愛染ノエル・Reスタート / ―The Revenge of the Black Rose― 作:ノエルイド
ヤツが徐に腕を前に構えた瞬間、数千度に及ぶ炎の奔流が発射される。
『
ヴローヴの放つそれは推定3000℃以上と考えられるが、この程度なら私の脅威じゃない。
「だからこそ――――この内にさっさと殺す!!」
炎の中をそのまま
寸でのところで大鉈で防がれる。関係ない。その命ごと叩き砕いて燃やし尽くすだけだ。
今、ヤツが炎や鉈で応戦しているのは本気を出し惜しんでいる証。もっと正確に言えば本来の力を可能な限り
そして、それはこちらにとっても都合がいい。何しろ本来の力を出されると一気に形勢が不安定になってしまう。
ただ斃すだけならそれでも強引に押し通せるかもしれないけど、代償に周りへの汚染被害が尋常じゃなくなる。
シエルは大聖堂の結界に自分ごと隔離する事で一時間以上は被害を漏らさずに凌いでいたものの、当然ながら私にはそんな大規模かつ頑強な結界を用意する手段も技術もない。
だから、ヴローヴがまだ本来の力――――原理血戒による極寒の地獄を解放していないこの段階で殺しきる。
常に距離を取らせずに肉薄し、回避の選択余地も与えずに得物と炎を駆使して追い詰めていく。
まだ接敵してから1分も経っていないけど、この時点で既に広場全体の火の手が私の炎に上書きされつつある。
3000℃を凌ぐ炎による熱波も、青く揺らめく炎の呪いも、黒く燃え盛る怨嗟の炎の前では形なしも同然だわ。
「“……凄まじい熱だ。加えてこの動き、おれの太刀筋を把握している様にも感じられる。まるで一度見た事があるかのようだ。
貴様とは顔を合わせた事さえ、この
おれの
「疑問ばかりでウザいんだけど?んなもんその腐った脳ミソで延々と自己解釈でもしてろっつーの!
っていうか早く死ね。今すぐに死ね。お前からすればそうでも私にとっちゃ因縁しかないのよっ!!」
矢継ぎ早に、かつ正確に急所を目掛けて槍斧を突き出す。
ヤツが炎の魔手を伸ばせばこちらも炎で相殺し、鉈で防いだり弾いてくればこれも力任せに振るって太刀筋を無理やり崩す。
火力、筋力、対応速度、余力、形勢――――全てに於いて問題なし。しかし私は油断も慢心もしないししたくない。
よって、更に速度と殺意を跳ね上げる。今はまだ日中の時間帯。例えこんな暗がりの広場で戦っていようが夜の世界になっていない以上、ヤツは死徒としての本領を発揮する事ができない。
「そぉぉおお、らっっ!!!」
「“ッ……!”」
バキン、と軽快に鉄が砕き割れる音が響く。度重なる槍斧の連撃に曝された大鉈が遂に破壊された。
まだ刀身は残っているけど最早武器としてはなまくらにも劣る。私の攻撃にまともに応戦できる状態じゃない。
「“ォ―――――オォォオオォオオァァ……!!!”」
流石に危機を察したヴローヴが咄嗟に飛び退き、
ただ、そんな苦し紛れの大暴れなんざ私には通用しない。こっちは二十七祖の一角を殺しているんだ。お前の抵抗も、お前の
絶対零度の地獄?そんなの許すワケないでしょう。お前が仮初の
「私が思うに、お前の
だから余裕がある内はその熱で応戦するし、ある程度消費すれば内側の呪いを抑えきれなくなって寒波が溢れ出てしまうのよね?
ふっふふふふ、ホントかわいそーだわ!もっとも、その熱を保つ為に無辜の人たちを次から次へと食い殺してるんだから毛ほども同情しないけどっ!!」
向こうが手数で抗ってくるなら、それ以上の手数と火力で一気に畳み掛ければいい。
ヴローヴの周囲に十字に燃える波紋を数十に渡って展開し、そこから一斉に黒炎を放射する。
無論、その一つ一つが
「けれど念には念を入れてダメ押しするわ。何が何でも確実に殺す」
槍斧を掲げ、炎を一点に集中させる。そして―――――
私自身、この力を手にしてからまだ間もない事もあって精密に制御できているわけではない。ただ、今までの特訓もあって少しだけなら割と容易に引き出せるようにはなれた。
「炎と対極の
炎と流水、力の掛け方を間違えれば上手く両立するどころか一方が一方を掻き消してしまう。水が炎を鎮火するように、炎が水を蒸発させてしまうように。
神秘の行使は突き詰めて言えばイメージの出力に近い………というよりそのものとすら言っていい。
炎をベースとし、そこに流水の力を加えながらも両立するべく
「“寒い。寒い。ここは―――――ここは、寒いぃぃ―――――――………!!”」
ヴローヴが黒炎に曝されてから約40秒。ヤツの様子が急変し、周囲の熱気が冷ややかな寒気に変質し始めている。
言うまでもなくこれは危険域だ。熱を出し尽くす寸前――――ほぼ出し尽くしたと言っていい――――ヤツの肉体と魂が、今まさに全てを凍て付かせる永久凍土の地獄を剥き出しにしようと蠢いている。
………しかしながら、それは叶わないし許さない。何故ならそうなる前に、私がここで滅ぼすからだ。
「“生と死は常なる時も表裏一体。そこには希望もなく絶望もない。
我が
故にこそ我が
洗礼の詠唱による加護を付与し、対吸血鬼への力をより確実なものへと引き上げる。
かつてアインナッシュを屠った事もある、極限まで圧縮して熱量を増幅させた炎の極点。それに
無論、そんなものを何も考えずに発射すれば
だからこうして武器に纏わせ、そして
「“待て。何だ、その詠唱は。
それはまるで、忌々しい祈りなどではなく呪いそのものだ……!
貴様は、何者だ。貴様は、何故そんな在り方で教会の狗をやれている?
やめろ―――――やめろ、やめろ。来るな……!
おまえのような何もかもが捻じ切れた異物に、ここで殺されるなど………!!!”」
捻じ切れてんのはお前もだろうが―――――最早そう返す必要もないので黙って殺意を奔らせる。
宙に展開している十字の炎に燃やされながらも、ヤツはなけなしの炎と極寒の呪波を差し向けてくる。
けど、もう無意味だ。炎も、絶凍の呪いも、今の私を阻むには至らない。
呼吸はしないし、余計な思考も考えない。ただ目の前へと
「じゃあね、ヴローヴ・アルハンゲリ。その悍ましい
“怨讐は過去に――――――
黒薔薇を胸に。
それは聖女の祈りなどではなく、復讐鬼の内に燻る慟哭そのもの。
罪には罰を。過去には報復を。因果には終結を。
全てを乗せた極点の一撃は、
『“が―――――Aa―――――aaaaaaaaaaaaaa………!!!!!!!”』
直後、広場全体に衝撃が迸る。同時に凍てつく冷気も、張り付くような熱気も瞬く間に掻き消えていく。
……数秒の後、余波が収まる。周囲を見渡すと、広場はボロボロになっていて今にも倒壊しそうな危うい感じだ。
仮にも二十七祖とタイマンでやり合ったんだから当たり前っちゃ当たり前ね。
寧ろこの程度で済んで万々歳でしょう。『記憶』だと跡形もなくここら一帯が埋没して瓦礫の山と化してたし。
で、ここの事後処理は………ふん、あのジャリガキにブン投げとこうかしら。アイツ文句垂れながらもキッチリやるしね。
ただまあ、代行者として最低限の汚染処理ぐらいはやっておこう。
「……割とあっけなく終わったわね。ま、最初からそうなるコト前提で戦ったんだけど。
これにて討伐完了。時間は―――――7分近くかしら?超人同士の戦いは意外と早く終わるとも言うけど、本当にその通りねぇ」
爆発の中心―――――ヴローヴ・アルハンゲリが存在していた箇所は、黒く焼け付いたクレーターが在るだけという事実のみを残している。
そのクレーターの周囲には薄っすらと蒸気が立ち込めている。呪いの痕跡はどこにも見受けられない。ちゃんと消滅してくれたようで何よりね。
そう。本当に……本当に、何よりだ。
「ふぅ……………ふふ。ふっふふふふふふ、ぃひひ、ははっははは!あっははははははは!!!
ああもう、最っ高の気分よ!!故郷を滅ぼした悪魔を、この手で!!殺した!あぁ殺した!殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した――――――殺せたんだわぁぁ!!」
思わず舞い上がる。本当に気持ちがいい。しかも今度はあの女の手を借りる事なく、自分の手でしっかりと殺しきれた。
これが笑わずにいられようか。嬉しさと達成感でニヤける口角を止められない。あんまり言いたくないけど、きっとこの瞬間の私は死徒になった『ノエル』よりも醜悪な笑みを浮かべているに違いない。
しかしこれでいい。どうあれヴローヴ・アルハンゲリは滅び、私は私自身の力のみでそれを成し遂げたのだから。
謂わばこの狂喜は復讐しか生きる意味の失くなってしまった私への唯一のご褒美よね。
なら私はこの狂喜を受け入れましょう。『復讐に人生を捧げる』という選択をしたのは他ならない私自身の意思で決めたコト。
じゃあせめて笑って、嗤って、哂って、
何事も楽しんでこそモチベーションを維持できる。そしてこの歓びさえも炎にくべていくのよ。
命も、人生も、感情も、何もかもを躊躇いなく捧げれる奴こそが文字通りの無敵なんだから!
「―――――なーんて感極まったところで、結局は復讐という狂気に逃げてるだけなのよね。ははっはははは、虚しぃわ~~~」
分かってはいるけど、それでもそうするしかないのだから最期までやり抜くしかない。
後悔とか数え切れないほどあるけど、その上で自分が出来ることを放棄なんざ死んでもやりたくない。
例え、それがどれだけ歪み切ったモノだろうと。
そうだ。私はあの女とは違う。それまで散々無感情で冷徹に殺しておきながら、何が何でも殺すと誓っておきながら、一番そうしなければならない局面で刃を振り下ろす事を放棄しやがった。
無論、これはあくまで『記憶』で見せたシエルの姿だ。私と行動を共にしてるアイツがただの人間に戻るか否かは………これからの私の行動によるでしょう。
けど、アイツが代行者としてロアを殺すという使命を貫こうが貫けまいが私の行動指針は変わらない。
シエルという女がロアを殺す事に心血を注いでいるように、私もシエルを最終的には抹殺する事に人生を賭している。
あの女が使命を果たせばそれで良し、果たせなかったらロアを始末した後で好きにいたぶって殺す。
その後は、いつかこの身が斃れるまでこの世すべての吸血鬼を絶滅させ続ける。
―――――ただ、それだけのコトよ。
◆――――――――――――――――――――――――――――◆
それからヴローヴを斃し、事の仔細をシエルに報告。
報告を受けたシエルは案の定というか素でビックリした様子で、しかし独断先行した部分もしっかりと責めてきた。
「……もう一度言いますが、潜伏していた祖を日中の内に斃せたのは本当にお手柄です。ですが、だからこそ今度そういう相手と遭遇する様な事態になったらわたしにも絶対に声をかけてください。
事の次第に気づけなかったわたしがあまり強く言えたものではありません。それでも今回の貴女の行動は目を瞑れる範囲を超えています。
結果として最善に終わったから良かったものの、もし逆の結果になっていれば貴女だけでなく不特定多数の命が失われていた。
……貴女にまだ何も返してあげれていないのに、ともすれば貴女に死なれていたかもしれないと思うと、わたしとしても決して良い気持ちなんかじゃありません。
ですから本当に、お願いです。行き過ぎた行動を起こすのは絶対にやめてください」
「……分かった、分かったわよ。悪かったって。
確かにお互いに何かあれば連絡寄越せって昨日言ったばかりだったわね。しかも私の方から。
ごめんなさい。そこを徹底する意識が欠けてた。次はしっかりと気をつけるわ。誓ってね」
「ええ。その言葉、くれぐれも忘れないように」
我ながら流石に自重が出来てなかったかな。そう思いつつも、あの狂喜に浸った一時はなかなかに気持ちのいい瞬間だったという自覚もある。
今、冷静になって思えばシエルに応援要請をしなかったのはアイツに頼らずに斃したい意地があったからだ。
っていうか冷静にならなくてもそうだった。私は正真正銘一人で二十七祖さえ斃せるようになったんだって、その事実を証明したかったんだ。
……とはいえ、恐らくヴローヴは二十七祖の中でも弱い方。
いや、というより――――そもそも
アレは原理血戒の呪いを制御できずに蝕まれていた。その時点で少なくとも本来受け継ぐべき正当な後継者なんかじゃない。
上級死徒、にしては余力もそんなに無かった。『記憶』で読み取れる情報も含めるとアイツの本来の階梯は多分
「Ⅵ……その程度の死徒でも原理血戒を持てば
………そういえば私たちがこの街で追ってる
Ⅵ階梯。野良の吸血鬼が自力で成り上がれる限界であり、謂わば平民出においての最上級。
ヴローヴ、ロア、そして――――記憶の中で
シエルと今の私からすれば“言ってもその程度”に過ぎないけど、あくまでそれは直接的な戦闘においての話。
そこいらの代行者、何より一般人にとっては水面下で歩く『見えない災厄』そのもの。
潜伏場所の特定に遅れる分だけ汚染拡大を許してしまうし、大体は本格的な討伐にかかる頃には街全体が手遅れになっている
特にロアはその手の常習犯で、捜査の目を掻い潜る狡賢さと悪辣さにおいては本当にピカイチだ。
事実、私の故郷もそうしてじわじわと汚染されていって、そしてあの夜の儀式によって全てを滅ぼされた。
「だけど、それも今代で終わりよ。お前がどこにいて、誰の内側に潜んでいるのか。そして何時、本格的な活動を行い始めるのか。
―――――全部、
視線から数キロメートルほど先にある、大きな宿泊ホテルを睨みながら口にする。
調査対象……今代のロアと成る遠野志貴は真祖と行動を共にし、今は総耶の隣町に建っている高級ホテルに身を置いている。
最上階にいるのが確認できるけれど、あいつらの他に人は誰もいない。察するにあそこのフロアだけ全て借り切ったんでしょう。
さっすがお姫サマ、化け物のクセにセレブらしく振る舞う事にも無駄に余念がないらしい。ま、実際は
一泊するだけなのか、何泊かに渡って身を置くのか。どちらにせよあそこにずっと留まる筈もないし、すぐに出ていくわよね。
「シエルには報告済みだし、私もしばらくは距離を置いて様子見ね。下手にラインを見誤ると真祖に気取られるし。
えーっと、ここらで借りるのに丁度いい物件は………、
あ、このマンションとか見晴らし良さそうだし、ここの最上階の一室を借りるか」
空き部屋がどこかにあればそれに越したことはないけど、仮に無くても暗示でお邪魔すればいいから特に問題ない。
真祖と調査対象がホテルから移動し出すまでの間だから暗示後の記憶処理も楽に済む。
問題は真祖たちがホテルを退いた後の動向だ。そんなに騒ぎを呼ぶような行動はしないとは思うけど、アレは人間の常識をハナから行動指針に入れてないから万が一………否、百が一の懸念も十分にある。
どこまでいっても吸血鬼という生き物である以上、事と次第によっては幾らでも残虐になれる。
それこそ必要とあれば不特定多数の人間を虫ケラ同然に殺し尽くす事だって何の躊躇いもなくやるに違いない。
………、『ノエル』がそうだったように。
「とはいえ『ノエル』の場合は無理やり吸血鬼にさせられたんだったわね。つってもその後に結局吸血鬼として振る舞ったんだから同情の余地なんざ在りっこないけど。
『吸血鬼になった事ではなく、吸血鬼として振る舞った事が罪だ』って『記憶』のシエルが言ってたけれど“振る舞った時点で”じゃなく、“成った時点で”存在が罪に成り果てるのよ。過程がどうあれね。
………ついでに思い出したけど、『ノエル』を死徒に堕とした
あくまで『記憶』を通しての感想に過ぎないけれど、あの女の得体の知れなさはあまりに異常で異質だ。
無視できない警戒すべき敵ではあるものの、本能的な気色悪さを覚えるので出来れば一度も遭遇したくない。
もっとも今の私は『ノエル』と違って、ただ蜘蛛の巣に絡めとられるだけの哀れな
もし今後あの女と遭遇すれば、その時はアインナッシュやヴローヴのように徹底して焼き尽くすのみ。
虫ってのは総じて『火』に弱いんだからねえ。
何れにしろ今は真祖と遠野志貴の動向に注意を向けるのが最優先。
大人しくしていればそれで良し。何かしら行動を起こすなら状況によっては即座にこちらも動く。
シエルにも報告してるんだからアイツも近くで監視してくれているだろう。
癪だけどこういう時は普段の任務以上にあの女が頼りになる。いざとなれば冷静に判断を仰がなきゃね。
ロアだった時の知識をそのまま継いでるんだから対真祖……というより対アルクェイド・ブリュンスタッドの立ち回りは誰よりも臨機応変に動ける。
13年前は結局殺されはしたけど、そうなるまでの過程はどうだったのか。
………何となくだけど、結構イイところまで追い詰めていたんじゃないのか。その末に
真相は今となっては分からないし、そこは最早知る必要もなさそうだけど……。
「案外、曲がりなりにも二十七祖すら斃せた今の私とシエルが本気で協力し合えば、あの
ふっ、と口から笑みが漏れ出る。我ながら何をほざいているのやら。
封印ならまだ納得が行く。刺し違える覚悟でやればそこまでは行けるかもしれない。
でも殺せるかもってのは有り得ないでしょ。何しろアレは地球の分身。星をそのまま擬人化した存在と言っていい。
死徒どころの次元じゃない、正真正銘の歩く天災。アレを殺すという事は文字通り星を殺すに等しいんだから、私とシエルが本気になったところでそこには絶対に至れない。
私の扱う炎だってそうだ。仮にこの炎の熱量に限界が無かったとして、際限なく高めた果てに『
そんな域にまで引き出すには相応の才能と素質が必要不可欠なハズだし、私にはそこまでの能力は当然ない。
白鯨の力だって、奇跡的に遺骸がこの身体と馴染んだからこそそれなりに行使できるってだけ。
結局、狂気に逃げてる時点で私が私という凡人の壁を超えれる事はないかもしれない。力を扱えても所詮はその程度。
吸血鬼を殺せても、吸血鬼を生み出す厄災は焼き払えない。
……真祖の中には吸血衝動に吞まれて欲求のままに暴れる『魔王』も稀に現れるようだけど、もしそんなのと対峙しちゃったら死ぬかもね。
「ま、ホントに死んじゃったとしてもそれはそれ。私なんてその程度の奴だったって事実が残るだけ。
あの時からこうしてずーーっと復讐に人生捧げてるんだし、生きながらに死んでるようなモノよ」
だからこそ一匹でも吸血鬼を殺す。虚しい人生だったとしても意味を刻めるよう、無駄だと理解しながらも足掻くのよ。
今更真祖の脅威が何だってのか。自分じゃどうにもできないからってぶるぶると怯えてなんていられるか。
一度やり通すと決めた以上、私の復讐の障害は何であれ除くまで。
遠くに聳えるホテルの最上階。その一室を見据えて、私はその場を移動して目的のマンションに足を運んでいった。
◆――――――――――――――――――――――――――――◆
「………結局、普っ通に泊まってたわね」
五日目、早朝。
マンションに移動してからずっと監視していたけど真祖たちは妙な動きを一切見せず、当たり前のように一泊した後で堂々とホテルを後にした。
そこから二人は駅の方へと行き、そのまま総耶方面に戻っていった。
すぐにシエルに連絡するも既に向こうも把握していたので私たちも後から総耶に帰還。気取られない事を前提としつつ監視を続行する。
「で、総耶に戻って間もなくマンションに移動したけど、あのマンションって確か……」
「二日前に遠野志貴が通っていた例のマンションです。ひょっとするとあそこでアルクェイドと関わりを持ったのかもしれませんね。
調べたところ、彼女がその時期にマンションの最上階を借り切っていたようですよ」
「じゃあ、そこは確定と言っていいか。何でその後に彼が放心状態で出てったのかは分からないけど、現状としては
……それはそうと、どうしてまた急にマンションに戻ったのかしら?」
「直前に何かしら話していたところを見るに、恐らくアルクェイドの体調を安定させる為でしょう。
信じ難いですが
それと……彼がまだロアだと確定したワケではありませんよ。早計な発言は慎むように、代行者ノエル」
「あー……ハイハイ。早とちりなコト抜かしてごめんなさいね」
『記憶』を視てる私にとっては確定なんだけど、この時点じゃまだ『候補』止まりだったわね。
正直なところ、さっさと兆候が出てくれた方がシエルの疑心も確信に変わってくれるから早く成ってくんないかな。
どうあれ彼がロアに成るという運命は避けられないんだし、それならせめて一人も手にかけさせずに『ロア』じゃなく『遠野志貴』として殺してあげたいからねえ。
――――それからも結局真祖たちはマンションから出る事なく、ただ時間だけが過ぎていった。
こちらとしてもあまりにも暇だったので、監視をしつつもシエルから教わった魔術の特訓とか本人との組手やらをやりながら時間を潰していった。
そうしていると、やがて午後7時を過ぎた辺りで調査対象と一緒に真祖がマンションから外出した。
そういえば調査対象……もとい遠野志貴は門限で午後8時までに屋敷へと帰宅しなきゃいけないんだったわね。
何かついでのように真祖も付いてってるけど、傍から見たら完全にデート中のカップルじゃん。燃やそうかな。
不快に思いながらも監視を続けていると志貴クンが屋敷に帰宅する手前で真祖が離脱。そのまま明後日の方向に飛んでく光景に彼も呆れつつ、遠野邸の門を通過していった。
「はは、まるでロケットみたいね。仮にもやんごとなき立場なんだからもう少しおしとやかに去れ……ないか。志貴クンも大分呆れてたし」
「彼女はどこまでも常識の通用しない化け物です。人間の考える『お姫様』の
それで、この後はどうします?」
「じゃ、貴女は引き続き真祖の監視をしてくれる?私はいつも通りロアの
シエルと軽口を叩きつつお互いの役割を決めて行動する。
この街に来てから随分と雑魚狩りに徹してきたのもあって、大分数が減ってきたかしらね。
こうなるとそろそろロア本体にも何かしらの動きがあってもいいけど……あの様子だとまだ全然浮上してない。
というか転化の兆候そのものの気配がまるでないから流石に違和感がある。
となると、今も死者の数が全滅しきっていないのは別の転生体――――
遠野邸周りの調査と『記憶』の情報を示し合わせるとほぼ間違いない。だからまずはソイツの所在を特定しなきゃならない。
……つまり。もし私たちが真祖より先にソイツを滅ぼせれば、ロアの転生もそこで完全に終了。遠野志貴がロアになる可能性は事実上ゼロになる。
突き詰めて言えば――――代行者シエルが、あんな醜態を晒してしまう可能性も完璧に潰せるワケだ。私があの女に裏切られる未来なんてものも消滅してくれる。
なら一刻も早く探し出そう。尻尾を捕まえて引き摺り出し、その首を刎ねて、存在そのものを焼却する。
やる事はこれまでこなしてきた任務と変わらない。ただ、今回に限ってはより迅速に遂行すればいいだけだ。
「『記憶』からじゃ居所の正確な特定は無理ね。となるとこれもシエルと協力して探し当てるしかない。
簡単には終わらないだろうけど焦る事はない。現在進行形で真祖の監視もしているんだから、ロア討伐を出し抜かれる可能性は限りなく低い。
今のところは、順調に事が運んでいると見ていいわね。寧ろヴローヴという障害を排除した今、こっからが本番中の本番よ」
順調は大体が失敗へと繋がる前兆だ。だからこそ仮に失敗しても即座にフォローできるよう立ち回っていかなくてはならない。
シエルがしくじっても私が、私がしくじってもシエルが。
今こそ6年以上一緒に活動してきたコンビとしての連携力と遂行力が求められるでしょう。
上等。やってやるわ。私たちの前では幾ら隠れようたって無意味だっつー事を、骨身に滲みるまで思い知らせてやる。
―――――覚悟しろ、クソ蛇野郎。
………因みに六日目は高校の休日なので志貴クンは屋敷に籠りっきりだった。
その分、真祖の監視とロアの調査等々にリソースを割けたけど、目ぼしい進展は起きずにあっさりと一日が終わった。
よって成果が出ない苛立ちは雑魚狩りのストレス発散と仕事終わりのコストコの弁当で鎮める事とする。ふふ、うまい。