商店街に母さんのポスターが溢れた翌週。
もうどこを歩いても「あら、〇〇くんのお母さん!」と声をかけられる状態になってしまった。
僕は胃薬を片手に学校へ。
すると、教室に入るなり健太がニヤニヤしながら近づいてきた。
「なあ、お前んちの母さん、すげえぞ! 商店街のアイドルじゃん!」
「アイドルじゃねえ!!」
「昨日なんて俺の親父、ポスター見て“拝みたくなる”とか言ってたし!」
「やめてくれ……」
その時、ガラッと教室の扉が開いた。
担任の山田先生(30歳、独身、スーツはやたらチャラい)が入ってきた。
そして開口一番、僕を名指しした。
「〇〇!お前んちのお母様に、文化祭ポスターをお願いしたいんだが!」
……は!?
放課後。呼び出された僕と母さんは、職員室で先生と向かい合っていた。
「いやぁ〜、この間商店街でポスターを拝見しましてね!」
山田先生は目をキラキラさせながら熱弁をふるう。
「あれは素晴らしい! 学校の文化祭ポスターもぜひ描いていただきたい!いや、描かねばならない!」
母さんはオロオロしながら「え、でも私、そんな大したものじゃ……」と遠慮している。
だが山田先生は身を乗り出して迫った。
「とんでもない!あの画力、あのセンス!全国に誇れる!ポスターが町に貼られれば、来場者が10倍増えること間違いなし!」
「文化祭って、そんなに集客重視でしたっけ……」
僕のツッコミは完全に無視された。
数日後。母さんは引き受けてしまい、徹夜で描き上げたポスターを学校に持ってきた。
そこに描かれていたのは──校舎を背景に、模擬店やステージで楽しむ生徒たち。
みんな笑顔で輝いていて、まるで青春映画のワンシーンみたい。
しかも細かいところには、僕や健太、彩花らしきシルエットまで混じっていた。
「すごい……」
美術部の生徒が思わず息をのむ。
「え、なんか映画ポスターみたいだ」
「これ絶対SNSでバズるやつ!」
校内は一気にざわついた。
翌日には、印刷されたポスターが校門や廊下にずらり。
生徒たちが立ち止まって「これ〇〇の母さんが描いたんでしょ!?」と口々に言い、僕は逃げ場を失った。
「お前んちの母さん、マジで学校の公式デザイナーじゃん」
「やばい、あのポスター欲しい」
「サイン入りください!」
健太まで「なあ、〇〇!このポスター、俺の部屋に貼りたいんだけど!」と迫ってくる。
「ダメに決まってんだろ!!」
帰り道、母さんは少し照れながら僕に言った。
「みんな喜んでくれて、ちょっと安心したよ。……でもね、〇〇くんが一番に褒めてくれるのが、私には一番嬉しいんだけどな」
僕は顔が熱くなって、「……そんなの言わねえよ」とそっぽを向いた。
けれど、文化祭当日。
ポスターを見て集まった人の多さに、僕は再び思い知ることになる。
──母さんの絵は、もう誰にも止められない。