イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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目覚めます。

 懐かしい海の香りの混じった暖かい風が頬をなでる。体が温かいもので包まれてその心地よさにずっと眠っていたくなる。今までにない心地よさです。

 寝返りを打つと木のきしむ感覚が背中を伝わってくる。

 寝返りを打って、ふと体に違和感を覚えて目を開く、真っ白な天井が見えた。頭で何が起こっているのか理解出来ず、はぐろは勢いよく飛び起きて周りを見渡す。白を基調とした士官室風の部屋が目に入る。開いた窓から光が差し込みカーテンが揺れていた。

 次に自分の体を見てみる。人間みたいにベッドに座っていた。更に自分に手と足があった。見ている物が信じられなくて、思うままに右手、左手、右足、左足と、順番に体を動かしてみる。

 薄い水色と白色のパジャマを着た自分の体が思い通りに動く、何がどうなったかわからないけど、今度は人間に生まれ変わったようだった。

 ベッドから立ち上がり慣れない足取りで窓の方へ行ってみる。まぶしい光ときれいな海が見えた。自分がいる建物は小高い丘の上にあるようだ。

 すぐ近くには港が見える、大きなクレーンにドック、あれは軍港だろうか?しばらく海を眺めていると、楽しそうな話し声が聞こえる。ふとそっちに視線を向けると女の子が4人、楽しそうにこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 セーラー服を着てるからどこかの学生さんだろうか?

 楽しそうに歩いている彼女らを見ていると、そのうち一人と目があった。

 「あ、新しく来た子だ!」私と目があった子が叫ぶ。

 残りの3人が振り向き、途端に嬉しそうな顔をして元気にこっちに走ってきた。

 「名前はなんて言うんですか?」

 「どこの部隊だったの?」

 「どういう艦型?」

 三人がいっぺんに質問を言ってきてはぐろは少し困ってしまった。

 「ちょっと・・・みんないっぺんに聞くから困ってる・・・・・・。」

 いちばん髪が長くおとなしそうな子が口を開く。

 

 三人は互いに顔を見合わせて、気をとりなおし、一列に並んで左から順に自己紹介を始める。

 「始めまして、吹雪です。よろしくおねがいいたします!」

 「白雪です。よろしくお願いします。」

 「初雪・・・・・・です・・・・・・よろしく」

 「深雪だよ。よろしくな。」

 吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃん、深雪ちゃん、どこかで聞いたことがある名前だけど、みんな綺麗な、いい名前です。

 自己紹介を終えた四人は、何かを期待しているようなきらきらした目をはぐろに向ける。何か言わないと、と思ってはぐろも少し緊張しながら自己紹介を始める。

「あの…はぐろです、海上自衛隊のあたご型護衛艦の6番艦です。あの・・・ごめんなさい!」

 自分でもわからないけどなぜか謝ってしまった。

 そう言うと四人は不思議そうに顔を見合す。

 4人の不思議そうな顔を見て、はぐろは重大なミスに気が付く。自分はどういう訳か人間になっているのだ、海上自衛隊の護衛艦です、なんて自己紹介して変に思われなかっただろうか?

 さっき質問した3人が、再びこっちに向いて口を開く。

「愛宕型6番艦って愛宕先輩の隠し子なんですか?」

「かいじょうじえいたいってなんですか?」

「護衛艦って何?大きさはどれぐらい?」

 また三人から質問攻めにあう。でも三人は私が心配していたのとはちょっと違った方向の質問を投げかけてきます。

「あ、あの…海上自衛隊っていうのは海と国の平和を守る人たちのことで・・・。私はあたご型の末っ子で隠し子なんかじゃないです・・・。護衛艦っていうのは、みんなを守る、戦う船の事で…。あ、あの…すみません、上手く説明できないです。。。ごめんなさい!」

 

 四人の噛み合わないやりとりを輪の外で聞いていた初雪が口を開く。

「来たばっかりなんだし司令の所へ連れて行くべき…新しく来た子はみんなそうやってる・・・・・・。」

 

 はぐろと話していた3人、吹雪、白雪、深雪はそれもそうかと頷いてはぐろを司令の所へ案内することにした。

「じゃあ、今から司令の所に連れて行きましょう。」

「賛成です!」「賛成だぜ!」

 

 司令?どこの司令だろう?どこに連れていかれるんだろうか?

 「お邪魔いたします。」

 「お邪魔します。」

 「おじゃま・・・する・・・」

 「お邪魔するぜ~。」

 そうこう考えているうちに、窓から部屋に入ってきた四人に引っ張られるようにして、はぐろはパジャマ姿のまま「司令室」と書いてある立派な扉の前に連れて行かれた。

 

 

 

 扉の前ではぐろは戸惑っていた。四人に連れられて司令なる人の所に連れて来られたが、自分はパジャマにスリッパ姿、とても偉い人に会う格好ではない。

 今まで、訓練で司令官を乗せた時は乗組員が司令官用の部屋を掃除したり、幕僚の部屋を用意したりと、忙しそうに動き回っていたのを思い出す。

 新しく着任した隊員も、きちんとした服装で指揮官にあいさつをしてた。。。。はずなんだけど。

 そんな思いとは裏腹に深雪ちゃんがその大きな扉をノックして、返事も待たずに勢いよく中に入る。

 「司令官、新しく来た子を連れてきたよ、羽黒ちゃんって言うんだって。」

 ちょっと待って、心の準備が、と言いたい所だったけど、そんなのはお構いなしに吹雪ちゃん、白雪ちゃん、深雪ちゃんに引っ張られ、初雪ちゃんに背中を押されて司令室に入る。

 緊張のため、先に入った自分より背が低い三人の背中に隠れるように体を縮めて中の様子を伺う。

「ほう、目が覚めたか、ご苦労さん」

 窓辺に立っている男性が振り返る。

 落ち着いた太い声。

 白い夏制服に船乗りらしい均衡の取れた体躯を包み、短く刈った白髪と白髭をたっぷり蓄えた、初老のいかにも提督といった風貌の男が、五人に優しそうな視線を送る。

「まあ掛けなさい。」

 五人を部屋にある応接セットの方にすすめる。

 優しそうな人でよかった。。。はぐろは胸を撫で下ろす。そして勇気を出して司令の方を向いて。

 「あの、はぐろって言います、海上自衛隊のあたご型護衛艦の6番艦です。よ、よろしくお願いします!」

 そう言って頭を下げる。

 言えた、ちゃんと言えた。おそるおそる頭を上げて司令の方を伺う。司令は驚いたような顔をして

 「緊張しておるのか、もっと楽にしてよいぞ、まずは座ってからじゃな。」

そう言って司令は一人用の黒い皮製の椅子に腰掛ける。それに習って五人もソファーに座る。

 お尻がソファーに沈む感覚が何とも言えない心地よさ、人間になってから色んな感覚に驚かされっぱなしです。

 

 「すまんな、お茶も茶菓子も用意できとらんが」

 「え~、お菓子ないの~?」

 深雪ちゃんが不満そうに口を尖らせる。

 「突然きおって準備できる訳なかろう、今日は我慢せい。」司令がそれをたしなめる。

 全員が座ったのを確認して口を開く

 「まずは自己紹介といこうかの、佐世保鎮守府長官を務めておる坂田じゃ、皆からは司令とか司令官とか、はたまた爺さんと呼ばれておる。」

 佐世保と名前が出た所で、はぐろは少し反応する。周りの建物は変わっていても、見間違えるわけが無い、坂の多い町並みにあの港、あの海は間違いなく佐世保の海だ、なんで気が付かなかったんだろう?

 それに佐世保鎮守府の司令官と言えば、はぐろが海上自衛隊だった頃で言うと地方総監くらい偉い人だ。改めて姿勢を正すはぐろとは裏腹に四人はソファーに座ってずいぶんとリラックスしている様子だ。

 はぐろの反応を伺って司令が口を開く。

 「色々聞きたい事はあると思うがまずはこの世界の現状の説明をやっておこうか。」

そう言って始まった説明は、はぐろの想像をはるかに超えたものだった。

 

 




誰を出すか考えてませんでした。
模型がある天霧が存在してなくて凹みました。

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