「総員集合!」
司令が白い朝礼台の上に登ります。
「かしーらー、中!」「直れー!」
腕章をつけた当直の艦娘さんが号令をかけます。
ついに私が皆さんの前で紹介される日が来ました、初めての朝ごはんは、この時の事を考えてしまって、味も何を食べたかもあまり覚えていません。
「新しく着任した艦娘を紹介する。」
大丈夫です、練習もしました、吹雪ちゃん達や多摩さんも見ています、しっかりしないといけません。壇上に上ります。二十人ほどの艦娘が並んでいました。本当はもっといるそうなのですが、南の方にいっていたり船団の護衛についていて今は少ししかいないそうです。
「護衛艦、はぐろ、海上自衛隊、第2護衛隊郡から着任した、第11駆逐隊に編入する。」
皆さんの視線が私に集まります。
「よ、よろしくお願いします!」
ゴツ!!
マイクに頭をぶつけてしまって、少し笑われてしまいました。しっかり練習したのに、恥ずかしいです。
私が編入された第11駆逐隊は吹雪ちゃんたちがいる部隊です、まだ練成訓練が終わってない部隊なので一緒にやってしまおうという話でした。
この後の予定は、私の艤装をドックから出すそうです、艦娘さんは沢山いるので、いつまでもドックを占有する訳にはいきません。
紹介が終わって当直の艦娘さんの合図で解散になりました。私も今日からやることが沢山あります。そう思って歩き出そうとすると、私の周りはすでに幼い艦娘さんたちに囲まれていました。
これは知ってます、転校生の最初の試練です、本で見たことあります。大変です、本の通りならこのまま私は虐められてしまいます。
何とかしないと、思って吹雪ちゃん達を探します。吹雪ちゃん達は輪の端っこで諦めたような表情で私を見ていました。これは試練を受け入れろ、という意味でしょうか?
「あ、あの……」声が上手く出ません、本に出てきた人はこんな危機をどう乗り切っていたでしょうか。
そんな事を考えてると一番前の子が目をきらきささせながら、
「未来から来たって本当なんですかぁー?」と言います。
すると周りの子たちも次々に私に質問を始めました。
「冷暖房完備…本当?」
「アイスも売ってるんだって?」
「スリーサイズ、教えてくださいー」
思っていたのとは違ってほっとしましたが、皆さんに質問攻めに合います。気がつくと身動きが取れません、おしくら饅頭です。あ、あの、どさくさに紛れてそんな所をさわらないでください!
遠くで吹雪ちゃん達が両手を合わせて私に謝っているのが見えます。その隣で多摩さんが白雪ちゃんに怒られているみたいです、大体の事情は分かりました。
「はいはい、質問はその辺にして、今日もみんな訓練とかあるんでしょ?」
見かねた当直の艦娘さんが助け舟を出して下さいました。その声を合図に私を囲んでいた子たちが私を少しずつ解放してくれます。
助かりました、元気いっぱいの艦娘さんたちです。
「あ、あの!ありがとうございます!」
「全く、ちょっと珍しい艦娘が来たからってはしゃぎすぎよ、あなたも重巡洋艦らしくしっかりしなさい。」
「これから出渠作業があるんだから、あんまりぽやぽやしてたら岸壁にぶつかってまたドック行きよ。」
うう、怒られてしまいました。そうです、出渠は大変な作業です、気をぬいてはいけません。
「ほら、もう行かないと間に合わないわよ。」
言われて、時間を見ると、もうそろそろ行かないと間に合いません。海軍も海上自衛隊も5分前行動です。
「はい、行って来ます!」
そう言って自分の儀装のある3番ドックに向かいます。
「間に合いました。」
少し走って予定の時間の少し前に到着することが出来ました。私は儀装に乗って艦橋に向かいます。今日は私の妖精さんとの顔合わせもあります、しっかりしないといけません。
艦橋に登ると明石さんと、その隣にたくさんの妖精さんがいました。この子たちが、これから私を一緒に動かしてくれる妖精さんですか、一緒に頑張りましょう。
「これがあなたの妖精さん達よ、編成は適当にしておいたから、しっかり鍛えてあげてね。」
そう言われて妖精さんを見ると、妖精さんのスカーフの色が違うことに気づきます。赤、緑、黄色、オレンジ、青に分かれています。赤は砲雷科、緑は航海科、黄色は機関科、オレンジは補給科、青は飛行科だそうです。
「じゃあ私はこれで、あなたの出渠を見てみたいけど、今日はまだまだいっぱい仕事があるのよ。」
「あの、ありがとうございます。」
そう言うと、右手をひらひらと振って艦橋を降りて行きました。後はあなたの仕事だよ、と言われたような気がします。
妖精さんたちの前に立ちます。
「みなさん、今日からよろしくお願いします。」
妖精さんにペコリと頭を下げます。
「今日は私達での始めての作業になります、気を抜かずに頑張っていきましょう。」
「「「はい!」」」「「おう!」」「「うす!」」「「了解しました。」」
色んな返事が返ってきて面白いです。
その後一通り妖精さんに予定、作業内容を説明して作業に取り掛からせます。間もなくドックに注水が始まります。
艦橋の外に出て妖精さんの仕事ぶりを見ます、特に問題はなさそうです、しっかりやっています。
しばらくすると、ドックに注水が始まりました。外には曳船が待ち構えています。ゆっくりと私の体が船台から離れます。その時何となくですが、欠けていた何かが元に戻った気がしました。
「後部曳索受け取れ!」
曳船から曳航用のロープが船尾に投げられます、妖精さんはそれを慣れた手つきで受け取って艦尾に取り付けます、ドックの門が開きます、いよいよ出渠です。
「左右の水空きに注意して下さい、機関は出渠後に起動します。」
艦尾から曳船に引かれてゆっくりとドックから船体が出て行きます。
「1号2号主機起動して下さい。今日は試運転は省略しましょう。」
私がそう言うと、聞きなれた、でもどこか懐かしい甲高い主機の音が響きます。
目的の岸壁を見ると、駆逐艦が四隻見えます、そのうち2隻は私のために出航して岸壁を空けてくれています、今日はあの出港している2隻と目刺しです。
「入港用意、左横付け準備」
甲板上では妖精さんが忙しそうに動き回ってます。
曳船に引かれて目的の岸壁に向かっていると、途中、港内で釣りをしている漁船のおじさんが私に向かって手を振ってくれました。私も嬉しくなって手を振り返します。
「吹雪から発光信号!」見張り妖精さんが声を上げます。
私は探照灯の光っている駆逐艦を見ます。
伝文は、オ カ エ リ ナ サ イ
そうです、色々ありましたが、私はこの海に、この港に帰ってくることが出来ました。
「妖精さん、返信をお願いします、伝文は[ただいま帰りました]」です。
岸壁が近づいてきます、みんなが駆逐艦の旗甲板に出て手を振っているのが見えます。もやいが岸壁に送られます、曳船に押されて横付け完了です、でもこれで終わりではありません、私の横に2隻も横付けするんです。もたもたしていられません。
「吹雪ちゃんが横付けします、右横付け用意!」
曳船に押されて吹雪ちゃんが近づいてきます。
「もやい送れ!」相互にもやいが送られて、それを揚錨機でゆっくりと引っ張っていきます。防絃物のクッションが、私と吹雪ちゃんの間で少し潰れて、横付け完了です。続いて白雪ちゃんが吹雪ちゃんに横付けします、慣れたものですぐに終わってしまいました、さすがです。
今日一番の行事の出渠が終わりました。これから三日間は停泊訓練になりますが、早くみんなと出港できるように頑張ります。