ストライダー飛竜、異世界へ行く   作:水漏れ老舗

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 夕陽が傾きかけ、路地裏には赤い影が落ちた。石畳を踏む音だけがあたりを響かせ、飛竜とズライが並んで歩いている。

 

 前を歩く少年が、ふいに口を開く。

 

 「そういや、名前何て言うの? あんた…じゃあ失礼だろ」

 

 飛竜は視線を前に向けたまま、低く答えた。

 

 「飛竜。ストライダーズ所属の飛竜だ」

 

 少年は口笛を吹くようにして目を丸くする。

 

 「飛竜さんね。飛竜さんはどこから来たの? さっきは異常な強さを見せてたけど」

 「地球だ」

 

 短くシンプルな答え。

 

  「チキュウ……聞いたことないな」

 

 聞いたことがない──その言葉に、飛竜の足が止まる。

 考えていた可能性が確信に変わる。

 

 足を止めた飛竜を疑問に思ったのか、ズライが振り返る。

 

 「あなたh──」

 

 そのとき、張りのある声が路地を切り裂いた。

 

 「あー、ズライじゃない! ちょっと情報屋の力を借りたいんだけど!」

 

 現れたのは、杖を持った少女だった。名を呼ばれると、ズライが驚きの顔をさせた。

 

 「メイメイじゃん…。今は別件の仕事中なんだけど」

 

 メイメイと呼ばれる少女は親しげに歩み寄り、肩に手を置く。

 

 「いいじゃない! 私とあんたの仲だから融通を効かせちゃってよ。それでね、探して欲しい人がいるんだけど、特徴は赤いマフラーをしていて………え!?」

 

 少女の視線が飛竜に吸い寄せられ、驚きで目を見開く。

 

 「さっきからうるせーな」

 「この人だよ、ズライ! 私の探し人」

 

 メイメイが迷わず指さした。

 

 「メイメイ…飛竜さんと知り合いなんか?」

 

 ズライが怪訝な顔をする。

 

 「森でトカゲドラゴンに襲われてるところを助けて貰ったの。お礼を言いたくて、ずっと探していたのよ。飛竜さんって言うんですね。さっきはありがとうございました!」

 

 少女は明るく笑う。

 しかし無視。

 飛竜はいつも通り、期待を裏切らず、少女を無視した。

 

 「ズライ~! 無視されたんだけど!」

 「飛竜さんは寡黙な人だから…」

 

 ズライが苦笑いを浮かべたその刹那、飛竜の視線が鋭く路地裏へ向く。

 

 ──誰か来る

 

 沈んだ気配。

 そこから現れたのは、巨体を揺らす太った影だった。

 

 

 「ぷぴぴ……こんなところで会うとはな、ズライ君」

 

 薄笑いを浮かべる太った男に、ズライが低く声を漏らす。

 

 「ザルゲンさん…」

 「幼馴染ちゃんも一緒か」

 

 獲物を値踏みするような視線がメイメイを舐め、彼女は思わずズライの後ろに隠れた。

 

 「嫌われちゃったなーぷぴぴ…」

 「何の用ですか! もう借金の120万ゼニーは返済した筈ですが…」

 「おーい踏み倒す気かい? 親父さんのこさえた借金を」

 「踏み倒すも何も…」

 

 巨漢の手が少年の胸ぐらを掴む。石畳に擦れる靴音が激しい。

 

 「うっ!」

 「ぷぴぴ…返すもんは返さなきゃ」 

 「…ぼっ…暴利だ!」

 「おいおい…人聞き悪すぎ。子供だからって容赦しねーぞ。どうなるか分かってんのか、ああん!?」

 

 ズライが必死に声を張る。

 

 「…くっ、お、俺っちに手を出したらどうなるか分かってますか?」

 「ああん?」

 「あの飛竜さんが黙ってねぇよ! ねえ!?」

 

 一斉に視線が飛竜へ向かった。

 

 「なんだそいつ」

 「飛竜さんは俺っちの用心棒さ!」

 「ぷぴぴ…誰だっての。聞いたことねぇよ」

 「うぅ……飛竜さあん」

 

 ズライが飛竜に縋るように視線を送る。

 

 「貴様、俺に近付いた理由はこれか?」

 

 飛竜が腕を組み、氷のような瞳で少年を射抜く。

 

 「う。そうです。で、でも! じょ、情報は上げます! 飛竜さんの気に入る情報を必ず」

 「…」

 「お、お願いします…後で謝罪も謝礼も何でもします。助けてください…」

 「わ、私からもお願い! ズライはアホだけど、悪い奴じゃないのよ!」

 

 懇願の声が交錯する。飛竜はわずかに目を細め、やがて無言でサイファーを抜き放った。

 

 刀身が夕陽を反射し、白い閃光を放つ。

 

 「なっ…こいつ、このザルゲンに逆らおうってのか?」

 「貴様に恨みは無いが」

 

 太った男がニヤリと唇を歪める。

 

 

 「…そうだ。お前、ベイテールの店主を襲ったとかいう男か。なるほど。いい度胸だ! チェンジ召還!」

 

 

 次の瞬間、ザルゲンの全身が青白い光に包まれ、バキバキと甲冑が組み上がる。

 

 「口寄せの魔法よ!」

 

 メイメイが驚愕の声を上げる。飛竜の瞳がわずかに細まった。

 

 「今日のザルゲン様の餌食はお前だ。名も知らぬ、青年よ。このプラズマ鎧とプラズマ銃で、お前を殺す」

 

 鋭い殺気が、路地裏に漂った。

 

 「プラズマ…」

 

 飛竜がそう呟く。

 

 ザルゲンの持つ、鋼鉄の銃。プラズマ銃と呼称されている武器。

 

 

 飛竜には見覚えがありすぎた。

 

 

 故に、気が変わった。

 サイファーを握る手に力が加わり、目が鋭さを増す。

 

 「早速死ねい!」

 

 ザルゲンが叫ぶと同時に、銃からプラズマが発射される。

 目にも止まらぬ速さで動く弾を、飛竜は難なく避け、ザルゲンの懐まで忍び込んだ。

 そして斬る。サイファーで躊躇なく斬りつけた。

 

 「プラズマ鎧に傷一つ付く訳ないだろー、モノホンの馬鹿がーっ!」

 

 だが、ザルゲルに何の傷痕も残せなかった。

 判断を見誤った飛竜は、ザルゲルの攻撃を直接受けてしまい、数メートル吹き飛ばされた。目一杯の攻撃を受けた。

 

 

 「「飛竜さん!」」

 

 

 少年少女は叫んだ。

 

 「ぷぴぴ……用心棒弱ーっ。ザルゲン様の手にかかれば一発で──」

 

 肉を揺らしながら笑っていると、次の瞬間、ザルケルの表情から笑顔が消えた。

 

 土煙の向こうから、ゆらりと黒い影が浮かび上がる。風にあおられた赤いマフラーが炎のように揺れ、飛竜がパン、パン、とゆっくり身体を払った。

 その姿を見たザルゲンの目が、大きく見開かれる。

 

 

 「あの攻撃を受けて立つか…。化け物か。でももう一回くらい食らえば、ぐちゃぐちゃ確定かな? ぷぴぴ、次こそ死ぬよー」

 

 笑い声だけが空気を裂く。

 飛竜は冷たい瞳でその笑みを射抜き、ゆるやかにサイファーを構えた。刀身に残った血が、夕陽の光を受けて赤く輝く。

 

 「勘違いするな」

 

 氷よりも冷ややかな低い声。

 

 

 「狩るのは俺で、狩られるのは貴様だ」

 

 「ほざけっ!」

 

 

 ザルゲンの腕が閃き、プラズマ弾が嵐のように吐き出される。

 青白い弾幕が路地を覆い、空気が焼けた。

 

 だが飛竜は一歩も止まらない。

 足音は静かに、だが確実に。弾丸の隙間を縫うように、彼の残像だけを残して滑り込んでいく。

 

 そしてまた懐へ。

 

 「学習しない奴だな! そんな攻撃で鎧に──」

 

 ザルゲンの言葉は、宙で途切れた。

 飛竜の足が地を蹴り、巨体が軽々と宙に舞う。  その膝が鎧を砕く衝撃とともに、ザルゲンを跳ね上げた。巨漢の体が空を舞う。

 

 「なっ…何が起きた!?」

 

 驚愕の声が虚空に散る。

 飛竜は奴を追い、同じ高さまで跳躍する。  

 その身体が光にかすみ、次の瞬間、十、二十と影が分かれた。

 

 分身。  

 飛竜の能力の一つであった。

 

 空一面を埋め尽くす飛竜が、黄昏色の空を染め上げる。

 

 

 「黄昏に消えるがいい」

 

 

 低く呟いた刹那、数え切れぬ刀閃が嵐のように走った。鋼が悲鳴を上げるほどの轟音。プラズマ鎧が無数の破片となって飛び散った。

 

 鎧を失ったザルゲンは、まな板の鯉へと成り下がり、そこへ、最後の一撃が無慈悲に放たれた。

 

 

 

 「ラグナロク!」

 

 

 

 飛竜の一閃が空を裂き、音を奪い去った。ザルゲンは斬られ、石畳に叩き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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