イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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UAが気づいたら10万件を突破していました、今更ながらありがとうございます。


通峡します②

「水中爆発音聴知!」

 お腹にまでズシンと響く振動とほとんど同時に妖精さんから報告が入ります。

「……圧壊音、目標…撃沈したものと思われます!」

「「「やった!」」」

 CICの妖精さんが沸きかえります、ですが……。

「まだ二隻いるはずです、油断してはいけません!」

「240度5.5マイル、目標撃沈しました!」

「やりましたね!」

「あと二隻いるはずです、一隻ずつ片付けて行きましょう。」

 一隻を撃沈しました、この調子で行ければいいのですが先行する艦隊との連絡がさっきの多摩さんの通信を最後に取れないままです。如月ちゃんが大破してしまったらしいので状況が気になります。

「格納庫から連絡です!」

 飛行科に出来る事は今は無いはずです、なぜ連絡が来るんでしょうか。

「……用件は?」

「それが……。」

 複雑な表情で言葉を言いよどんでいる妖精さんから受話器を受け取ります。

「発艦させて下さい!」

 電話の向こうの妖精さんの最初の言葉に耳を疑う。

「何言ってるんですか、この天候じゃ無理です、帰って来れませんよ!」

「帰って来る必要はありません、近くのCVに着艦します!」

「近くの空母……」

「はい、離陸後は龍鳳に着艦します、あの広い甲板ならこの天候でも何とかなります」

 その手があった!

「少し待って下さい!」

「妖精さん、風とうねりの状態を教えて下さい!」

「はい、風は東より30ノット、うねりも東よりです!」

「東より……ですか……」

 はぐろはCICの大きなディスプレイを見て考える、そうして結論を出す。

 

「ダメです、許可できません。」

「……言うと思いました、理由を聞かせて下さい。」

「今は五隻で網を張っています、今私が抜けてしまうと大きな穴が空いてしまいます、それに…。」

「着艦の時に龍鳳さんを孤立させてしまう事になります、潜水艦は前の二隻だけではありません。」

 西風だったら話は違ったかもしれませんが今は東風、船団の針路とは全く逆の方向です。発着艦の時には風に向かって船の揺れを少なくしなければいけません。後ろには船団です、発艦させるには船団の右か左に抜けなければいけない。

「それでも、お願いします!」

「はぐろさん、私からもお願いします、飛ばしてあげて下さい!」

「私も、お願いします!」

 突然別の回線から通信が入ります、この声は龍鳳さんと吹雪ちゃんです。

「龍鳳さん、吹雪ちゃん、どうして!」

「私達も......頑張る...」

「抜けるったってちょっとだけだろ?大丈夫大丈夫、その間くらいしっかり守るよ!」

「みんな…。」

「はぐろさん、こうなったのも私の責任です、私がもっと早く最初の潜水艦を倒せてれば天気が悪くなる前に抜ける事が出来たんです、だから……危険な事だってやります、いいえ、やらせてください!」

 龍鳳さんが今までにない強い口調で言います。

「すいません、僚艦に今までの会話を流させてもらいました。」

「……後でおしおきですよ。」

「煮るなり焼くなり好きにしてください。で、どうするんです?」

 ……やるなら早い方がいいですね。

「わかりました……今から艦載機の発艦のために船団の右に出ます。しばらくは護衛を離れます、戻ってくるまで対潜指揮艦を吹雪ちゃんに交代します!」

「は、はい、任されました!」

 そうです、私は言いました、みんなは強いって、私が少しの間抜けるくらいどうってことありません。前に待ち構えている二隻の潜水艦くらいやっつけてくれます。

「航空機を格納庫から搬出、揺れが酷いです、十分に注意して下さい!」

「了解、すぐに終わらせるぜ!」

「面舵、第2戦速!船団の右に出ます、風上に向かい始めたらすぐに発艦できるように準備しておいて下さい!」

「ラジャー!」

 右に大きく舵をとって深雪ちゃんの前を通ります。私よりも一回りも二回りも小さい体で荒れた海に揺られながら頑張っているんでしょう。

「すぐに戻ります、それまでお願いします。」

 はぐろはCICの大きなディスプレイに映る4隻の駆逐艦のシンボルを見つめて言葉を漏らした。

 

 

 

 

「戻ってくるまで対潜指揮艦を吹雪ちゃんに交代します!」

 はぐろさんはそう言って私達の列から離れて行きました。

「みんな、今から私が対潜戦の指揮を取ります!」

「吹雪ちゃん、頑張ろうね!」

「やっぱり私達のお姉さんだ!」

「特型の一番艦は...伊達じゃない...。」

「もう、おだてないでよ!」

 みんなの軽口で少し気持が楽になる、はぐろさん程性能も武器も強力ではないけど私だって立派な艦娘です。指揮艦だってやってみせます!

「白雪ちゃんと深雪ちゃんは速力を12ノットに、三隻でバラバラに船団の前方を蛇行して哨戒をします、初雪ちゃんは今のまま哨戒を続けて!」

「「「了解(わかった...)」」」

 吹雪の指揮のもと、第11護衛艦隊は対潜戦を開始した。

 

 

 

 

「まだ直らないにゃあ?」

 甲板上で雷撃の危険を顧みず動き回る妖精を一人捕まえて多摩は聞いた。

「はい、予備の空中線を引いていますが…復旧までしばらくかかります!」

「どれぐらいかかるにゃあ!」

「40分は見てもらわないと……。」

「40分…。」

 多摩は一度目の雷撃で通信用の空中線を軒並み破壊されてしまったのだ。

「とにかく、全力で直すにゃあ!!」

 前の救援の要請から状況を全く知らせる事が出来ていない、睦月たちが今必死に攻撃しているけど中々効果が上がらないようだ。今は駆逐艦の攻撃と自分の欺瞞運転で何とか敵からの攻撃を防いでるがこれもいつまで持つか。

「左、魚雷音!方位登ります!」

 マズイ、だんだん攻撃が近づいて来ている、相手は全没しての攻撃にこだわっているけどもう一回潜望鏡を出されたら間違いなくやられてしまう。

 自分も戦闘に加わるべきなのか、如月を曳航するべきなのか、それともこのまま……。

「左、雷跡~近い!!」

 色々な選択肢が多摩の頭をよぎるが妖精の声でその思考も一時中断を余儀なくされる。

 そして目の前を魚雷が通り過ぎていく。敵は徹底して全没攻撃をしてくるためか攻撃の精度はあまりよくないようだ、でも…。

「どうやらあんまり時間は残ってないようにゃあ…。」

 一回一回で確実に深海棲艦の攻撃の精度が増している、それに睦月たちの爆雷も数に限りがある。いつまでも敵を牽制出来る訳ではない。

 

 

 

 

「090度ヨーソロー、両舷前進原速、航空機発艦準備始めて下さい!」

 船団の右側に出たはぐろはすぐさまシーホークの発艦準備に取り掛かった。船を風に立てて出来る限り揺れを少なくする。それでも今日のこの天候では、船の揺れは若干少なくなった程度で収まることはない。

「おい、まだ準備出来ないのか!」

「すいません、まさか発艦するとは思わなかったんで魚雷を降ろしてるんです、搭載まで待って下さい!」

 揺れる艦内で魚雷を搭載しようと妖精は一生懸命だが、なかなか上手くいかない。それについ最近来たばかりで練度もそれほど高くないのだ。

「先に任務を言っておきます、現在第30駆逐隊の連絡がとれません、発艦後シーホークはすぐに第30駆逐隊の状況確認と救援に向かって下さい。」

「了解!」

「魚雷搭載終わりました、燃料は増槽を含めて満タンです!」

「わかった、今日はこの船には帰って来ないから夕飯はいらないといっておいてくれ。」

「龍鳳の飯は美味しいと聞きます、お土産よろしくお願いします。」

「気が向いたらな!よっし、乗り込め、エンジンスタート!」

 整備の妖精と軽口を叩きながらシーホークに乗り込んだ妖精は、手早く準備を進める。

「ローターかん合!」

 エンジンの甲高い音と共にヘリコプター特有のプロペラが空気を裂くけたたましい音が鳴り響く。

「ワイバーン01、発艦準備よろしい!」

「発艦して下さい!」

「ラジャー!」

 合図と共に機体がふわりと空中に浮かぶ、そして機体はすぐに上昇を始めて雲の中に消えていった。

「思ったより時間がかかってしまいました……。」

 船の揺れや不慣れな事もあって発艦までだいぶ時間を要してしまった、船団から少し離れすぎたようだ。

「面舵、船団に追いつきます、第2戦速!」

 

 

 

 

「魚雷、来ます!被雷コースです!」

「衝撃に備えるにゃあ!」

「雷跡視認、来ます!」

 見張り妖精が指差す方を見ると、魚雷が吐く真っ白な気泡が線になってゆっくりと近づいてくるのがわかった。

 

 そして次の瞬間、艤装を突き上げるような大きな衝撃と共に空高く水柱が上がる。

「まだまだにゃあ!」

 二発目の魚雷を受けて多摩は唸る、服もそこかしこが破けてしまった。

「左舷後部に被雷、左舷缶室と機関室に大破口、左舷出力を維持できません!」

「なんの、まだ右弦は生きているにゃあ!」

「右傾斜、艦首トリム戻ります!」

「よっし、これであと一発は耐えられるにゃ!」

「そんな……。」

 妖精が多摩の言葉を聞いて息を呑む、多摩は既に2発の魚雷を受けている。それに浸水で喫水線は既にかなり深くなってしまっている。軽巡洋艦は駆逐艦より装甲が厚いといってもさすがに3発の魚雷を食らえば沈没する可能性はかなり高い。

「もう止めましょう、こっちも沈んでしまいます!」

 一人の妖精が多摩に言う。

「前ならそうしてたかもしれないにゃ、でも…。」

 駆逐艦は使い捨て、戦闘で消耗するものだ。軽巡洋艦と駆逐艦、どっちが価値があるかなんて一目瞭然だ。

「でも、それは只の軍艦だったらの話にゃ。」

「助かる仲間を見捨てて任務を成功させても空しいだけにゃ、少しでも可能性があるうちは諦めないにゃ!」

 

「多摩さん、もう止めて!動けるうちに逃げて下さい!」

「如月、もう決めたにゃ、多摩はここから一歩も動かないにゃ!」

「でも、このままじゃ二人ともやられます、お願いです、」

「その時はその時にゃ、それにこの状況も悪くないにゃ。」

「えっ?」

「如月のそんな取り乱した様子が見れるのは珍しいにゃ、今度睦月に話してやるにゃ。」

「そんな事を言ってる場合ですか!」

「如月、確かにそんな場合じゃないにゃ、だから出来る事をするにゃ!」

「出来る事?」

「いいか、よく聞くにゃ、睦月たちの攻撃で敵も少なからず焦っているにゃ、敵が多摩たちを手っ取り早く仕留める一番確実な方法は露頂する事にゃ、それを見逃すと二人とも今度こそ海の底にゃ。」

「その潜望鏡を見つける、という事ですか…。」

「理解が早くて助かるにゃ。」

「無理です、こんな海では見つけられっこありません!」

「無理でもやらないよりマシにゃ、如月!」

「……わかりました。」

 

「手空きの妖精、上甲板に来て下さい!」

 如月の合図で如月の艤装の中から妖精が沢山出てくる。妖精はついさっきまで防水作業に励んでいたのか皆一様にびしょ濡れだった。如月は沢山の妖精といっしょに針一本見落とすまいと海面を見つめ始めた。

 

 

 

 

「くっそう、ちょこまかと!」

 何度目かの制圧をかわされた望月が毒気づく。

 第30駆逐隊は計3隻の潜水艦の襲撃を受けていた。一隻は如月の最初の攻撃で撃沈したが、如月と多摩が被雷したことでもう二隻いる事が明らかとなったのだ。そして望月と弥生は二人で、睦月は一人でそれぞれの潜水艦の対応に追われていた。潜水艦には二人以上で対応していくのが普通だが、この状況ではそうも言っていられない。早くやっつけないと仲間が危険だ、そんな気持から対潜部隊にも焦りが募る。ましてや旗艦の多摩はほぼ通信不能の状態で少し離れると連絡が取れなくなってしまう。

 敵と対面している艦娘たちにも焦りの色が広がる。ましてや一人で一隻を相手にしている睦月はなおさら厳しい状態だった。

 

 

「私が。如月ちゃんを助けるんだ!てぇえええ~い!」

 何度目かの爆雷攻撃を行う、しかし今まで経験したこともないほどの味方の危機が攻撃の精度を鈍らせる。

「爆雷残量、あと一回分です!」

「にゃ、本当ですか!」

 しまった、一隻で攻撃すると消費量は多くなってしまう、そんな事にも気がつかないなんて。

 あと一回で仕留めなければいけない、その事実に睦月は少なからず動揺した。

 そんな睦月の心理を読んだのか、深海棲艦は勝負に出た。爆雷が海中を荒らしているうちに一気に増速、睦月を振り切りにかかったのだ。

 

「潜水艦、失探しました、最後の場所、針路不明です!」

「ふえぇぇぇ…私としたことが…。情けないのです…。」

 こんな大事な所でミスをしてしまった、私のせいで如月ちゃんや多摩さんが沈んでしまったら…。

「近くを集中的に探して、遠くには逃げられないはずです!」

 深海棲艦はまんまと睦月の追尾を振り切ったのだった、そして向かう先は……。 

 

 

 

 

「見えました、潜望鏡!三時方向です!」

「主砲を撃って!」

 露頂した潜望鏡の方に主砲を発射する。

 しかし、露頂した潜望鏡に大砲の弾を当てるのは至難の業だ、発射された弾は海面に空しく水柱を立てる。

 如月は自分の主砲弾の炸裂が作る水柱の間で深海棲艦の潜望鏡を見つけた、それは勝ち誇ったかのようにこっちを見ている。

「私達を...どうする気?!」

 その潜望鏡を見て言葉を漏らす。

 当たらなくても如月は攻撃をやめない、それが多摩さんが言っていた出来ることだと思ったからだ。

 露頂するのは多摩さんが言った通り潜水艦の攻撃の最終段階、後は魚雷を発射するだけ、絶対に止めないといけない。

 艦娘になってお姉さんや沢山の妹が出来た、もっとみんなと一緒にいたい。

「お願い、助けて。」

 如月は最後の力を振り絞って深海棲艦を攻撃する。

 

 

 

 

 

「TORPEDO AWAY!(魚雷投下!)」

 聞きなれない声と同時に如月の上を一機の虫のような飛行機が通り過ぎる。その変な飛行機は何かを落としていった。

 深海棲艦は飛んできた飛行機に驚いたのか、すぐに潜望鏡を引っ込める、だが......既に手遅れだった。

 シーホークが投下した対潜魚雷はすぐさま潜水艦を見つけ追跡を始め、深海棲艦に逃げる間を与える事なく命中した。

 さっきまで主砲を撃ち込んでいた海面付近に大きな水柱が上がるのを見て如月は夢でも見ているような気分だった。

「……助かったの?」

 崩れ落ちる水柱を見て如月は呟く。

「まったく、ヒーローは遅れて来るって言うけど…遅すぎにゃあ!」

 多摩は力が抜けたのか、悪態をつきながら甲板にペタリと座り込んだ。

 如月も多摩もしばらく爆発があった海面をボーっと眺めていた。

 

 

「多摩さん、如月ちゃん、大丈夫ですか!」

「にゃあ、睦月、何とか無事にゃあ。」

「睦月ちゃん、何とか助かったみたい。」

「よかったぁ~。」

「こっちも倒せたよ!」

「......ごめんなさい、遅くなった。」

「望月、弥生、睦月もよくやってくれたにゃ、さあ如月、曳航を始めるにゃ。」

「多摩さんが引っ張るんですか?」

 睦月が不思議そうに首を傾げて言う。

「そうにゃ、睦月はこの場に残って多摩たちの護衛、爆雷がまだ残ってる望月と弥生にはまだやって欲しい事があるにゃ。」

「…なあに?」

「第11護衛艦隊を助けに行くんだろ?」

「望月、よく分ったにゃ、さっきの攻撃の目的が多摩たちの足止めなら、ここからいい体勢で攻撃がかけられるにゃ。」

「わかったよ、弥生、行くよ!」

「うん…。」

 

 

 

 

「旗艦多摩より発光信号です、{トウカイイキにタイセンキョウイナシ、ボタイのエンゴニムカワレタシ}です!」

「任務完了、帰投するぞ!」

「「はい!」」

 遠くの先行艦隊に援護に行ったことと、悪天候で燃料の消費が思ったより激しかった、援護に向かえと言われたが、シーホークの仕事はこれで終わりだ。

「あとは着艦だけですね、機長!」

「ああ、着艦出来ればいいんだけどな……。」

「「えぇ?」」

「ごめん、実は他の船で夜間着艦の経験…ないんだよ…。」

「「……機長、冗談ですよね?」」

「ゴメン、本当!」

「「アンタって妖精は~!!」」

「さっきの駆逐艦を見たろ、最後まで諦めない事が大事だよ。」

 さっきの駆逐艦とは如月の事だ、シーホークは如月の主砲弾が立てる水柱を見つけたからこそ海域に到着してからすぐさま攻撃に移れたのだった。

「そうかもしれませんけど……、機長、あなたに諦めてもらったら海に降りるしかないんですが……」

「それもそうだな、まあ上がってしまったものはしょうがないよな、無事に降りれたら何か奢ってくれよ。」

「「…こっちが奢ってもらいます!!」」

 




ちょっと長めに書けたかな、二回で終わるつもりが三回になってしまいました。

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