戦闘が少なくて本当にすみません。
「ドラム缶の淵には気をつけてね。」
司令官が言うにはドラム缶の淵は中のお湯より熱くなっているらしく、入る時にはドラム缶に当たらないようにしなければならないようです。
「ふぅ、生き返るわね…。」
司令官が私の隣にあるドラム缶風呂に体を沈めて言います。私も司令官に習ってドラム缶のお湯に体を沈めます。
空を見上げると星をバケツでひっくり返したような凄い量の星が綺麗に光っています。
「ウチの基地は施設は残念だけど、こういうのもあるから悪くないでしょ?」
「はい。」
露天風呂にはつい3週間前に入ったばっかりですが、まさかこんな形でもう一度入れるとは思いませんでした。
「全く、なんで私が北上さんと別々なのよ。」
大井さんが物凄く不満そうにお風呂に来ました。
ドラム缶風呂は全部で4個、私達は適当に分かれて入ることになったのですが、北上さんと大井さんは順番が前後してしまって別々になってしまったようです。
「あ、北上さん、ちょっと来るの早いよ。」
大井さんがお風呂に入ろうとしたところで深雪ちゃんが脱衣所のほうを指差して言います。
「え!北上さん!?一緒に入りましょ…熱い!」
大井さんは深雪ちゃんの声に気をとられたのか、熱いドラム缶の淵に太ももを当ててしまったらしくて熱そうに当たった場所を押さえます。
そして深雪ちゃんが指差した脱衣所には誰もいませんでした。
「ぷぷっ、引っかかった!」
「この、生意気な駆逐艦!」
「怒った、逃げろー!」
大井さんは凄い勢いで深雪ちゃんを追いかけます。
深雪ちゃんは一生懸命逃げますが身長の差のせいか、どんどん大井さんに追いつかれていきます。そしてあっと言うまに捕まってしまいました。
「この!この口が悪いのね!」
「いだい、いだい!」
大井さんが両手で深雪ちゃんのほっぺたをつねっています。
「あはは、見てよあれ。」
司令官はそんな二人を見て笑いながら言います。
「あの、ごめんなさい!」
また大井さんに僚艦の教育がなっていないと怒られそうで、つい謝ってしまいます。助けに行きたい気持もありますが、さっきのは深雪ちゃんが悪いのは明らかです。
「いいのいいの、元気が一番、ああいうのを見ると何だか生きてるって感じがするでしょ?」
大井さんにこらしめられている深雪ちゃんを指差し笑いながら言います。
「あれから何か考えた?」
しばらくして、司令官は視線を空に移して言います。
「…はい、でも答えは出ませんでした。」
「そっか……。」
しばらく沈黙が流れます。
「ねぇ、作戦上であなた達に関わる人間がとっても少ない事を疑問に思った事はない?」
「えっと、あります。」
確かに佐世保のような大きな基地を持っているのに基地では艦娘以外では司令官の他は私達と関わる軍関係の人はいませんでした。それに、今回の作戦も規模から考えて、もっと沢山の人と関わっていてもおかしくないはずです。
「それが私達が出した答えの一つなの、一つ一つの作戦、一人一人の艦娘にしっかり責任を持つ決意の現われ。」
司令官は言葉を続ける。
「組織が大きくなると、どうしても責任がどこにあるのか曖昧になってくる時があるの、いつかみたいにね。それに、あなた達は船の生まれ変わりだって言っても、見た目がこんなのだから送り出す方も普通じゃやっていけないわ。」
「どの司令官も遠くであなた達におおまかな指示しか出せない、そして結果を待つしかないの、どの司令官だって色々抱えてると思うわ。」
「……そう…ですね。」
司令官は少し真剣な顔になって言います。
「でも、時々本当にこれでいいのかって考えるの、司令官だけじゃなくてもっと沢山の人が抱えていくべきものなんじゃないかって。だって見送られる人は多い方がいいじゃない?」
「はい…。」
「あっちを立てればこっちが立たずって、正しいか間違っているかどうかはとっても曖昧、あなたが輸送船の乗組員を助ける時にやった事も正しくない。」
「じゃあ……。どうすればよかったんですか!」
「あの時撃沈しなかった潜水艦がもっと沢山の人を殺すかもしれない、とも考えられるわね。」
「でも…」
司令官は攻撃するべきだったと言いたいのでしょうか、確かにその事を考えなかった訳ではありません。でも、目の前の人を一人でも助けたかった。 私は司令官の言葉を聞いて俯いてしまいます。
「意地悪な事を言ってごめんなさい、けど、助けられた人はきっと感謝してるわ、そう考えると正解とも言えるわね。」
「司令官の中であなたたちが戦いの中での判断を非難する人はいないはずよ、なぜだかわかる?」
「いいえ…。」
「極限状態で下した判断が正しいか間違っているか、なんてそう簡単に分かるはずないからよ、安全な場所で結果だけを見てああすれば良かったのに、なんて文句をつけるのは卑怯だと思わない?」
「………」
「だから、私は艦娘には自分が正しいと思ったように針路を取って欲しいな。」
「正しいと思った針路……。」
「そう、さっきも言ったけど正解も不正解も曖昧だって考えたら少しは楽にならない?それに、ほら。」
司令官は目線を少し横に逸らします、その先には相変わらず大井さんに懲らしめられている深雪ちゃんがいます。
「艦隊がきっといい方向に持っていってくれる、ベストじゃなくてもベターくらいにはね。」
懲らしめられている深雪ちゃんを見て、なぜか司令官と二人で笑ってしまいました。
「色々言ったけど、反省はしても後悔はしないで欲しい、難しいかもしれないけど。」
「うぅ、痛いよ~。」
私が司令官と話していると、ようやく大井さんに開放された深雪ちゃんがほっぺたを赤くして涙目で私の隣のお風呂に入ってきます。
「自業自得よ。」
大井さんはそう言って不機嫌そうにお風呂に入ります。
「先に上がらせてもらうわ、まだ仕事が残ってるの。」
大井さんがお風呂に入るのと入れ替わるように司令官はお風呂から上がりました。
「あら、司令官、こんな時間から珍しいわね。」
大井さんが意外そうに言います。
「そりゃそうよ、あなたたちの出航の日が決まったんだから。」
「「「えぇ!」」」
私達は一斉に驚きの声を上げてしまいます。
「明々後日、第30駆逐隊を除く全艦娘は出航することになったわ。」
「あの、ずいぶん急ですね。」
明々後日の出航なら準備は明日から始めないといけません。
「詳細はまた明日、今日はゆっくり休みなさい、蚊取り線香点けて寝なさいよ。司令官はこれから書類と夜戦を開始します!」
司令官はそう言い残して服を着るために脱衣所に入って行きました。
翌朝、司令官に呼び出された私達と大井さん、北上さんは次の任務の内容を知らされました。
内容は、
第11護衛艦隊
・第11護衛艦隊はSP国近海から日本まで高速輸送船団を護衛せよ。
・日本近海に到達後は航空母艦龍鳳を分離し、第11駆逐艦隊を編成、佐世保に入港せよ。
・分離後龍鳳は第2駆逐艦隊と共に呉に向かえ。
第4特務艦隊(大井、北上)
・SP国で得た物資をトラック泊地まで輸送せよ。
・泊地到着後、ただちに司令官のもとまで。
司令官は明後日の任務の内容を手短に話しました。
「つい先日見つかった小規模な棲地は無事に制圧できたそうよ、帰りの航路はかなり安全になっているはず。それに足の速い輸送船を付けたわ、行きの半分の日数で日本までたどりつけるわよ。」
司令官は言います、でもそんな事よりも気になったのは、龍鳳さんと艦隊を組むのも、もう残りわずかになったのを知った事です。
私達に龍鳳さんが臨時で編入されたのは、司令官から言われていたことですが、改めて命令として聞くと少し残念です。
「ちょっと、私達はまだ一週間ここにいるはずだったのに、どうしてこんなに前倒しになってるの!?」
大井さんが少し怒ったように言います。
「そのことで大井、北上の二人には少し話しがあるの、第11護衛艦隊はこの任務に質問が無ければ解散してよろしい、質問は?」
「えっと…あの……ありません!」
「「「「ありません!」」」」
私達は一人一人返事をして司令官の部屋を後にします。そして部屋の外でため息をつきました。
「さあ、もう出航まで時間もないです、準備を初めましょう。」
真っ先に口を開いたのは龍鳳さんでした。
「龍鳳さん……はい…。」
弱弱しい返事しか出来なかった私、吹雪ちゃんたちも俯き気味です。そんな私達の様子を心配したのか、龍鳳さんが明るい声で言います。
「出航の前にいっぱいご馳走するって約束、覚えてますか?」
「はい、覚えてます。」
白雪ちゃんが答えます。
「出航すると無理そうですから、今日ご馳走させて下さい。えっと、場所は……そうですね、はぐろさんの艤装に集まりましょうか。」
「は、はいっ!あの、何でも好きに使って下さい!」
食べ物の節約とか、もうどうでもいいです。司令官に怒られても構いません。今日は龍鳳さんが料理の腕を振るえるように全力で協力します。
外でそんなやりとりが行われている頃、司令官室の中では……。
「で、私達をここに残した理由を説明してくれる?」
「これをトラックに一日も早く届けて欲しいの、内容は……読んだら分かるわ。」
司令官は机の中から分厚い資料を出して北上に渡した。
「これって…あの旗艦が書いた戦闘詳報?すいぶん分厚いね。」
「これでも薄くしたのよ、重要な所の抜粋と言えばいいかしら。」
「へぇ、読ませてもらうね……」
北上は渡された資料のページをめくり内容を読み始めた。大井も北上に習って資料に目を落とす。
そして、しばらくページをめくる音だけが部屋に響いた。
「司令官、これって…。」
しばらく読み進めて北上が呟いた。
「そう、あの子たちが遭遇した深海棲艦の情報がかなり詳細に記されているわ。潜水艦を探知するためのパッシブソーナーの待ちうけ周波数に発信電波のパターン、船体の音の反響特性、その他もろもろ、今まで私達が知りえなかった事が詳細にね。それに戦術的な面も2歩も三歩も先に行ってるわ。」
「第2駆逐隊は確か呉で燃料を積んで横須賀に行くんだったよね…私達の出航が早まったのも……。」
「そう、察しが早くて助かるわ。一日も早くこれを最前線のトラックに届けて欲しいの、呉には龍鳳、横須賀には第2駆逐隊が届けるようにもう調整済みよ。」
「でも、いったい何者なの?」
大井が怪訝そうに司令官に聞く。その疑問も当然だった、艦娘が戦い始めてから今まで知りえなかった情報が大量に目の前にあるのだから。
「それは本人たちに聞きなさい、まぁ佐世保の曰く艦娘なのは間違いないわね。」
「まぁ、それもそっか。それにこういうの使って少しでも戦いが早く終わればいいもんね。」
北上は資料を閉じた。
「そうね、少なくとも潜水艦に悩まされる事は少しは少なくなりそうよ。」
「あの艦隊、北上さんと一緒の静かな時間を一週間も奪うなんて、ただじゃおかないわ!」
「大井、心の声聞こえてるよ。」
司令官は呆れたように言う。
「まあまあ、大井っち、一緒にトラックに行くんだし。」
北上が大井をなだめるように言う。
「あそこはうるさい艦娘が多いんです、私は北上さんと静かな時間を過ごしたかったんです。」
「大井っち……。」
「北上さん……。」
「あの……残しておいて言うのもなんだけど……他でやってくれない?」
ご馳走をふるまうと決めてから、龍鳳の行動は早かった。自分の艤装に寄って必要な物をみつくろい、早速はぐろの艤装に向かった。一方、他の五人は明後日の出航の準備にとりかかった。
「それにしても、便利な設備ですね。」
はぐろの艤装の調理場で料理の準備をしながら龍鳳が言った。最初は道具の使い方を妖精さんから教わることから始まったけど、勝手がわかればはぐろさんの調理場はとても使い勝手がよかった。
「電子レンジ……なんて便利なの。」
龍鳳は一つの白い箱を物珍しそうに見つめる。
妖精さんに教わったけど、これを使えば冷めた料理の味をあまり落とすことなく一瞬で温められるそうです。それに艦内に大きな冷凍庫まで完備している。吹雪型の駆逐艦にも冷蔵庫は付いているけど、それとは比べ物にならない大きさです。
「これだけの設備なら、何でも作れます。」
自分の艤装から持ってきた材料とはぐろの冷蔵庫から出してきた材料を並べてご馳走作りに取り掛かった。
食べるのは12人の艦娘、相手にとって不足はないです。それに正規空母も戦艦もいないから量にこだわる必要もないので何の制約もなく思い通りの物が作れそうです。
龍鳳は近くにある包丁を手にとってさっそく料理を始める。
そして調理場には小気味よい包丁の音が鳴り始めた。
「龍鳳さ~ん、何か手伝うことはありますか?」
夕方になり一日の作業を一番に終えた吹雪が龍鳳に尋ねる。
「えっと、吹雪ちゃん、ここにあるお皿をあっちまで持っていってください。」
「はい!」
吹雪はとてとてと龍鳳に言われたお皿を持っていく、龍鳳は吹雪がお皿を持って出て行くのを見送ったあと、視線を時計に移す。
「もうこんな時間!」
吹雪が来たことで改めて時間を気にした龍鳳は驚く。一生懸命作っていたせいか、思いのほか時間が経っていたようだ。
「なんだか昔を思い出します。」
潜水艦隊の旗艦だった頃はよく任務が無事に終わった後は潜水艦の子とこんなふうに集まってパーティーをやっていた。龍鳳は潜水艦といたほんの少し前の事を思い出して微笑む。
「後は…これが焼きあがれば、ひと段落です!」
デザートを焼いているオーブンの前で今か今かと焼きあがるのを待つ龍鳳だった。
「早く帰りたいから……航路はこっちがいいかな……。」
はぐろは一人、帰りをどうしようかと考えていた。
行きと違って海図の警戒水域の範囲は遥か南東にまで下がっている、だから行きより少ない行程で帰れそうです。
「えっと、行程がこれぐらいだから燃料と資材は……」
はぐろは書きかけの計画書を机の上に置く、妖精さんから聞いた噂だけど基地の燃料庫に軽油はほとんど置いていないそうだ。
「あんまり迷惑をかけたくないから燃料は少なめにしましょう。」
だいたい必要な燃料を書き出したところで部屋の扉が勢いよく開いた。
「ねぇ、準備出来たよ!早く早く!」
深雪ちゃんが私の手を取って引っ張ります、もうそんな時間なんですね。
「ほんと、すごいんだよ!」
深雪ちゃんが少し興奮気味に言います、私は深雪ちゃんに引っ張られるままに士官室に行く。
「みんな、呼んで来たよ!」
「あ、あの…遅れてすみません!」
部屋にはもう多摩さんたちや北上さんたちも来ています。
「これでみんな揃いましたね、妖精さん、お願いします。」
全員が揃ったことを確認した龍鳳の合図で部屋の真ん中にあるテーブルにかけられた白い布が取られる。
「「「「「「おおおお~っ」」」」」」
みんなが一斉に感嘆の声をあげる。目の前には和洋折衷、沢山の種類の料理が一つ一つ大きなお皿に盛られていた。
「人数が多いのでビュッフェ形式にしてみました、いかがですか?」
「すごいにゃあ、どこかのホテルみたいだにゃあ!」
「船の中でビュッフェ…どうなってるの?」
北上さんがぽかんとしています、私も龍鳳さんに全部を任せましたが、まさかこんな風になるなんて夢にも思いませんでした。
「では、いただきましょうか、皆さん今日はお腹一杯食べて下さい。」
龍鳳さんの言葉でみんながお皿を持って動きだします。
「吹雪ちゃん、このお肉すっごく美味しいよ!」
「ホントだ睦月ちゃん、とろっとろになってる!」
「ちょっと、私達のぶんもちゃんと残しておきなさいよ!」
お肉のあるお皿に群がる駆逐艦に大井さんが言います。
「多摩はこの鮭をいただくにゃ、今度球磨に自慢してやるにゃ!」
みんな思い思いの料理を取って楽しんでいます。龍鳳さんはそれを見て嬉しそうに微笑んでいます。
「あなた、見かけない艦影と思ったら……特設巡洋艦だったのね。」
大井がようやく正体が分かったとはぐろに言った。軽武装で商船を改造した特設巡洋艦なら、この居住性も十分納得できるからだ。
北上も大井が言った言葉を聞いてなるほど、と納得しているようだ。
「あの、違います、護衛艦です!」
「……そう、まあ艦種なんて些細な問題ね。けど、おかしいわね、少し私達と同じ匂いがしたと思ったんだけど。」
「あれ、大井っちもそう思った?偶然だね。」
「まあ、北上さんも!」
「だって、足早そうな形してるもん、30ノットは出るね。特設じゃないけど特殊な船なんでしょ。」
北上さんは鋭く私の性能を観察していました。
「まあそんな事より今日はありがとね、こんなの内地でもなかなか食べられないよ。」
「あの、それは私より龍鳳さんに……。」
私は場所を提供しているだけで今回の準備は龍鳳さんや吹雪ちゃんにまかせっきりでした。
「もちろん言うつもりだけど、やっぱり旗艦に先に言っとかないとね。」
「そうよ、せっかくの北上さんの好意をありがたく受け取っておきなさい。さ、北上さん、駆逐艦に食べつくされる前に行きましょう。」
大井さんは北上さんの手を引いて行きます。
私も近くのビーフシチューをよそって味わってみます。
「おいしい…。」
絶妙な味付け、その味がしみこんだじゃが芋や人参、ほどけるような柔らかさのお肉、龍鳳さんのお料理の腕は本当に凄いです。
それからみんなとたくさんお話しをして、本当に楽しい夕食会になりました。
司令官一人はゲームの設定の拡大?解釈です。