「……古き神の子供よ! なぜ、余に頭を垂れぬ!? 余の眷属となれば、余の創造した世界でありとあらゆる幸福を享受できるというのに!?」
冥王グランドマスターが斬られる。
かつて全世界を滅ぼし、全世界の支配者となった最強の王。
冥王の力は生物の創造。手からあらゆるものを生み出すその姿は、正に神と呼ぶに相応しい。あらゆる世界は冥王にひれ伏し、彼の支配を受けざるを得なくなるだろう。
だがそんな冥王も、今、討たれようとしていた。
「もういい。死ね」
冥王に相対するのは、飛竜。
かつてストライダーズという組織に所属していたエージェントである。
胸に大きく「飛」という刺繍が入った装束と口元を覆う赤いマフラーが特徴的であり、その姿はまるで忍者のようであった。
「こんなところでは終わらんぞ、飛竜!!」
飛竜が飛び上がった瞬間、光が瞬いた。
咄嗟に目を閉じると、身体が妙な浮遊感に襲われる。
「さらばだ、飛竜! 余こそが新たなる支配者、それは依然として変わらん!」
冥王の声が響く。
そして気が付くと、飛竜は──
「ここは…」
異世界に来ていた。
ストライダー飛竜、異世界へ行く
周囲は緑豊かな草木に囲まれ、小鳥たちが調子良さげにさえずっている。澄み渡った青空は頭上に広がり、雲一つなかった。
「ここは知っている地球と違う」
飛竜は辺りを見渡し、そう確信した。彼の知る地球は、科学が高度に発展した近未来世界。未知の金属や鋼で作り上げられた都市とはまったく異なる、自然と調和した異世界の風景が、目の前に広がっていた。
「…」
飛竜はしばらく考えた後、静かに歩き出した。
*
少し歩を進めたところ、何処からか女の悲鳴が聞こえた。
「ほ、炎の魔術! 魔術よ!」
森の奥に進んでいくと、そこには一人の少女と一匹のドラゴンが対峙していた。ドラゴンはよだれを垂らし、鋭い目で少女を眺めていた。
少女は本片手に、炎の呪文を唱え、必死に抵抗を試みていた。けれどそれも虚しく、炎はドラゴンの皮膚を焦がすことさえ出来なかった。
「な、なんでこんなところにトカゲドラゴンが出るのよ! 聞いてないわよ!」
少女の叫びをほくそ笑むようにドラゴンは低く唸り、少女に向かって飛びかかった。魔力が尽きた少女はもう抵抗する力もなく、目をつぶって天に祈るしかなかった。
──ザンッ。
祈りは届いた。
飛竜が華麗に現れ、彼の持つ武器──光剣「サイファー」でドラゴンの胴体を真っ二つに斬り裂いた。赤い血が勢いよく飛び散り、森の静寂をも切り裂くような音が響いた。
「え。な。ち。な、なにこれ…?」
困惑しまくっている少女を横目に、飛竜はサイファーを戻した。
「ここは何処だ?」
「え?」
「…」
「あ、えっと…ここはリードタウン近くの森ですけど…」
リードタウン…。
飛竜はその単語に一つも覚えが無かった。
「…」
飛竜は踵を返し、また森の奥へ向かおうとした。
「え? あ、ちょっと待ってください!」
だが飛竜は待たない。
少女の声を無視して、進む進む。
「ちょっ…全然待たないわね! …お礼を、お礼をしたいんですけど!!」
「…」
「だから待ってよー! もー全然聞いてくれないわね! なんなのよ、あの恩人は!!」
歩みを止めない飛竜に、少女は叫んだ。
読んでくださりありがとうございました。
ストライダー飛竜を知っている人がいるのか微妙なところですけど…
一応、2話はあります。