イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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前話に4千字ほど追加しております。
対艦ミサイルの射程の情報が曖昧です。いいや、適当と言ったほうがいいかもしれません。


対水上戦です②

 シーホークのミサイル攻撃の結果、深海棲艦の巡洋艦1隻は艦首を小破した。艦全体で考えると小破にも至らない、言ってしまえば蚊に刺された程度のダメージだが、それでも艦首の喫水線近くを損傷してしまったことで行き足がほんの少しだけ遅くなった。

 だが深海棲艦は止まらない、目の前の5隻の艦娘を沈めるべく進んでいく。

 

 

 

「シーホークより、敵艦隊、行き足落ちる、ミサイルが命中した模様!」

「了解しました、ほんの少しの時間稼ぎにはなりそうですね。」

 はぐろはほっと胸を撫で下ろす、自分の対艦ミサイルは未だに射程圏外、ここで時間を少しでも稼ぐことは絶対条件だったのだ。

「シーホークは先行している吹雪ちゃんから給油を受けて索敵を続けて下さい!」

「了解、母艦よりワイバーン01へ、駆逐艦吹雪から給油を受けよ、場所は……。」

 そしてもう一つ、衛星も地上の支援もP-3Cもいない今の状態において対艦ミサイルを最大射程で使うにはシーホークの支援が絶対の条件なのだ。

 吹雪と深雪を先行させた事が思わぬところで役にたつ形となった。

 

 

 

 

「おーい、吹雪ー、準備できた~?」

「えっと、このパイプをここに繋いで……これを甲板に出して……、出来たよ!」

 吹雪は来るであろうヘリコプターへの空中給油の準備を進めていた。前回の作戦と大きく違うのが艦隊に航空母艦がいない事、それを少しでも埋め合わせるために機材を新しく作って、積んできた。しかし、まさかこんなに早く使う事になるとは思っていなかった。

 吹雪は明石からもらった説明書を片手に準備をしていたが、なかなか思うように進まなかった。

「わわっ、もう来たよ!」

 準備が終わってから間一髪入れずに水平線から豆粒程度の大きさの航空機が現れた。それはしだいに大きくなる。

「発光信号を!」

「了解!」

 吹雪は近づいてくるシーホークに信号を送る、内容は[ウケイレジュンビヨシ]。

 それを認識したのか、一度大きなバンクを振り、その後大きく旋回し、吹雪の艦尾に近づく。

 そしてホバリングに移ったヘリコプターに対して吹雪の甲板にいる妖精が燃料を送るためのチューブを渡す。

 吹雪はその様子を見てふむふむと頷く。ヘリコプターは航続距離が固定翼機より遥かに短いから工夫しなければいけない、という話をはぐろから聞いた事があったからだ。

 

「これも工夫の一環ですね!」

 飛行甲板がない小さな艦からも飛行しながら燃料がもらえる、画期的な方法だと思った。

 しばらくして燃料補給が終わったシーホークはチューブを外して再び空に舞い上がり索敵に向かう。その機影を吹雪と深雪は見送った。

 どんなに時代が変わって船が進歩しても、やっぱり航空戦力に頼らなければいけないという事を実感させられる二人だった。

 

 

 

 

「こちら第11駆逐隊、救援にきました、場所はあなたたちの艦隊の北、170kmです!」

 深海棲艦との追いかけっこを続けている神通に待ちに待った救援の通信が入る、しかし……。

「170km、遠すぎるわね……。」

 せっかく救援の艦隊と連絡が取れたが、これでは遠すぎる、深海棲艦はあといくらかで艦隊を射程に収めようとしていた。

「第2水雷戦隊の神通です、現状を連絡します。当艦隊、昨日夜半、深海棲艦と交戦、2隻中破、艦隊の速力20ノット、現在深海棲艦の巡洋艦隊に追尾されています。砲撃が開始され次第、当艦隊は反航戦に移ります。」

「あの……、こちらからのオーダーですが、あと1時間以内に深海棲艦を攻撃できる範囲に入ります、なのでしばらく突撃は控えてもらいたいのですが……。」

 聞こえてきた声に耳を疑う、第11駆逐隊は航空母艦を持っていたのか?

「妖精さん、編成表を見せて下さい。」

 念のため確認してみるが、現時点での編成は重巡洋艦1隻、駆逐艦4隻、とても遠距離での攻撃ができるとは思えない。そもそも空母がいて私達の場所までわかっているなら既に攻撃隊を飛ばしているはずだ。

「冗談は程々にして下さい、それより明石はどうしたんですか?」

 神通はどんなに近くに第11駆逐隊がいてもおそらく救援に来る事はないと思っていた。なぜなら明石を抱えているからだ。最初に期待できない、と言ったのはそのためだ。

「はい、少し遅れていますが、一緒に来ています。」

 その言葉に神通は目眩を覚えた、鈍足の工作艦を引き連れてわざわざ巡洋艦隊の前に現れようとしているのだから。深海棲艦にとってはしめたものだ。

「……何を考えてるんですか、今すぐ明石を連れてこの海域を離れて下さい!」

 珍しく少し感情を表した神通が言った。明石の存在はトラックの艦娘にとってそれほど重要な存在なのだ。

「ご、ごめんなさい!でも……。」

「まあまあ、神通さん、ちょっとは信じてあげてよ。」

 ふいに別の声が聞こえた、この声は……。

「工作艦の明石です、神通さん、新しい兵器を開発したの、なんと射程140km!それを試させてくれない?」

「……」

 突拍子もないことを言う明石に神通はしばし言葉を失った。

「あれ、もしかして信じられてない?」

「倒せる可能性は?」

 神通は気を取り直して返事をする、こんな状況で武器の開発の一端を担う明石が冗談を言うとは思えなかったからだ。それに佐世保の飛行爆弾の噂を馬鹿馬鹿しいと思いながらも一応は耳に挟んでいた。

「うーん、倒せるかどうかは分からないけど、命中率は9割、威力は急降下爆撃機の500kg爆弾くらいです。」

「……」

 神通は明石が言ったことに言葉を失う、でもそれを言っているのは他ならぬ明石なのだ。しばし沈黙が続いたが……。

「……わかりました、信じます。合図があるまで私達は逃げに徹します、こっちもあと一時間以内には敵の射程に入ります、急いで下さい。」

「了解!」

 神通は第11駆逐隊の突拍子もない指示に従う事にした。

 

 

 

 

「明石さん、ありがとうございます!」

 何とか神通を説得してくれた明石にはぐろはお礼を言った。神通にとっては、はぐろは只の重巡洋艦で、どんなに武器の事を説明してもなかなか信じてもらえなかっただろう。

「いいのいいの、実際に使う所も見たいしね。」

 明石はひらひらと手を振って答える。シーホークからの情報で、もう一時間以内に神通らの艦隊が敵の射程圏内に入る事はわかっていた。速力で劣っているため砲撃を受ければ逃げられない神通の艦隊は反撃に移るだろう。そうなって敵艦隊との距離が詰まってしまうと誤爆の可能性が出てくる。

「対艦ミサイル射程まであと40分!」

 妖精が報告する、CICには緊張した空気が流れ始めた。

 

 

 

 

「神通さん、信じるんですか?」

 天津風が言った、それもそのはず、射程140km、命中率9割の500キロ爆弾があるなんて、そんな話は聞いたことがなかったのだ、そんな物が本当にあるならもっと大きな話題になっているはずだ。

「ええ、自分でもばかばかしい話とは思いますが……。」

 しかし、新型の水中聴音機、最近、谷風に装備された逆探、どれも数は少ないがここ最近で大きく進歩した装備だ。そのどちらにも明石が関わっているらしい、というのはもっぱらの噂だった。

「敵艦隊、距離詰まります、約30分後に艦隊が射程圏内に入ります!」

 議論をしている暇はないようだ、味方にああ言ったからにはここから一時間は逃げ切って見せる。

「天津風、20分後に煙幕を展開して。」

 神通は先頭の天津風に命令を出す。

「全艦、今から一時間、敵の砲弾が近くに落ちようが、爆弾が降ってこようが、ただ東を目指しなさい、天津風以外は回避行動、煙幕の展開は各艦所定とします。」

「「「「……」」」」

「返事は?」

 返事を渋る駆逐艦たちに促す、この子たちの気持はわかるけど、ここは決断すべき時だ。自分でもあんな話にすがるのに不安が無い訳ではないけど自分が不安そうに言えばこの子たちも不安になるのだから。

「はい!頑張ります!」

「わかったわ!」

「はぁ、やるしかないわね。」

「がってん!この谷風、砲弾なんて当たる気がしないね!」

 雪風、天津風、初風、谷風がそれぞれ答える、これから、どれだけ続くかわからないけど彼女たちもまた重巡洋艦の砲火に無防備にさらされる覚悟が出来たのだろう。

 もっとも、それくらいの胆力がなければ駆逐艦なんてやっていけない、神通は4隻の駆逐艦を頼もしく思った。口には出さないけど、やはりこの子たちは優秀な子なのだ。


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