イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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説明されます。

司令はゆっくりと話し始めた。

 1945年8月1日、はぐろが知っているより早く日本はポツダム宣言を受諾し、無条件降伏をしていた。そのため、原爆の投下、S連邦との戦闘からは難を逃れた。

 しかし、A国を中心とした連合国の占領政策は、特に海軍にとってなおいっそう厳しいものとなっていた。一部海防艦、掃海艇を残し、全ての軍艦の引渡しを求めてきたのだ。

 それは浅瀬に浸水着底している軍艦も引き揚げ可能なものは引き渡せ、という徹底したものだった。それらの船は修理、サルベージされ、引き渡された。

 その後の末路は本当に悲惨だった。連合国は集めた軍艦を、日本に落として威力実験を行うはずだった原子爆弾の実験に使ったのだ。

 戦争を生き残ったはずの艦は、あるものは外国の軍人に操舵され、あるものは曳船に引っ張られ、一つの海域に集められた。引き揚げられ、応急処置をしただけの艦のほとんどは、外洋航海に耐えられるはずも無く、途中で力尽きていった。

 予定海域に到着した軍艦も、爆心予定地を中心に並べられ、死を待つだけだった。その船の中には日本の軍艦だけでなく、連合国の廃艦予定の船や、老朽化した艦、不要となった船も多数含まれていた。実験は日本に落とす予定だった2発と、新型の原子爆弾の計3回実施された。

 3回の実験で生き残った艦も確かにいたそうだ、しかし、汚染された船は沈めるしかなく、最後まで生き残った船も標的艦となって沈んでいった。

 

 こんな酷いやり方があるだろうか。生き残った仲間の悲惨な最期に、はぐろは一粒の涙を流す。

 

 司令の話は続く。

 その日から数ヵ月後、世界の海は変わり始めた。最初の兆候は太平洋を横断する船が、しばしば行方不明になったのだ。

 戦争が終わり船団を組まなくなったため、どこかの国から攻撃を受けたのか、と考え、対策として、連合国は船団を組み、数隻の護衛艦を付けてH諸島までの横断を試みた。

 到着予定から1週間遅れて、ひどく傷ついた護衛艦が一隻、H諸島に到着した。輸送船は陰も形も無くなっていた。護衛艦の乗員は太平洋で起こっている異変を始めて知らしめた。

 航行中、輸送船団はボロボロに壊れた真っ黒な船を発見、行方不明になっていた船かと思って接近してみると、突如その船から攻撃を受けた。護衛艦は直ちに反撃したが、その船には効果がある様子はなく、打つ手が無かった。

 時間とともにそれと同じ様な壊れた黒い船がどこからともなく姿を現し、船団は次々と沈められていった。最後の1隻になったこの船は、命からがら逃げてきたというのだ。

 この事態を重く見た連合国は日本とH諸島に駐留している艦隊で正体不明のこの敵と戦おうとした。しかし、その作戦は連合国艦隊の壊滅という結果で幕を閉じた。

 この作戦で分かった事といえば、正体不明船の出現地域がしだいに広がっているということだけだった。

 洋上に、どこからともなく姿を現すその特徴から、これらの不明船は「深海棲艦」と名づけられた。

 艦砲をほとんど寄せ付けず、出現位置も分からない、様々な手段を試したが有効な対策は全く見つけられなかった。

 協議の結果、連合国は深海棲艦の勢力が広がらないうちに日本に駐留している兵士その他をインド洋、地中海経由で輸送することに決定した。

 その決定から数ヵ月後、兵士達を乗せた最後の船が出航し、連合国の占領政策がほとんど進まないうちに、日本と連合国は音信不通となった。

 

 そして、時間と共に、深海棲艦の勢力範囲は広がり、とうとう日本近海にまで達しようとしていた。

 深海棲艦の勢力範囲が近づくにつれ、沿岸部では、時折現れる深海棲艦から、艦砲射撃を受けるようになっていった。

 臨時政府は、日本全土に深海棲艦の勢力が及ぶ前に、日本中の志願者を集め、国家の命運をかけた決戦艦隊、第二艦隊を編成した。しかし、決戦艦隊とは名ばかりで、海防艦、商船を改造したもの、掃海艇など、軍艦とも呼べないような船の寄せ集めだった。連合軍の艦隊で適わなかった敵にこんな戦力で挑む、当然勝敗は見えている。ただ、誰もが、何か深海棲艦を倒す手がかりが掴めれば、という思いだった。

 多くの人に見送られ、出港していった第二艦隊は、日本近海で深海棲艦と戦闘を開始した。誰もが予想した通り、艦隊は深海棲艦に一方的に蹂躙されていった。次々に沈められる仲間の船を目の当たりにし、絶望感が艦隊を覆い始めた時、突如一隻の深海棲艦が爆発し沈んで行った。艦隊の全員が、ただ爆沈していった深海棲艦を見つめた。

 

「日本の軍艦です!!」

 一人の船員が水平線を指差し、叫んだ。

 見ると、水平線上に戦争中には見慣れたマスト、見慣れた艦陰が並んでいる。失われたはずの、在りし日の美しい日本の軍艦の姿だった。

 その艦隊は深海艦隊を瞬く間に蹴散らし、第二艦隊は辛くも全滅を免れた。それだけではなく、その、現れた艦隊は、瞬く間に日本近海に出没していた深海棲艦を蹴散らし、日本はギリギリの所で深海棲艦の魔の手から逃れる事が出来たのだった。

 日本を救ってくれた軍艦の乗組員に、お礼を言おうと、艦隊の人が岸壁に集まっていると、さらなる衝撃が集まっている人を襲った。

 なんと、軍艦から降りて来たのは年幅もいかない少女達だったのだ。

 彼女らは自らを「艦娘」と名乗り、「日本を深海艦隊から守る」と言ったのだ。

 それから日を追うごとに艦娘は増えていき、今では、狭い範囲ではあるが、ある程度は安全に航海できるようになった。

「鎮守府は艦娘の負担を少しでも減らして効果的に深海艦隊と戦うために再度設立されたのじゃ、指揮所と考えてもらって差し支えない、もっともこっちはお願いする立場じゃがな。」

 司令は言葉を続ける。

「艦娘たちは、今のところ唯一、深海艦隊に対抗できる手段になっておる。日本を守る最後の砦なんじゃ。」

 司令の言葉を聞いて、吹雪ちゃん、白雪ちゃん、初雪ちゃん、深雪ちゃんが誇らしそうに胸を張る。

 この四人も艦娘さんでした、学生さんと間違えちゃってごめんなさい。。。

 「さて、現状としてはこんなものか、わしからの説明は以上だ、少し休憩したら次はお主の話を聞かせてもらおうかの」

 司令はそうはぐろに言って席を立った。

 

 司令が部屋を出てしばしの沈黙の後、

「みんな立派な艦娘さんなんですね。」

 はぐろは四人を順番に見ながら言う。

「り、立派なんて、そんなことないです。まだまだ慣熟訓練も終わってないですし。」

 吹雪ちゃんは照れくさそうに言う。

「私たち四人も、つい最近来たばかりなんです。」

「でも怖い相手と戦うって決めて、それだけで立派です。」

 彼女らは、戦って負ければきっとまた海に沈んでしまうんだろう。

 深い海の底でひとりぼっちだった時のあの日を思い出す。海の底は何も見えなくて孤独だった。あんな場所に体が朽ち果てて消えるまでいると、きっと狂ってしまう。誰かを恨まずにはいられないかも知れない。

 きっと深海艦隊は沈んだ船の怨念で出来ているんだろう。長い間海の底で過ごしていたはぐろには何となくそんな気がした。

 私の記憶が正しければ、四人は一度海に沈んでいます。その時の恐怖を乗り越えて、もう一度戦う事を決めるなんて本当に立派です。

「あ、あの・・・怖くはないんですか?」

怖くないはずはないだろうけど、どうしても聞かずにはいられなかった。

「少し怖い・・・・・・まだ戦っていないからわからないけど。でも、・・・・・・きっと深海棲艦は私たちと同じ船の成れの果て、私たちが何とかしてあげないと。」

 その答えに驚く、初雪ちゃんも私と同じ事を考えていました。

 生まれ変わった形は違うけど、きっと深海棲艦も昔は私たちと同じ様に、海を走っていた仲間なんだろう。

 

 それから、しばらくして、司令がお盆を持って帰って来ました。皆にお茶をいれて来て下さったみたいです。

 小さな湯のみの中に、いい香りのする暖かい緑茶が入っていました。

 人間になって初めて口にした飲み物は、苦くて、かすかに甘くて、いい香りが口の中に広がって、とっても落ち着く味です。私の乗組員に嫌いな人はいたけれど、私はこの味を好きになれそうです。

 

 

「では続きを始めようかの。」

 初めて飲んだ緑茶の余韻に浸っていると、司令は再び椅子に腰掛けて口を開いた。

 はぐろは、70年以上前の重巡洋艦だった頃から、今までの顛末を包み隠さず話し始めた。

 

 はぐろの話が終わってしばしの沈黙が流れる。

 

 坂田は考える。

 この娘が、この港に運ばれてきた時に装備していた艤装は、海軍が持っていたどの艦船のものとも一致しない、という報告はすでに受けていた。冗談半分に未来から来た軍艦かとも思ったが、どうやらその冗談は冗談でなくなってしまったようだ。

 信じがたい事だが、話の内容から、今の世界と別の歴史を歩む70年以上後の日本から来た、というのは、かなり信憑性が高いと判断した。

 坂田は、この存在が、この世界に及ぼす影響を図れずにいた。1903年に初飛行した木と布で作られた、数十メートルしか飛ばなかった飛行機が数十年で金属製になり、高速で長大な距離を飛行できるまでに進化する。技術の進歩とはそれほど凄まじいものだ。艦娘の能力は、ほとんどの場合が軍艦として活躍した頃の能力を引き継いでいる。こちらで改良や装備の変更をした場合は別になるが。

 70年以上も未来から来た艦娘となると、当然、未来の能力を引き継いでいる可能性が高い。今の日本には喉から手が出るほど欲しい戦力であることは疑いなかった。しかし、強力な力は、時には災いを及ぼす。今のところ深海棲艦に対する唯一の対抗手段である艦娘を、借用または購入しようと、手段を講じている国は、1つや2つではない。 

 艦娘の保有は外交的火種を抱えたといっていいだろう。

 

 そんな思いを知ってか知らずか、全てを話し終わったはぐろが不安そうな顔で坂田に問いかける。

 

「あ、あの、もしかして私も艦娘さんなんでしょうか?」

 

 あんまり不安そうな顔をして聞いてくるから、どんな事かと思ったら、そんな事だった。

 その一言で、坂田は我に帰る。基本的な事を忘れていたようだ。さっき自分は言ったではないか、艦娘の負担を少しでも減らす事が自分の任務。艦娘たちの未来は艦娘が作る、自分はそれにほんの少しのサポートをするだけの存在、外交がどうだなど難しい事を考えてもしょうがないではないか。

 今は艦娘として生まれた彼女をどうするかではなく、どうすれば少しでもよい方向に彼女を導くことができるかを考えていくべきなのだ。

 そうして坂田は再びはぐろを見据える。どうやら忙しくなりそうだ。坂田は船乗りとしての熱い何かが体の奥でふつふつと湧き上がって来るのを感じた。髭で隠れているため、、気づかれていないだろうが、口元の笑みが止まらなかった。

 




だいたいの世界観です。突っ込み所満載ですが。

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