愛染ノエル・Reスタート / ―The Revenge of the Black Rose―   作:ノエルイド

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協同鍛錬

「――――そっちはどう、シエルさん?」

「――――見ての通り、既に終わりました。そちらももう済んだようですね」

 

この日に特定した最後のコミュニティの殲滅を確認し合ったあと、さっさと現場の後処理に入りながらこれまでの活動を振り返る。

 

コンビを結成したあの日から既に二ヶ月の時が過ぎた。私がその中で最初にやろうと考えたのは、シエルの実戦での動きを観察することだった。

やっぱり『記憶』の中を覗き見ながら練習するよりも、実際の動きを近くで直接見ていた方が良い経験になるでしょうし、尚且つそれを活かせればそれだけ復讐の成就に近づける。

要はこの女の技術を出来うる限り盗み見て、身体で学習して、その上で可能な限り我流に昇華してしまえばいいと思った。言うまでもなく簡単にできるような事じゃないのは分かってるし、だからこそ現在進行形で学習している最中だけど。

 

とはいえ流石のシエルでも、代行者を始めて間もなくの時期じゃバケモノ染みた戦闘力は発揮できない――――――と、そう思っていた。

 

「そういえば二手に分かれて殲滅処理してた時に、一匹だけ取り逃がしてしまったのよね。方角を思い出すにアンタの方に行ったと思うけど、そっちに何か来た?」

「ええ、確かにどこからともなくⅥ階梯が割り込んできましたね。何故か焦っていて冷静さを欠いているようでしたから、その隙を突いて始末しましたが………アレ、貴女の取りこぼしだったのですか。

珍しいですね、貴女ほどの代行者が一匹のみとはいえ逃走を許してしまうなんて」

「ハッ、一言余計なのよ。まあ取り逃がしたのは私のミスだから文句は言えないけれど………」

 

相も変わらずに、まるで普通の事だと言わんばかりの口調で報告してくるもんだから唖然とする。

ああもう信じらんない。なんでこの時点で!コイツは!私が人間を辞めてまで手段を選ばずに努力して、ようやく自力で殺せるようになったⅥ階梯の下級死徒を!!さも当たり前のように一人でぶっ殺せてるのよっ!?

 

文字通り身を削り、血を流しながら鍛錬を重ねて、代償を払いまくって、運にも助けられて、そうしてやっと斃せるようになった。そうしなければ夜魔や夜属にすら一方的に弄ばれて殺されていた。

けど、この差は何だ。元々の常軌を逸した才能と死徒であった時の名残で強靭な肉体を備えているからって、何でこんな短期間で死徒を虫ケラ同然に斃せるんだ。

 

クッソ、やっぱりこの女は頭のおかしい化け物だわ!こういう事は口にはしたくないけど、コイツが蘇ってくる前に人間を辞めておいたのは本当に英断だった!

仮に人間のままだったらこの時点で挫折せざるを得なかったぐらいに突き放されていたでしょうね。マジで末恐ろしいったらないわ。

どうやら私はコイツがどれだけ超人としてイカれているかを理解しきれずに無自覚に舐めていたらしい。それを改めて思い知らされたからには、私もこれまで以上にひたすら頑張って、そして差が開かないように足掻くしかない。

 

でもこのままだとすぐに追い抜かれるのは脳の腐ったゾンビでも理解できる事だ。少しでもそうならない為の方法は……何か、何かないかしら?

 

「……ねえ、シエルさん。貴女って確かロアの知識もあるのでしょう?何かしら手っ取り早く強くなれる方法でオススメなのない?」

 

自分で口にしておきながらハッとする。気がつけばナチュラルにそう訊いていた。何を、言っているの。

 

「………言っておきますが、ロアの知識なんてどれもこれもロクなものじゃないですよ。そんなものに頼ろうとしたところで、その果てに待っているのは破滅か死んだ方がマシな末路です。

復讐の為なら手段を選ばない。その感情を否定はしませんし、かく言うわたしもその覚悟で生きています。しかし、それでも縋ってはいけないモノというのはあります。

どうかその事を忘れないように、シスター・ノエル。ロアの知識などというものに頼らずとも、強くなれる手段は他に幾らでもありますよ。何でしたら、この後にまた手合わせでもしますか?」

 

「……あっそ。どうもご高説ありがとうございます。じゃあそのお誘いに乗って、いつもの手合わせよろしくね。今度こそボコボコにしてやるわ」

 

そんな風に諭してきたところで、結局アンタだって白い真祖やロア相手には躊躇いなく魔術を使うのでしょう?

私の努力と苦労と覚悟を上辺でしか知らないクセに、一丁前に上から目線で宣ってくるな。

けれど、今ので少しは冷静にはなった。あまり性急になりすぎるのは良くないし、こういう時こそ焦りを抑えて慎重に見極めるべきだろう。

 

ひとまずこの1年は素直にバディとして任務に従事しつつ、コイツの動きを側で見て学んで覚えていきましょう。

『記憶』のノエルはコイツの弟子として(しご)かれてたみたいだけど、この私も結局それは変わらなさそうね……。

 

「わたしが相手ばかりで気づいていないかもしれませんが、貴女は日を追うごとに動きのキレが上がっていますよ。わたしもあなたと日常的に手合わせをしているからこそ、ここまで強くなれていますので」

「はは、お褒めの言葉を頂いて恐悦至極に存じまーす。機嫌が良くなったから今回は黒鍵で打ち合いましょうか。片っ端から腕ごと折りまくってやるわよ」

「! ほう、貴女からそう言ってくるとは……いいでしょう。

ならばわたしの方こそ普段以上に気合を入れて叩きのめしますので覚悟しておくように。ついでに黒鍵の魅力についても念入りに熱を入れて論説してあげます」

「うげっ、まーたアレやんの?絶対にヤだからせめて私に勝ってからにしてよね。まあ全力で抵抗させてもらうしそもそも負けないけど」

 

 

そして私は黒鍵どころかそれに付随した人物やら歴史やらの解説まで含めた個人講義を三時間ほどみっちりと聞かされた。クソが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして更に10ヶ月――――バディ結成から約1年後。

 

私はシエルとの協同活動の中で少しずつ確実に成長し、今となっては相性にもよるけど上級死徒相手にほぼ一方的に斃せるようにまでなった。

 

ずっと前から半ば確信してはいたけど、やっぱり人外になってからの成長速度が本当に著しい。人間だった頃と比べて数十倍どころの次元じゃない。とにかく比較する事も馬鹿らしくなってくるほどの驚異的な勢いだ。

最初に戦った時は向こうの驕りがあった上で辛勝で死にかけてたってのに、サシだったらもう脅威にはならないと言えるぐらいには対処できる。

この成長が続くなら、どこかで限界(かべ)にぶつかる事もなく強くなっていけるなら、あの二十七祖にだって届くのかもしれない。

………いや、全ての吸血鬼を根絶すると決めている以上は絶対にそこまで至ってやる。故郷を滅ぼした悪魔共は、みんな私が殺してやるんだから。

 

―――――けど、何も私だけが強くなっている訳じゃない。一緒に活動している以上、当然ながら相方も遥かに成長を遂げてしまっているワケで。

 

「今しがた終わりました、ノエル。想定外の相手が割り込んできたので応戦しましたが、口惜しくも逃走を許してしまいました。そちらには……どうやら来ていないようですね」

 

「は?想定外の相手ですって?アンタをして取り逃がすほどの手合いとかどんなヤツよ?」

 

「ええ。順を追って経緯を説明しますが、あなたと二手に分かれてからわたしは例の潜伏場所へと向かいました。

そこでは見立て通り上級死徒が4体ほど確認できたので駆除にかかっていたところ、不意に新手の死徒が乱入したのでそちらにも対応し、何とか上級死徒らを殲滅した上で新手にも深手を与えました。先に伝えた通り取り逃がしてしまいましたが、顔と声と気配は憶えたのである程度の特定は可能です。

今から追跡しても遅いので今日のところは諦めるしかありませんが……次に遭遇次第、確実に仕留めます」

 

「………お疲れ様。因みにその新手とやらについての階梯とかは分かる?」

 

「そうですね。戦闘中、時折他の上級死徒に指示を飛ばして連携していた事が見受けられました。何より彼らと比べても更に強大な呪いを発していた事を考えると―――――Ⅷ階梯の後継者、だと思われます。

それと周囲の被害に関しては、巻き込まれた犠牲者は確認できる限りゼロです。ここがスラム街の一角だった事が不幸中の幸いでした。もし大都市圏だったらと思うとゾッとしますね」

 

「ああ、うん……ホントお疲れ。遠くでデカい破壊音が響いてたからさぞドンパチやってんだろうなとは思ってたけど、まさかこんなところに二十七祖の後釜候補が潜んでたなんてね。そりゃアンタでも上級死徒共を相手にしながらだと仕留め損なうのも無理ないか」

 

「いえ……フォローしてくれるのは有り難いですが、今回で確実に仕留めておくべきだったのに逃走を許してしまったのは事実。

こんな失態をいちいちやらかしてしまっていては、わたしは贖罪に報いる事ができない。次からはもっと徹底して遂行します」

 

「…………………」

 

徹底するのは結構だけど、それはそれとして柄にもなくフォローしてやってんだから偶には素直になりなさいよ。本当に可愛げがないわね。あったところで嫌いな事に変わりはないけどさ。

 

そしてコイツもまた信じられない勢いで才能を開花させている。当たり前のようにさらっと口にしているけれど、なんでこの女は上級死徒4体と後継者を同時に相手した上で、ボコボコに嬲られるどころか逆にほぼ全滅に追い詰めてるのか。どんな変態的な立ち回りをしたらそうなるのよ。

 

………一年。たった一年で、完全に抜かれた。あれだけ死に物狂いで取り返しのつかない代償を払い続けた私の六年半なんて、あいつにとっては一年で追い越せる程度の取るに足らないものだったんだ。

 

『記憶』の中の私は中途半端にしか生きられなかった雑魚の分際で、最期はこんな化け物を一瞬でも出し抜こうと思い上がってたわけ……?無理筋にも程があるじゃないの。

 

とはいえ反面教師にしている以上、私はあんな間抜けな轍は踏まないわ。

流石にここまでとは思わなかったけれど、一方で追い抜かれる事そのものは寧ろ想定内。抜かれたのなら追い抜き返すつもりで力を付けてやるまでよ!

 

「まあ、後継者の件については後日調査すればいいわ。ただこうしてバディを組んでるからには私も討伐に貢献したいし、ここは一つ魔術でも教えてくれないかしら?」

「……それは、貴女にロア(わたし)の魔術を教えてほしいと?……本気で言っています?ロアの知識には頼るなと前にも、」

「ええ、口酸っぱく言ってたわね。だから数秘紋の雷霆とか、そういう実戦で使える類で結構よ。その後継者といい、ロアといい、怪物共を殺す為ならば仇敵(かいぶつ)の知識―――つまり魔術を学ぶ事も躊躇わない。手段を選ばない復讐においては当たり前で合理的でしょう?

もう一度言うけどね、私も代行者として吸血鬼を殺す事に少しでも貢献したいのよ。それともアンタは、そういう私の決意と覚悟を無碍にしてでも教えたくないと言うの?私の事を、バディとして軽視してるって言うの?」

 

相手に色々と喋らせず、ここぞという時にまくし立てて主導権を掌握する。

『記憶』のノエルなら気圧されて不満気に黙りこくるしかなかったでしょうけど、私はそうなる前に自分からこうしてズカズカと攻め入る。どの道、自らの意見を押し通したいのならこうするのが一番だからね。

半ば強引にでも主張しないと、このシエルという女とは対等に会話できない。

 

「………分かりました。そこまで本気で望むのであれば、一部だけ教えます。しかし念の為忠告しておきますが、外法を始めとした禁術の類は絶対に教えませんので了承してくださいね?わたしもそういったモノは意識したくはないので」

「分かってるわ。仮にそんなのを教えられたところで私じゃ再現すら出来ないでしょうしねえ。要望を聞き入れてくれて感謝するわ、シエルさん」

 

考えてみればもっと早くの段階からこうしておくべきだった。魔術を会得できる手段として、こんなにも都合のいい生きた教材はない。これからコイツの教えを参考に存分に学び、利用し、使えるようになってやる。

元々私は才能ゼロのカスだ。人間だった頃なら会得できる魔術なんてたかが知れていたでしょうけど、人間よりも存在がバージョンアップしている今なら、魔術という神秘に対する理解も相応に身に付いている……と信じたい。

 

「それでは拠点に帰宅次第、まずは魔術の基礎を学ぶ為の講義と実践を施します。軽く一週間ぐらいは続くと思うのでよく聞いてよく覚えるように努めなさい。それが終われば応用編、適正編、詠唱短縮編と続きますよ」

「うわあ、容赦なくみっちり詰めてくるわね。がんばりまーす……」

 

どうやらこの女は手加減というものを知らないみたいだ。まあ、らしいと言えばらしいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は更に半年ほど時間を懸け、シエルから様々なロアの魔術を教えてもらった。

 

その結果、数秘紋の雷霆を使えるようになった。しかし実戦に使用できるところまで漕ぎ着けるのがやっとだったし、この期間で会得できたのもそれだけだった。

とはいえ、一応は何か一つでも会得できた時点で僥倖と言えるだろう。少なくともこれでまた一つ、戦える手段が増えた。ここは素直になって前向きに考えるべきだ。

 

それはそうと、『記憶』の通りに進むなら私たちが総耶に訪れるまであと三年半。まだ時間はあるけど予断を許さないのは確かだ。悠長にしている余裕なんてない。

 

どれだけ足掻こうと人生一度きり。復讐に行き急ぐにしても、後悔のないように慎重な選択を取り続けなきゃいけないし、その背後には常に破滅が潜んでいる。

その破滅を少しでも回避するべく、正しいとは言い切れなくとも間違いの少ない可能性を選んでいかなくちゃいけない。

 

「全力での手合わせを貴女からお願いされるのは今に始まった事ではありませんが……まさか聖典まで持ち出してこいと要求してくるとは想定していませんでした。何かしら心変わりでも?」

「そうね。これまでは黒鍵の打ち合いだったり徒手空拳での単純な組み手だったりとで色々と訓練し合ってきたけど、お互いに切り札を解禁した状態でのマジの殴り合いは暗黙の了解でセーブしてきたでしょう?

そんなの持ち出したら訓練どころか本気の殺し合いに発展しかねないからって避けてたけどさ……一回だけやってみない?」

 

そして今、私はまた一つその可能性を選んでいる。ここ半年の間は魔術の勉強に勤しんでたからお互いに特訓する暇が殆ど無かったが、今一度文字通りの全力で試合をしてみたいと考えた。

今のアイツは半年前よりも更に強くなっている。私も力を付けてはいるけれど、恐らく今回の試合も勝つ事は出来ない。

だから私は、この試合の中で『手加減なしの本気のシエル』の動きを観察して実力を把握しつつ、盗めるところは目敏く盗んでモノにする。重要なのは勝ち負けじゃなくてそこを如何にして上手くやれるかだ。

 

「はぁ、なるほど。わざわざこんな無人の廃虚に呼びつけたのも、周りを気にせずに存分に打ち合いたかったからですか。

そこまで強く望むのであればわたしも真摯に向き合いますけど……今更こんなコト言うのも何ですが、そもそも私が不死身な時点でそっちに不利があるのでは?」

「あっははは、マジで今更すぎるわね。んなことわざわざ言われずとも十分わかってるので黙っててやがれくださーい♪」

 

相変わらず辛辣な女だ。内心で舌打ちしつつ、ひと蹴りでシエルの眼前まで肉薄する。

シエルも即座に聖典を展開させて応戦し、無骨な槍斧と巨大な蛇腹剣の衝突する音が木霊する。

 

「いきなり、ですね―――――!」

「でも対応できてる、じゃない―――――!」

 

強靭な鉄の打ち合いの中、シエルの太刀筋を冷静に観察する。

 

コイツが今繰り出しているのは聖典に組まれている七つの死因、その内の一つである第三死因『出血死(ブレイド)』の大剣。

形状自体は蛇腹剣だけど、私が使っている量産型の支給品なんかとはスペックの次元が違う。今やってるように一例に纏めて大剣として扱う事もできるけど、この時点で刃渡りは約3mと馬鹿げた長さになる。私の槍斧は50cmだから比べるべくもないし、本気でぶつけ合おうものなら一撃でイカれてしまう。

 

しかしそれは素で打ち合った場合の話。耐久強化と重量化の秘蹟を重ね掛けし、その上でなるべく衝撃が伝わりにくい角度で打ち合えばギリギリ壊れずには済む。

もっとも向こうは秘蹟なんて関係なくただの膂力で振るっているだけみたいだし、それでいてこちらを純粋な質量差で若干ながら押してきている。ああ、多分コイツ私の槍斧に配慮して壊れないラインで攻めてるな。

 

「本気で来いっつってるでしょ……!」

 

ムカつくから至近距離で炎を浴びせる。鉄すらも熔かしうる熱量には流石に警戒したのか瞬時に飛び退いた。

ほんの一瞬ながら炎に直接晒された大剣の刀身は、赤熱化こそしていないものの微かに蒸気が立ち上っている。

シエル自身も飛び退いた際に余波を受けて両腕が少し灼けたが、みるみるうちに火傷一つない状態へと()()されていく。

これまでの協働活動の中で、そして『記憶』で何度も見てきたとはいえ、ロアの呪いによる不死の再生は相も変わらず悍ましい。

 

「わたしは、これでも全力のつもりですが?」

「笑わせないで。あくまでも私に合わせた全力とか舐めプでしかないっつーの!」

 

更に勢いを増して畳み掛ける。今度は刀身に炎を纏わせてから一撃ごとの威力を底上げし、攻撃を刺突に変える。

コイツの剣筋を視ていてぼんやりと分かってきたけど、私の動きに合わせてぶつけた上で強引に弾いてる。つまりこの時点でコイツは私の太刀筋を完全に見切って対応しているワケだ。

当たり前と言えばその通りだけど、そんなあっさりと対応してくんじゃないわよ。こっちはまだ学習中だってのに。

 

「だったらこれはどう!?」

 

弾いた際の反動で距離を取り、直後に床に手を置いて炎を瞬間的に放出・拡散させる。廃寂れたフロア内を瞬く間に黒い炎が駆け巡り、熱量となってシエルの身に襲い掛かる。

こうなればこっちのもの。こうして部屋中を炎で満たしておけば360度どこからでも標的へ炎を放出できる。

 

故にシエルでも成す術なしに燃えカスに成り果てる――――――と言いたいのだが。

 

「ま、聖典を持ち出してんなら当然それも纏ってるわよね」

「はい。わたしも全力の貴女相手に丸腰で挑むほど馬鹿ではありませんよ」

 

そうなる末路(みらい)をコイツの纏っている鎧が打ち砕く。

 

聖典の持つ死因の一つ、第六死因『拷問死(ペイン)』――――――通称、純潔証明(ヴァージンペイン)

着用者の生命の保存を保証する概念武装であり、内部のインナーも含めてあらゆる外的要因に耐性を備える小さな要塞。確か、かの有名なアイアンメイデンの「死ぬまで自由になれない」という物騒な謳い文句を転用しているんだっけ。

 

何れにせよ黒鉄の鎧は私の炎を弾いている。なら今度は一点に火力を集中させて耐久限界を超える一撃を叩き込、

 

「っ!?」

 

思考を中断し、即座に()()()()()()()()()()()からの回避に動く。避けた側から背後で鉄の弾丸が壁やら柱やらを破壊する音が聞こえてくる。

 

「ぐっ――――いきなりノータイムで懐から『焼死(それ)』ブッパすんなぁ!!」

「ああ、失礼。ですが決して開幕での意趣返しとかではありませんので誤解のないように。それに貴女だって何だかんだで対応できているじゃないですか」

 

んなコトほざいてる時点で思いっきり気にしてんじゃないの!わざとらしいのよ!

――――なんて怒ってる場合じゃない。アレは聖典の第一死因『焼死(ブレイズ)』。フルオートでの連射を可能とし、威力は10年クラス程度の死徒なら余さず挽肉にしてしまえるぐらいの馬鹿げた銃器だ。

しかも何故か弾数が尽きないらしいから残弾数を気にせずに好きに発射できる。恐らくは黒鍵と同じように魔力に依存してるからだろうか?

 

とはいえ私も何も対策がないワケじゃない。こちとらお前の戦法についてもイヤってほど研究してシミュレートしてんだから!

 

「そぉぉらっ!!」

「!」

 

逃げ回る内に周囲の炎をかき集め、それを二重の壁として構築する。尋常ならざる熱量を二重に渡って浴びた弾丸は勢いを殺され、やがては赤熱化し融解していく。

そして間髪入れずに炎の壁を攻撃に転用し、巨大な火炎放射としてシエル目掛けてぶっ放す……!

 

人間一人ならすっぽり包めるほどの炎の奔流に、シエルは今度こそ丸呑みにされる。

しかし気配はある。コイツ自身の魔力への耐性と鎧の耐性を考えれば炎の中に晒されようが当たり前のように踏ん張っているだろう。

そして踏ん張るだけに留まる筈がない。ほら、その証拠に。

 

「――――はぁっ!!」

「ちっ……!!」

 

鎧の防御力と自身の不死性に任せて強引に突っ切り、そのまま私に大振りの剣を振りかぶる。

咄嗟に槍斧で受け止め―――――あ、ダメだ受けきれない。

瞬時に横に弾いて受け身と距離を取る。ほぼ真上から受け止めたとはいえ、どうやら単純な力の押し合いでも分が悪いらしい。向こうは50t級の化け物パンチを繰り出せるほどにゴリラ顔負けの筋力をしてんだから当然か。

槍斧はところどころ刃毀れしているがまだ大丈夫そうだ。もうちょっとは耐えられるし打ち合える。

懐には蛇腹剣、弓、ライフルも完備してるからまだまだ戦える。自分の炎でうっかり溶けたりしないように上手く調整してきたしね。

 

「ふぅ、やっぱりアンタは化け物ね。決して見縊ってなんかいないけど、それでも私の小細工を次々に力技で突破してくるんだから呆れちゃうわ」

「その割には存外余裕を持って喋っていますね。それに小細工ならわたしだってこの様に弄しています。仮に『拷問死』が無くともそれなりには闘えるでしょうが、大方防戦一方に陥ると思いますよ。今の貴女はそれだけ強いんです、ノエル」

 

フォローのつもりで言っているのか。お前ほどの天才が私如きに防戦一方になるワケないだろうが。

第一、お前自身が最初に言っていたようにそっちが不死身な時点で私に勝ち目はない。仮に防戦一方になったとしても、最終的には私が魔力切れになって炎を出せなくなるまで堪え忍ぶだけでいいんだから。

 

「あっはは、それはお褒めいただいて嬉しいわ。じゃあ、もっと私の強さを刻みつけてあげる――――!!!」

 

そのナチュラルな上から目線の物言いを黙らせる。せいぜい手札を晒して潰しに来るがいいわ。

 

私も惜しみなく知恵と力を出し尽くして、一矢二矢とその身に叩き込んでやる……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも現実は、やっぱりそう甘くはなかったみたいで。

 

精一杯奮戦したけど。廃墟全体が倒壊しかかるまで、むしゃらに足掻いたけど。

 

 

 

私は、また―――――この女に、負けた……!

 

 

 

「ふぅっ、ふぅっ……ちく、しょう。あと一歩、届かなかった……!!!」

「は、ふっ……いいえ。確かに、今回は私に運が傾きましたが………あと一手、選択を間違えていれば、そうして地に伏していたのは……私の方だったでしょう」

 

くそ、くそ、くそくそくそ!!!コイツこの期に及んで謙遜ぶりやがって!!

何が“今回は運が傾いた”よ!そっちはまだ半分程度しか実力を見せていないクセに!さも伯仲したかのように演じるな化け物めっ!!

 

………ああ、ほんと、本当にいちいち癇に障る女。多分、この先コイツほど私にとって相性悪い奴は現れないでしょうね。ていうか現れないと断言していいし、こんなの他に現れないでほしい。

 

「………立てますか?」

「触るなっ!…………ちゃんと、自分で立てるから」

 

差し伸べられた手を払う。ディスコミュニケーションだと分かっててもイライラして仕方がない。

ああ、ダメだ。感情的にならないようにも訓練してきたつもりだったけど、コイツが絡むとどうもその努力が無意味になりがちになってしまう。

コイツがこうして目の前にいるだけで、私の心は揺さぶられる。本当に許容し難いけれど、これに関しては恐らく一生治る事はないでしょう。

 

……とはいえ、この手合わせでこの女から学べたものは確かにあった。無駄に屈辱を味わされただけで終わりはしなかったんだから前向きに考えましょう。クッソ腹立つし、今後もしばらくは根に持って引き摺るだろうけど。

 

 

 

はぁ~~~……復讐って、マジで大変ねぇ……。

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