「第11駆逐隊、任務終了しました!」
「うむ、困難な任務よくやり遂げた。」
任務が終わった報告をしに行った私達を司令官は少し嬉しそうな目で見ます、でも口元は相変わらず髭に隠れてわかりません。
「ゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが……そうもいかん。」
司令官はいつかのように赤い字で秘と書いた紙束を出します。
「南方での深海棲艦の活動が活発化している、それに伴ってトラック泊地での損傷艦艇が増加の一途となっておるのじゃ、そこで……。」
「にしし、私の出番よ!」
司令官の椅子の後ろから明石さんが突然現れます。
「こら、ワシの説明が終わっておらんじゃろうが、まあいい、要するに前線での修理能力の向上を図るために明石をトラックまで護衛してもらいたい。」
司令官は次の任務を簡単に説明します。
「じゃーん、つい最近私の新しい装備が出来たの、これがあると修理もはかどるわ!」
明石さんは一枚の写真を取り出します。そこには大きなはしけのようなものが映っていました。
「あの、明石さん、これは何ですか?」
「浮きドックよ、船の下に差し込んでそのままこれを浮かせると船も一緒に浮いて修理が一気にはかどるの、これがあれば程度にもよるけど重巡洋艦までなら少なくとも中破までなら修理できるようになるわ。」
明石さんは胸を張って言います。
「中破まで修理できるようになるんですか、凄いですね!」
吹雪ちゃんが声を上げます。
「ふっふっふ、修理は明石さんに任せなさい!」
「今まで大きく損傷した艦は修理施設のある場所、酷いとき内地まで回航するしかなかった。だがこの状況が大きく改善される。今後さらに効率的に作戦が展開できるようになるのじゃ。」
「休みはあまり与えられないが……どうだ、やってくれるか?」
司令官が言います、そして……。
「へぇ~、これが水上レーダーねぇ……。」
全てが稼動状態のCICで明石が興味深そうに言います。
「はい、これは未来ではどこにでもある航海用のレーダですが……」
「じゃあどこにでもないレーダは?」
「えっと、切り替えますね。」
私はレーダーの切り替えスイッチを押します。
「うわっ、ずいぶん違うわね。」
さっきの表示とは明らかに違う細かい表示に驚いたようです。
「はい、機能も沢山あるんです!」
「へぇ、例えば?」
「う~ん、そうですね……例えばこれです!」
はぐろはあるスイッチを押す。それと同時にまん丸のレーダー画面の一部しか映らなくなった。
「ちょ、ちょっと、壊れたんじゃない!?」
「えっと、これはセクターって言います、探す範囲を少なくする代わりにその部分を詳しく探せるんです。」
「ふむふむ、確かに光る線の走る回数が多くなって少し細かく見えるわね。ねぇ、他の機能は?」
「そうですね、最近潜水艦を相手に戦っていましたから……。」
「いましたから?」
明石さんが急におでこがくっつきそうなくらいに身を乗り出してきます。
「か、顔が近いです、明石さん!」
近くで明石さんの綺麗な目に見つめられて焦ってしまいます。
「ごめんごめん、で、どんな機能?」
「えっと、波と潜望鏡を見分ける機能ですね。」
「すごい!そんなことが出来るんだ!」
「はい、波は同じ形はありませんし、数秒後には消えてしまいますが潜望鏡は同じ形であまり動きません、何度か電波を当ててそれを自動見分けるんです。」
「ふむ、なるほど……」
明石さんはメモを取り出します。
「もっとも、電波を探知されて逃げられなければの話ですが。」
「うっ…そうよね……。」
航海が始まってから明石さんは私の中をすみずみまで見ようとしています。
「あの、明石さん、艤装は大丈夫なんですか?」
私がそう言うと明石さんはにやりと笑います。
「大丈夫、ちょっと呼んでみて。」
「はい。」
私は明石さんに言われたとおり明石さんの艤装を無線で呼んでみます。すると帰ってきた言葉が……。
「はい、明石当直妖精です。」
妖精さんのかわいい声が返ってきます、それを聞いて私は呆気にとられます。
「妖精さんに艤装を任せてるの。」
「ええっ!そんなこと出来るんですか!」
今度は私が驚かされる番でした。明石さんは航海中の艤装の全部を妖精さんに任せているそうです、そんな事ができたんですね。
「まあ能力は落ちるけど私が活躍できるのは戦闘じゃないからね。」
明石さんは少し残念そうに言います。
「ま、だから修理とか開発でみんなが頑張っているぶん頑張らないとね!ねえ、なんで前には同じ画面が四つ並んでるの?」
明石はCICの壁に貼ってある一番大きな4つの日本の地図が映ったディスプレイを指差す。
「はい、あれは沢山の画面に切り替えて艦長が状況をつかみやすいようにって付いています。でも今は能力半減です。」
「なんで?」
「本当は他の船が見ている物や基地から送られる情報が見られるようになるのですが、データリン……情報が伝達できる装置を持っている船がこの時代にはないので……」
「そう……。」
「あ、あの、でも何とかなっています!」
私の言葉で目を伏せてしまった明石さんに慌てて言います。
「通信を取る妖精さんを沢山つけていますから!」
CICの机に集まっている妖精さんを指差す。すると妖精さんはこっちを見て敬礼します。
「う~ん、妖精さんが頑張ってるのは喜んでいいのかしら?」
明石さんは複雑そうに言います。
「はい、凄いんです!」
「そう、でもいつかあなたが全力で力を出せるように私、頑張るから!」
明石さんは私の手を取って言います。
「明石さん……。」
「だから、もっと教えて!」
さっきの複雑そうな顔はどこかに置いてきたみたいに明石さんは目を輝かせて私を見ます、もしかすると今回の航海はずっと明石さんと一緒かもしれません。
その後、明石とはぐろ達、第11駆逐隊の六隻は、サイパン近海で給油を受け、順調に航海を続けた。
「あと二日でトラック、順調だね!」
「はい、でもあの泊地は最前線です、敵と出会わないとも限らないので注意して行きましょう。」
深雪ちゃんが嬉しそうに、白雪ちゃんが少し慎重な声で言います。
「え~、あと二日しかないの!」
明石さんがとっても残念そうに言います。
「明石さん…ずっと私の艤装を見ていて飽きないんですか?」
「飽きないわよ、それに一番大切な所を見てないわ。」
「あの、一番大切な所って…何ですか?」
「ズバリ、本当に戦ってる所よ!」
腰に手を当て、胸を張って明石さんが言います。
「………」
「ごめんごめん、冗談よ、冗談!」
明石さんが今のは無しと両手を振ります。
護衛任務で戦闘になって明石さんに何かあったら大変です、それに明石さんは大切な浮きドックを抱えています、戦闘になったら一番に逃げてもらわないといけません。
「あの、戦闘になったら迷わず逃げて下さい、明石さんは私達の大切な護衛目標なんですから。」
「わかってるわよ。でも、ちょっとだけでも……。」
「ダメです。」
「うぅ、ひどい……。」
残念そうな声を出し、肩を落として俯いてしまった明石さんを見て少し心が痛みます。
「………わかりました、少しだけですよ。」
「本当、やったぁ!!」
私の言葉を聞いた明石さんはぱっと笑顔になりました。
「でも、危なくなったら逃げてくださいね。」
「はい、了解しました、指揮艦どの!」
私の言葉を聞いた明石さんはぱっと笑顔になって、最後に敬礼をして艦橋を降りていきました。
「うぅ、また流されてしまいました…。」
ああ言ってしまったのは軽率だったと反省します。護衛の目標を戦闘に巻き込む訳にはいきません。
「でも、深海棲艦の兆候もなさそうだし、あと二日くらい……。」
今まで敵の電波もレーダーの反応もありませんでした。航海も残りたったの二日、きっと大丈夫たと思います。
「天津風中破、出しうる速力20ノット!」
「雪風、損傷なし!」
「谷風、損傷なし!」
「初風、中破、左舷に命中弾多数、左傾斜4度なるも30ノット発揮可能、使用可能砲塔なし!」
「本艦、小破、一番砲塔、左舷魚雷発射管、カタパルトが吹き飛ばされました!」
艦橋に先の戦闘の結果が妖精の口から告げられる。
「敵の動向は?」
「1航過終了後見失いました、現在追尾されている兆候はありません!」
「ひとまずはしのいだ......といったところですね......」
真っ暗な艦橋の中で軽巡洋艦神通は落ち着いた様子で椅子に腰をおろした。
「最後尾谷風より、逆探に反応あり、敵艦当隊の捜索を継続中の模様!」
「はぁ......しつこいですね......」
報告を聞いた神通は大きくため息をつく。
「神通さん、もう1航過させてください!」
「雪風、今は逃げの一手よ、こっちは相手を見失ってるわ、それに……。」
相手は間違いなく電探での射撃を行っている、経験豊富なこの艦隊が夜戦で先手を取られたのだ。発砲炎を見つけ、さんご礁の島々を利用して何とか近接を試み2隻の深海棲艦を撃沈したが、こちらも手ひどい反撃を食らってしまった。
「それに、そんな時間もなさそうね......」
夜はあと3時間ほどで明けてしまう、この中でもう一度敵を探して攻撃まではとても時間が足りない。
「夜が明ける前に離れられればいいのですが......」
敵の戦力は2隻沈めた今でも少なくとも重巡洋艦2隻、軽巡洋艦ないし駆逐艦が2隻の計4隻が健在だ。相手もそれなりに損傷を負っていたとしても夜が明けてしまうと火力で劣る私達の艦隊が交戦すること甚大な被害を被ることになるだろう。
「トラックへ援軍の要請は終わっているのよね?」
「はい、完了しています、近くの艦艇にも届いているはずです!」
「付近の海域で活動中の艦隊は?」
「明石を護衛中の第11駆逐隊、金剛旗艦の第2遊撃艦隊です!」
妖精が海図の上に描かれた文字を指差す。
「明石護衛中の艦隊は期待できませんね、金剛さんが来てくれるのを祈りましょう。」
神通は落ち着いた様子で再び椅子に座り直す。
「天津風より信号、[ホンカンヲブンリサレタシ]です。」
「第2戦速出れば十分です、無視しなさい。初風に天津風が変なことをしたら引っ張ってでも連れて行けと言っておきなさい。」
艦隊は単縦陣、天津風は単縦陣の二番目、神通と初風の間で航行していた、そして殿は谷風である。艦隊は敵艦隊を撒くためにさんご礁の島の極めて近く、水深が非常に浅い海域を通る。
「左舷、岩礁らしきもの、距離100!」
「キックでかわします、取り舵いっぱい!」
舵の利き始めは舵を取った反対方向に船が横滑りをする、それを利用して神通は上手く岩礁をかわす。
「岩礁、かわします!」
「もどーせー、よそろー今の針!後続艦に岩礁を通報して!」
「あの島影を背にして針路を東に、敵艦隊を引き離します!」
島影を利用して敵の電探の探知をかわす、上手くいくかどうかはわからないけどやるしかない。
いや、やるかやらないかではない、出来る訓練を今まで積んできた。どんな困難な作戦もやりとげる、それが2水戦の誇りだから。
「間もなく島影に入ります!」
「面舵!針路を東へ!」
神通が舵を取る、後続艦は一糸乱れない動きで神通の航跡に入る。
「さて...上手くいったでしょうか......」
夜明けが来ればおのずと結果はわかる、後は待つだけだ。
次の話に投稿するか1話の文字数を多くするか迷いどころです。
感想ありがとうございます。