エンガノ岬に沈んだ零戦乗り   作:爆走!

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前回のあらすじ。

油断。
被弾。
52型。




反撃

 

 

彼が前線を離れてからの変化は速かった。

 

「雷撃隊急いで!敵に反撃の隙を与えないよう注意して!」

 

妖精さんたちが徐々に押され始めてきている。敵の艦爆が何機かすり抜けてこっちに爆弾を落としてくるけど運よく直撃を避けている。駆逐艦の子たちはそろそろ限界。でも撤退もできない。

 

「対空砲火、続けて!」

「敵の攻撃に勢いがでてきたね。」

 

だけど、こちらは既に一手を打っている!

 

爆音。

 

突如敵駆逐艦が爆発する。先ほど放った魚雷が命中したのだ。敵艦の進軍速度が低下したものの依然健在だ。

よしっ!命中確認!

 

「敵の被害状況は!」

「敵駆逐艦イ級四隻の大破を確認、なのです!」

 

四隻。そう、なら後は駆逐艦一隻に敵空母ね。こっちの艦載機も数を減らしてきてるし、早く決めないと!

戦況はどちらも取って取られて。だがここで敵に大打撃を与えた。敵駆逐艦イ級五隻のうち四隻大破。残存戦力は軽空母ヌ級一隻、駆逐イ級一隻。こちらの被害は駆逐艦、暁の中破。こちらは圧倒的有利、雷撃以降敵の陣形に乱れが出始める。九六式艦戦の妖精は一瞬足の止まる敵艦載機のその一瞬を見逃さなかった。すかさず機銃を相手にお見舞いする。先ほどのお返しだと言わんばかりに、すると前進を続けていた敵艦も足を止める。

 

「撤退する気?」

「追撃はしない方がいいよ。まずは防備を固めよう。」

 

響ちゃんはいつも冷静ね。敵艦載機も残り僅かになってきた。

すると敵の艦隊は静かに海の底に沈んでいく、艦載機を残して。

 

「おかしいね。敵の艦載機だけが残された…。この状況は見たことがあるな…。」

 

艦載機だけを残すって、何をする気なの?

九六式艦戦が敵の残りを落としている中、数機の艦載機が水面近くを静かに飛んでいる。中には爆弾をかけたままのものまで見受けられる。

 

「瑞鳳さん。すぐに対空迎撃を!敵は特攻を仕掛けるつもりだ!!」

「なんっ!どうして…!」

 

どうしてそこまでするの!?そのまま撤退すればいいじゃない…!

だが敵にはそんな言葉や思いは届かない。こちらにも譲れないものがあるようにあちらにもなにか譲れないものがあるのだろう。

 

「雷ちゃん!雷ちゃん!下がって!後退して!!」

「と、特攻~!?」

「はわわ!?」

 

まずい、このままじゃ雷ちゃんたちにあたってしまう!

その時、後方から機銃弾が数発飛んでくる。飛んできた弾は吸い込まれるように敵艦載機にあたり雷に届く前に海中に没する。

 

「機銃弾…?さっきの妖精さんがもどってきたの?」

 

side:佐藤

 

敵艦隊がいない!だが敵艦載機はいる。しかも特攻態勢ときたもんだ。

 

「そのまま撤退すればいいものをさ!」

 

敵に機銃弾を浴びせる数十発あたれば敵は火を吹き減速し海面に落ちる。海面に落ちる暇もなく爆散する機体もある。

 

「こちら機体転換完了しました。敵を撃滅します。そちらは撤退を。」

「…了解です。気を付けて、無事に戻ってきてくださいね?」

 

無事に戻ってきて、か。一度も言われたことなかったな…。

 

「損傷の見られる機体は撤退してくれ!」

 

特攻か、分からんでもない。死んでも守りたい物があるのだろう?お前らにも。

 

「俺にはなかったがな…。」

 

俺はただ特攻しただけだ。敵の目を引きつけ友軍の艦爆と艦攻を動きやすくした。それだけだ。

 

「守りたいものはあったんだ、あの時までは…」

 

昭和17年、4月18日。あの空襲さえなければ俺は…!

操縦桿を握る手に力が入る。レバーを引き敵に容赦のない追撃を与える。

 

「あいつらさえいなければ…!」

 

残り六機。横には96式艦戦が数機並びともに機銃掃射を繰り返す。

一つ、二つ、三つ。次々落ちていくところを見ていると、思いだす。俺が特攻したのだという事実を。

 

「特攻ってさ、それなりの技量があって初めて成功するんだと俺は思うんだよ。」

 

誰に語るわけでもなくひとり言のように続ける。

俺がいた研究所では昭和18年の時点で特攻作戦が上がっていた。本格的始動は10月25日。そうだ、俺が帰れないと判断して特攻した日だ。

 

「なんで、戦争なんてしたんだろうな……。」

 

撃墜した敵機の破片がキャノピーを突き破り鎖骨付近に突き刺さる。

痛みはない。そういうふうに作り変えられた。

 

「敵機の全撃破を確認。全機母艦に帰投。」

 

戦いは終わった。後はこの世界のことを聞くだけだが、少し眠いな…。疲れているのかな。

すると、佐藤少尉の駆る52型から眩い光があたり一面を包み込む。

 

「なん、だ?」

 

帰還中の瑞鳳たちも何事かと此方を見る。徐々に光がおさまると、そこには。

全幅11.0m

全長9.121m

全高3.57m

翼面積21.30㎡

大戦時に大空を自由に飛びまわっていた姿のままの零戦が姿を現した。それは妖精たちが駆る小さい零戦ではなく等身大の零がそこにはいた。

 

「姿が、元に戻った……?あ、だめだ限界だ、不時着しないと…。」

 

速度を下げ、着水する。

体を確認すると元の大きさに戻っている。負傷した個所からは鮮血と鉛色の突起。それは敵機の破片ではない。この体に埋め込まれた強化骨格の一部であり、これは彼が人間を捨てた証なのだ。

 

「体の内部までは元に戻らないんだな…。」

 

徐々に視界が霞んでいき強烈な眠気が少尉を襲う。

ああ、さっきまであんなに動けていたのに、今では全く体が動かない。潤滑機関に何か不具合でも?それとも電気信号の故障?ああ、でも眠いや……。

 

 

 

 

 

 

そこは真っ白な空間。だが一つの影がある。それは佐藤少尉だ。

此処は、夢でも見ているのか…。体を改造した日から夢とかは見なくなったからなんか新鮮だな。

すると空間に景色が生まれる。それは少尉が幼少期を過ごした町にそっくりだった。

 

(ここは、俺の住んでいた家だ、でもなんで。)

 

そこに一つの声がかかる。

 

「広行ー!何しているの、早く!」

 

懐かしい声だ、もう聞くことはないと思っていた。この声は、

 

(かあさ…)

「母さん!今行く!!」

 

母さんだ、懐かしい。でもこの場面は…

あたりは火の手に包まれている。そこにはひとり青年と女性。そしてこの日は、

 

(ドーリットル空襲…)

 

1942年4月18日。

てことは、母さんは!

 

(だめだ!この時に壕なんてない、学校に逃げるんだ!!)

「母さん!どこに逃げればいいんだ!」

「とにかく敵の目が届かない場所に!」

 

そんなところあるわけがない!今この時にも敵のB-25は上空を!

 

「母さん、あれって…。」

「広行危ない!」

 

広行という少年を突き飛ばし爆弾の着弾地点から遠ざけるも、母親は着弾地点から逃れることはできずに…。

 

(「かあさぁぁぁぁぁぁん!!!!」)

「にげ…」

 

爆発に巻き込まれる。近くにいた広行にも破片が突き刺さり、致命傷を負う。

そして場面が変わる。

 

(かあ、さん…。)

 

次に現れたのは、真っ白な病室だった。

 

(ここは、研究所…?)

 

広行という青年は一番奥のベッドにいた。そこに群がるように白衣を身にまとった人間が数人。

 

「キミは助からないほどの重症を負っていたが、我々の技術を結集してなんとか一命を取り留めた。」

「そのまま殺してくれればよかった…。」

(そいつらの言葉に耳を貸すな…。)

 

一人の研究者が身を乗り出し広行の肩をつかむ。そして力説する。

 

「キミは選ばれたんだ!今のキミはただの人間ではない、強化人間になったんだ!キミは!」

(お前らさえいなければ…!)

 

そんな中広行は鬱陶しそうに研究員の腕を思いっきり振りはらった。だが振りはらったはずの腕はすぐ横の壁にあたり壁を粉々にした。

 

「え…。」

「ああああああ!!」

 

強化人間、筋力の増強。強靭な体を作るために骨などに金属を打ち込む。視力の増強。超人的な反射神経。

 

「フム、まだ力の制御ができないようだね。」

「あんたらの仲間、死にそうだぞ?」

「かまわないよ。実験に危険は付き物だ。」

 

すると広行は立ち上がり、瀕死の研究員にとどめをさす。

 

「ほぅ…?」

「苦しいのは、やだろ…。」

「やった当人の言葉とは思えんな。」

 

この前までただの学生だった青年は、今では人を殺してもなんとも思わない冷徹な心を持ち合わせていた。

 

「それで、俺を生き返らせて。あんたらはどうしたいんだよ。」

「アメリカに復讐したいとは思わないか?」

(耳を貸すな…!)

 

復讐。そう聞いた広行は全身を震わせこう言った。

 

「最高…!」

(ああ…。)

「ははは、私のことは主任と呼びたまえ。」

 

場面は変わり、飛行甲板の上にいた。

 

(マリアナ沖海戦か…。)

「実戦経験、か。頑張ります父さん。」

(この頃の俺は何も信じずにあの主任の言葉だけを盲目的に信じていたっけな…。)

 

この時から俺は主任のことを父のような存在と幻視していた。誰もいない場所では父さん。とようようになっていた。

広行は甲板の隅で胡坐をかき物思いにふけっていた。すると招集がかかる。

 

『前衛部隊は甲板にて待機。指示を待て。』

「出撃か?」

 

立ち上がり、広行は21型に搭乗するため倉庫内に向かう。

結果は惨敗だった。アウトレンジ戦法が敗れ、日本の空母を三隻失ってしまった。俺は再び内地へと戻された。

そして場面が切り替わる。

 

「父さんからの話?何だろ?」

(ああ…。ここか。)

 

広行は突然招集をかけられた。そして聞いてしまったのだ。

 

『いつまであのガキとごっこ遊びを続けるつもりですか?主任。』

「え…。」

 

扉越しに聞こえてきたのは主任と研究班長の話声。

 

『ははは、なにただのごっこ遊びだ。好きなようにさせておけ。』

「ごっこ遊び…?」

『それに、こちらを盲目的に信じてくれる一号機は何かと使いやすいしな。』

 

一号機。それは俺が研究所に配属されたとき、与えられた名前だ。

 

「ははは…。勝手に信じて、勝手に絶望して…。自由な奴だな俺は…!」

『奴には試験機丙を預ける。』

『は、いやしかしあの機体は…。』

『不服かね?』

『いえ…。』

 

その後、レイテへの出撃が決定した。

 

「主任。」

「ん?どうしたのかね広行。」

 

出撃前日に主任室を訪れる広行。その顔は、空襲後の広行とどこか似ていた。

 

「主任、今までお世話になりました。」

「ん?お父さんとは、呼ばないのかね?」

「はい。そろそろ親離れしようかと思いまして。」

「そうか、必ず帰ってきなさい。機体を壊さないようしっかり頼むぞ。」

 

主任室を去った後につぶやく。

 

「死にさらせ…。」

 

場面は変わり、エンガノ岬へ。

 

「発動機の調子がおかしい!」

 

発動機は唸り声を上げるように不調を訴えるが。処置の暇はなかった。すでに直掩機はすべてではらっており、後ろには攻撃機が控えていた。

 

「このまま行く!」

「犬死だー!!」

 

場面は変わり、特攻寸前の操縦席が移る。

 

(このとき、俺は泣いていたのか。改造されてから涙など出なかったのだがな…。)

「お前らさえいなければ…!!」

 

そして、世界は反転する。そこは日本の軍港だった。目についたのは、戦艦長門に掲げられた星条旗。

 

(…っ!)

 

そこに瑞鶴の姿や瑞鳳の姿はない。

 

(日本は、負けたのか…。)

 

そして、目が覚めようとしていた…。

 

 

 

 

 




駆け足気味になりすぎて誤字とか意味不なとこが多々あるかもしれません。
そこは追々直していきます。

今回は主人公、佐藤広行(ひろゆき)の過去が明らかになりました。
また各話ごとに回想とか入りますが御了承を。
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