「あっちが食堂でこっちが売店で、ねぇ、あの建物はなんだったかな?」
先頭を歩く吹雪ちゃんが言います。
「あれは・・・確か補給倉庫・・・・・・」
「そうです、補給倉庫です、今日はちょっと忙しそうですね。」
そう言われて、その方向を見てみると、確かに慌しそうに沢山の車が出入りしています。
ちなみに私が目覚めた建物が艦娘の僚です。ずいぶん静かだと思ったら、今日は勤務でほとんど出払っているらしいです。
「あのあたりから外出許可がないと行けなくなっています。また今度、許可をもらったら案内しますよ。」
「外出なんて、そんな事も出来るんですね。」
「ウチの司令の方針なんだって、外の世界を見て少しでも見聞を広げて来いって。」
「外出」とは、乗組員が欲してやまない権利の事です。ずっと狭い艦内にいると皆、息がつまってしまうので、適度なガス抜きが必要です。
「航海中に溜まったお金で豪遊するのが船乗りのステータス。」そう言っていた乗組員も一人や二人ではありません。
「外出かぁ......」
上陸(外出)許可を待って飛行甲板に並ぶ乗組員の顔は皆、楽しそうでした。
はぐろはまだ見ぬ外の世界へ思いを馳せる。
四人はその後、楽しい場所や、おいしいお店の事を話してくれました。一緒に外出するその日が楽しみです。
「あれです、あの3号ドックって書いてある大っきい壁の向こうが目的地です。」
吹雪ちゃんが指差す。壁の上から私のマストのてっぺんの丸いアンテナが覗いていた。
そうこうしているうちに壁の前に到着、大きな壁の割には小さなドアがあって、そこから中へ入ります。
「わぁ......」
「おっきいですね」
「カクカクしてる......」
「大きいけど…大砲が一門で大丈夫か?」
私を見て四人が皆それぞれ思った事を声に出します。
そこにあったのは、排水量約1万トン、艦番号172、私の特徴の、あたご型だけどイタリア製の主砲、間違いなく壊れたはずの私です。
「ちょっと見ない顔ね、これはあなたの艤装?」
完全な状態の私を見るのがすごく懐かしくて、つい感慨にふけっていたら横から声をかけられました。
声をかけられた方に振り向くと、薄いピンク色の髪のセーラー服を着た女の子がいました。
「は、はい、私のです、あの、はぐろって言います。よろしくお願いします。」
急に声をかけられたから少し慌ててしまいました。
「あ、明石さん、こんにちわ。」
「こんにちはー、今日は修理ですか?」
吹雪ちゃんと白雪ちゃんがあいさつをします。この子も艦娘さんなのでしょう。
「修理というか整備というか調査というか調達というか、今日はやることが沢山よ。新しい船が来たって言うから仕事がてらちょっと覗いてみたら、見たことも無い船があって、探究心に燃えちゃってね。」
そういって明石さんは私を見ます。
「工作艦、明石です。この基地の船の整備責任者をやってます。応急修理ならお任せください!」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」
「さっき少しあなたの艤装を覗かせてもらったけれど、さっぱりわからなかったわ、おかげで整備は妖精さん頼み、工作艦としてこれ以上の屈辱はないわ。」
「あ、あの、ごめんなさい...」
「あぁ、ごめんごめん、驚かせちゃったね。怒ってるわけじゃないんだけど...幾多の軍艦を修理してきた明石さんにとって、この船は謎の塊り、解明せずにはいられない!!という訳よ。」
「確かに......見たことも無い外観......」
「大きい艦橋です。」
「そうなれば」
「やることはただ一つです。」
四人がこそこそ話しをしいています。やること?皆さん何をやるつもりなんでしょう?
「「「「突撃!艦娘の艤装訪問!」」」」
そう言って四人はドックと船にかけられた橋を渡って行きます。
「あの、ちょっと待って下さい。」
明石さんはと言うと。
「お、いいね、私も聞きたいことが沢山あったんだ。」そう言って四人の後を追います。
「広いです、綺麗です。」
「二段ベッド......最高......」
「アイスも売ってる!!」
「空調が完備されてます。」
四人がそれぞれの感想を言います。昔の船と比べると居住性はかなり改善されています。
艦内を巡っていくと、6人は、ある区画の前にたどり着いた。入り口には{保全区画}と書かれている。
「保全区画?立ち入り禁止ってことか?」
「入るなと言われると......入りたくなる、不思議......」
「ねぇ、はぐろさん、ここ入っていい?」明石さんが興味深々に聞いてきます。
みんなが入りたがっているここは、CICと言って、私の秘密がいっぱい隠されています。本来なら許可を得た人しか入れませんが......
「えっと、あの、いいです、入りましょう。」そう言って皆さんを中に案内します。これから、お世話になるんだから、隠し事をしていると、後で困る事があるかもしれません。
真っ暗な部屋の明かりをつける。大きなディスプレイやコンソール、チャート台が所狭しと並んでいる。
「すごい...」
明かりに照らされたCIC内を見て、みんな驚いたようです。
「なんだか悪の秘密基地みたいだぜ。」
「いいえ、むしろ空想科学の宇宙船です。」
みんなそれぞれ感想を言います。
「何をする所なんですか?」吹雪ちゃんが言います。
「あの、ここは戦闘を指揮する所です。情報を集めて、みんなで考えて、うまく戦えるように、って作られました。」
「外を見ないで戦うんですか?」
ちょっと信じられないと言ったふうに白雪ちゃんが言います。
「全然見ないって訳じゃないんですけど、見張りの人とは電話で連絡を取ってます。」
全然想像がつかない、といった風に四人は顔を見合わせます。明石さんは部屋にある機械に夢中です。
その後、操縦室、機関室、艦橋を回って食堂でアイスをみんなで食べて、艤装訪問は終わりました。明石さんは機関室のエンジンに興味深々、質問を沢山されて大変でした。
ひと段落して、甲板に出てみると、ヘルメットを被った小人さんが甲板を忙しそうに走り回ってました。ちょっと驚きましたが、よく見てみるとかわいいです。
「ああ、この子たちは妖精さん、て言って艦娘の修理と補給をしてくれるんです。」
明石さんが教えてくれました。妖精さんは、ドックに入った船を、妖精さんが紙に書いた材料を置いておくだけで修理と補給をしてくれるそうです。他にも武器を使う妖精さんもいるようですが、私の妖精さんはまた今度紹介されるそうです。
帰ろうと橋を渡ろうとした時に、修理の妖精さんが私の艦橋に付いている八角形の色が違うを塗ろうとしているのが見えました。
明石さんに言って何とか止めることができました。危なかったです、あそこは敏感でデリケートな場所なんです。
もと来た橋を渡ります。
「一通り回りましたし、戻りましょう、アイスのお礼もしたいです。」吹雪ちゃんが言います。
「お礼なんてそんな、気にしないで下さい...」
「いいっていいって、今日は白雪のおごりだし。」
「うぅ、私が大穴を狙ったばっかりに......」
さっきの賭けに負けた白雪ちゃんが、何かをおごってくれるらしいのですが、何か悪い気がします。
「「「「明石さん、さようなら~」」」」
みんなで明石さんに挨拶します。
「みんなまたね~、はぐろさん、またあなたのこと教えてね。」
「はい!」
そうして3号ドックを後にしました。明石さん、すごく楽しい、いい人でした。
感想お待ちしています。