで!真面目に謝ってるのに、もう知りません!」

 深雪ちゃんが言っていた事を真似て言いましたが、何か間違ってしまったみたいです。結局、拗ねてしまった白雪ちゃんにみんなで謝って、仲直りして、晩御飯を食べました。

 

 

 

 

「今日は、お部屋も同じだし、みんな一緒に寝ましょうか。」

 お腹がいっぱいになって、眠くなって来た所で、吹雪ちゃんが言います。

「はいはい、賛成!」

 吹雪ちゃんの一言で、お布団をつなげて一緒に寝る事になりました。

「じゃあ、お布団かけますね。」

「電気消すよ。」

 深雪ちゃんがお部屋の電気を消して、みんなで寄り添って寝ます。こうやって色々な所に行って、楽しい事をして、みんなで寝られるのは艦娘の特権かもしれません、神様がいるかどうかわかりませんが、感謝しないといけません。

 そんな事を考えながら、目を閉じていると、体も心も温かくなっていきます。

 

「「「「「あつい!!(です!)」」」」」

 季節は夏の終わり頃ですが、くっついて寝るには暑すぎて、みんなすぐに、一緒に寝るのを諦めました。

 

 

 一緒に寝るのを諦めた私達は、それぞれ布団を敷きなおして寝ます。

「今度こそ、電気消すよ!」

「お願いします、深雪ちゃん。」

 真っ暗になった部屋は本当に静かで、部屋を通る風の音と、みんなの息遣いが聞こえてきます。

「はぐろさん、未来の日本って、どんな所だったんですか?」

 電気が消えてしばらくして、ふいに吹雪ちゃんの声が聞こえました。

「そう、ですね……未来の日本は………。」

 それから、みんなが眠るまで、たった三年間でしたが、私が見てきた未来のお話をしました。

 




 一番難しいのは日常パートかもしれない。
 感想など、お待ちしております。

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