男が少なすぎるこの世界で、自分を負けヒロインだと思い込んでいる幼馴染と俺の【遺伝的相性】が最高だと判明してしまったんだが 作:メソポ・たみあ
なのかに呼び出された俺は、彼女と一緒に校舎の屋上へと向かった。
俺たち二人は、よくここで昼食をとる。
屋上は見晴らしもよく町の眺めを一望できて、真っ青な晴天の日に太陽の下でご飯を食べると、もう最高に気持ちがいい。
運のいいことに、今日も空模様は快晴。
絶好の屋外ランチ日和で、本来なら俺となのかの談笑も弾む、はずなのだが――
「「……」」
ベンチに座ったまま、俺たち二人は黙りこくっていた。
……相変わらず空気が重い。
クラスメイトの女子たちの囲い込みから連れ出してくれたのは助かるけど、こっちはこっちで気まずいなぁ……。
ちなみに、俺がなのかに連れ出されたことでクラスメイトの女子たちは酷く残念そうにしていた。
たぶん俺となのかの間になにかがあったのを見抜いて、
くわばら、くわばら……。
とはいえあんまりクラスメイトを邪険に扱うのもアレだし、誘いを断った件は後でもう一度平謝りしておこう。
「――ねぇ、ハジメ」
俺がアレコレ考えていると、ようやくとばかりになのかが切り出す。
「えっと、さ……昨日は、ごめんね」
「い、いやその、昨日のはお互い様っていうか……!」
「昨日の私、どうかしてた。ハジメの匂いを嗅いだら、頭の中が真っ白になっちゃって……」
彼女はしょんぼりとした表情で、なんとも申し訳なさそうに謝る。
……ん? あれ?
もしかしてなのか――俺が嫌がってたと思ってる?
押し倒して無理矢理に迫ったせいで、俺に嫌われたと思ってる?
「だからその……本当にごめん! もうあんなことしないから――!」
「ちょ、ちょっと待ってなのか」
幼馴染の俺相手に頭を下げようとする彼女を、俺は慌てて制止。
「もしかして……俺が怒ってると思ってる?」
「え……違うの?」
「違うよ! 怒ってるワケないよ!」
俺が怒る?
なんで???
むしろ俺は、なのかの方が怒ってるんじゃないかと思ってたくらいなのに。
あんな状況にまでなって、男である俺の方からではなく、女子であるなのかに手を出させてしまったから。
本当なら、俺の方が腹を括らなきゃならなかったのに。
「むしろ俺は、なのかの方が怒ってるんじゃないかって心配で……!」
「わ、私が怒る? どうして?」
「いや、だって……」
「「…………」」
お互いに見つめ合い、頭上に〝???〟を浮かべ合う俺たち幼馴染。
そして――俺は思わず、フッと笑ってしまった。
「……なんか俺たち、お互いに勘違いしてたみたいだな?」
「うん……そうみたい」
なのかもクスッと笑う。
ようやく、俺たちの間に流れていた気まずい空気が、少しだけ緩和された気がした。
なのかは小さく息を吸い、
「私さ……ハジメと遺伝的相性がいいって聞かされてから、なんだか自分がおかしくなっちゃったような気がして」
吐露するように、語り始める。
「昨日もハジメの匂いを間近で嗅いだら、その、が、我慢できなくなっちゃって……」
ベンチの上で膝を抱え、気恥ずかしそうに話してくれるなのか。
そんな彼女の姿は、やっぱりとても可愛らしい。
「でも冷静になってみたら、ハジメの気持ちをちっとも考えてなかったなって……」
「俺の気持ち?」
「ハジメはさ――私のこと、どう思ってるの?」
膝を抱えたままチラッとこちらを見て、なのかはそんなことを聞いてきた。
――それは、俺にとって核心めいた質問だった。
俺が、
そんなの決まってる。
――好きだ。
俺はなのかのことが大好きだ。
幼馴染としてだけじゃなく、一人の女の子として。
――今、だ。
今伝えなきゃ。
なのかが好きだって。
ずっと好きだったって。
「――!」
言おうとした。
でも――〝好き〟という一言を、どうしても口から出せない。
出そう、言おう、としても喉の奥で言葉が引っ掛かり、意志と反して奥歯がギリッと上下に噛み合ったまま離れてくれない。
……異性に好意を伝えるのが怖い。
いいや、違う。
〝幼馴染〟という関係が変わってしまうのが、俺は怖いんだ。
幼稚園の頃から、俺となのかの関係性を紡いできた、たった一言の言葉。
その関係性が変わった先で、俺たちが俺たちのままでいられるのか――。
それが、俺にはわからなかったから。
「そ、の……昨日されたことは全然、嫌じゃなかったっていうか……」
しどろもどろに、そんな不甲斐ない言葉を漏らすのが、今の俺には精一杯。
俺は内心やぶれかぶれになって、
「す、少なくとも……なのかはいい匂いだった!」
「――!」
俺の発言を聞き、少し驚いたような顔をして見せるなのか。
彼女はしばし沈黙した後、
「えっと……それじゃあ、もう一回嗅いでみる?」
「へ?」
「私の匂い……もう一度確かめてみてよ」
そう言って、指先でブラウスの襟をクイッと押し下げる。
「か、嗅ぐって……今!?」
予想外すぎるなのかの行動に、流石に俺は驚きを隠せない。
だが彼女に引き下がる様子はなく、
「今! いいから、ほら……」
俺の方にグッと身を乗り出してくる。
……こうなると、案外となのかは頑固だ。
やるまで引き下がってくれないだろう。
仕方なく――俺は彼女の首元に顔を寄せ、すぐ近くでスンスンと鼻を鳴らした。
「……ど、どう?」
「…………やっぱり、いい匂い」
昨日と同じ、甘く爽やかな香り。
でもなんとなく、昨日より少し汗っぽい香りが混じってるかな?
けれど決して不快な香りじゃない。
むしろ人の身体が放つ自然な香りって感じだし、これがなのかの遺伝子が放つ香りだと思うと……正直興奮してくる。
やっぱり、いつまでも嗅いでいたくなる……。
そんな香りだ。
「――ハジメ、交代」
「え」
「今度は……私の番」
なのかは俺の両肩を手で掴んで、グイッと身体を引き離すと――今度は自らの顔を俺の首元に近付けてくる。
「スン、スン……」
「な、なのか……?」
「ハジメも……やっぱり、凄くいい匂い。それに、昨日よりなんだか濃い……」
なのかの瞼が
同時に、そこはかとなく瞳の奥に〝熱〟が宿ったような――
「……ねぇ、ハジメ」
「な、なに?」
「ハジメは、
「う、うん」
「それじゃあさ……
「キ、キス……!?」
――思わず、俺の視線はなのかの
薄いピンク色で、ぷっくりとして柔らかそうな彼女の唇。
そんな妄想をするだけで、俺の心臓はさっきよりもずっと早くドクンドクンと全身に血を送り始める。
「ハジメは、私とキスするの嫌?」
「えっ、その、嫌――じゃない、っていうか……」
「じゃあ、いいよね?」
熱を帯びたなのかの瞳。
すっかり目が据わっており、じっと俺のことを見つめてくる。
いや、より正確には――俺の唇を。
「「……」」
なのかの熱い息遣いを感じる。
触れてもいないのに、彼女の体温がどんどん上がっていってるのがわかる。
……彼女だけじゃない、か。
俺の体温もどんどん高くなってる。
緊張で肩が強張ってるのに、どうしようもなく期待してしまっている自分がいる。
でも――
「で、でもなのか、なんか様子が……」
なのかの様子がおかしい。
いつもと雰囲気が違う。
これは――そうだ、昨日と同じだ。
俺の匂いを嗅いだ途端、まるで別人みたいに積極的になった。
今のなのかも、そんな感じで――
「ハジメが、私をこうさせてるんだよ?」
妖艶な笑みを浮かべ、彼女は言う。
「お、俺が? それどういう……?」
「ハジメの
なのかは俺に抱き着いて、身体を密着させてくる。
彼女の肉付きのいい豊満な身体が押し付けられ、特に〝胸〟の感触が鮮明に伝わってくる。
昨日と同じく、逃げ場を封じられた形だ。
……緊張からだろうか、それとも屋上という太陽の下にいるからだろうか。
じんわりと汗をかいてきた。
自分の肌がベタつき始め、僅かに湿ってきた衣服と肌が擦れる時の感覚を意識できるようになる。
だが、汗ばんできたのは俺だけではない。
なのかもほんのりとだが、汗をかき始めてきたのがわかる。
同時に――彼女の身体から放たれる甘い匂いが、さらに濃くなった。
「それじゃあ……
――目を瞑ったなのかの唇が、少しずつ近付いてくる。
逃げる気になんてなれなかった。
拒否しようとすら思えなかった。
このまま彼女に身を任せ、柔らかな快感を味わいたい――そんな想いで、頭の中がいっぱいになった。
互いの唇が、本当にあと少しで触れ合える距離まで近付く。
指先一本の隙間もない。
触れるまで一秒もかからない。
なのかの吐息が、まるで自分の吐息かのように錯覚すら覚える。
息と息が交じり合って、もうどっちがどっちかわからない。
そしてまさに、俺たちの唇が重なり合おうとした――その刹那。
「――な~のか~。ここにいる~?」
屋上への入り口ドアがガチャリと開けられ、一人の女子が屋上に入ってくる。
「お~い、先生が呼ん……で……――」
彼女は俺たちと目が合うなり、〝ガチッ〟と硬直。
俺はその女子に見覚えがあった。
確かなのかと同じクラスで、同じテニス部にも所属してる
「ミ……ミネ……ッ!?」
なのかは驚いて、バッと俺から顔を離す。
ミネさんは目を丸くして呆然と立ち尽くし、俺となのかを見つめ続ける。
――もう、誰がどう見ても、言い逃れできない状況。
ミネさんも一瞬で理解したことだろう。
俺たちが今まさに、
「………………」
ミネさんはなにも言わず、無言でこちらを見つめたままポケットからスマホを出して、両手に構える。
そして明らかに撮影してると思しきポーズで、スマホのカメラをこちらへ向けた。
「ちょっと!? なにしてるの!?」
「いいから! どうぞそのまま続けて! 動画撮って、
ギョッとするなのかに対し、〝ムフー!〟と鼻息を荒くして撮影を続けるミネさん。
……オカズって、なんのオカズ?
なんて聞くのは野暮なんだろうな、うん。
一瞬でムードはぶち壊しになってしまい、なのかは俺から離れてミネさんの方へと全速力でダッシュ。
彼女たちは「早く消して!」「イヤだ! 今夜は絶対コレを使うんだ!」などと傍から見るとコミカルにしか見えない喧嘩を始めてしまい、俺は完全に場に取り残される。
「……ハァ~~~」
俺の内心は、ちょっと複雑な気分だった。
緊張が解れて安堵した気持ちが半分、残念だと思う気持ちがもう半分。
なのかは