男が少なすぎるこの世界で、自分を負けヒロインだと思い込んでいる幼馴染と俺の【遺伝的相性】が最高だと判明してしまったんだが   作:メソポ・たみあ

1 / 9
第1章 自称負けヒロインの幼馴染
第1話 自称負けヒロインの幼馴染


 

 俺には〝自称負けヒロイン〟の幼馴染がいる。

 

 名前は愛染(あいぞめ)なのか。

 年齢は俺と同じ十七歳で、俺と同じ高校に通う高校二年生。

 

 俺とは家が隣同士で、幼い頃から家族みたいに一緒に過ごしてきた仲。

 

 なのかは英国人と日本人の血が流れるクォーターで、腰まで伸びたサラサラな金髪と絹のように白く綺麗な肌、そして碧眼の持ち主。

 

 スタイルも抜群によく、特にあの豊満という言葉がしっくりきすぎる胸は、生粋の日本人では中々実らせるのが難しいだろう。

 

 頭がよく学業も優秀で、尚且つテニス部に所属していて運動神経もかなりいい。

 

 どこからどう見ても、文句の付けどころがないS級美少女。

 

 ……なのだが、彼女にはとある口癖があった。

 

「どうせ、私なんて恋愛できないわよ」

 

 ――ほら、始まった。

 

 そんな口癖を隣で聞きながら、俺は今日も幼馴染(なのか)と肩を並べて登校する。

 

「まーた始まったよ、なのかの負けヒロイン発言が」

 

 ――俺の名前は光永(みつなが)(はじめ)

 なのかからはハジメと呼ばれている。

 

 なのかと違って顔立ちもあまり冴えない感じで、勉学もスポーツも並。

 

 彼女と並ぶS級美少年などとは、口が裂けても言えない……と思う。

 

「なのかは可愛いって」

 

「別に可愛くない」

 

「いや可愛いから。自信持ちなよ」

 

「そ、そんなこと言われても騙されないんだから……」

 

「別に騙すつもりなんてないけど」

 

 いや本当に、幼馴染という贔屓目で見なくてもなのかは可愛いし美人だと思う。

 

 実際、同性である女子たちからは滅茶苦茶モテてるもんな。

 

 性格もよくて恵まれた容姿をしてるのに、どうしてこんなに自己肯定感が低いのかわからん。

 

「毎度思うけど、どうしてそんなにネガティブ思考なんだよ」

 

「フンだ……女よりずっと稀少な男であるハジメには、私の気持ちなんてわからないってば」

 

 なのはは頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。

 

 ……いやまあ、彼女の言わんとしていることはわからなくもないが。

 

 だってこの世界での〝男〟という存在は、あまりにも稀少なのだから。

 

 最近日本政府が発表したデータによると、今の日本における男女比は1:100――。

 

 つまり女性百人に対して、男はたった一人しかいない換算になるという。

 

 感覚的には、一クラス三十人の学校があったとして、だいたい三クラスに一人男子がいればいい方……。

 

 実際、ウチの高校には全学年合わせても男子が十人もいない。

 

 生徒数は全部で七百名を超えているにも関わらず、である。

 

 ――つまり、だ。

 女子が男子と恋愛をしようとした場合、その倍率はおよそ百倍。

 

 状況によっては、百倍どころの倍率では済まなくなるだろう。

 

 ……倍率激し過ぎるって。

 有名大学の受験でも、そこまで激しい倍率になることは中々少ないと思う。

 

 そんなだから、なのかがネガティブ思考になってしまうのも理解はできる。

 

 百人に一人しか男の恋人を作れないこのご時世で、自分なんかが作れるワケない――そんな風に考えてしまうのだろう。

 

「なのかは充分可愛いし、勉強もできて運動もできるし……在学中はアレかもだけど、社会に出たら絶対モテるって」

 

「……皆そう言ってくれる」

 

 俺は励まそうとしたつもりだったが、彼女はなんだか余計にしょんぼりしてしまった様子。

 

「なのかは絶対モテるって、友達は皆言ってくれるけど……私、ハジメ以外の男の人から声をかけられたことなんて、一度もない」

 

「なのか……」

 

「モテそうって言われるのに全然モテないなんて……私ってやっぱり〝負けヒロイン〟だよ」

 

 ……負けヒロインって、本来そういう意味で使われる言葉じゃない気もするが。

 

 なんなら勝負する前から諦めてしまってる時点で、負けヒロインですらないのでは?

〝負け負けヒロイン〟では?

 

 ……なんて、そんなこと一言でも言おうものならなのかが泣き出しちゃいそうだから、絶対言わないけど。

 

 最近ネット上では、彼女みたいに「モテそうなのにモテない可愛い女子」のことを負けヒロインと呼ぶ風潮がある。

 

 元はラノベとかアニメから有名になった所謂ネットスラングなんだけど、いつの間にかすっかり使われ方が変化してしまった。

 

 壁ドンとか黒歴史みたいな感じだよな。

 ネットで流行って意味が変わっちゃうのって……。

 

「あ~あ、ハジメはいいよね。可愛い女子を選びたい放題なんだから」

 

「え、選びたい放題って……。別にそんなことないよ」

 

「ウソ。この前も女子から声かけられてた」

 

「うっ……」

 

 ……うん、まあ、確かに、女子からはよく声をかけられる。

 

 っていうかクラスの男子は俺一人で、男友達を作る方が困難なんだから、そりゃそうだって感じではあるけど。

 

 実際、少なくない女子たちからそういう目(・・・・・)で見られている自覚はある。

 

 別に嫌なワケじゃない。

 好意を寄せてくれるのは純粋に嬉しい。

 

 でも――

 

 でも、俺がずっと昔から好きなのは、たった一人の幼馴染(・・・・・・・・・)だけなんだよな……。

 

 幼馴染っていう距離感が近すぎて、いつまでも言えずにいるんだけどさ……。

 

 なんてことを心の中で思っていると、

 

「――あ、そういえばハジメ。アレ(・・)って確か今日じゃない?」

 

「ん? なに?」

 

「――【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】」

 

 

 

 ――【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】。

 

 それは数年前から政府主導で実施されるようになり、今年から学校でも行われるようになった、少子化対策の一環。

 

 簡単に言えば、男女間の遺伝的相性(・・・・・)の良し悪しを調べる身体検査だ。

 

 ――この世界は、男の数があまりにも少ない。

 

 それ即ち夫婦となる男女が少なく、生まれてくる子供も少ない……ということを意味する。

 

 なので年々出生率は減り続けており、日々ニュースにも取り沙汰されている。

 

 医療の進歩で女性同士でも子供は作れるようになったし、女性同士の同性婚も珍しくはなくなったけど、やはり国としては男女夫婦が増えてほしいのだろう。

 

 ウチの国は健康的な男女の夫婦が多いですよ、というのは他所の国へのアピールにもなるから。

 

 なので国としては積極的に男女に結婚してほしいのだろうが……ぶっちゃけた話、結婚願望のある男の数は減ってきているというのが実情。

 

 なんでも「女子たちから恋仲になるよう迫られすぎてトラウマになった」という男が多くなってきているとか、なんとか……。

 

 まあ倍率百倍の世界だからな。

 必死になる女子がいるのも……わからなくはない、うん。

 

 幸い、俺の周囲にはそこまで露骨に迫ってくる女子は、今のところいないけど。

 

 そういうアレやコレやといった理由で出生率が低下していく中で、政策として始まったのが――【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】。

 

 よく聞く話だが、

 

『男女間の遺伝情報が遠いほど遺伝的相性がいい』

『遺伝的相性がいいほど健康的な子供が生まれやすい』

『いい香りがする人とは遺伝子から相性がいい』

 

 ……なんてのがある。

 

 要するに遺伝的相性がいいと健康的な子供が生まれやすいから、国家が相性のいい異性を探すのをサポートしますよ――というキャンペーンが【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】なのだ。

 

 ……なんだか自分で言っていてディストピアめいているというか、ちょっと倫理に問題があるような気もするが、それだけ今の少子化は問題ってことなんだろう……。

 

 いやまあ、なんもかんも男が少なすぎるのがいけないんだけども。

 

 ……俺としては正直、あまり印象のいいキャンペーンじゃないんだよなぁ。

 

 国に結婚相手を見繕われるみたいで、なんか抵抗感あるし……。

 

 でもこの【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】、世間的には案外とウケがいいらしい。

 

 政府が販売している検査キットを使ったり地方自治体の役所なんかで気軽に行えるのもあって、マッチングアプリ感覚で使う若者が多いのだとか。

 

 数が少ない男の側からしても、交際相手の選択を絞れるから助かるって意見が多いとも聞く。

 

 実際、【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】の診断結果で結婚を決めたってカップルも増えてきている。

 

 それから、どうも「【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】で良判定が出た相手とは性格的な相性もいいし、身体の相性もいい」らしくて……。

 

 ……ちなみにここで言う身体の相性ってのは、S〇Xの相性って意味な。

 

 結局、なんだかんだ【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】で付き合ったカップルは満足度が高いらしいのだ。

 

 俺は正直、本当かよそれって思ってるけどさ。

 

 ま、国はあくまで【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】で相性のいい相手を探しますよってだけで、実際に交際するかどうかは個人の判断に委ねてはいるから。

 

 なので文句を言う筋合いはないのだが。

 

「ハ、ハジメはさ、【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】って、もう試したことあるの……?」

 

「いや、まだない」

 

「!」

 

 俺の隣を歩くなのかは、一瞬嬉しそうな顔をする。

 

 でも何故か、彼女の表情はすぐに不安そうなモノへと変わった。

 

「わ、私もまだやったことなくて……」

 

「じゃあ、俺と一緒だな」

 

「……私と相性のいい人なんて、本当にいるのかな?」

 

「きっといるよ」

 

「む~……適当言ってる」

 

「アハハ、バレたか」

 

 はぐらかすように笑う俺。

 

 ――適当なもんか。

 

 なのかは非の打ち所がないほどの健康優良女子だ。

 

 そんな彼女が、遺伝的相性がいい異性が見つからないワケがない。

 

 ……。

 …………。

 …………願わくば、その遺伝的相性がいい相手が()だったらいいのに、なんてな。

 

 

 

 ――この後、学校に到着した俺たちは朝のホームルームが終わり次第【遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)】の検査を行った。

 

 やること自体はシンプルで、綿棒で唾液を採取したら保管筒に入れて終わり。

 

 その後は検査機関に送られ、結果が送られてくるのを待つだけ。

 

 データベースに保管された情報の中から遺伝的相性がいい異性が見つかれば、先生がこっそり教えてくれるという。

 

 そうして、一週間後――。

 

 俺は衝撃の事実を知らされることとなる。

 




評価を頂けると嬉しいです~。
↑を押して頂くと評価欄に飛べます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。