新 お母さん無自覚美人過ぎです 高校生編   作:松田義和

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卒業

 

三月。

風はまだ少し冷たいけれど、空はやわらかく霞んでいた。

校門の前に「卒業式」と書かれた立て看板。

僕、〇〇、17歳。

ついにこの日が来た。

 

スーツのネクタイを締めながら、

鏡の前で深呼吸。

いつもよりちょっとだけ大人になった気がする。

 

でも、もっと落ち着かない理由がある。

――母さんが来るからだ。

 

 

体育館に入った瞬間、

空気がピンと張りつめた。

 

その原因は、間違いなく一人。

母さん。

 

白いジャケットに淡い水色のロングスカート。

髪をきれいにまとめて、

まるで雑誌から抜け出してきたみたい。

 

体育館中の父兄が一瞬で息を呑んだ。

廊下を歩くだけでざわざわ、ざわざわ。

 

健太が小声で言った。

「おい……〇〇、お前んちの母さん……

 今日も破壊力えぐいぞ」

 

「やめろよ……」

僕は顔を真っ赤にして前を向く。

 

彩花がくすっと笑った。

「でも、ほんとに綺麗。まるで映画みたいだね」

「うん、そうだね……」

(いや、褒めるな……こっちが照れるから)

 

 

 

式が始まる。

厳粛な音楽。壇上の花。

空気が引き締まる――はずだった。

 

けれど。

 

校長先生がマイクの前に立った瞬間、

明らかに声がうわずった。

 

「えー、本日は──えー……その……」

(噛んだ!?)

 

ざわっ。

隣の健太が小声で囁く。

「校長、目線が完全にお前んとこの方向いってる」

「やめろ!」

 

母さんは気づいていない。

にこにこしながら拍手している。

その笑顔が、眩しくて、体育館の照明より明るかった。

 

結局、校長のスピーチは

「人生とは……その……えー……桜のように……」

と、語彙力が春風に飛ばされて終了した。

 

卒業証書を受け取る瞬間。

壇上から降りると、

客席の母さんが小さく手を振っていた。

 

(……もう、ほんとやめて)

 

でもその笑顔を見た瞬間、

緊張が全部ほどけた。

いちばん見てほしかった人に、

ちゃんと見てもらえた気がした。

 

式が終わって外に出ると、

風に混じって桜の花びらが舞っていた。

まだ咲き始めたばかりなのに、

空が一瞬、春色に染まった。

 

 

健太が駆け寄ってくる。

後ろから彩花も笑顔で手を振っていた。

 

「お前、やったな!」

「やっと終わったね」

 

三人で並んで写真を撮る。

背景に立つ母さんが、また視線を集めている。

通りがかったPTAのお父さんたちが、

なぜか背筋を伸ばして挨拶していた。

 

健太が小声で言う。

「俺ら、なんか今日、気圧で胸苦しくね?」

「それ、お前んとこの母さんのオーラな」

彩花が笑って突っ込んだ。

 

みんなで笑った。

それだけで、冬の冷たさが溶けていくようだった。

 

 

「じゃあな、〇〇!」

健太が拳を突き出す。

「また会おうぜ!」

 

彩花も手を振って言った。

「新しい春、楽しもうね!」

 

二人の姿が遠ざかっていく。

春風が吹き抜けて、

桜の花びらが頬をかすめた。

 

母さんが隣でそっと言った。

「……いい友達だね、〇〇くん」

「うん。ほんと、そう思う」

 

母さんが空を見上げて微笑んだ。

「みんな、ちゃんと前に進んでる。

 だからあなたも、大丈夫。」

 

僕は頷いて、

その横顔を見つめた。

 

光の中で髪が揺れて、

白いスーツの袖口が風を受けてひらりと動く。

その姿は、どこかで見た夢みたいだった。

  

 

帰り道。

母さんが僕のネクタイを直しながら言った。

「卒業、おめでとう、〇〇くん。」

「ありがとう」

 

「これからもずっと応援してるよ。」

「うん……」

 

言葉にしないまま、

心の中で思った。

 

(母さん。

 僕の春は、やっぱりここから始まるんだと思う。)

 

遠くで校庭のチャイムが鳴った。

空には、舞い上がる花びらと、

少し照れくさそうに笑う母さんの横顔。

 

新しい春が、

静かに、でも確かに始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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