【第一部完】ロクデナシ黙示録 ~夕立市最悪の三日間~   作:松山リョウ

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第63話 たまゆらの決着

【古来狸】

 ルガールは本丸広場に着地した。背中にのしかかる疲労感に一瞬よろめいて、ミツルを地面に寝かせて深く息をつく。一瞬でも絶理を出した影響がすでに足を重くしていた。

 

 

 

 標高百三十メートルの山の上に作られた南北に長く平たい本丸は、春には桜と天守閣の眺め、そして瀬戸内海の遠望が楽しめる公園として整備されている。

 

 その広場に立つルガールの視線の先には瓦礫の山と化した夕立城の残骸があった。土埃が舞うなか、天から落ち切った今もガラガラと音を立ててその身を崩していた。

 

 ルガールは崩れた城へと歩いていく。背丈よりも大きい岩に触れながら、崩壊地の周囲をゆっくりと歩いていく。

 

 

 

 ややあって、崩壊地の一部がガラリと動いた。

 

 

 

 

 古来狸が柱の残骸を押しのけて、薙刀を支えに立ち上がろうとしていた。消え失せた左腕からは血と、それ以上の勢いで幻力が流れ出ていた。

 

 ルガールの存在に気付いた古来狸は、焦点の合い切らない瞳孔で睨みつける。

 

 

 

「もういい、やめだ」

 

 ルガールは古来狸に告げる。

 

 

 

「古風な喋り方で誤魔化してたみてぇだが、戦ってみてわかった」

 

 

 無謀なまでの攻撃姿勢。その裏返しとしての、あまりにもお粗末な回避能力と防御意識。

 

 

 

「お前、第一次大戦も記憶にねぇひよっこだろ?」

 

 

 

 否定することなく、古来狸は薙刀を地面に突き立てて、懐より取り出した巻物を宙で開いた。ルガールは「話にならねぇ」と首を横に振って、背を向けて歩き出す。

 

 

「ここで引いとけ。大人しくしてりゃあ、影縫どもが保護してくれるだろうよ」

 

 

 古来狸はルガールの忠告を無視し、右手のみで印を結び、『(やぐら)のお七』を詠唱する。段が進むにつれて、古来狸の体を火よりも赤い焔が包んでいく。その妖気を背中に受けて、ルガールは立ち止まる。

 

 

「なにがお前をそこまで駆り立てる? 恨みがあるってんなら、百年後に出直してこい。今のお前じゃなにもできやしねぇ」

 

 

 身を焦がす焔に歯を食いしばりながら、古来狸は『湯殿(ゆどの)の長兵衛』を重ねる。地面に突き立てていた薙刀がふわりと宙を舞う。

 

 

「たかが城を浮かせたぐらいで帰る場所がねぇと……地獄行きだとでも思ってんのか? 思いあがるなよ。お前なんざ閻魔からげんこつ喰らって門前払いがお似合いだよ」

 

 

 秒針よりもゆっくりとその柄と刃が回る。古来狸は気を失うまいと右手で左腕の切断面をかきむしる。涙も血も流れることなく揮発していく。

 

 

 

「言っとくがな、俺もくたびれてんだよ……!」

 

 

 

 ルガールは背を向けたまま右手に力をこめ、爪をとがらせる。相対する薙刀はやがてその刃を古来狸の胸元に向けた。

 

 

 

「もう力の調整はできねぇし、まんまと焼け焦げて心中してやるほどお人よしでもねぇ……! わかるか!? コクリ、最後の警告だ! 俺にこれ以上牙を剥かせるな!」

 

 

 

 刃が古来狸の胸を貫いた瞬間、薙刀は霧散した。焔が油を撒いたかのごとく勢いを増し、天を焦がすほど氾濫する。

 

 

 

「『赤火撃滅(しゃっかげきめつ)』ッ!」

 

 

 

 焼け焦げた喉で法理を解き放ち、大地を蹴った。火だるまの三つ足の獣は灼熱の爪で、大地と空気を焼き裂きながら、ルガールの背中に襲いかかる。

 

 

「ッ鹿野郎がァッ!」

 

 

 ルガールは力を解放し、振り返りながら右爪で薙ぎ払った。振り切った五爪の斬撃は焔を無常にかき消し、勢いを殺すことなく古来狸の霊体を滅した。

 

 

 

 

 

 たまゆらの決着に、ルガールはその場に立ち尽くす。

 

 

 しばらく呼吸を整えて歩き出そうとして、ふと空を見上げた。刻一刻と色味を変えている朝空の一点を、なにかを探し出したかのようにじっと見つめる。しかし、やがてなにをすることもなく身を転じて、再びミツルの元へと歩き出した。

 

 

 

 

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