異界渡りを手に入れた無職がスローライフをするために金稼ぎする物語   作:パラレル・ゲーマー

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第137話

 異世界『ネオ・ジャパン(仮称)』北の大陸。

 獣人族の集落における熱狂的な宴から一夜が明け、日本の異世界開拓使節団は、次なる目的地へと向かう準備を整えていた。

 

 早朝の冷涼な空気の中、集落の広場には、別れを惜しむ大勢の獣人たちが集まっていた。

 昨夜のワイバーン討伐戦とその後の宴を通じて芽生えた絆は、たった一日の滞在とは思えないほど、深く強固なものとなっていた。

 

「……おい、もう行っちまうのかよ。もっと肉、食っていけよ」

「……日本の戦士たち、また来てくれよな! 今度はもっと強い魔物を狩りに行こうぜ!」

 

 獣人の子供たちが自衛隊員たちの脚にしがみつき、名残惜しそうに尻尾を垂れている。

 隊員たちも、厳しい訓練を受けたプロフェッショナルでありながら、この純粋な好意には、頬を緩ませずにはいられないようだった。

 ポケットから予備のキャラメルやあめ玉を取り出し、子供たちの手に握らせている姿が、あちこちで見られた。

 

「……世話になったな、バルガス殿。ガレス」

 

 外務省の東郷交渉官が、集落の長と獣人の戦士に握手を求めた。

 

「……おうよ。あんたらとの取引は、久しぶりに胸が躍ったぜ。

 この『チョコレイト』といい、あの魔法のナイフといい、南の大陸ってのはとんでもない場所なんだな」

 

 ガレスがニカっと笑い、背中の大剣を叩いた。

 

「……次は『エルフの森』だったな?

 あいつらは俺たちと違って、少し頭が固いというか、気難しい連中だ。

 まあリナがいるから大丈夫だとは思うが、失礼のないようにな」

 

「……肝に銘じます。

 また帰りに寄らせていただきますよ。その時は、もっと面白い『おみやげ』を持ってきますから」

 

「……へっ、期待して待ってるぜ!」

 

 一行は、獣人たちの大歓声に見送られながら、岩山に囲まれた盆地を後にした。

 振り返れば、いつまでも手を振る獣人たちの姿が、小さくなっていく。

 

「……いい連中でしたね」

 

 ライトノベル作家の神風カイトが、リュックのベルトを直しながら、しみじみと言った。

 

「……正直、もっと野蛮で話が通じないかと思ってましたけど、めちゃくちゃ情に厚いし、何よりノリが良い。

 まさに『愛すべき戦闘種族』って感じでしたよ」

 

「……ええ。彼らとの友好関係は、我が国にとって大きな財産になるでしょう」

 

 東郷も同意する。

 だが、感傷に浸っている時間はなかった。

 彼らの旅の目的は、まだ半分も終わっていないのだ。

 

「……さて、次はエルフか。

 ファンタジーの華、魔法の種族。……気合を入れていかないとな」

 

 一行は、案内役のリナを先頭に北東へと進路を取った。

 目指すは、この大陸で最も古く、そして深い神秘を湛える場所――『深緑(しんりょく)の森』。

 

 

 道中は、驚くほど平穏だった。

 獣人の領域である岩場を抜けると、景色は徐々に緑豊かな丘陵地帯へと変わっていく。

 時折、遠くの空を怪鳥が横切ったり、草むらから奇妙な角を持つ兎が飛び出してきたりすることはあったが、昨日のような襲撃を受けることはなかった。

 

「……この辺りは、エルフの結界の影響を受けているのよ」

 

 先頭を歩くエルフの弓使いリナが、静かに説明した。

 

「……森に近づくにつれて、空気中の魔素(マナ)の濃度が変わっていくのが分かる?

 邪悪な気配を持つ魔物は、この清浄な空気を嫌って近寄らないの」

 

「……なるほど。天然の魔除けというわけですか」

 

 郷田陸将補が周囲を警戒しながらも、感心したように頷く。

 確かに空気が違う。

 岩場の乾燥した空気とは異なり、湿度を含んでいるのに重苦しくない、森林浴のような清々しさが満ちていた。

 

 歩くこと数時間。

 丘を越えた一行の目の前に、突如としてその光景は現れた。

 

「……うわ、凄い森ですね……!」

 

 誰かが思わず声を漏らした。

 そこには、壁のような森が広がっていた。

 ただの森ではない。

 一本一本の木が、東京のビルほどもある巨木なのだ。

 遥か彼方まで続く緑の海原。

 その樹冠は雲に届きそうなほど高く、幹の太さは、大人十人が手を繋いでも届かないほど。

 そして森全体が、微かに発光しているかのような神秘的なオーラを纏っていた。

 

「……これが『深緑の森』……。

 樹齢数千年クラスの巨木が群生しているのか……。

 植物学的にもありえないサイズだ……」

 

 同行していた植物学者が、興奮で眼鏡を曇らせながらブツブツと呟いている。

 

「……ここから先が、エルフの領地よ」

 

 リナが立ち止まり、森の入り口を見据えた。

 そこには道らしい道はなく、ただ鬱蒼とした巨木の根と、絡み合う蔦が、侵入者を拒むように立ちはだかっているだけに見えた。

 

「……道がないようですが?」

 

「……あるわ。ただ、招かれざる客には見えないだけ」

 

 リナは弓を肩に掛け直すと、森に向かって一歩進み出た。

 すると、巨木の枝葉の間から、音もなく数人の影が現れた。

 

 緑と茶色を基調とした、森に溶け込むような衣服を纏った戦士たち。

 彼らは皆リナと同じように長い耳を持ち、その手には優美な曲線を描く弓や、魔力を帯びた杖が握られていた。

 エルフの森の番人たちだ。

 

「……止まれ、人間たちよ」

 

 リーダー格と思われる男性エルフが、凛とした声で告げた。

 その顔立ちは彫刻のように美しく、しかしその瞳には、他者を容易には寄せ付けない厳しさが宿っていた。

 

「……この先は、古き盟約により守られし聖域。

 短命種(ヒューマン)が足を踏み入れる場所ではない。立ち去れ」

 

 取り付く島もない拒絶。

 自衛隊員たちが緊張で身を硬くする。

 だが、リナが静かに口を開いた。

 

「……久しぶりね、シルビウス。

 相変わらず頭が固いみたいだけど、私の顔も見忘れたのかしら?」

 

「……リナか」

 

 番人のリーダー、シルビウスの表情が、わずかに和らいだ。

 

「……里を出て人間の真似事をしていると聞いたが……。

 まさかこれほど大勢の人間を引き連れて戻ってくるとはな。

 何の真似だ? まさか彼らを里に入れるつもりか?」

 

「……ええ、そのつもりよ。

 彼らは南の大陸から来た『商人』。

 我々に害をなす者たちではないわ。

 むしろ我々にとって有益な『未知の知識』と『品物』を持ってきたの」

 

「……商人だと?」

 

 シルビウスが疑わしげな視線を、東郷たちに向ける。

 その視線は鋭く、まるで魂の色を見定めているかのようだった。

 

 東郷は一歩前に進み出て、優雅に一礼した。

 

「……お初にお目にかかります、森の守り人よ。

 私は東郷。遥か南の地より、貴方方の優れた叡智と文化に触れるべく、海を越えて参りました。

 決して森の平穏を乱すつもりはございません」

 

「……口のうまい人間など、幾らでも見てきた」

 

 シルビウスは冷たく言い放つ。

 だがその視線は、東郷の後ろ――自衛隊員たちが背負っているバックパックや、彼らが身につけている「異質な」装備に注がれていた。

 金属ではないが金属以上に精巧な繊維。見たこともない道具の数々。

 エルフの鋭い審美眼は、それらが高度な技術の産物であることを感じ取っていた。

 

「……だが、リナが連れてきたというなら無下にはできんな。

 ……よかろう。長老の判断を仰ぐとしよう」

 

 シルビウスは杖を掲げた。

 

「……道を開け!」

 

 彼が朗々と詠唱を始めると、信じがたい光景が展開された。

 

 ゴゴゴゴゴ……という重低音と共に、目の前に立ちはだかっていた巨木たちが、まるで生き物のようにその根を上げ、幹をよじり、左右へと移動し始めたのだ。

 絡み合っていた蔦が解け、地面の草花が道を譲るように寝転ぶ。

 

 ものの数秒で、鬱蒼とした森の中に一本の真っ直ぐな「道」が出現した。

 幅五メートルほど。馬車でも通れそうな立派な街道が、森の奥深くへと続いている。

 

「……うわー、凄いですね……!」

 

 カイトが目を丸くして叫んだ。

 

「……どういう原理なんだろう?

 植物を自在に操る魔法……! これぞエルフ! ファンタジーの王道だ!」

 

「……魔法ですよね!

 いや、これほどの質量の木々を一斉に動かすなんて……どれほどの魔力が必要なんだ?」

 

 長谷川教授の弟子である研究員が、魔力測定器の数値を二度見している。

 針は振り切れていた。

 

「……ああ、エルフは魔法が得意だからな」

 

 リナが誇らしげに微笑んだ。

 

「……私たちは森と契約し、森の精霊の力を借りているの。

 この森自体が、私たちを守る巨大な城壁であり、家でもあるのよ。

 ……さあ行きましょう。道が閉じる前に」

 

 一行は、左右に巨木が並ぶ緑の回廊へと足を踏み入れた。

 頭上からは木漏れ日が降り注ぎ、空気はさらに濃密な魔力に満ちている。

 それは現代日本人が失ってしまった、太古の神秘そのものだった。

 

 

 森の道を歩くこと一時間。

 ついにエルフの里が、その姿を現した。

 

 そこは、想像を絶する美しい光景だった。

 巨大な樹木の中腹や枝の上に、優美な曲線を描く家々が作られている。

 木を切り倒すのではなく、木そのものを住居として利用し、あるいは木を成長させて部屋を形作っているのだ。

 建物同士は吊り橋や螺旋階段で結ばれ、空中に一つの立体的な都市が形成されている。

 中央には、ひときわ巨大な世界樹のような大木がそびえ立ち、そこから湧き出る清らかな水が、無数の水路を通って里全体を巡っている。

 

「……なんと……美しい……」

「……これがエルフの里……」

 

 隊員たちも学者たちも、ただただ上を見上げて感嘆のため息を漏らす。

 SF的な機能美とは対極にある究極の自然美。

 人と自然が完全に調和した理想郷が、そこにはあった。

 

 一行は、世界樹の根元にある広場へと案内された。

 そこには、透き通るような薄絹を纏ったエルフたちが、好奇心と警戒心の入り混じった瞳で、彼らを出迎えていた。

 獣人たちのような野性的な歓迎はない。

 静かで、品定めをするような視線。

 

 やがて世界樹の中から、一人の年老いた(外見は若々しいが、その瞳には数千年の知恵が宿っている)女性が現れた。

 エルフの長老、セラフィナ。

 

「……遠き地よりの来訪者よ。

 深緑の森へようこそ。

 リナから話は聞きました。交易を望むとか」

 

 彼女の声は、風のささやきのように穏やかで、しかし森全体に響き渡るような浸透力を持っていた。

 

「……はい、長老様」

 

 東郷は最上級の敬意を払って頭を下げた。

 

「……我々の不躾な訪問を受け入れていただき、感謝に堪えません。

 我々は貴方がたの持つ素晴らしい魔法技術と森の恵みに、深い感銘を受けております。

 ぜひ、我々の持ち込んだ品々と交換していただきたいのです」

 

「……人間の作るものになど、我らが必要とするものは少ない。

 だが、貴方たちのその服、そしてその道具……。

 確かに、普通の人間の技術ではないようですね」

 

 セラフィナは、東郷が身につけている腕時計や、隊員たちの装備に目を留めた。

 彼女は、未知の魔力(科学技術)の気配を感じ取っているようだ。

 

「……ではまず、貴方たちの誠意を見せていただきましょうか」

 

「……承知いたしました。

 ではまずはこちらを」

 

 東郷は、いつもの「最強のカード」を切った。

 チョコレートだ。

 

「……これは我々の国で、最も高貴な身分の方々も愛する『チョコレート』という菓子です。

 心身の疲れを癒し、至福の安らぎをもたらすものです」

 

 美しく装飾された箱を開け、中の一粒を差し出す。

 セラフィナは優雅な手つきでそれをつまみ、口に運んだ。

 

 ……静寂。

 

 そして数秒後。

 長老の白い頬が、ほんのりと朱に染まった。

 

「………………ほう」

 

 彼女は吐息を漏らした。

 

「……これは……なんとも……。

 ……濃厚で、そして優雅な甘さ……。

 森の果実の酸味とも、花の蜜の甘さとも違う……。

 ……まるで夜の闇に溶ける月光のような、深みのある味わいです……」

 

「……お気に召しましたか?」

 

「……ええ。悪くありません。

 ……いいえ、正直に言いましょう。

 ……大変美味です」

 

 その言葉を合図に、周囲のエルフたちからも「おお……」という声が漏れた。

 長老が認めたのなら、それは間違いなく一級品だ。

 

 東郷はすかさず、控えていた隊員たちにチョコを配らせた。

 エルフたちは獣人のようにガツガツとは食べない。

 小さな欠片を口に含み、目を閉じて、その余韻を楽しむように味わう。

 

「……美味しい……!」

「……精神が研ぎ澄まされるような気がするわ……」

「……この苦味と甘味の調和……芸術的だ……」

 

 どうやらエルフの繊細な味覚にも、チョコ(特にカカオ成分高めの高級品)はクリティカルヒットしたようだ。

 チョコ外交、ここでも大成功である。

 

 場の空気が和らいだところで、カイトが動いた。

 彼はリュックから一台の機械を取り出した。

 デジタルカメラだ。

 

「……あの、すみません!

 記念に一枚、写真良いですか?」

 

 彼は近くにいた若い女性エルフに声をかけた。

 

「……シャシン? 何ですかそれは?」

 

「……えーと、まあ見ててください。

 はい、チーズ!」

 

 パシャッ!

 

 フラッシュが焚かれ、エルフが驚いて目をぱちくりさせる。

 カイトはすぐに背面の液晶画面を彼女に見せた。

 

「……ほら、これです」

 

「……なっ!?」

 

 彼女は画面を覗き込み、息を飲んだ。

 

「……こ、これは……私!?

 ……え、どうして!? 今の一瞬で私の絵を描いたの!?」

 

「……なんだ、この魔道具は?」

「……凄いな、時を切り取ったのか?」

 

 周りのエルフたちも集まってくる。

 画面の中には、驚いた顔の美しいエルフが、背景の森まで鮮明に、そのままの色彩で映し出されていた。

 彼らの魔法にも「幻影」を見せる術はあるが、これほど精緻に、そして一瞬で現実を固定化する技術はない。

 

「……えーと、原理は難しいのですが……」

 

 カイトは(科学的な説明をしても無駄だと思い)ファンタジー風に説明した。

 

「……要は『実在そっくりの絵を描く道具』なんですよ。

 光を捕まえて、箱の中に閉じ込めるんです」

 

「……光を捕まえる……?」

 

 長老セラフィナも興味津々で覗き込んでくる。

 

「……面白い。実に興味深い魔道具です。

 ……これがあれば、咲き誇る花の美しさも、成長する子供の姿も、永遠に残すことができるのですね……」

 

「……はい!

 さらに別の機械を使えば、これを大きな紙に印刷……ええと、焼き付けることもできますよ!

 今度持ってきます!」

 

「……紙に焼き付ける……。肖像画いらずですね。

 ……ぜひその技術は見せていただきたいものです」

 

 デジカメは、チョコ以上の衝撃をエルフたちに与えたようだった。

 彼らは美を愛する種族だ。

 その美を一瞬で記録できる道具は、彼らにとって魔法以上の魔法に見えたのだ。

 

 

 その後、本格的な交易交渉が始まった。

 日本側が提示したのは、チョコや調味料、そして高品質な布地やガラス製品など。

 対するエルフ側が提供してくれたのは、日本側が喉から手が出るほど欲しかった「魔法工芸品」の数々だった。

 

 ミスリルの銀糸で織られた、軽く丈夫な布。

 どんな病気にも効くという(ポーションの原料になりそうな)薬草のドライフラワー。

 そして暗闇でも昼間のように明るく光る『輝石のランプ』。

 

 その中で、郷田陸将補が特に目をつけたものがあった。

 

「……これは何ですか?」

 

 彼が指差したのは、一見するとただの革で作られた水筒だった。

 だがその表面には、微細な魔法陣が刻印されている。

 

「……ああ、それは『湧き水の水筒』よ」

 

 リナが説明した。

 

「……旅をする狩人の必需品ね。

 中に『水生成』の魔石が組み込まれていて、魔力を充填しておけば、毎日一定量の綺麗な水が湧き出してくるの」

 

「……水が湧き出る……!?」

 

 郷田が驚愕する。

 

「……それは無限にですか?」

 

「……いえ、魔石の容量には限界があるから、一日につき樽一杯分くらいかしら。

 でも中身は『空間拡張』の魔法がかかってるから、見た目よりもずっと多くの水を溜めておけるわよ」

 

「……空間拡張に、水生成……!」

 

 郷田は震える手で、その水筒を受け取った。

 

「……へー、凄いですね。

 4次元ポケットみたいな物かな?

 ……これがあれば、砂漠地帯や水源のない場所での活動が、劇的に楽になる……!

 補給部隊の負担がゼロになるぞ……!」

 

 兵站(ロジスティクス)を重視する軍人にとって、これほどの神器はない。

 水は重く、嵩張り、そして絶対に欠かせない物資だ。

 それを現地調達、いや携帯できるとなれば、作戦行動範囲は飛躍的に広がる。

 

「……物に魔法を与えるテクノロジーは、ぜひ欲しいですね……」

 

 同行していた技術者が、貪るような目で水筒を見つめる。

 

「……この『付与魔法(エンチャント)』の技術を解析できれば……。

 ……日本の工業製品に魔法効果を付与できるかもしれない。

 ……『絶対に錆びない車』とか『自動で汚れが落ちる服』とか……!」

 

「……交換していただけますか?

 この水筒と、その製法に関する書物を」

 

 東郷が交渉する。

 

「……ええ、構いませんよ」

 

 セラフィナ長老が頷いた。

 

「……その代わり、私たちにもあの『光を捕まえる箱』……デジカメを一つ譲っていただけませんか?

 里の記録を残すのに、ぜひ使ってみたいのです」

 

「……えっ、デジカメを?」

 

 東郷は少し困った顔をした。

 デジカメは充電が必要だ。電気のないこの世界では、バッテリーが切れればただの箱になる。

 

 だがそこは、準備の良い日本政府だ。

 彼らは「あるもの」を持参していた。

 

「……分かりました。

 ではこのデジカメと……予備のバッテリー、そして『ソーラーチャージャー』をセットで差し上げます」

 

 太陽光で発電できる携帯用パネルだ。

 これなら晴れていれば電気を作れる。

 

「……太陽の光で、この箱に力を与えるのですか?

 ……ふふ、貴方たちの魔法も、なかなか自然と調和しているようですね」

 

 長老は満足げに笑った。

 

 こうして、エルフの里での交易もまた大成功に終わった。

 

 日本側は、魔法の水筒をはじめとする貴重なマジックアイテムと、その製造技術への足がかりを得た。

 エルフ側は、至高の甘味と思い出を永遠に残す魔法の箱を手に入れた。

 

「……紙に印刷する機械(プリンター)もあるので、今後持ってきますね」

 

 カイトが調子に乗って約束する。

 (流石に今回は持ってきてはいなかった。バッテリーを食いすぎるからだ)

 

「……ええ、楽しみにしていますよ、異界の商人さん」

 

 別れ際、リナや他のエルフたちが手を振って見送ってくれた。

 その顔には、最初のような警戒心はもうなかった。

 

「……また来てね!」

「……次はもっとチョコ持ってきて!」

 

 盛り上がるエルフの森。

 日本の異世界開拓団は、大きな収穫と新たな友好関係という最高の成果を手に、帰路についた。

 

 獣人、そしてエルフ。

 この大陸の二大種族とのコネクションを確立した日本。

 アマテラス・ベースの倉庫は、未知の秘宝で溢れかえろうとしていた。

 

 だが、彼らの快進撃は、やがて大陸の他の勢力――人間たちの王国や、あるいはもっと強大な存在の耳にも届くことになるだろう。

 平和な交易の裏で、歴史の歯車は確実に回り始めていた。

 

 ……まあ、それはまだ少し先の話。

 今の彼らは、エルフの美女たちとの記念写真を眺めながらニヤニヤと、帰りのバス(装甲車)に揺られるだけであった。

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