イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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日常は難しいです。更新ペースが遅くてすみません。


準備します。

「すごい…。」

「大きいね!」

 大井さんの後を追って宿舎に戻ると今日の夕食の材料が並べられていました。

 その中で一際目を引くのが一頭の大きな猪です。

「こんなのどうやって捕まえたんでしょうか?」

 白雪ちゃんの一言でみんなの視線が大井さんに集まります。

 不謹慎かもしれませんが私は大井さんが猪を狩っている姿を想像してしまいます。

「あなた、今失礼な事考えなかった?」

「い、いえ、そんなことありません!」

 考えていた事を見透かされて大井さんに迫られてしまいます。

 口では否定していますが目が泳いでいるのが自分でもわかります。

「大井さんが猪を追いかけてる姿なんか想像してなモゴモゴ…。」

 後ろを振り返ると深雪ちゃんの口を押さえる白雪ちゃんと吹雪ちゃんの姿がありました。

「あはは……なんでもないです!」

 深雪ちゃんの口を押さえた二人が苦笑いをしながら言います。

 おそるおそる大井さんの顔を見ます、笑顔のままですが目は笑っていません……。

「あら、僚艦の教育がなっていないようね…。いいえ、それを言うなら僚艦は旗艦に似るかしら?」

「ごめんなさい!」

 まさか深雪ちゃんまで私と同じ事を考えていたなんて。

「あら、いいのよ、別にあなたたちの夜ご飯がお魚一匹になっても。」

「そんな!何でもしますからそれだけは許して下さい!」

「ちょっとはぐろさん、何でもするなんて言ってしまっては……。」

 龍鳳さんにとがめられます。

「そう、何でもするのね……、」

 大井さんの目がスッと細くなります。

 龍鳳さんに言われてしまったと思ったけど、もう遅かったようです、私達は大井さんの次の言葉を待ちます。

「じゃあ今日の夕食とお風呂の準備を全部お願いするわ。」

「え?それだけでいいんですか?」

 どんな事をしないといけないかと思ったらそんな事でした。

「やるの?それともご飯抜きがいいの?」

「「「「「やります!」」」」」

 私達は二つ返事で了承しました。

 

 

 

 

 料理担当となった龍鳳とはぐろは宿舎の調理場で材料を前に今日の夕ご飯のメニューを考えていた。

「龍鳳さん、猪を料理した事ありますか?」

「いいえ、でも豚とほとんど同じだと思います、問題は……これをどうやって食べられるまでにするか、です。」

 目の前には猪一匹、さすがに丸々を処理するのは龍鳳も初めての経験だった。

「艤装に持って帰って妖精さんと協力して何とかしてきます。そうですね、大人数で手軽に食べられる物がいいので、今日はお鍋にしましょう。私が離れる間にお鍋の下準備をお願いします。」

「わかりました、任せて下さい!」

「私はこれを持って帰るので少し手伝って下さい。」

 そして私達は大きな猪を二人で協力してリヤカーに乗せます。

「それではお願いします、出来るだけ早く帰ってきます。」

 そう言って龍鳳さんは行ってしまいました。一人残された私はお鍋の準備を始めます。

「海上自衛隊の料理の腕の見せ所ですね!」

 お鍋はあまり腕は関係ないですが、頑張ります。

 

 

 

 

 一方お風呂の準備をしていた白雪たちは。

「まさか、こんなに大変なんて……。」

 お水の入ったバケツを運びながら白雪ちゃんが呟く、お風呂の準備はまず綺麗な水を運ぶ事から始まった。

 近くに川も流れていて水に困ることは無いと思ってたけど基地の造水装置が少し遠くにあってそこから綺麗な水を運ばないといけないようだ。

「どうしてこの基地ってこんなにボロ…施設が貧弱なんだろう、佐世保はお風呂も広かったのに。」

「深雪ちゃん、実は司令官が実はケチなのかも...」

 白雪ちゃんが言います。

「そんな事ないと思うけどなぁ…。」

 司令官がケチ、可能性は無いとは言えません、一回会っただけですが、そんな印象は受けませんでした。

「佐世保と比べるのは......」

「ほら、そこ!口ばっかり動かしてないで働きなさい!」

 私達がこの基地と司令官について話しているとどこからともなく大井さんの声が聞こえます。

「「「「ごめんなさい!」」」」

 私達はびっくりして重たいバケツをひっくり返しそうになった。

「怖い姑さんみたい…。」

 白雪ちゃんがぼそりと呟く。ちょっと、もし聞かれてたら大変だよ!

「何か言った?」

「い、いいえ、何も言ってません!」

 私達は逃げるように、急いでお水を持って行きました。

 

 

 

 

「ふぅ、やっと終わりました。」

 艤装に戻って妖精さんに猪の処理をなんとかしてもらって、みんなの所に十分な量のお肉を持って艤装からの帰り道を歩く。

 それから宿舎の調理場に戻ってみるとはぐろさんはお鍋ではなく寸胴をを真剣にかき混ぜていました。

「龍鳳、ただいま帰りました。」

「あ、おかえりなさい。」

 はぐろさんは笑顔で迎えてくれます、でもそれよりも気になる事があります。寸胴をかき混ぜているのを不思議に思った私は聞いてみる。

「あの、はぐろさん、どうして寸胴なんですか?」

「えっと、カレーを作ろうと思ったので…………あぁ!」

 彼女はやってしまった、という顔をする。

「ごめんなさい、お鍋を作るはずなのに、私、間違えてカレーを!」

「「……」」

「ふふっ…。」

 おろおろするはぐろさんを見ていて何だか可笑しくなって笑ってしまった。

 いったいどうすれば間違うのか、と思ってしまわないでもなかったけど、作ってしまったもはしょうがない。今日の夕ご飯はお鍋改めカレーに決まった。材料を寸胴に入れてすぐのようで、まだお肉を入れても大丈夫そうだ。

「作ってしまったものはしょうがありません、二人でみんながびっくりするようなおいしいカレーを作りましょう。」

「はい!」

 寸胴に入っている食材の様子を見る限り料理が下手という訳ではないみたいです、これならスムーズに作れそうですね。

 龍鳳とはぐろはぼたん鍋改めぼたんカレーを二人で協力して作り始めた。

 

 

 

 

「なんだかいい匂いがしてきたね。」

「うん、これは…カレーかな?でも今日は土曜日じゃないよ。」

 吹雪と白雪が水の入ったバケツを置いて顔を見合わせる。

「いいのいいの、食べられればそれで、運動したらお腹空いちゃったよ!」

 深雪は水をお風呂に注いで空になったバケツを地面に置いて汗を拭く。

「早く終わらそうぜ、みんな!」

「そうだね!」

 吹雪と白雪も地面に置いたバケツを持ち上げてドラム缶に水を入れた。

 4人で何度もバケツを持って往復した甲斐もあり、ドラム缶には十分な水がたまっていた。後は火を起こして水を温めるだけだ。

「私、燃料持ってくるね!」

「ああ、任せた!」

 吹雪は火を起すために燃料を取りに行く、三人はその帰りを待っていると、多摩たちが帰って来る。

 

「お、やってるにゃ!」

「多摩さ~ん、疲れました~。」

「その様子じゃお風呂の水汲みをやってたにゃ、ご苦労さまにゃ。」

 多摩さんは地面に座り込んでいる深雪の頭をぽんぽんと叩く。

「お疲れのみんなに少しプレゼントがあるにゃ、目をつぶって口をあけるにゃ。」

 多摩にそう言われた三人はなんだろうと顔を見合わせてそれから目をつぶって口をあけた。

 多摩は三人の口に順番に何かを放り込む。

「さ、食べるにゃ。」

 多摩の言葉を合図に三人は口を閉じてそれぞれ口の中に入れられた物を味わった。

「何、これ、すごく甘い!」

「甘酸っぱい!」

「おいしい...」

 口の中に入れられた物を食べた三人は始めて食べる物への驚きを隠せなかった。

「多摩さん、さっきのはなんですか?」

 深雪ちゃんが目を輝かせながら言う。

「ふっふっふ、今のはパイナップルにゃ、多摩たちの収穫はこれにゃ!」

 多摩は胸を張って言う、そうすると後ろの睦月たちがかごに入った果物を三人に見せる。

「「「おおぉ~!」」」

 かごには沢山の果物が入っていた、パイナップルだけではない、バナナやマンゴーなど、南国の果物で篭はいっぱいだった。

「みんなで頑張って集めたんだよ!」

 睦月が嬉しそうに言う。

「今日のデザートにしましょう。」

 如月が言った。

「多摩さんがすっごい活躍してくれたよ。」

「望月、それは秘密にゃ!」

「木登りが...上手い...」

「にゃあ!弥生、言っちゃだめにゃ!」

 多摩がぶんぶん手を振って後ろの駆逐艦を黙らせようとする。

「多摩さんって木登りが得意なんですね!」

「......猫みたい......」

 深雪の言葉に初雪がぼそりと呟く。

「にゃあ!だから秘密にしてって言ったのに、多摩は猫じゃないにゃあ!」

「みんな~、燃料持ってきたよ~!」

 そこへ吹雪が帰って来る。

「あ、多摩さん、お疲れ様です!」

「吹雪ちゃんお帰り、ちょうどよかった、目を閉じて口を開けるにゃ。」

「えっ、どうしたんですか、急に?」

「いいからいいから。」

 深雪が吹雪にそうするよう促す。

 吹雪は状況についていけなかったが、とりあえず言われたとおりにする。多摩は吹雪の口に一かけらのパイナップルを放り込む。

「甘~い!」

 吹雪もまた始めて食べた南国の果物に驚きの声を上げた。

吹雪もまた南国の甘い果物に笑顔で言った。

 それから吹雪たちは第30駆逐隊と協力してお風呂をわかした。

 

 

 

 

「みなさ~ん、ご飯できましたよ~!」

 龍鳳さんが外に向かって言う、それを合図にみんなが宿舎の中に入ってくる。

 宿舎はボロボロだけど広さは十分で、食堂と思われる場所には、みんなが座れるだけの十分な大きさの机が置いてあります。そしてみんな思い思いの席に座ります、今日の夕食はカレーとサラダと果物の盛り合わせです。

 はぐろと多摩たちが席についた頃に大井と北上も宿舎に帰ってくる。

「お、出来てるね、誰の特製カレー?」

「あの、龍鳳さんと私の合作です!」

「いい匂い、美味しそうだね。」

「あら、北上さん、私が作ったカレーもおいしいわよ。」

「そうだね、大井っちの作ったカレーもおいしかったよ、また頼むね。」

「えっと、じゃあ揃ったみたいだし、司令官を呼ぶね。」

 北上さんが部屋にある黒電話を取って電話を始める。

「あっ、司令官、ご飯出来たって、早く食堂に来なよ、なくなっちゃうよ。」

 一言そう言うと北上さんは電話を置いて椅子に座る。

「司令官もすぐに来ると思うけど、もう食べよっか。」

「で、でも……。」

「いいのいいの、待たなくていいって言われてるし。」

「ほら、北上さんがこう言ってるんだから早く座りなさい。」

 

「「「「いただきます!」」」」

 全員が席についたところでみんなで手を合わせていただきますをする。そしてそれぞれが口に龍鳳とはぐろ合作の特製カレーを口に運ぶ。

「「「「「「………」」」」」」

 しばらくみんながカレーを味わう、食堂は少しの間静かになります。みんなにご飯を作るのは初めてなので少し緊張します、口に合えばいいのですが。

「おいしい…。」

「何、このカレー、すごく美味しいよ!」

 最初に言葉を発したのは吹雪ちゃんと深雪ちゃんでした。

「へぇ、お肉が猪だから臭みが残ってるかもって思ったけど、上手く処理されてるね。」

「確かに美味しいけど……私には少し刺激が足りない気がするわ。」

 北上さんと大井さんがそれぞれ感想を言ってくれます。

「猪の肉入りカレーなんて初めて食べたけど、結構イケるね。」

「睦月はこれぐらいのカレーが好きですー。」

 今回のカレーは艦隊に駆逐艦が多かったので甘めに作っています、軽巡洋艦の方には少し辛さが足りなかったかもしれません。でも皆さんの様子を見るとまずまず好評のようです。

「みんな、お疲れさま。」

「「「「司令官!」」」」

 私達がカレーを食べ初めてしばらくして司令官が宿舎に来ました。

「ああ、気にしないでそのまま食事を続けて。」

 立とうとする私達を制します、そうして空いている席に座ります。

「へぇ、美味しそうなカレーね、いただきます。」

 司令官もカレーを食べ始めます。

「………」

 作った私と龍鳳さんはその様子を固唾を呑んで見守ります。そして一口食べ終わってから司令官はスプーンを置きました。

「元潜水母艦が来たって言うから食事には期待してたんだけど……。」

 司令官は目線を上げます。

「本当に、本当に美味しい、ありがとう!!」

「そんな、司令官、大げさですよ!」

 龍鳳さんが感極まった様子の司令官に言います、私も司令官にこんなに大げさな反応をされるとは思ってもみませんでした。

「いいえ、そんなことないわ!美味しい食事が食べられる、それがどんなに幸せか!」

「司令官、それじゃあ私達のご飯が美味しくないみいたいじゃない!」

「……大井さん、美味しいかどうかは別にして、たまに朝ごはんが二人分しかないのは狙ってやってるのよね?」

「北上さんとの朝を邪魔する司令官が......あっ、いえ、そんなことないですよ、至らなくてごめんなさい。」

 大井さんの反応を見て司令官は大きなため息をつきます。そして司令官はこの分遣隊での苦労話を始めた。

 駆逐艦しか来ていない日は、駆逐艦は料理が出来ない娘がほとんどなので、ほぼ毎日が缶詰などの保存食とご飯だけになる。

 空母や戦艦が来ると基地の備蓄していた食材がほとんど無くなってしまい、その後数日間は霞を食べるような生活になってしまう。

 この世の物とは思えない食事を食べさせられて数日間基地の業務が止まってしまったこと。

 他にも沢山の苦労話を聞かされました。司令官はほとんど一人でこの基地をやりくりしていてとっても忙しいので、食事の事情は入港する艦娘が握るのがほとんどなそうです。

「人数を増やす訳にはいかないんですか?」

「ダメよ、本土ならともかく、こんな辺境でどこの馬の骨ともわからない野郎を基地に入れる訳にはいかないわ!」

 白雪ちゃんの質問に司令官が答えます。

「いい、あなた達、自覚は無いかもしれないけど、みんなかわいい年頃の女の子なんだから、気をつける所はしっかり気をつけないとダメ、そうしないと狼に食べられてしまうわ!」

「狼、ですか?」

 吹雪ちゃんが?マークを浮かべて聞き返します。

「野……男のことよ、男の。」

「男の人に食べられるんですか?」

「そう、男は欲望と悪意の塊なの、気をつけないとダメよ。」

 司令官はそう言いますが私にとって男の人は命をかけて私を守ってくれる人達でした、悪い感情なんて抱ける訳がありません。

「うふふ、吹雪ちゃんには少し早いかもしれませんね。」

「如月ちゃん、睦月にも早いのかにゃ?」

「そうねぇ…まだ早いかもしれないわね。」

「実感がわかないようならこれを見なさい!」

 司令官は一冊の本を取り出した。表紙には[日本の艦娘 ○月号 巡洋戦艦金剛特集]と書いてある。表紙には白い巫女服を羽織った活発そうな女の子が映っている、この人が金剛さんなのでしょう。

「あ、それ今月号も出てたんだ、買いに行かなきゃ。」

「望月、買ったら見せて......」

 中をめくると金剛さんの色々なアングルからの写真が載ってある。

「へぇ、こんな本も出てるんだ。」

 深雪ちゃんが興味深そうに言います。

「あなた達ものっているわ。」

 司令官は後ろの方のページをめくる、コーナーの名前は今月の新着任艦娘。

「あれ?これ私!いつの間に!」

 コーナーの最初の一ページを見た吹雪は声をあげる。最初の訓練で佐世保を出航する時の写真なんでしょう、旗甲板であくびをしている吹雪ちゃんの姿が映っている。

「あなたたちみんな載ってるわ。」

 司令官は次々とページをめくる。

「あら、あなた大胆ね。」

 ついに私のページに来ました。いつ撮られたのかはわかりませんが高い艦橋が仇になって際どい角度から取られています。

「ダメです!見ないで…見ないで下さい~!」

 でもしっかりみんなに見られてしまいました、うう、恥ずかしいです。

「わかった?こんな本も出回ってるの、それにこの本、毎月すごく売れててなかなか手に入らないんだから。」

「全く、私ならそのカメラマンに魚雷を打ち込んでやる所だわ。」

 大井さんが言います、確かに少し恥ずかしい写真は撮られてしまいましたが、それは少しやりすぎだと思います。

「要するに、もっとガードを硬くしないと大変なの、この基地はお風呂だって屋内にないの、そんな所に男を連れてくる訳にはいかないのよ。他にも理由はあるんだけど、私が一人でいる理由はこんなものかしらね。」

「ねぇ、お代わりしてもいい?」

「はい、いいですよ沢山食べて下さい深雪ちゃん。」

 龍鳳さんに言われた深雪ちゃんは嬉しそうにお皿を持って椅子から立ち上がります。

「あ、私もお代わりする!」

「私も......」

 お話をしているうちにみんなカレーを食べ終えたのか次々にお代わりをしていきます。

「ねえ、私のぶんもちゃんと残しておいてよ。」

 後から来た司令官は食べ終わるのにもう少し時間がかかりそうです。

「さぁ、司令官の分は無くなってるかもね~。」

「くっ、そうはさせないわ!」

 北上さんに言われて司令官は食べるスピードを上げる。私と龍鳳さんはそれを見て顔を見合わせます、そして何だか可笑しくなってくすくす笑ってしまいました。

 夕食が上手く作れてよかったです。

 




感想などいつもありがとうございます。

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