「航路上にソノブイを展開する、ローファーブイ投下用意!」
「用意よし!」
「投下!」
機体の左側から白い筒状の物が空中に射出された、それはしばらくして、パラシュートを開き、海面にゆっくり着水する。
第30駆逐隊の前にまで進出したシーホークは、予定航路の左右にソノブイをまき始めた。
ローファーは、ブイから一定範囲にいる潜水艦の音を探知する、探知距離は特殊な条件下なら30マイル、商船なら5から10マイルて探知できる、これなら航路上の安全はほぼ確保できる。
もし反応があれば後は艦艇と協力して攻撃、撃沈するだけだ。
「旗艦多摩、こちらワイバーン01です、感度いかがでしょうか?」
「よく聞こえるにゃ、よろしく頼むにゃ。」
「こちらも感度良好です、よろしくお願いします。」
先行する艦隊と通信を取る、はぐろのアスロックは当然射程外、短魚雷は一発だけ、それに哨戒する範囲は広い、必ず連携する機会が出てくるはずなのだ。
「一回目は2100まで哨戒を行います。」
「わかったにゃ。」
当然、燃料が切れる前には帰らなければいけない、帰って燃料を補給して、乗組員を入れ替えたらまた哨戒に就く、地味だがこの繰り返しだ。
「現在…ソノブイコンタクトありません。」
「了解」
ソノブイを撒き終えたシーホークはレーダーと暗視装置で海面を見張り始めた。
「天気がよくて良かったですね。」
「あぁ。」
妖精がこう言ったのは、天気が良ければレーダーも暗視装置も十分に効力を発揮することが出来るからだ、天候は哨戒機にとってとても重要な要素なのだ。
今日は幸いにも風も弱く波も低い、これなら遠くまで探知が期待できる。
「夜に哨戒機とは、心強いにゃあ。」
第30駆逐隊に多摩は、さっき上を通った変ちくりんな哨戒機を見て呟いた。
「未来から来た飛行機にゃあ、きっと凄い力を持ってるにゃあ。」
潜水艦が活発に攻撃を仕掛けるのは夜だ、今までの任務では夜に危険な海域を通る時は、速力を上げて出来る限り早く通りに抜ける、もしくは夜には通らない、といった対策をしてきた。夜には潜望鏡も雷跡も見えないからだ。
そんな対策が出来ない場合、頻繁に針路を変える、速力を小まめに変える、といった小細工しか対策がない。敵を見つける方法は目と耳だが、こっちが敵を見つけた時には、極めて危険な状態にあると考えていい。潜望鏡や潜水艦の音を見つけられる平均的な距離より敵の魚雷の射程の方が長いからだ。
そんな中で、電探を持った飛行機が見張ってくれる、というだけでも心強い。
「さて、いつ仕掛けてくるかにゃ。」
昼に撃沈した深海棲艦から、既に情報は伝えられている。となると、どこかで仕掛けてくるハズだ、それは今日かもしれないし、明日かもしれない。
「これから数日間は気が抜けないにゃあ。」
危険な海域を抜けるまで緊張した時間が続く、これからが哨戒任務の本当の正念場だ。
「レーダーに感、小型目標です。」
哨戒時間が間もなく終わる時に、ふいにレーダーに反応があった。
「了解、センサーを指向、識別開始。」
シーホークが探知した目標にレーダーと暗視装置を集中的に向ける。暗視装置に映し出されたそれは、全体的にぼんやりしていて、形がはっきりしない、まだ敵かは識別できない。
「……遠すぎますね。」
「もう少し近づいてみるぞ。」
「了解!」
「……目標消失。」
しばらくして、センサーから目標消失の報告が来る。
「了解、燃料は?」
「ギリギリです、距離もあります、燃料を補給してもう一度アタックしましょう。」
「……わかった、出来る限り接近、ダイファーを投下、帰投する。」
「了解、ダイファーブイ投下用意」
「多摩、こちらワイバーン01です、小型水上目標と接触、識別中、多摩から方位240°距離30マイルです、注意して下さい。当機燃料補給後攻撃します。」
「にゃ、了解にゃあ。」
「はぐろ、THIS IS ワイバーン01、RTB(帰投する)。」
「ワイバーン01、ROGER RTB(了解、帰投せよ)」
母艦との通信に余計な交話はほとんど必要ない、データリンクで状況が人目でわかるからだ。
「ソノブイ投下!」
何本かのブイが射出される、水上に目標が無く、その方向に反応があれば、水中に何かがいることになる。
「投下完了!」
「了解、右旋回、帰投するぞ。」
「ソノブイコンタクト、目標潜水艦間違いなし!」
「コーション、コーション、ワイバーン01、潜水艦探知、方位240°30マイルFROM 多摩、各艦目標から隔離されたし。」
全艦に警戒を促して、急いで遠く離れた母艦に帰る。
「ソノブイと燃料、補給急いでくれ!」
母艦に着艦したHSに燃料補給が始まる、甲板上は最低限の明かりだけでほぼ真っ暗だ、そんな中で、大急ぎで補給が始まった。
燃料口にパイプが繋がれ、使った本数だけ、ソノブイが差し込まれる。補給に費やすその時間がもどかしい。
「補給完了!」
「上がるぞ!」
補給完了の合図で間一髪入れずに離陸する。
「ソノブイ、引き続き目標を捕捉しています。」
「了解、目標を攻撃する、短魚雷投下用意。」
初めて本物の敵を攻撃する、妖精は少し興奮していた。
「急げ急げ、敵は待ってくれないぞ!」
対潜戦は時間との勝負、ソノブイの反応している場所に急ぐ。
「多摩、こちらワイバーン01です、攻撃開始します!」
「了解にゃ。」
「先行する駆逐艦は安全圏内です、短魚雷、調定終わり!」
「投下用意・・・3・・・2・・・1・・・・・・投下!」
敵の反応が一番大きい所に必殺の短魚雷を投下した。
「さて、命中するか?」
こうは言ったものの、妖精は既に命中を確信しているようだ。
落とした魚雷は減速用のパラシュートを展開し、ゆっくりと着水、獲物を狙う蛇のように深海棲艦目掛けて一直線に推進を始める。
HSが探知した潜水艦は、航路上に待ち伏せしていたが、先行する駆逐隊すら発見しておらず、全くの無警戒だった。ほぼ潜望鏡深度にいた潜水艦は回避行動をする暇もなく撃沈された。
「おぉ、こりゃ命中したな。」
海面に上がった巨大な水柱を見て感嘆の声をもらす。
「ソノブイ、……圧壊音聴知。」
しばらくして、ソノブイが何かが潰れる低重音を探知する、機内に沈黙が流れる。
「撃沈確実です・・・・・・。」
本来なら喜ぶところだろうが、生々しい圧壊音を聞いたためか、しばらく沈黙が続いた。
「ワイバーン01、目標を撃沈、魚雷残弾無し、帰投す…。」
「ソノブイコンタクト、No3ブイ!護衛艦隊至近!」
帰投すると言いかけたところでセンサーから突然切迫した声が飛び込んで来た。
「なっ!」
潜水艦から隔離しようとした駆逐隊は、いつの間にかソノブイがカバー出来る範囲のギリギリにまで進出していたのだ。
「一番近い艦は?」
「DD弥生です!」
「艦首方向から右90度、を重点捜索して。」
HSから連絡を受けた駆逐艦隊は弥生を基点に潜水艦を囲い込みに入っていった。
「みんな、雷跡に注意するにゃあ!」
「「「「うん・・・(はい!)」」」」
月明かりにうっすらと照らし出された海面で雷跡を見つけるのは至難の業だが、攻撃を避けるにはこれしかない。
「聴音機、探信儀、まだ探知ありません。」
「ん、大丈夫…。焦らずゆっくりで、追い詰めます。」
これだけ大きく動き出せばもう察知されている筈です。
でも、すぐに雷撃するには潜望鏡を出さないといけない、水中で音だけで攻撃するには長い時間が必要です。今回は時間が経てば経つほどこっちが有利になる、みんなが集まっているから。
「弥生、こちらワイバーン01、潜水艦の位置をチェックする。」
上空の変な哨戒機から連絡が入る、もう既に相手の位置をキャッチしているのか、迷い無く一直線に飛んで行き、海面に発煙灯を落とした。
海面で真っ赤に輝く発煙筒に全員の視線が集中する。そして……。
「感1、潜水艦らしい!」
「爆雷戦、いい?」
「はい!」
既に準備していたのか、間一髪入れずに返事が来る。
「多摩さん、攻撃します、許可、お願いします。」
「弥生、攻撃するにゃあ、雷撃に注意するにゃあ。」
返多摩が返事をするより先に弥生は一直線に発煙灯のある場所に走り出していた。
「感3、感4・・・・・・、敵潜至近距離です!」
「第30駆逐隊を、なめないで!」
絶妙なタイミングで落とされた爆雷は、一撃で深海棲艦に致命傷を与えた。
夜の海に大きな水柱が上がる、それは月明かりに照らされうっすらと輝き、ここが戦場という事を忘れさせるくらい綺麗だった。
「水上に油膜、浮遊物、撃沈間違いなしです!」
爆雷を落とした周辺に所々、黒い何かが浮いてきたのがわかった。
「やったにゃあ、弥生、やったにゃあ!」
多摩さんの声で我に帰る、やった、やっつけられた。
「おぉー。いいねぇ。」
「弥生ちゃん、やったね!」
「あぁ~ん、弥生ったら、すごいわね、うふふふ。」
みんなの声が聞こえる、何だかとってもくすぐったい。
「うっ…うーん、えっ…と、えーっと、も、もう行きましょう。」
照れてしまってみんなの声に上手く答えられなかった、でもみんなきっと分ってくれているはずだ、同じ艦隊なんだから。
護衛艦隊の警戒海域での初めての夜は、こうして艦娘の完勝で幕を閉じた。
シーホークと第30駆逐隊が活躍したあの夜から、それ以降は、はるか遠くで発信されている電波を時々探知するだけで、敵の兆候はほとんど無かった。そうして二日が経った。
「明後日には海峡を通れそうですね、このまま行けるといいんですが…。」
もしかすると3隻を撃沈したことで、この海域にはもう敵はいなくなったのかもしれない、そんな楽観的な空気も流れて来たのだが……。
「比島通信所より連絡、南シナ海で低気圧が急速に発達、ゆっくり東進中、明後日には台湾南海上は大荒れの予報です。」
ふいに艦隊に情報が入ったのだった。
ソノブイはWiki参照です。
なんか変わったのを作りたかったのですが、いかがでしょうか?
感想等の返事は、すぐには返せませんが、色々言ってくれると嬉しいです。
返事が短いのは著書のコミュ力不足のせいです、スイマセン、許して下さい。