男が少なすぎるこの世界で、自分を負けヒロインだと思い込んでいる幼馴染と俺の【遺伝的相性】が最高だと判明してしまったんだが   作:メソポ・たみあ

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第2章 関係を進展させたい幼馴染
第4話 やっぱり負けヒロイン


 

 幼馴染とあわや一線(・・)を越えかけた翌日の朝。

 

「……行ってきます」

 

 俺は玄関で靴を履き、重い足取りでドアをガチャリと開けた。

 

 ……いつも通りの日常なら、玄関の前で身支度を済ませたなのかが待ってくれている。

 

 俺たちは家がお隣同士で、ほぼ毎日一緒に登校しているから。

 

 だけど――この日は、玄関の前に幼馴染(なのか)の姿はなかった。

 

「そりゃそうだよね……」

 

 あんなことがあって昨日の今日。

 俺だって顔を合わせるのがなんだか気まずい。

 

 昨日は結局有耶無耶な雰囲気になったまま、なのかはすぐに帰っちゃったんだよな。

 

 流石にいつ部屋に入ってくるかわからない妹が帰ってきた状況で、そのまま続けるなんて色んな意味で無理だったから……。

 

 かといって普段のように談笑なんてできようはずもなく……。

 

「……今日、なのかになんて声をかけよう」

 

 ハァ、と俺は短くため息を吐いて、学校へと向かうのだった。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

《愛染なのか視点(Side)

 

「――あれ~? なのか、今日は一人で登校したんだ」

 

 私がクラスに入るなり、友人の田原(たはら)美音(みね)が声をかけてくる。

 

 彼女は私と同じくテニス部に所属しており、席も丁度目の前。

 

 黒髪を短く切ったスポーティな外観とサッパリとした明るい性格から、知人も多い。

 

 なので私とも仲がよく、親しい間柄。

 

 私はそんな彼女のことをミネと呼んでいる。

 

「……おはよう、ミネ」

 

「おはよ」

 

 軽く挨拶を交わし、彼女の後ろの席に着く。

 

 そんな私を、ミネはジ~ッと見つめてくる。

 

「なのか、なんか元気ない?」

 

「……そう見える?」

 

「見える見える。ハジメくんと喧嘩でもした?」

 

「…………どうしてそこでハジメが出てくるのよ」

 

「そりゃだって、いつも一緒に登校してる彼と一緒にいないで、しかもやつれた顔までしてれば……ねぇ」

 

 う……今の私、そんなにやつれた顔してる……?

 

 でも確かに、家を出る前に鏡で自分の顔を見た時、だいぶ疲れた顔してるなって思ったかも……。

 

 だけどしょうがないじゃん。

 昨日はほとんど眠れなかったんだもん。

 

 ――結局あの後(・・・)、私は逃げるようにハジメの部屋を出ていった。

 

 もうどうしようもなく気まずくって。

 

 すぐに家の自室に駆け込んでベッドの上で蹲ったけど、ず~~~っと悶々としたままなにも手に付かなかった。

 

 夕食だってほとんど喉を通らなかったくらい。

 

 お陰で家族にも心配されちゃった。

 

「……」

 

 思い返すと、途端に恥ずかしくなってくる。

 

 私――ど、どうしてあんなこと(・・・・・)しちゃったんだろ……!?

 

 ハジメの匂いを間近で嗅いだ瞬間、自分が自分じゃなくなったみたいになって……。

 

 まるで、頭じゃなくて身体(・・)がハジメを求めたような――!

 

 普段の私なら、あんな積極的なこと絶対できないのに……!

 

 ――正直、後悔してる。

 

 あんな形でハジメに迫っちゃったことを。

 

 でももっと後悔してるのは――ちゃんと、ハジメと最後まで出来なかった(・・・・・・・・・・)こと。

 

 結局、私は逃げちゃったんだ。

 勇気が出なかったんだ。

 

 ううぅ……あんな状況にまでなって逃げ出しちゃうなんて……。

 やっぱり私って〝負けヒロイン〟だよぉ……。

 

 それに、思い出しただけでなんだかムラムラしてきちゃう……。

 

 私ってこんなにはしたない女だったのかなぁ……?

 

 顔が火照るのを感じて、思わず机に突っ伏す。

 

「お~い、なのか~? ダイジョブ~? 保健室行く~?」

 

 そんな私を心配してくれるミネ。

 

 ……とてもじゃないけど、幾ら親友にだって相談できないよ……。

 

 大好きな幼馴染(ハジメ)と遺伝的に相性が最高だったなんて。

 

 ましてや――そう意識し始めた途端、自分の制御が出来なくなくなりつつあるだなんて……。

 

「それでそれで、結局ハジメくんと喧嘩しちゃったの? してないの?」

 

 さらに身を乗り出してミネが聞いてくる。

 

 どうやらちゃんと答えるまで、この話題を終わらせる気はないらしい。

 

「してないってば。でも、ちょっと気まずいことがあって……」

 

「ふ~ん。まあ事情は知らないけどさ、早く仲直りした方がいいよ?」

 

「え?」

 

「実はハジメくんのこと狙ってる女子が多いの、なのかも知ってるっしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「ウチの学校の女子たちがハジメくんに告らないのって、なのかがいるからだかんね」

 

 ミネは机の上に置いていた紙パックの豆乳を手に取り、チュ~ッとストローで吸う。

 

「ハジメくんとなのかが付き合ってるって、みーんな思ってるから。もし別れたなんて噂が流れたら――大事な幼馴染が取られちゃうかもよ?」

 

「う……」

 

 ――それはミネなりの、親友としての助言なのだと思う。

 

 確かに、私もよく知っている。

 

 ハジメのことを異性として気にかけている女子が、大勢いることを。

 

 ……私とハジメは、幼稚園の頃からずっと一緒だった。

 

 遊ぶ時も、学校へ行く時も、学校から帰る時も。

 

 小学校への登校も、中学校への登校も、そして高校生となった今だって、毎朝一緒に肩を並べて登校している。

 

 私にとっては――ううん、きっとハジメにとっても、それはもう日課みたいなもの。

 

 私たち幼馴染は、幼い頃からなにをするにも二人一緒だったのだ。

 

 でも――もし私がハジメから離れたら、そんな日常が崩れてしまうかもしれない。

 

 ハジメの隣が――私以外の女子の居場所になってしまうかもしれない。

 

 ……そう考えると、胸が苦しくなる。

 耐えられなくなりそうになる。

 

 独占欲なのかな、これって。

 私って独占欲まで強い女だったのかな?

 

 私は胸の前で、キュッと拳を握る。

 

「うん……そうだよね。ありがとうミネ、後でハジメのところに行ってくる」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

 ――俺となのかは、それぞれ別のクラスに在籍している。

 

 俺がいるクラスは二年Aクラス、なのかがいるクラスは二年Eクラス。

 

 教室の位置も離れているので、休み時間などに意識的に会いに行こうとしなければ基本的に顔を合わせることはない。

 

 だから別々に登校して以降――俺は珍しく、朝から幼馴染の顔を見ていない。

 

 そうしていつの間にやら時間は過ぎ去り、昼休みになってしまった。

 

「ハァ……なのか、どうしてるかな……」

 

 俺は机の上で頬杖を突き、そんなことを呟く。

 

 普段、俺となのかは昼食も一緒に食べることが多いのだが、今日ばかりは一人で弁当箱を開封することになりそうだ。

 

 ……なのか、怒ってるのかな?

 それともただ気まずくって、顔を合わせられないだけなのかな?

 

 …………これまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染なのに、彼女が今どんな気持ちなのかわからない。

 

 我ながら情けないよ。

 こんな状況になって、改めて自分って女心をわかってないんだなって思い知らされる。

 

 ――やっぱり、俺の方から会いに行くべきかな。

 

 でも、もし逃げられたりしたらどうしよう。

 話を聞いてもくれなかったらどうしよう。

 

 ……怖い。

 そうなったら、もう立ち直れなくなるかも。

 

 俺は恐怖心からなのかのいる二年Eクラスへ足を向けることができず、ただ悶々としていた。

 

 すると、

 

「――ねぇ、今日はハジメくん一人でお昼なんだ?」

 

 クラスメイトの女子が、俺に話しかけてきた。

 

「珍しいよね、ハジメくんが一人でお昼ご飯食べるなんて」

 

 クラスメイトの一人がそう言うと、続けて他のクラスメイトたちも俺の下に集まってくる。

 

 あっという間に、俺は三人の女子に囲まれてしまった。

 

「ねー、珍しいよね! いつもはなのかちゃんと一緒なのに!」

 

「朝も一人で登校してきたし、もしかしてなのかちゃんと喧嘩でもしたの?」

 

「い、いや、そういうワケじゃ……」

 

「せっかくならさ、私たちと一緒にご飯食べようよ!」

 

 クラスメイトたちは開いている席を引っ張ってきて、俺の机とドッキング。

 

 一人では寂しいだろうと、彼女たちなりに気遣っての行動なのかもしれないが――

 

「ハジメくん、好きな食べ物とかある?」

 

「お弁当のおかず交換しようよ! 実はコレ、私の手作りなんだ~!」

 

「あ~、え~っと……」

 

 ……勢いが凄い。

 

 なんというか、ここぞとばかりに距離を詰めてこようとしてる感。

 

 決して嫌なワケじゃないし、迷惑なワケでもないんだけど……このキャピキャピ感には付いていけそうにないな……。

 

「ハジメくんさ――やっぱりなにかあったでしょ」

 

「え?」

 

「朝から元気ないよ? もし悩み事とかあるなら、ウチらが相談に乗るからさ」

 

「そうだよそうだよ、私たちクラスメイトじゃん?」

 

「あ、そうだ! もしよかったら、気分転換に放課後カラオケ行かない?」

 

「いや、その……」

 

「個室が広くて全然音が漏れなくて、しかも外から部屋の中が見えなくて、オマケにウチの友達がバイトしてる場所だから。もうなにしてもOK!」

 

 ……なんだろう、その言い方だと心なしか不穏な感じがするんだが。

 

 個室が広くて全然音が漏れなくて、外から部屋の中が見えなくて、オマケに友達がバイトしててなにしてもOKな場所って、それもう明らかに――。

 

 ……いや、これ以上深読みはしないでおこう。

 

 ただ一度入ったら食われる(・・・・)まで出てこられない気配は、プンプンするなぁ……。

 

「ね、いいでしょ? ハジメくんが楽しめるように、ちゃーんとウチらで接待してあげるから」

 

 ――可愛らしいながらも、どこか妖艶さを含んだ笑顔。

 

 意図してか意図せずか、彼女は第一ボタンが外されたブラウスの襟を指先で僅かにはだけさせ、首元の肌を見せる。

 

 同時に、瞳の奥に舌なめずりをするような劣情が垣間見えた気がした。

 

 ……極端に数の少ない男って存在だからさ、俺って。

 

 こういう女子からの視線に対して、嫌でも気付けるようになっちゃったんだよな。

 

 勿論、俺だって()だから。

 

 彼女の誘惑(・・)に、ほんの一瞬だけでも心がグラリと揺さぶられたのは否定しない。

 

 ――でも、

 

「えっと……ごめん」

 

 俺はクラスメイトの女子たちに対して、軽く頭を下げた。

 

「誘ってくれて嬉しいんだけど。放課後はちょっと予定があって……」

 

 申し訳なさそうに、俺がクラスメイトの女子たちに謝る。

 

 すると、その直後――

 

「――ハジメ」

 

 教室の入り口の方から、俺が今一番聞きたかった女子の声がした。

 

 声に釣られて入り口を見ると――そこには、幼馴染(なのか)が立っていた。

 

 彼女はどこか気まずそうな表情をしながらも、こちらを見て――

 

「ちょっと……いいかな」

 

 短い言葉で、俺のことを呼び出した。

 




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