愛染ノエル・Reスタート / ―The Revenge of the Black Rose―   作:ノエルイド

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決起の灯火
プロローグ【二周目】


「―――――返、せ」

 

 

 

 

 

ふと、そんな言葉が漏れ出る。目の前の届かない誰かに手を伸ばしながら、意味もなく訴えかける。

 

 

「お父さんを、返せ。お母さんを、返せ」

 

 

この期に及んで、何を言っているのか。どうして、こんな全てが終わった時に、今更になってそんなコトを口にするのか。

 

わからない。全然わからない。何もかも遅すぎる。手遅れにも程がある。そんなの、13年前の時点でとっくに意味を失ったというのに。

 

 

「わたしの―――――わたしの人生を、返せ……!」

 

 

ありったけの恨みと口惜しさをぶつけても、憎かった誰かはうんともすんとも言わない。きっと、わたしのこの憎しみも、悲しみも、どうでも良かったんだろう。

 

本当に、どこまで行っても虚しい人生だったな。13年前のあの地獄から、わたしは結局最後の最期まで運命に弄ばれた。何も成せず、何も得られず、何者にも成れず、ただ惨めに生き足掻く事しかできなかった。

 

こんなわたしが死んでも誰も悲しまないし、憐れみを向けないし、覚えてくれることもないのでしょう。

 

 

「………は、はは、ははは、は…………何が、したかったんだろ。宙ぶらりんな生き方しかできなくて、最期は大嫌いな吸血鬼になって、一番イヤな女に雑に殺されるだなんて。

何の為に………今まで、生きてきたのかしら」

 

 

……もう何も見えないし、聞こえないし、感じない。目の前にいた誰かの顔も、思い出せない。

 

 

二度と這い上がってこれないだろう暗闇に、意識がどっぷりと沈んでいく。

 

 

ノエルという存在が、跡形もなく終わる。消える。散っていく。ああ、これが―――――死、なのか。

 

 

「…………かみさま。もしも、もしもわたしに次の人生をくださるのであれば。やり直しの機会(きせき)を与えてくださるのならば。

どうか、今度こそ、奪われないだけの人生を送れますように。ほんの僅かでも、わたしが報われますように」

 

 

 

 

 

――――――なんて。そんなもの叶うワケ、ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――は?」

 

 

 

()()が私に入り込んできたのは、私が教会から生き残りの汚染者として身柄を抑えられてから間もなくだった。

何の前触れも予兆もなく、あまりにも唐突に、頭に知らない誰かの情報(きおく)が次々と流れ込んできた。

知らない町。知らない人たち。修道服を着ている自分(わたし)。金髪で偉そうで高圧的な子供。八つ足の蜘脚のようなクセ毛が目立つ髪型の、白衣を纏った不気味な女。如何にも不健康で病弱そうな眼鏡の男の子。

 

そして―――その男の子の隣にいる、あの、幼気なパン屋の小娘の皮を被った、この世の何よりも悍ましい悪魔。

 

その悪魔に、私はコロされ………死んだ。死んだ。しんだ。きえた。あとかたもなく。

 

(なによ。なによ、なんなの、これ。コレは、これって―――なん、なのよ……?)

 

どれくらいの感覚だったのだろうか。私が()()を自覚し、どういったモノなのかをある程度把握する頃には、いつの間にか一週間も時間が過ぎていた。

隔離所の人間が言うにはその間の私はずうっと死蝋のような顔をしていたらしく、まともに話せる状態ではなかったみたいだ。もっとも、ここじゃそういう状態の人間を見るのも()()()()()()らしいから、然程気にしていなかったみたいだけど。

そして、ようやく話せる程度には自意識を取り戻した私に、このまま修道院で生涯を過ごすか、怪物を殺す仕事人……代行者として生きるかの選択を教会は用意してきた。

ああ、ここが人生の分岐点か。誰に言われることもなく私はそう悟った。

 

一生を閉鎖的な空間で過ごすか、日の下に出られる代償に命のやり取りを強制させられる毎日を送るか。

教会側としては、こんなちっぽけな汚染者一人がどちらを取ろうが何の問題も影響もない。故にその程度の選択権は与えてやろうという魂胆なのだろう。

 

だったら私は―――代行者として生きる。考えた末に、後者を選び取る事を決めた。

 

けど、それがどれだけ重い選択なのかは理解してる。何しろあんな、あんな、口にしたくもない吐き気を催すくらいの未来(じごく)を知ってしまったのだから。

 

あれが嫌なら、本当は断腸の思いで修道院に籠ることを選ぶべきだった。その方が自由こそなくなるけど、安全な日々を送っていくこと自体はできただろうから。

 

でも、私はその上で敢えてこの選択をした。

 

『どうして?どうして確実な身の安全を無視して地獄(そっち)を選んだの?』今一度、私は自分自身にそう問いかけた。

 

なんでこの道を選んだのか。それは――――――、

 

 

「…………あの悪魔に、復讐をするために。そうだ、復讐、しなくちゃいけない。そのために、この選択を取ったんだから……!」

 

 

そう。この記憶が正しければ、私の全てを奪い尽くした、あの狂った悪魔……エレイシアは、今から六年と半年後に代行者として活動を始めるらしい。

 

……一度、あの時にハッキリとこの目で死んだのを目の当たりにしたってのに、どうして独りでに生き返るどころか何をやっても死なない不死身の化け物になってるのかしら。そこは生き物として永遠に死んどけっての。

 

とにかく、私は復讐のためにこの道を歩む。どうせ今更、元の日常には一生戻れないんだ。いっそ復讐に狂って突き進んでやる。

私のような凡人以下の虫ケラはそうでもしないと何も成せない。あの悪魔を責める事も出来なければ、況してや復讐するなんてとてもやれたものじゃない。

 

「そのためには………まあ、まずは手始めに一年ほど実戦経験を積んだ方がいいわよね。手始めに、って言い方も我ながら変だけど」

 

あいつが生き返るまで約六年半。そしてこの記憶によると、私は代行者になっても怪物(吸血鬼)になってもあの化け物には手も足も出ないほど実力を離されてしまっている。

記憶でわかっている分、ずっと前の段階から多くの経験と対策を積む事ができる……というのは殆どアドバンテージにならないと見ていい。その程度の経験差なんてアレはすぐに覆し、そして突き放していくでしょう。

仮に今すぐ代行者として活動しても時間はあまりに少ない。かといって代行者、ひいてはバケモノを殺す狩人としての基礎や心得もまともに身につけずに焦っても意味がない。

何より私は当たり前だけど弱い。自分でも反吐が出るくらいの虫けらだ。半年や一ヶ月程度の速さで戦いの極意を会得できるほど才能に溢れてなんかないし、だからこそ限られた時間の中で可能な範囲まで無駄や妥協を割かなければいけない。

 

これはそのための一年だ。会得できるできないじゃなく、会得するんだ。体と心に覚え込ませるんだ。

それは想像を絶するほど辛くて、苦しくて、痛くて、逃げたくなる毎日でしょうね。

でも、そこで逃げたら私は()()何もできない半端者として無様に死に絶えてしまう。あんな地獄そのものな末路を辿るなんて真っ平ごめんだ。

 

 

「どうしてこんな記憶が、いきなり私の中に入ってきたのかは分からない。けれど、これもまた運命(かみさま)のいたずらだってんなら、私が成すべき事は一つ。

アイツを、あの(バケモノ)を、シエル(エレイシア)を必ず殺す。大切だった故郷を地獄に変えて滅ぼした悪魔どもを、一匹も見逃さずに皆殺しにする。

――――それが、私だけがあの地獄をこうして生き延びてしまった事の意味になる。無意味に終わってたまるか。絶対に、最期まで抗って、決して消えない傷跡を付けてやる」

 

 

薄暗い隔離室の中で、身も心も死んでいた私は再び生きる意味を見出した。そうだ、こんなところでいつまでも無意味に祈ってなんかいられない。

中途半端な意思で生きようとしたところで神さまは救ってくれない。決して妥協せず、自らに課した使命に全力で向かっていく者にのみ微笑むのだから。

 

 

………うん、頑張れ私。頑張って、負けて、挫けて、屈して、泣き喚いて。

それでもこの命が終わらない限り、また立って、抗って、頑張り続けた果てで―――あの悪魔を、コロすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは何もかもを奪われた少女の、13年以上に渡る陳腐な復讐譚である。

 

 

 

 

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