冬休みの週末。
僕、健太、彩花の3人で、電車に乗って都会へ出かけることになった。
目的は──進学説明会。
……と言いつつ、健太の本音は「ゲーセン行きたい」、
彩花の目的は「カフェ巡りしたい」。
そして僕の目的は、「母さんのいない一日を、静かに過ごしたい」。
「ねぇ〇〇、都会って、空気がなんか違うね!」
ホームに降り立った瞬間、彩花が目を輝かせる。
人混み、ビルのきらめき、見上げるほどの広告塔。
地方の商店街とは、まるで別世界だ。
健太はすでにテンションMAX。
「おおお! 人が多い! カップル多い! ビルでけぇ! 最高!」
「うるさい……」
「なにテンション低いんだよ、せっかく都会デビューなのに!」
……都会“デビュー”って言い方やめてほしい。
まず向かったのは進学説明会の会場。
パンフレットをもらって、
ブースで大学生スタッフが親切に説明してくれる。
彩花はメモをとりながら真剣に質問していた。
「デザイン系の学部って、どんな雰囲気ですか?」
スタッフ:「作品づくりが好きな人が多いですね」
「ふふ、〇〇くんのお母さんもイラスト描いてるし、
〇〇くんもそういうの向いてるかもね」
……その名前を出すな。
一瞬で周囲の視線が僕に集まった気がして、耳が熱くなる。
説明会を終えて外へ出ると、
都会の風が冷たくて、ビルの隙間をすり抜けていく。
彩花がマフラーを直しながら言った。
「ねぇ……お母さん、元気かな」
僕:「あの人ならたぶん、今ごろスケッチブック広げてる」
健太:「絶対また町の誰か泣かせてるって」
僕:「それ、褒めてるのか?」
「いや、事実を言ってる」
3人で笑った。
不思議なことに、母さんがいないだけで空気が少し違って感じた。
いつもは誰かの中心に“母さん”がいる。
けど今日は、僕らだけの物語だ。
夕方。
彩花が調べていた“人気のカフェ”に入った。
木のテーブルにラテアート、静かなBGM。
母さんが好きそうな雰囲気で、
思わず口から出た。
「……ここ、母さん好きそうだな」
彩花が笑って言った。
「わかる。〇〇くんのお母さん、
きっとコーヒー飲みながら“カフェの絵”とか描きそう」
「目に浮かぶな……」
健太:「ていうかさ、〇〇のお母さんって、もはや町のマスコットじゃね?」
僕:「いや、マスコットって言うな」
でも、否定しきれなかった。
そのあと、3人で写真を撮って笑って。
たわいもない話をして。
あっという間に時間が過ぎていった。
帰りの電車。
窓の外を見ながら、僕はぼんやり思った。
都会は楽しい。
でもどこか、落ち着かない。
人の多さも、光の多さも、
僕の“いつもの世界”とは違いすぎた。
「〇〇、寝るなよー、降り過ごすぞ」
健太の声で目を覚ます。
「ごめん。なんか、急に静かになったから」
彩花が小さく笑った。
「静かでもいいじゃん。〇〇くんがいると落ち着くし」
その言葉に、
なんか、心が少し温かくなった。
玄関を開けると、
ふわっとシチューの香りがした。
テーブルの上には鍋とスケッチブック。
ページを開くと、そこには僕たち3人が描かれていた。
電車の窓際で笑ってる姿。
……母さん、どうやって知ったんだよ。
スケッチの端に小さく書かれていた。
「〇〇くん、今日も楽しい一日だった?」
僕は小さく笑って呟いた。
「……うん、まあ、悪くなかったよ」
健太と彩花と過ごした一日。
母さんのいない静かな世界。
でも、どこかで母さんの温かさがちゃんと残ってた。