愛染ノエル・Reスタート / ―The Revenge of the Black Rose―   作:ノエルイド

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虎視眈々

「1、5、10、15………うん、これでこの付近のコミュニティは全て潰したわね。いやあ、まさかこんな辺鄙な街にこれだけの数が潜んでたなんて少し予想外だったわ」

 

自作したチェックリストを確認し、この辺りにおける死徒の殲滅の完了を確信する。

今回遭遇した元締めはⅥ階梯だったので比較的楽に終わった。その後の残党狩りも大体一週間足らずで駆逐し終えたので、後はこれをさっさとまとめて上に報告しに帰還するだけだ。

 

付近で活動していた他の代行者も各々連携を取りながら作業に勤しんでいたけど、コミュニティ総数の約8割方は私一人で始末する結果に終わったようだ。

 

「ったく……既に終わった事とはいえ、テメェ働きすぎんだよ。優秀なのには文句は言わねえし寧ろ喜んで歓迎するがよ、他の奴らの仕事を奪うんじゃねえ。

おかげでこのオレお抱えの部隊としての面子はテメェ一人の単独行動のせいでボロボロだ。一応テメェもオレの部下なんだからもう少し上司の命令を尊守して行動しろってんだ、猪が」

 

横で悪態を吐きながら牽制してくる上司………金髪の司祭代行サマは不満を隠そうともせずに私を恨めしそうに睨み付けてくる。

彼からすれば私は実力は確かだけど独断行動があまりに逸脱している問題児、という辺りの評価なのだろう。

まあ、そんな評価なんて私からすれば心底どうでもいいけど。

 

「あー、申し訳ございません司祭代行。ですがこんな殺し合いの前線に立つ職場で面子だなんて気にしても意味ないと思いますが?」

 

「おう、調子乗んな。テメェ現場で一頻り好き勝手暴れた挙句上司(オレ)に物申すのか?見上げたクソ度胸だなオイ」

 

「はは、まさか。ただ私が言いたいのは、『無能な奴は勿論、無能じゃないだけの凡人も生き残れない。そんな有能な者しか居場所のない世界において、他の面子とか上司の命令とかをいちいち気にして自らの使命を疎かにする必要は果たして考慮すべきか』という疑問(コト)ですよ。

死徒を、人を食い物にする怪物を、自らの手で殺しうるだけの力があるなら率先して動くべき。有能である事を示すなら尚更である―――――そうは思わないかしら?」

 

「言うようになったなテメェ。確かにそれ自体はご尤もな反論だが、にしたってやりすぎんだよ。そら、こっから見える範囲だけでもテメェが暴れたせいでぶっ壊れた建物の倒壊跡が幾つか見えちまってるじゃねえか。コイツをどう弁明してくれんだ、ええ?」

 

「あれらは全て住民の使っていない廃墟でしょう?元々この街自体規模としては小さい上に過疎化が激しいですし、大した損害や騒ぎにはなっていませんよ。

まあ、親元が根城にしていた地下空洞に関しては二度と利用できないように徹底して()()()したせいで、地盤が崩壊してあのように埋もれてしまっているのは多少やらかしちゃったなと反省してますけどね」

 

「コレを多少で済ませている辺り正真正銘のバカだな。テメェも十分な災害(かいぶつ)側にいるっつー事をもう少し念入りに自覚しやがれ」

 

などと軽口を叩き合いながら景色を注視する。

街中にはバリケードの柵で囲まれた倒壊跡が五つほど見受けられる。特に目立っているのは中央付近にある広い瓦礫の海だ。まるで化け物でも暴れた後かのように一帯が尽く崩れている。もっともその化け物は私だし、ここからじゃ見えないところでも色々と壊しちゃったけど。

 

「仮にテメェがシエルとバディを組んでるならオレもこうは言ってねえ。だが少なくとも今のテメェはオレの部下なんだからもう少し自重しろ。テメェが独断で暴れれば暴れる分だけオレにも相応の迷惑が降り掛かってくるんだよ。ちったぁ分かったか?いや分かれクソ猪め」

「はぁ……分かったわよ司祭代行サマ。次からはもう少し真剣に自重して行動するように心掛けますので何卒ご容赦ください」

「はっ、素直じゃねえか。グチグチ文句言わずに最初からそう言っときゃいいんだよ。おら、分かったらとっとと行くぞ」

 

どうせもうすぐシエルのヤツが下水道潜伏の任務から帰ってくる頃合いだし、ほんのしばらくは自重しておこう。

とはいえこれでも割と周囲の被害を考慮していた方なんだけどな、などと愚痴を垂れつつ本部への報告に帰還する。

 

 

―――――あれから約一年、私はそれまでと変わらずにひたすら自分自身を地道に鍛え続けてきた。

 

 

雑魚狩りだけでなく今回のようなコミュニティ潰しや上位殲滅も積極的にこなしてきた結果、スコアがA級代行者の平均値と比べても軽く突き放すレベルで稼げていたけど私にとってはそんなスコアなんてただの飾り以上の価値はない。

恐らくだけど、あの女はこの時点で既に死徒の頂点――――二十七祖の一角を殺しているだろう。或いはこれから殺す事になるのか。

何れにせよこの先シエルが残す戦歴に比べれば、私の今の戦績などまだまだ及びもつかないと言い切っていい。

 

私もまた、この一年の中で更に力を付ける事ができている。例えばアイツから教わった数秘紋の雷霆は練度が着実に上がっているし、より少ない魔力消費でより効率的に扱えるようになってきた。

それだけじゃない。アイツから盗み、学び、会得したこの戦闘技術を自己流の動きにアレンジする事すらできた。

謂わばシエル式を元に改築して編み出したノエル式戦闘術、と言ってもいい。戦闘のセンスも凡人以下の私がそこまで漕ぎ着けたのは、人外と化した事とこれまでの戦闘の経験の積み重ねがあったからこそだろう。

 

おかげで今となっては武器を『道具』ではなく『身体の一部』として扱えるようになっている。力の入れどころ、距離感、破損状態の有無、あと何回振るえるかの凡その限界点。それらが文字通り手に取るように直感で理解できるまでになった。人間の頃の私ならこの感覚は一生掴めなかっただろう。

 

思えば、ここまで強くなれるとは露ほども思ってなかった。幾ら復讐に身を窶す覚悟を以って生きようとも、所詮私のような凡人はどれだけ血を流して食らいつこうがたかが知れている筈だった。

けれど今はどうだ。100回挑んで1000回殺されると断言できるほどの怪物であろうとも、シエルに頼らずとも自分一人で殺せるように成長できている。

人間を辞めて自らも怪物に堕ちた途端に、信じられない勢いで力を付けていった。夢にも思わないほどに強くなれた。

 

「………急に笑みを浮かべてどうした?また何かしょーもねえ事を考えてんのか?」

「まあ、はい。っていうかヒトの顔をちゃっかり観てくるのやめてください。セクハラですよー?」

「マジで肝座りすぎだろテメェ」

 

車内の窓際を眺めながら笑っていたらしい。突っかかってくる司祭代行を口で軽くあしらう。

皮肉だと思った。夢も日常も何もかもを奪われて、復讐に運命を委ねるしかないから死に物狂いで奔走してきた末に悲願(ゆめ)を成就し得る希望が見えてきているのだ。こんな力、こんな運命にさえ見舞われなければ欲しいとも思わなかったのに。

 

人として生きていれば。その上で自分と向き合い、過去の因縁や確執に囚われずに前を向いていけば。私も細やかな幸せに恵まれていただろうか。

あの女みたいに、命を呈してでも護りたいと心から思えるような『だれか』に出逢えただろうか。恋というものを、再び知れただろうか。

 

(………………は。我ながらとんだタラレバの妄想ね)

 

そんなものはもう望んでいない。この道に身命を賭して生き抜くと決めた時点で、そんなあり得たかもしれない未来の可能性は悉くを捨てている。望むは復讐ただ之のみだ。

 

勿論、それを叶える為にももっと強くならなくちゃ。現状に満足などできるワケがない。シエルをこの手で殺すまでは、私は満足も納得も妥協もしない。

そしてゆくゆくは故郷を蹂躙した化け物たちを、この世に蔓延る全ての吸血鬼を滅ぼし尽くす。そうして私は、私をこんな地獄に合わせた運命(りふじん)の全てに終止符を打ってやる。

 

罪には罰を。悪には鉄槌を。因縁には報復を。運命には終止符を。

 

……ええ、そうよノエル。私は代行者になった。この為に強くなったし、これからもより一層力を付けなくてはいけない。司祭代行にも、あんな女にも、思い通りになんかさせない。

 

私の復讐は、誰にも邪魔させない。阻むヤツは何であれ、誰であれ、この炎で身も心も焼き尽くしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一週間後―――――私たちは再び顔を合わせ、そしてバディを再結成する事となった。

 

「約一年間にも及んだドブ水漬けの地獄みたいなクソ任務お疲れシエルさん!冬場とかむちゃくちゃに寒くて凍え死にそうだったでしょう?まあ貴女に限って死ぬなんてあり得ないけど、それはそれとして遂行達成祝いで私がなんか奢ってあげる!何がいいかしら?」

「いざ再会した途端にそんな事を言うなんて、貴女にしては珍しいですね。別にそんな労わられるほど大した苦労はしていませんよ。お気持ちはありがたいですけど、ご遠慮しておきます」

「るっさいわね、黙って大人しく労われろっつーの。この私が柄にもなくアンタにこんな事を言ってるんだから素直に厚意を受け取りなさいよ。ほらこっち来い」

「え、あ、ちょっと………!」

 

相も変わらずムカつく対応をしてきたけど、そんなの無視してシエルを適当な食事処に連れてやった。『記憶』の中の情報を閲覧するにコイツは筋金入りのカレー狂いらしいのでその筋で長く経営してる店に通った。

あの金髪クソ上司の下ならこんな独断行動は普通は許可がないと許されないけれど、こうして埋葬機関の代行者とバディを組んでる以上は関係ない事だ。

 

「さ、もう逃げられないわよ。持ち合わせはしっかりあるから遠慮なく注文してちょうだい。いくら不死身っつっても英気を養うのは必要でしょ?」

「……………分かりました。こうまでされて遠慮する訳にはいきませんので、今は貴女の厚意に甘えておきます。それではまずコレとコレとコレを―――――」

 

それからコイツの両端に皿の塔が4本ほど綺麗に積みあがる事になるとはこの時の私は思いも寄らなかった。遠慮するなと言ったのはこっちだけど無遠慮すぎでしょ。持ち合わせほぼ全部吹っ飛ぶとか胃の許容量どうなってんの。化け物か?化け物だったわ。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。施しを受けたからには礼を言わなくてはいけませんね、ありがとうございます。貴女もここ一年間相応に苦労してきたでしょうし、今度は謝礼も兼ねてわたしから奢らせてもらっても?」

「ああ、えっと、うん……いいわよ別に……………はぁ、私のへそくりが……」

 

取りあえずファミレスに通ってほどほどに注文したけど、まさかあんだけバクバク貪るとか全く想定してなかった。

口では一丁前にカッコつけて大した苦労はしてないなどとほざいちゃいたけれどやっぱり体は正直なのね。正直すぎてドン引きものだけど。

 

「ところでシエル。アンタに後で見てほしいものがあるんだけど、実はアンタから盗んだ数々の戦闘技術を必死に研究した末に自己流に改良する事ができたの。丁度食事も済ませてエネルギー充填できたんだし、良いわよね?」

「ほう?それは……わたしとしても興味深いですね。是非、この一年での貴女の成長を見せてください」

 

その後私はシエルと共に教会管轄の訓練場に移動し、そこの一角を貸切にしてから成長を見せるついでに組手試合をする事となった。

そこから二~三時間ごとに適度な休憩を挟みつつ、睡眠も取らずに丸二日ぶつかり合ったところで試合を終了した。

結果からすればパフォーマンス自体も技のキレも以前の組手の時より更に上達しているのが実感できたけど代わりに訓練場の大部分がボロボロに損壊しちゃったので、治外法権たる埋葬機関のシエルに代わってバディの私の上司責任として司祭代行が修繕費を払う事になった。全く気の毒ね。

 

「どう、シエルさん?自分で言うのも何だけど、貴女のモノマネじゃなくてちゃんと私の息に合わせて滑らかに動いてたでしょう?」

「驚きました。改めてこの二日間で学んだ事を言いますが、私の動きにはあんな型に改変する余地もあるのかと気づかされました。既に決まった動き、決まった流れの型をこうまで我流にアレンジできているのは素直に凄いことですよ、シスターノエル!」

「あははは、そうでしょ?私自身、戦闘センスゼロの自分が本当に我流の型を編み出せたなんて今でもビックリしてるわ!」

 

冷酷な戦闘マシーンのコイツからの賞賛なんてこれっぽっちも嬉しくないけど、それはそれとしてこうして心から誰かに認められるのは存外気分が良いじゃない。

つまりコイツがこうも評価してくれるって事は、コイツの目からしても私が編み出した型はアレンジとしての完成度が高いっつーわけよね。ああ、これでまた復讐に一歩近づいたという確信と自信が得られたわ。

 

私はまだまだ強くなれる。天井(げんかい)に行き詰まる事なく実力に磨きを掛けられる余地が未だあるんだ。

それが分かっただけでもこの一年での努力は無駄どころか何一つマイナスになっていない。だったらこれまでと変わらず、復讐の為の力を付ける事にもっともっと執着していかないと。

 

ソウヤに訪れるまで、残り約二年。この間に今よりも更に更に強くなってやる。

そしてロアをさっさと殺し、その後でコイツも確実にこの手で殺す。最終的な目標はこの世全ての吸血鬼の根絶だけれど、シエルという女を殺せた時点で私の復讐は完遂する。それさえこの手で成せれば、後はいつ志半ばで死んでも割り切れる。

 

「……ノエル。ロアへの復讐の為とはいえ、こんなわたしにいつもバディとして接してくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」

「何、いきなりそんな素直になってさ。言っとくけど私はアンタも許した覚えはないからね?ただ、バディとしての関係に下手に軋轢を生んでロア討伐に支障をきたしたくないから、なるべく私なりに穏便な態度で接してるだけよ。

………険悪な関係のままズルズルと引き摺ってくよりも、そうした健全な関係を築く方が協力し合う上で余程合理的でしょう?」

「……ええ、そうですね」

 

…………そうよ。これもまた事を上手く進める為の合理的な工作でしかない。

 

『記憶』のノエルはシエルという代行者を内心尊敬しつつもネチネチと嫌味を吐き掛け、お互いに必要以上に関わり合わずにいた。結果、溝はどんどん深くなり、軋轢がどうしようもなく生じていき、その果てで虚しく殺して殺された。

だから私はそれとは逆の関係を目指す。心の奥底で燻る憎悪を決して濁らせず、その上で『親身になって接するバディ』の仮面を被って良好な関係を少しずつ築いていく。

 

そうして私への信頼を可能な限り寄せて、機が熟した瞬間にその信頼を粉々に打ち砕く。この女がかつて故郷の人たちへそうしたように、信じていた相手にあっさりと裏切られる事の絶望の一端を味わせる。

この女は悪逆の限りを尽くした。ならば私も出来うる限りの、考え付く限りの悪逆を以てコイツの身も心も魂も徹底的に壊し尽くしてやる。

 

「………ノエル?頬が緩んでいますけど、何か楽しい事でも?」

「ええ、そうね。それはもう、愉しくて愉しくて仕方がない事よ」

「……少々不気味ですけど、それって教えてもらう事はできます?」

「だーめ。これはヒミツよ。ああでも、貴女へのサプライズとだけ言っておくわ。そう遠くない内にお披露目しちゃおうかなって考えてるから、貴女も期待していてね。シエルさん♪」

「そういう風に言われると益々怪しいですね。まあ、そのサプライズが好いものであると信じて期待しておきますよ」

 

どうしたら悲鳴を上げさせられるだろう?

どうしたら恐怖させられるだろう?

どうしたら絶望してくれるだろう?

どうしたら泣き叫んでくれるだろう?

どうしたら殺してくれと懇願してくれるだろう?

どうしたら私がどれだけ恨んでいたかを思い知りながら死んでくれるだろう?

 

どうしたら――――どうしたら、私にとっての最高の復讐に仕上がるのだろう?

 

「ええ、期待しててちょうだい。最高のサプライズを提供すると約束しちゃうわ」

 

愉しみだ。この先何もかもが上手くいったとしてその時を迎えられる瞬間が、たまらなく愉しみだ。

この日はずうっと、ずうっとその事ばかりが頭の中を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルとのツーマンセル再結成から数日。特にコレと言った任務も下っていないので暇つぶしにシエルと特訓していたけど、ついでに今後の方針もどうしようかと考えていた。

やがてアレコレと頭を回している内に私はとあるやり方を思い付いた。

 

「私はシエルさんと違って才能のないカスだから常日頃から研鑽を積んでかないと弱いままだし、今度からは修行の一環として力をセーブした状態で死徒狩りに勤しむ事にしたわ。具体的に言うと全力の半分程度よ」

「……カス、などと言って己を執拗に卑下する癖は後で諌めるとして。今の貴女ならそれが出来るだけの余裕はあるでしょうけど、いきなり半分も制限して大丈夫なのですか?」

「まあ貴女と一緒に活動してるんだし大丈夫でしょ。てか今更この程度の修行にも堪えられないなら全ての吸血鬼を殺すなんざ土台無理な話よ。況してや貴女に実力で追いつくとか尚更ね」

 

相手を騙す上では、力をセーブして本来の実力を隠す事も重要な戦いの要素だ。

能ある鷹は爪を隠すって諺もあるんだし、いざという瞬間で一気に全力出した方が不意を突けるしね。これもやって損はないし、成果次第によっては大きなプラスだわ。

今となっちゃ上級死徒相手にだって余裕もって闘えるけど、敢えて全力を出さずに実力をセーブする事に慣れれば、余力を大きく残しつつスムーズに狩れるようになれるし代行者としてのレベルアップにも繋がる。

 

ま、それはそれでやりすぎると出し惜しみ癖が付いちゃう懸念もあるけど……そうはならないよう臨機応変に動くしかないわね。

 

「因みにそれ、どれほど続けようと思っているんです?」

「んー、大体九ヵ月程度かな。当面の目標としてはセーブした状態でⅦ階梯をぶち殺せるところまで行きたいわ。妥協はしたくないけど、妥協するとしてもⅥ階梯を捻り潰せるぐらいにはなりたいかしらね」

「………下級死徒程度なら今の時点でも十分に余力を残して殲滅できるとは思いますが。その辺りの目標も考え付いているのですか?」

「ええ。凡そ10匹以上を一度に相手取った上で殺せるようになりたいわ。それでも二十七祖相手じゃ戦いすら成立させられるか怪しいんだから、せめてそれができる程度には頑張らなくっちゃね」

 

別に下級死徒なんてどれだけ群れてようが全力出せば相手にもならないけど、半分にセーブした状態でとなれば話は変わってくるし勝手もそれ相応に違ってくるだろう。

それまでより更なる集中を求められる分、肉体と精神に掛かる負荷も大きくなる。武者修行には持って来いだ。

 

「二十七祖まで目標の視野に入れる必要はないですよ。アレらは教会が百年規模での討伐準備を拵えて尚、成功率はたったの二回しかない災害(のろい)そのものです。貴女やわたしに限らず、そもそも代行者一人がどう頑張ったところで斃せる相手ではありませんよ」

「――――ふ。ふふ、ふふふふ。ウソ付いてんじゃないわよ。ホントは貴女一人で殺しきれてるクセに」

「!」

 

会話を挟みながら繰り広げていた攻防の手を互いに止める。シエルの顔には微かな動揺が見受けられる。

 

「どういう根拠で、わたしが祖を単独で殺しきれていると?」

「別にそう取り繕ってまで(バディ)相手に隠す必要ないでしょ。人外共しかいない埋葬機関所属の代行者である事に加えて、対死徒殺しにこれでもかと特化した武装の数々。何よりどれだけ殺されようが絶対に再起不能にならない不死性に、天性の才能と肉体。

魔力はより強い魔力で対抗できる、というのもあるだろうけど……これだけのイカれたスペックがあるんなら、教会が百年かけても斃せるか分からない化け物だろうと潰せるでしょう?」

「それは、貴女の憶測でしょう。わたしが単独で討伐している事の証拠には値しませんよ」

「もしかしてそれ、必死こいてアンタに追いつこうとしてる私に対して気を使ってる?いいわよそんなの。どうせこっちも察してるんだし。

そうね。だったらこう言えば開き直ってくれるかしら―――――アンタは今の時点で一つ、或いは二つほど原理血戒を所持してる。そしてその内の一つは『森』か『城』。どう、合ってる?」

 

「―――――――――」

 

何も言わずに……言えずにシエルは固まる。こういう時はホントいちいち反応が分かりやすくて良いわね。

 

「………『城』は、確かに討伐しています。ええ、白状します。貴女の察する通り、わたしは祖を“一角(ひとり)”殺しています。

しかし、なぜ今しがた言った候補に『森』を挙げたのですか?その根拠は何なんです?」

「あー………ただのカンよ。ほら、貴女の聖典って巨大な蛇腹剣にも変形できるでしょ?だから『森』相手に本体を伐採しまくって斃したかなって思っただけよ」

 

ちょっと質問の仕方が迂闊だったか。てっきり『森』の方もとっくに討伐してるだろうと思ってたけど、この反応を見るにどうやらまだらしい。

という事は、もし『記憶』の通りに運命が流れるのなら――――状況によっては、『森』と戦う事になる………?

 

「ノエル、貴女……どこまで知っているんです?」

「どこまでも何も、貴女ほどの天才的な不死身の化け物なら二十七祖すら斃しててもおかしくはないなと思ったから確認したかっただけよ。

もっと言えば教会の祖に関する記録を調べられる範囲で調べたところ、『城』の項目がここ数年の間で討伐済みになってたから違和感を覚えたのよね。もしやと思ってさっきに口に出したワケ。

結果ビンゴ。いやあホントに貴女が討伐してたなんてね。つくづく畏れ入るわ、シエルさん」

 

とりあえず出まかせを吐いて誤魔化す。こんなのすぐに見破られるかもしれないけど、こう言っておけば一応はそれで納得してくれるだろう。実際に私なんかが調べられる情報の範囲なんかたかが知れてるし、テキトーな嘘だと断定する根拠もない。

第一、祖を討伐してるのが知られたところでなんだと言うのか。お互いに何かしらの不都合が生じるワケでもないし、私からすれば()()から分かってたんだからショックも苛立ちも特にない。その化け物ぶりには慄きを覚えるけれど。

 

「とにかく、明日から私は力を極力セーブした状態で過ごすわ。その分、一緒にいる時はシエルさんからのサポートも普段以上に信頼するからよろしくね?」

「露骨に話題を逸らすのはやめなさい。………といっても、貴女の言い分に疑念はあれど今はそれで納得するしかないようですね。

はぁ……分かりました。この件については切り上げておきます。その代わり、当たり前ですが他言は無用ですよ?」

「ふふ、分かってるわ。というより私が黙ってたところで貴女が祖を討伐したコト自体は上の連中なら大体知ってるでしょうしね。

そもそも私がこんな事を訊ねたのもさっき言ったように貴女が祖を討伐した事実を純粋に確認したかっただけで、言いふらすなんてくっだらないマネをする気は毛頭ないわよ」

「それを聞いて安心です。とはいえバレてしまった以上、もはや貴女には黙っておく必要はないみたいですね。

バディとして貴女に発破をかける意味で、敢えてこう言っておきます――――――せいぜいわたしを超えられるよう、必死で頑張りなさい」

 

………は、思いきり上から目線で言い切りやがって。お前のそういうところが嫌いなのよ。

 

けど、上等じゃない。寧ろお前はそれぐらいが丁度いい。お望み通り必死でお前に追い付いて、そして超えてやろうじゃないの。

 

「カッコつけて言ってんじゃないわよ。アンタにこうして言われるずっと前から、私はアンタを超えようと常日頃から死に物狂いでやってるんだから……!」

 

言った直後に組手を再開する。思えば私はこうした稽古試合にも未だ勝てた試しがない。なんて情けない有様だろうか。このままじゃ笑い話にもならない。

 

ソウヤ到着の未来まで二年を切った。どれだけ差が離れてようが、現実が非情だろうが関係ない。絶っっっっっ対にこの女を追い抜いてやるっ……!!

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