男が少なすぎるこの世界で、自分を負けヒロインだと思い込んでいる幼馴染と俺の【遺伝的相性】が最高だと判明してしまったんだが   作:メソポ・たみあ

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第8話 俺たち――付き合おう

 

 一二三が部屋を出て行った――その直後。

 

〝ピコン〟と俺のスマホから音が鳴る。

 誰かからRINE(ライン)のメッセージが届いたらしい。

 

「!」

 

 すぐにスマホを手に取り、画面を確認。

 するとメッセージの送信者は――なのかだった。

 

 彼女からのメッセージには、こう書かれてあった。

 

 ――〝この後、会えないかな?〟と。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「――部活お疲れ、なのか」

 

「うん……いきなり呼び出してごめん」

 

 俺はなのかに呼び出され――家の近くにある公園までやって来た。

 

 時刻は夕方の十八時前。

 もうすぐ陽も落ちてくるだろうが、まだ空は明るく紅葉色に染まっている。

 

 公園にもまだ遊具で遊ぶ子供たちの姿があり、楽し気な声も聞こえてくる。

 

 俺はそんな公園の中のベンチに座っていると、少し遅れてなのかがやって来た。

 

 スクールバッグの他にテニスラケットが収まっているラケットケースも抱えており、部活を終えてここまで直行してきたでろうことがわかる。

 

「もしかして待たせちゃった?」

 

「そうだね、一億年くらい待ってたかも」

 

「なにそれ」

 

 クスッと笑うなのか。

 そんな彼女に対し「とりあえず座りなよ」と俺は促す。

 

 そして彼女は俺と並んでベンチに座ったのだが――何故か、俺との距離感が妙に遠い。

 

 ベンチの端っこギリギリに座り、露骨に俺と距離を取ろうとしているのが一目でわかる。

 

「……なんでそんな離れて座るの?」

 

「だ、だって、部活終わりだから……汗の匂いが……」

 

「俺は気にしないけど」

 

「私は気にするの!」

 

 いやまあ、なのかの年頃の女の子だからね?

 

 そりゃ汗の匂いを他人に嗅がれるのは拒否感があるだろうけど――

 

「う~ん……でも俺、なのかの汗の匂いって、いい匂い(・・・・)だなって思ったけどな」

 

 俺ってもう既に、彼女の汗の匂いを知ってるんだよね。

 

 なにせ、ゼロ距離で密着して遺伝子の相性を確かめたんだから。

 

 だから今更というか……。

 

 なんて、俺は思ったのだが――

 

「――っ!」

 

 なのかは〝ボッ〟と顔を真っ赤にする。

 

「わっ、私の汗の匂いなんて、いつ嗅いだの!?」

 

「え……いやそれは、昨日と一昨日」

 

「――! も、もしかして私って、汗臭かった……?」

 

「いや、全然。むしろその……ちょっと興奮したかも、なんて……」

 

「……ハジメ、ちょっと変態っぽい」

 

「…………ごめん」

 

 堪らず目を背ける俺。

 

 うん……まあ……変態っぽいと言われれば否定はできんかも。

 

 でもあんな密着して匂いを嗅いだら、そりゃ汗の匂いだってわかっちゃうだろって。

 

 不可抗力、だと思う……。

 

 トホホ、と嘆く俺だったが――

 

「……で、でも」

 

「?」

 

「でも……ハ、ハジメの匂いも……ちょっとえっち(・・・)だった、かな……」

 

 顔の前で細い指先を合わせ、頬を赤らめながら――なのかはそんなことを言った。

 

「え……」

 

「……ご、ごめん、聞かなかったことにして!」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなってしまったのか、慌てて顔を背けるなのか。

 

 俺もどんなリアクションをしていいか困ってしまい、また微妙に気まずい空気が流れる。

 

 これはイカン――このままだと、また沈黙が長くなってしまう――と思った俺は、すぐ別の話題に切り替えることにする。

 

「そ、それでどうしたんだよ? RINE(ライン)で話さず、わざわざ公園に呼び出すなんて」

 

「う、うん。人目があった方が、私も抑えられるかなって思って……」

 

「? というと?」

 

「……ハジメ、私がRINE(ライン)で伝えたの、持ってきてくれた?」

 

「あ、ああ。持ってはきたけど……」

 

 そう言って、俺はズボンのポケットからある物(・・・)を取り出す。

 

 それは――〝ハンカチ〟だ。

 

 俺が普段から持ち運び、学校なんかでも使っているハンカチである。

 

 勿論、一日使ったら洗濯に出すようにしているので、これは複数常備してあるハンカチの内の一枚にすぎないが。

 

 なのかは俺を公園に呼び出す際、RINE(ライン)で「ハジメのハンカチも持ってきて」とも言っていた。

 

 ハンカチをなにに使うのかはわからなかったが、断る理由も特になかったので、こうして持参してきたワケなのだが……。

 

 なのかは俺は取り出したハンカチを見ると、〝ゴクリ〟と喉を鳴らす。

 

「……ハ、ハジメも気付いてると思うけど、私ってハジメの匂いを嗅ぐと、なんだかおかしくなっちゃって……」

 

「う、うん……」

 

「だから、少しずつ身体を慣らす必要があるんじゃないかな、と思って……」

 

 …………うん、うん?

 いや待って?

 

 身体を慣らす……?

 

 ということはまさか、なのかがハンカチを持ってこさせたのって――

 

「もしかして……ハンカチを使って俺の匂いに慣れようと考えた――ってこと?」

 

「……」

 

 こくり、と無言で頷くなのか。

 

「ハンカチ越しなら匂いも強くないだろうし、こうして公園なら人目もあるから……私も暴走しないかなって……」

 

 もの凄く恥ずかしそうに言う我が幼馴染。

 

 ……ハンカチ越しに異性の匂いを嗅ごうとするとか、その発想の方がさっきの俺の発言よりよっぽど変態的では???

 

 ましてや暴走を抑えるためとは言え、人目のある公園で行うなんて、それなんて羞恥プレイ???

 

 なんて思ったが、敢えて言わずにおいた。

 

 おそらく当人だって、自分の言っていることがだいぶおかしいと自分でわかっているのだろう。

 

「もっ、もしハジメが嫌なら嫌って言って! 無理強いはしないから……!」

 

「……ううん、嫌じゃないよ」

 

 困惑はしたけど、嫌なワケじゃない。

 

 ましてやなのかは、自分の体質をどうにかしようと努力しているんだ。

 

 なら出来る限りの手伝いをするのが、幼馴染ってモンだろう。

 

「それじゃあ――はい」

 

 俺はなのかに向かって、ハンカチを差し出す。

 

「あ、ありがとう……」

 

 なのかは僅かに息を荒くしながら、震える指先でハンカチを掴む。

 

 そして両手でしっかりと保持し、悩ましそうに数秒ほど固まった後に――〝ええい!〟と勢いに身を任せるように、俺のハンカチに顔を突っ込んだ。

 

 その様子を、俺は隣で見守る。

 

 離れた場所にある遊具ではまだ子供たちが遊んでおり、キャッキャッという楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 しかしまさか、こんなに可愛い幼馴染に自前のハンカチの匂いを、それも目の前で嗅がれる日が来ようとは……。

 

 な、なんだか俺までドキドキしてきたな……。

 

 固唾を呑んで、俺はなのかを見守ったが――

 

 

「スゥ~~~~…………ん゛ん゛ッ!」

 

 

 胸いっぱいにハンカチの匂いを吸い込んだ直後――〝ビクン!〟となのかの身体が震えた。

 

 

「なっ、なのか!? 大丈夫!?」

 

 明らかに異常な反応を見せたなのかの姿に、思わず俺までビビる。

 

 なのかはハンカチの向こうで息を荒げながら、

 

「スゥ~~……ハァ~~……だ、大丈夫っ……スゥ~~~~~~……っ」

 

 一心不乱に匂いを嗅ぎ続ける。

 もう一ミリたりともハンカチを離す素振りを見せない。

 

 ……なんだろう、絶対に大丈夫じゃない。

 少なくとも俺には大丈夫に見えない。

 

「はあぁ……ハジメの香り……。いい匂い……」

 

「そ、そんなに匂い残ってるかな? ちゃんと洗ってあるヤツ持ってきたんだけど……」

 

「わかる……。洗剤の匂いの向こうに、確かにハジメを感じるもん……」

 

「そ、そう」

 

 洗剤の向こうに俺を感じるのか……。

 

 なんとも詩的な言い回しだけど、そこだけ切り取って聞くと微妙に背筋に寒さを感じる気もするな……。

 

「――っていうかハジメ!」

 

「えっ、な、なに?」

 

「どうして未使用(・・・)を持ってきちゃったの!?」

 

「へ?」

 

「どうせなら使用済み(・・・・)の匂いを嗅いでみたかったのに!!!」

 

 ――言い方ァ!

 使用済みって言い方はアウトでしょ!

 

 もう誤解を招く言い方にしか聞こえないって!

 

 いや、っていうかそもそも使用済みのハンカチなんて、どう考えたって汚くて渡せないと思うんだが……!?

 

「つ、使った後のハンカチなんて渡せないって! ばっちいし……」

 

「ばっちくない! ハジメの使ったモノにばっちいモノなんてない!!!」

 

 声高に主張するなのか。

 

 ……うん、やっぱり今日もおかしくなってるな。

 

「ママ~、あのお姉ちゃんたちなにしてるの~?」

 

「こーら、人のこと指差しちゃいけません」

 

 俺たちが誤解しかされないやり取りとしていると、すぐ傍を親子連れが通りかかる。

 

 不思議そうに俺たちのことを指差す娘さんと、そんな娘さんの行動を嗜めるお母さん。

 

 彼女たちはすぐに目の前を通り過ぎていったが――

 

「「…………」」

 

 見ず知らずの他人に指を指されては、流石に俺たちも冷静になるしかなかった。

 

 ここ公園だからね。

 そりゃあ変な行動してれば人目を引くよねって。

 しかも幼い子供の目を。

 

 なのかだって人目を意識するためにこの場所を選んだワケだし。

 

 彼女は恥ずかしそうにしながらハンカチを顔から離し、

 

「……ご、ごめん、ハジメ……」

 

「いいよ。それより落ち着いた?」

 

「うん……ちょっと冷静になれた気がする」

 

 深く息を吸い、落ち着きを取り戻す。

 

 俺もひと息つき、

 

「で、どう? このやり方なら匂いに慣れられそう?」

 

「……わかんない。もっとハンカチの匂いが濃かったら、止まらなくなってたかも」

 

「…………洗ってあるヤツを持ってきて正解だったな」

 

 こんな場所で昨日や一昨日みたく暴走してたら、たぶん大変なことになってただろう。

 

 少なくとも周囲の子供たちの教育には非常によろしくない事態に発展していたことは間違いないと思う。

 

 明日からは予備も含めて二枚ハンカチを持ち歩くようにしようかな……。

 

 なんて俺が思っていると――

 

「……実はさ、黒月先生から言われたんだ」

 

「え?」

 

「一度、幼馴染(ハジメ)とちゃんと向き合ってみろって」

 

 なのかはそう言って、改めて俺の方を見る。

 

「ハジメはやっぱり、匂いで興奮する私なんて嫌……? 気持ち悪いと思う?」

 

「! なのか、俺は――」

 

 ――気持ち悪い?

 俺はそんな風に思ったことない。

 

 確かに、幼馴染が俺の匂いを嗅いでおかしくなるようになっちゃったのは、困惑したというか驚いた。

 

 でも嫌だとか気持ち悪いなんて、そう思ったことなんて一度もない。

 

「……俺はなのかのことを気持ち悪いだなんて思ったことは、一度もないよ」

 

「……本当?」

 

「本当だよ。絶対に本当」

 

「……」

 

 なのかは一瞬俺から目を逸らすと、

 

「……やっぱり聞かせて? ハジメは私のことをどう思ってるの……? ハジメにとって――私って、なに?」

 

 ――そう、尋ねてくる。

 

 それは昨日も聞かれた質問だった。

 でも昨日は、俺が有耶無耶にしてしまった。

 

 ……正直、まだ言葉が喉の奥で突っかかる感覚がある。

 

 伝えるのが怖くて、心臓の脈動が早まっているのが自分でわかる。

 

 だけど……一二三にも言われちゃったもんな。

 

 いつまでも意気地なしのままじゃ、やっぱりダメだよな。

 

 俺は――ギュッと拳を握り、意を決した。

 

「なのかは……俺にとって、大事な人だよ」

 

「大事な人――ってどういう意味で?」

 

「言葉通りの意味さ」

 

 俺は唇が震えるのを堪えながら――なのかの方を見つめた。

 

「き、昨日は伝えられなかったけど……今日はちゃんと言う!」

 

「え……?」

 

 

 

「なのか、俺は――キミが好きだ(・・・・・・)!」

 

 

 

 ――言った。

 ようやく言えた。

 

 俺がずっと、ずっとずっと心の中で想っていたことを。

 

 

 

「お、俺たち――付き合おう(・・・・・)!」

 

 

 




第2章はここまでとなります。

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