「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「いえいえ、またいつでもいらっしゃって下さい。」
お姉さんは丁寧にお辞儀をして、一人一人に小さな包みを渡してくれました。
「お弁当です、バスの中ででも食べて下さい。」
「あの、ありがとうございます!」
私がそう言うと、お姉さんは、私の手をぎゅっと握って微笑みます。
「余計なお世話かもしれませんが……、お気を付けて、あなた達がどんな危険な事をしているかは分りませんけど、元気に帰ってきてくださいね。」
お姉さんはそう言って、私の手を離しました。
それから、お姉さんに見送られて、私達はもと来た道を帰ります。
「また…来たいですね。」
帰りのバスに揺られながら、白雪ちゃんが呟きます。
「うん...引きこもるのもいいけど、また来たい......」
「そうですね、それに……こんな所にも私達を心配してくれる人がいるって思ったら、何だか嬉しくなりました。」
「しっかり休んだから、また頑張らないと!」
吹雪ちゃんが背伸びをしながら言います。
「お弁当、美味しそう!」
見ると、バスは出発したばかりですが、深雪ちゃんがもうお弁当を食べようとしています。
「深雪ちゃん、後でお腹が空いても知らないよ。」
吹雪ちゃんが深雪ちゃんを注意します。でもお弁当は本当に美味しそうでした。
それから、町に戻った私達は、写真屋さんに行って昨日撮ってもらった写真を見ます。
「あはは、はぐろさん、笑顔が硬いですよ。」
「そうですか?」
手元には、一人一枚、私達がぎゅっと固まって写っている写真がああります。白雪ちゃんに笑顔が硬いって言われます。
「そうですよ、いつもはもっと自然に笑ってます。」
白雪ちゃんと吹雪ちゃんの二人に言われます。写真の中の自分とにらめっこをしてみますが、そんなに硬いでしょうか?
「えっと、こっちが司令官に出す写真で、こっちが私たちが持っておくんだよな?」
「うん、そうだよ。」
「えへへ、大事に飾っておこっと。」
深雪ちゃんが大切そうに写真をしまいます。
「あの!すいません!」
私達が写真屋さんを出てしばらく歩いていると、ふいに声をかけられました。見ると、白いセーラー服を着た女の子が一人、大きな袋をいくつか持って立っていました。
聞くと、この女の子も艦娘で、つい最近佐世保に来たばかりで、多摩さんに町を案内してもらってたら、いつの間にかはぐれてしまったそうです。はぐれて困っていた所に、一列に並んで歩いている私達を見つけて、同じ艦娘だと思って声をかけてみたという事でした。
「すみません、案内してもらってたんですが……はぐれてしまって。」
「そうなんですか、あの、お買い物が少し残っていますが、よければ私達と一緒に行きませんか?」
白雪ちゃんがそう提案します。
「はい、お願いします!」
どこかホッとした様子で女の子は答えます。
「改装空母の龍鳳です、よろしくお願いします。」
重そうな袋を持ったまま、龍鳳さんがペコリと頭を下げます。
「あの、私達は、第11護衛艦隊です、私は旗艦のはぐろです。」
「始めまして、吹雪です。よろしくおねがいいたします!」
「白雪です。よろしくお願いします。」
「初雪・・・・・・です・・・・・・よろしく」
「深雪だよ。よろしくな。」
「重そうだから、持ってあげる!」
「そんな、そこまでして頂かなくても。」
「いいっていいって、おおっ結構重いな、何が入ってるの?」
深雪ちゃんが龍鳳さんが持っている袋の一つを持ってあげます。
「えっと、この中ですか? お夕飯の材料の玉ねぎや馬鈴薯…あと…人参とか…です…はい…」
「お料理が出来るんですね!」
白雪ちゃんが目を輝かせながら言います。
「はい、改装前は潜水艦の子に沢山作ってあげてましたから。」
龍鳳さんが少し照れたように言います。
「龍鳳さん、お買い物はあとどれくらい残っているんですか?」
「えっと、あとは…お肉と…お醤油と…お砂糖とか…です…。」
「荷物はみんなで交代で持ちましょうか。」
龍鳳さんの荷物をみんなで交代で持って、買い物を続けることになりました。
「ふふっ…。」
歩いていると、ふいに龍鳳さんが笑います。
「どうしたんですか?」
「いいえ、仲良しなんだなって思って、潜水艦の子達を思い出してました。」
「潜水艦ですか?」
「はい、みんな悪戯好きで、騒がしくって、でもとっても仲良しなんです。」
「あんまり酷い悪戯をする時は、晩御飯抜きにするよって言うんです、そうしたら、みんなで謝りに来るんです。みんな本当にいい子なんです。」
龍鳳さんは本当に嬉しそうな顔で話してくれます。私達がイクさんの話をすると、色々と苦労話を話してくれました。イクさんは一番、悪戯好きで、何度も司令官の所に一緒に謝りにいったそうです。
「今日はありがとうございました、えっと、お礼と言っては何ですけれど、夕飯をご馳走させてください。」
みんなのお買い物が終わって、鎮守府の入り口をくぐったところで、龍鳳さんに夕食に誘われました。どうしよう、と思ってみんなを見ると、その誘いに目を輝かせています。そして、深雪ちゃんのお腹の虫の音を合図に、みんなで龍鳳さんに晩御飯をご馳走になる事にしました。
龍鳳さんが作った肉じゃがは本当に美味しくって、みんな沢山お代わりをしました。
翌朝、司令官に呼ばれた私達は、司令室に行きます。次の任務と艦隊に配属される新しい艦娘の事についてだそうです。
「第11護衛艦隊、入ります。」
入ってすぐ、部屋の中にいる女の子を見てつい声を上げてしまいます。
「龍鳳さん!?」
昨日の白いセーラー服ではなく、薄い赤色に桜の花があしらわれた着物を羽織っていましたが、部屋にいる女の子は、間違いなく昨日町で出会って美味しい夕食をご馳走になった龍鳳さんです。
「え?みなさん!?どうしてここに?」
私達が入ってくるのを見て龍鳳さんは目を丸くしています。
「新しく配属する艦娘の紹介を、と思ったがもう必要ないようじゃな、だが、一応形式は整えておかなければならん。」
私達の様子を見た司令官は立ち上がって、一枚の紙を出して、読み上げます。
「航空母艦、龍鳳を第11護衛艦隊に配属する!」
「はい!潜水母艦改装空母の、龍鳳です。航空母艦として頑張ります!改めて、よろしくお願いします!」
龍鳳さんは、元気よく返事をして、私達に微笑みます。
「この後、旗艦と龍鳳はここに残るように、新しい任務についての話がある。」
「えぇ!私たちは!?」
「お前たちは、改修が終わった艤装をドックから出して来い。」
「改修されてるんですか!?」
吹雪ちゃんが驚いた様子で言います。
「ああ、次の任務に必要な装備を追加した、わかったらすぐに行ってこい。」
「「「「はい!」」」」
吹雪ちゃんたちはパタパタと部屋を出て行きました。
部屋に二人残された私達は司令官の次の言葉を待ちます。
「すまんが、少し待ってくれ、あと一人呼んである。」
司令官はそう言うと、再び椅子に腰を下ろしました。
「入るにゃあ!」
数分後、聞き覚えのある声がして、扉が開きます。
「来たか、では、ただ今から次の任務について伝える。」
司令官は立ち上がり、部屋に置かれた地図の前に移動して、私達の任務の説明が始まりました。
次回は作戦会議です。
すぐには返事出来ませんが、感想やアドバイス、日常編で参考になる小説などあればお教え下さい。
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