男が少なすぎるこの世界で、自分を負けヒロインだと思い込んでいる幼馴染と俺の【遺伝的相性】が最高だと判明してしまったんだが 作:メソポ・たみあ
【
「――てっきり、担任から教えられると思ってたんだけどなぁ」
全ての授業が終わった放課後。
俺は校内の廊下を歩き、保健室へと向かっていた。
どうして保健室に向かっているのかというと、呼び出しを受けたのだ。
保健室の先生から。
今日は【
だからそれ絡みで呼び出されたのは間違いないと思うんだけど、こういうセンシティブな話は担任から聞かされると思っていたから意外。
いや、センシティブな話だからこそ保健室の先生なのかな?
正確には養護教諭だけども。
なんて思いながら、保健室の前までやってきた俺だったのだが――
「「――あれ?」」
思わず声がハモる。
保健室の前でバッタリ鉢合わせしたのは――なのかだった。
「なのか? なにしてるんだよ、こんなところで」
「私は保健室の先生に呼び出されて……。そういうハジメは?」
「え? 俺も保健室の先生から呼び出されたんだけど?」
「……どういうこと?」
思わず頭上に〝???〟を浮かべる俺たち二人。
なのかも呼び出しを受けた?
……なんで?
数少ない他の男子と一緒に呼び出されるならまだしも、女子であるなのかと一緒って……。
保健室の先生のミスだろうか?
ダブルブッキングってヤツ?
なんて、色々と考えていると――〝ガラガラ〟と音を立てて保健室のドアが開く。
「ん~? お、来たかお前ら」
保健室の中から現れたのは、白衣を羽織った黒髪の女性。
彼女の名前は
ウチの学校の養護教諭で、眼鏡が似合う大人の女性だ。
年齢はたぶん三十歳くらい。
美人でスタイルもいいのだが、身だしなみをあまり気にしないのか全体的に
景気よくボタンが外されたシャツからは完全に谷間が露出しており、さらに丈の短いタイトスカートを履いているため思いっ切り太腿が曝け出されている。
まあ、ウチの学校って99%女子校って言っても過言じゃないからな……。
ほとんど同性しか相手にしないから、服装もそれほど意識しなくなっていくんだろう。
そんなズボラな服装の先生だが、良くも悪くも教諭らしからぬサバサバとした性格故に生徒からの人気は高い。
俺としても気安く付き合える大人なので、結構好きな先生だ。
とはいえ正直、あんまり緩い格好をされると目のやり場に困っちゃうんだけど……。
「……ちょっとハジメ、どこ見てるのよ」
「え!? い、いや別にどこも……!」
「ふ~ん」
ジトッとした訝しげな目でこちらを見てくるなのか。
ヤバい、黒月先生の胸元に視線が吸い寄せられたのバレたか……?
俺は仕切り直すようにコホンと咳き込み、黒月先生の方を見る。
「えっと……俺一人だけ保健室に呼ばれたと思ったんですけど……」
「ああ。お前と愛染、それぞれ一人ずつ個別に呼んだ。いいからほら、中入れ」
「はぁ……」
顔を見合わせる俺となのか。
廊下に突っ立っていても仕方ないので、俺たちは保健室の中へと入っていく。
俺たちが中へ入ったのを確認した黒月先生はドアを閉め、用意された椅子に腰かけるよう促してくる。
彼女もデスクチェアに座り、
「え~っと……確かお前ら、幼馴染なんだっけ?」
「は、はい」
「いいな~。男の幼馴染、私も欲しかったな~」
ハァ~、と深いため息を漏らす黒月先生。
「そうすりゃ、年増になる前に独身卒業できてたかもしんないのに~」
「あ、あの、黒月先生……? そろそろ私たちが呼ばれた理由をお伺いしても?」
なんだか要領を得ないので、なのかが切り出す。
黒月先生は「ああ」とやや気怠そうに返事すると、
「そうさな……今から話すことは、ちょいとセンシティブなんだが――」
椅子の背もたれにもたれかかり、話し始める。
「――【
「「……!」」
「で、なんでお前らが二人一緒に呼ばれたかって言うと……〝最高〟だったんだよ」
「? さ、最高っていうのは……?」
「お前らの遺伝的相性が――文句なしに〝最高〟って診断結果だったって言ってんの」
「「え……ええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇッ!?!?」」
――驚きの叫びが完全にハモる俺となのか。
黒月先生は机の上に置かれた二枚の紙を見比べながら、
「どの検査項目でも完全に、完璧に相性バッチリ。凄いな~、もうくっ付いちゃえよお前ら」
「いっ、いやあの! 〝最高〟って、そんな診断結果、普通出るものなんですか……!?」
「いんや、か~な~り珍しい」
ぶつけるように投げかけた俺の疑問に対して、黒月先生は気怠そうにしたまま答えてくれる。
「他の生徒でも〝良〟とか〝可〟って相性結果が出た男女はいたが、〝最高〟が出たのはお前らだけだ」
「そ……そうなん、ですか……?」
「同じ学校内の同じ学年で、ましてや幼馴染だなんて、もう奇跡みたいな確率だろ」
「あ、あの……! その、突然そんなこと言われても、正直心の整理が付かないというか……!」
「わーってる。だからゆっくり考えるといい。ま、私としては交際を勧めるがね」
……曲がりなりにも先生が生徒同士の交際を勧めていいのだろうか?
いやまあ、そもそも【
黒月先生は俺にそう言うと、チラリと視線をなのかの方へと移す。
「それに……
「え?」
俺は顔を横に向け、隣に座るなのかのことを見る。
すると――俺の目に移ったのは、顔どころか耳たぶまで真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうに俯く幼馴染の姿。
まるで「もう
「養護教諭として、伝えるべきことは伝えたぞ。わかったらもう帰れ。年増に一服する時間をくれ~」
▲ ▲ ▲
保健室で黒月先生の話を聞き終えた俺となのかは、そのまま一緒に下校していた。
家が隣で向かう先もほぼ全く同じだからさ。
そりゃ肩を並べて帰るよねって。
だけど――道を歩く俺となのかの間の空気は、どうしようもなくギクシャクしていた。
「「……」」
学校を出てから、俺たちは黙ったままなにも話さない。
……保健室を出てからというもの、ずっと心臓がドキドキしっ放し。
変に意識しちゃって、碌に会話もできない。
会話しようにも、全然話題が思い付かない。
……気まずい。
もう、この空気感に耐えられそうにない。
な、なにか喋らなきゃ……。
「あ、あのさ」
「ふぇ!?」
俺が話しかけると、なのかはビクッと肩を震わせる。
「そ、そんなに驚くなよ……」
「ご、ごめん……」
「……」
「……」
また沈黙。
あ~~~~もう!
なにか話さなきゃって思ったばっかりなのに!
なにか、なにか話題を……!
なんてことを考え、俺が一人悶々としていると――
「え、えっと……その……」
今度は、なのかの方が口を開く。
「私って普段、自分を負けヒロインとか言っちゃってたけど……
にへら、となのかは不器用に笑う。
――たぶんそれは、彼女なりの精一杯のジョークだったのだろう。
もう表情がカチコチで、かなり無理して笑顔を作ってるのがありありとわかる。
きっと彼女も、内心ではドギマギしっ放しなのだと思う。
「……」
そんな彼女のジョークを聞いて、俺は思わず口をポカーンと開けて呆然。
上手い切り替えしが思い付かなかったというか、頭の中が真っ白になってしまった。
「ちょ、ちょっと! なにか言ってよ!」
「え!? ああその、ごめん……」
「もう……恥ずかしいじゃない……」
自分の言ったジョークが通じなかったと思ったのか、なのかは恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。
もう耳まで真っ赤っかだ。
――そんなこんなで会話らしい会話もできないまま、俺たちはもうすぐ家が見えてくる距離までやってくる。
「もうすぐ家に着く、けど」
「……」
「なのか?」
「ね、ねぇ、ハジメ……?」
なのかが立ち止まる。
俺も合わせて立ち止まり、彼女の方へと振り返る。
なのかはモジモジとしながら、一向に俺と目を合わせようとしない。
だが、どうもなにかを言おうとしているらしく――
「えっと、その……今日、
▲ ▲ ▲
「ど、どうぞ」
「お、お邪魔、します……」
おずおずと俺の部屋に入ってくるなのか。
……なんだかんだ、もうずいぶんと久しぶりになる。
彼女が俺の部屋に来るのは。
幼い頃はよくお互いの部屋に遊びに行っていたものだけど、年を経るにつれていつの間にか部屋に出入りしなくなった。
そりゃ年頃の男女が幼い頃と同じようにじゃれ合うワケにもいかないから。
一応、俺たちって年齢的には思春期真っ盛りではあるので……。
だから、なのかが俺の部屋に入るのはかれこれ三~四年ぶりくらいになると思う。
「う、うわ~、ハジメの部屋ってば昔と全然変わってないな~」
「そ、そう? 結構色々と変えたつもり、なんだけど……」
「「……」」
また、俺たちはすぐに沈黙。
もう全然会話が続けられない。
俺は深く息を吸って少しでも心臓を落ち着かせ、
「とりあえず、座りなよ」
「う、うん」
なのかをベッドの上に座らせる。
俺も机と一緒に置かれた椅子に腰かけようとするのだが――
「ね、ねえ」
「うん?」
「ハ、ハジメも……
「……え?」
「ここ。わ、私の隣」
ぽんぽん、となのかはベッドの上を優しく叩く。
ここに座って、と催促するかのように。
「いや、あの……うん」
断る理由も特にない。
というか頭が真っ白で、もうなにも考えられなかった。
――俺はなのかの隣に、ゆっくりと座る。
ベッドの上で彼女と肩を並べた瞬間、俺は自分の胸の奥がよりドキドキと鼓動を早めるのを感じた。
「「……」」
なんとなく、わかる。
なのかも滅茶苦茶ドキドキしてる。
でも俺だって、もう緊張で口から心臓が飛び出そうなくらいだ。
――部屋の壁に掛けられた時計のカチカチという音が、異様に大きく聞こえてくる。
俺の家族は皆外出中で、家の中は俺となのかの二人だけ。
つまり――どんな会話をしようが、なにをしようが、誰にもバレないってこと。
静寂と沈黙にいよいよ耐え切れなくなったかのように、
「ね、ねえ、ハジメはさ、聞いたことある……?」
なのかが、そう切り出した。
「な、なにを?」
「い、遺伝的に相性のいい人って……凄く、いい匂いがするんだって」
彼女はそう言って、ベッドの上でグッと距離を詰めてくる。
俺たちの距離感は、もうピッタリと肩が触れ合う近さだ。
「ほ、本当かどうか……