夏祭りの翌日。
僕が教室に入ると同時に、健太の大声が飛んできた。
「おい!お前ら聞けよ!昨日の夏祭り、〇〇の母さんマジでヤベえからな!!」
いきなりの大演説にクラス中の視線が集まる。
健太は机の上に立ちそうな勢いで、身振り手振りを交えて喋り出した。
「金魚すくいだぞ!?金魚が自分から飛び込んでくんだぞ!? しかも射的は百発百中!ぬいぐるみ抱えてる姿なんて……もう女神!いや、超女神!!」
「……健太、うるさい」
僕はため息をつきながら席についたが、クラスメイトたちは「え、そんなにすごいの?」「ほんとにモデルみたいだったんだ…」と口々に騒ぎ始めた。
その騒ぎの中で、彩花が小さく肩を落としているのに気づいた。
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授業が終わったあと、彩花は静かな図書室で本を返していた。
そこへ健太が、妙にそわそわしながら現れる。
「……なあ、彩花。昨日のお祭り、見てただろ?」
「……うん。すごかったね、〇〇くんのお母さん。きれいで、優しくて、なんでもできて……」
彩花は本を抱えたまま、少し俯いた。
「私なんか、比べ物にならないなって思っちゃった」
健太は目を丸くし、思わず声を上げた。
「はぁ!? 何言ってんだよ!」
図書室の静けさにそぐわない声に、二人して慌てて小声になる。
「彩花は彩花だろ!本好きで、真面目で、困ってるやついたら手伝うし……俺は、そういうとこ好きだぞ」
「……え?」
彩花の顔が一気に赤くなり、思わず目を逸らした。
「け、健太くん、なんか今日変だね……」
健太は耳まで真っ赤にしながら「べ、別に変じゃねえし!」とそっぽを向く。
けれど、その声はやっぱりいつもより不器用に震えていた。
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次の日も次の日も、町中と学校は「夏祭りの女神」の話題で持ちきりだった。
健太は「〇〇の母さん推しだわ!」と堂々宣言し、笑いを取る。
その横で、彩花は時折黙り込みながらも、ぽつりと言った。
「……やっぱり、〇〇くんのお母さんってすごい人なんだね」
でも、ほんの少し間を置いて、照れくさそうに僕を見てこうも言った。
「でも、私にとって一番すごいのは……〇〇くん自身だと思うよ」
その言葉に僕の心臓は跳ね、健太は「は!? なんでだ!?」と叫んで、図書室の司書に怒られていた。
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こうして夏祭りの余波は、僕の胃をさらに削っただけでなく──
健太と彩花の心の距離を、ほんの少し近づけたのかもしれない。
もっとも、健太は未だに「〇〇の母さんファンクラブ会長」を自称しているから、結局カオスであることに変わりはないのだけれど。